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一週間後。





 一週間の新婚生活を終え、パトリックは仕事へ出掛けた。

 戻るのは一ヶ月後だ。


 彼の仕事は結界の守人。


 この世界は三つに分かれている。

 人の住む界、闇の眷属の界、天の眷属の界。


 各世界は目に見えない結界で仕切られ、普段は行き来していない。

 結界にほころびがあると界のバランスが崩れ、そこで災害が起きたりするので、三つの界からそれぞれチェックしている。

 三界は敵対などもしていないが、交流はない。


 守人は各界に十人ほどいる。

 一チームで各地をチェックしていく。

 チーム内訳は守人一人に付き、従僕、護衛合わせてだいたい二十人くらい。


 ほころびがあったら直すのが主な仕事になり、武力は必要ない。

 結界を直すのは神力と呼ばれる特殊な能力だ。


 結界チェックのついでに流通や犯罪、地方情勢も入手し、国に持ち帰り国に奏上する。

 役職はリデル神殿所属。

 一ヶ月ほど留守にし、一週間ほど家で過ごしまた次の任務へ赴くというのをローテーションするそうだ。


 なので夢の通り、パトリックはめったに家に帰らない夫とも言える。


「俺がいない間、大きすぎる家にリヴィ一人だとさみしさが募るだろう」


 パトリックはそう言って王都郊外にある侯爵家の別邸を改修し、私たちの新居とした。


「ねぇ、オルガ。ここは本当に素敵なおうちね」

「旦那さまがオリヴィアさまのためにと用意したものですもの」


 この館自体はこじんまりと小さい。

 その分庭は広くて、散策する場所が多い。


 パトリックが仕事に行き、久しぶりに独り寝をした私は、自分がこの一週間緊張していたことを知る。

 毎晩続いた甘い求めの疲労も重なって、時間があればサンルームの長椅子でうとうとしてしまう。


 そして夢で見るのは『設定が作られる場面』だ。

 それ以外の細部はあやふやだが、設定に関することだけクッキリとした映像になっている。


 そして今日も……。






「スカーレットの裏設定第二弾! 成績が前よりちょっと下がっただけなのに夕食抜きにされるとか、朝までに教科書の丸ごと書き写しっていうのはどうかな?」

「寝かせない気だ。鬼」

「スカーレットは母親に愛されたくて勉強を頑張ってる! 兄三人はスカーレットに無関心で、家に味方がいない。学園でも気を張って、マリアと成績を競い合う」

「そりゃ、つらいよ。ココロ壊れるんじゃない?」

「かもしれない。ってか、母親のオリヴィアも壊れちゃってるからさ」

「うん、闇あるよね」

「そこの設定も膨らまそう!」


 彼女らはまた嬉々として設定を作り上げていく。

 私はそばに寄り、その内容を盗み見た。


「そんな……」


 目を覆いたくなる内容に、パッと目が覚める。


「奥様、お目覚めですか?」

「……えぇ」

「顔色が悪いですよ、温かいお茶を用意しましょう」

「……ありがとう」

「甘いお菓子もありますよ」


 侍女たちはみんなやさしい。

 でもそのうち私は彼女たちにも嫉妬の目を向けて辛く当たる。

 設定にはそう書かれていた。


 パトリックに色目を使うなと周囲の女性たちをひどい言葉で傷付け、心を踏みにじる。侍女たちへの暴言や目に余る態度。気に入らないことがあると、ヒステリーを起こす。

 それが私。


「奥様、まぁ、どうなさいました」

「お涙が…」


 急に泣き出した私にオルガたちがそっと寄り添い、ハンカチで涙を拭ってくれる。


「悲しい夢でもみましたか?」

「そう…うん」


 私はいつかこの人たちにひどいことをして、嫌われてしまう。

 それが悲しい。

 パトリックの愛を求めて、狂う。

 そして未来で自分の子供を虐待する。

 

 ぱたぱたと涙が流れた。


「オリヴィアさま、旦那さまがお出掛けになってお寂しいのですね」


 オルガたちの言葉に頷くことも出来ず、私はぎゅっと目をつぶって涙を拭く。

 再び目を開けたら、サンルームの外に真っ白な猫がいた。


「え…っ」

「あら、まぁ」

「どこから迷い込んだのかしら?」


 ガラス越しに侍女たちが話し掛けると、にゃあと鳴く。


「そういえば庭に出入りする猫がいると庭師が言ってましたが、その子かしら」


 白猫は換気用に少し開けていた窓からするりと入り込んできた。


「まぁ、困ったわね。中に来てはダメよ」

「あら、もう一匹入って来たわ」


 白猫の後ろから少し小さめの黒猫が様子をうかがうように身を低くして室内に足を運ぶ。


「お待ち下さい、今従僕を呼んでまいります」

「いいわ。…そのままにしてあげて」

「オリヴィアさま?」

「動物は好きなの」


 しなやかな身のこなしを目で追えば、涙が引っ込む。


 そんな私を見た侍女たちは、猫たちの好きにさせた。

 白猫は人に懐くでもなく一通り室内を廻り、日当りのいいソファの上で丸くなる。

 黒猫はその後をおっかなびっくりついて廻り、白猫に寄り添うように眠る。


 その様子を飽かず眺めてなぐさめられ、少し気分が軽くなった。





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