星の女神、国をつくる。
その屋敷はシンプルながらも贅をこらし、格式の高さをこれでもかと醸しだしていた。
とりわけ異様なのは、それが草原の真ん中にぽつりと佇んでいることだ。
王の別荘と見紛う重厚さだが、当然使用人は1人もいない。貴族が家族団らんでもしそうな真っ白いテーブルクロス。モグモグとステーキ肉を頬ばる女神。
「建国を宣言しただと!?」
「リオよ。いや、リザルディア王よ。はやくもニートを脱したな。モグモグ。」
「早すぎだろ!」
「ふふ、お主の素早さは無限だからな。それにしてもこのステーキというのは最高だな。肉体を持つ者たちが欲にかられるのもわからんでもない。」
リオは頭を抱えた。
まさか秒で建国するとは思わなかった。それも世界中の国々に宣言するとは。
エリーは反則的な魔法で瞬く間に屋敷を生成し、距離も手順もぶっ飛ばして世界中に建国宣言を送りつけた。
国民はもちろん、通貨も文化も何もない。勝手に家を建て、勝手に国だと言い張っているだけだ。世界中の誰が見ても、変人が痛いことをやってるようにしか見えない。だが世界中の王室に宣言されている中で、この国が黙っているわけもない。
リザルディア迷宮のあったエリアは、アゼリア大陸4大国のひとつ、ルシエント王国トマス領の領地である。
いかに拍子抜けの規模だろうと、勝手に国を名乗り居座ってるのだから立派な反逆であり、侵略だ。すぐにでも奪還しに来るだろう。
「大体こんなの国といえるのか?」
「当然だ。国なんて最初は勝手に宣言して認められていくものだぞ。」
「明日にでも騎士団がくるぞ。まぁこんなただの屋敷に大した戦力は使わんだろうが。どうするんだ?」
「無論、他国の侵略行為は許さん。排除する。友好的ならば善処しよう。」
友好的なわけがない。
エリーの立てた世界征服作戦は実にシンプルだった。
「まず国を作る。次に他国を全て支配する。それで目的達成だ。」
「バカなのか?」
「王族でも何でもない素早いだけのお主が、1から世界を統べるのだぞ。他に方法があるのか?」
「ぐっ、それはわからんが。勝手に国と言い張ってても誰も認めんだろう。」
「今はな。では問うが。何を持っていれば認められるのだ?」
「経済力、軍事力、他にもなんかこう色々あるだろう。」
「下らん。そんなものすぐに認めざるを得なくなる。そもそも認めてもらう必要などない。一国の主が下手に出るな。リザルディア王よ。」
下手に出るなという割にずいぶん上からだと思い言い返そうとするが、外からの叫び声に止められた。
「国家に立てつく愚か者よ!!姿を表せ!」
早速である。10人ほどの兵を引き連れて、門の外でわめき散らす男の名はノイラー・バーテンベルク。トマス領直轄騎士団の副団長であった。
「王よ。ここは忠実なる王の僕である私が出よう。お主はそこで指を加えて見ていろ。」
僕はそんな事言わないと思ったが、リオは好きにさせることにした。
エリーは扉を開け、堂々と闊歩し、ノイラーを見据えて言い放った。
「愚か者は貴様だ!リザルディア王の屋敷の前で不敬であるぞ!!!」
「なっ?」
不敬はお前だろと反論される前に、エリーは腕を組み凛として続ける。
「ともあれ、貴様も我らを知らぬが故の狼藉であろう。無礼を悔いて帰るならば追わん。だが、一歩でも足を踏み入れれば我が国への敵対行為とみなし、排除する!!!」
「なっ、何を言っとるんだコイツは。」
ノイラーは虚をつかれうろたえた。発言もカオスだが、それ以上に現れた女の美しさと往年の王国聖騎士のような迫力が予想外だった。混乱しながらも女を分析する。
なぜワシが反逆者みたいになっとるのだ。しかし、こやつの所作はそこらの野盗に出せるものではない。貴族、いやそれ以上の箔を感じる。ただのうつけの狂言でないのかも知れぬ。
ノイラーは普段、盗みや殺しを働く盗賊などを取り締まっている。ろくでもない下衆どもだ。今回も同じような輩が薬でもやって騒いでいるのかと思っていた。
ところが、姿を表したのは女神の品格。天使の如き美貌。王宮に来たのかと錯覚させる高貴な佇まいであった。
「ふむ、・・・失礼した。先ほどの言葉は詫びよう。しかし、貴殿らは何者か。どこぞの国から落ち流れたか。」
世は戦国である。小さな国が滅ぼされ、生き延びた王族が他国に逃げてくることは珍しくない。ノイラーは亡国の王室関係者が何かの目的を持って起こした騒動だと判断した。
だとすれば、一介の騎士に過ぎないノイラーの範疇ではない。独断で事を荒立てるのは憚られた。
「違う。我々はここから始まったのだ。私はエリー。世界を統べる偉大な王の僕である。」
「はっ、世界を統べるだと?悪いがこの国にはこの国のルールがある。連行させて頂く。」
たとえ相手が誰であろうとも、放っておく事はできない。とりあえず保護して、上の判断を待つ。抵抗するならば、多少の手荒もやむを得ん。
ノイラーが腕を上げると、兵が統率の取れた動きで前進した。
「足を踏み入れれば排除すると言った。警告はしたぞ。」
エリーの忠告にノイラーの表情はゆるがない。
ドンッ!!!!!!
兵の1人が門を跨いだ瞬間だった。その兵はノイラー達の頭上を超え、遥か後方にぶっ飛んだ。
一瞬何が起きたのかわからず目を丸くするノイラー。
慌てて振り返ると30メートル先に倒れている部下の姿。無残にも右足がちぎれ、その他の手足も、関節と無関係の場所からあらぬ方向に曲がっている。鎧は陥没し、全身がかすかに痙攣していた。
エリーは微動だにしていない。真っ直ぐにノイラーを見据えているだけだ。
言葉を失っている兵達に、女神はゆっくりと語りかけた。
「貴様達は今、一国を相手にしている。友好を望むなら善処する。敵対するなら容赦はせぬ。自国の王にそう伝えよ。」
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