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エイル村とアルス村



 家全体が軋むような轟音に、目を覚ました。魔物のイビキだ。ベッドから起き上がり、眠い目を擦りながら手櫛で髪を梳く。ピクシーが肩に乗ってきた。

 リビングに向かえば、鼾がさらに大きくなった。オークが俯せに寝転んでいる。


「オーク、起きて」

「ズゴオオ……ズゴオオ……」


 揺すっても、中々目を覚まさない。真っ赤な足をウゾウゾ動かして、手の平サイズの肉食虫が、十匹、膝下に寄ってきた。スカラペンドラ。昨夜召喚したばかりの、新しい魔物だ。ピクシーが、ペンドラの細長い体を、重そうに両手で持ち上げて、オークのうなじに落とす。


「ズゴッ……!?」

「………」

「プギぃぃッ」

「おはよう」


 ピクシーがクスクス笑う。このオークはリアクションが面白いから、悪戯好きなピクシーに気に入られていた。機嫌よく頭の回りを飛び回るピクシーに、嫌そうにオークが顔を振る。床に叩きつけられたペンドラに、哀れみを感じた。

 オークやゴブリンは、女の敵。虫なんて大嫌いだった。しかし、彼らに関しては嫌悪どころか、親しみさえ感じている。召喚して早々仰々しく膝を突いて、私が許すまで頭を上げなかった時から、オーク達に対する偏見は消えていた。


 魔物達に指示を出していく。

 オークは私と一緒に川へ。ピクシーとペンドラ達は、ダンジョン入り口の見張りをする傍ら、幻術とポイズンだけで、魔物をひたすら討伐するように言いつける。


 家を出る。枝葉が漣のような音を立てた。低い、魔物の唸り声が聞こえてくる。月の弱々しい光が降り注いでいる。魔物が活発化する時間帯だ。夜の方が人にも見つかりにくく、何かと動きやすい。

 太陽はこっち方面にいつも出ているから、南はこっち。大雑把に当たりを付ける。オークがお臍を掻きながら、屈伸する私を見ていた。

 南に向かって、走る。後ろから、重そうな足音がついてくる。ちゃんとオークがついてきているのを確認して、安心した。

 あんまり速く走ると、オークから離れてしまう。後ろに気を配りながら走る。

 数十分後、膝に手を突いて、肩から息をした。激しい運動は長く続かなかった。オークは呆けた顔で、首を傾げている。敏捷は私の方が上だが、タフさはオークの方が上だった。

 川はここからでも見えている。それに、村も。息を整えながら、歩き始めた。緩やかな傾斜を足裏に感じる。東の村と西の村の間に流れる川の前で、立ち止まった。


「オーク。この川を塞き止めて。私は一旦帰るけど、あなたはここに残って」


 ダンジョンコアからでも念話で指示を飛ばせる。オークは私の命令に、頷き一つで応えた。


 これから決行する作戦は、大分回りくどかった。

 村を攻略する事だけを考えたら、ポイントを大量に消費して魔物を召喚しまくり、力ずくで滅ぼすという手もある。

 しかし、私達のダンジョンは弱小の弱小だ。存在がバレてしまうような、派手な行動は今は避けたい。討伐判定を受けられるよう、私たちでとどめを刺すのが最低条件で、端から見れば、人間たちが勝手に殺し合って死んでいるという状況が理想だった。


 スキル『ダンジョンマスター』を発動し、一瞬でダンジョンに戻った私は、ピクシーとペンドラ達の奮闘を見守りながら、常にオークとの念話で状況把握に務めていた。

 川は村にとっての生命線だ。朝日が上り、西の村のみ、川が流れなくなったことに不審を抱いた村人が、様子を見に来ていた。オークには、人を見かけたら、見つかる前にその場を去るよう言い聞かせてある。村人はオークの存在に気づいていない。川を塞き止めている大岩を見つけた彼らは、力自慢のお仲間を集めて、半日かけて壊していた。


 村人が去った後は、暫く川を放置。5時間後に、再び川を塞き止める。大岩を壊されては、新たな岩で塞ぐ事を七日続ける。人間は基本、夜に活動しないから、その間に私とオークは睡眠を取った。

 ここまで何度も川を塞がれては、流石に何者かの陰謀を感じるようだ。岩を破壊しながら、西の村人は、東の村を疑い始めていた。


 人は、水を全く飲まないと五日程度で死んでしまう。死者が出たという話は聞かないものの、脱水症状に苦しむ人が出てくる頃合いだ。

 もう少し、村の状況をよく知りたいが、岩を壊しにやってくる村人の話を盗み聞くだけでは、限界がある。

 一度、ペンドラ達をつれてオークの元に向かった。ここからは、自分の目で見る方が早い。オークには、私と入れ替わりにダンジョンに帰って貰った。

 様子を見に来はしたが、今村に入るのは不味い。小さな村では、余所者は簡単に見破られる。折角、東と西の村の仲が悪くなっている中、怪しまれる訳にはいかなかった。


 人間の協力者を作ろう。西の村から出てきた人間を、三人拐う。足の指と爪の間に釘を差し込んでいき、奴隷契約にこぎつけた。初めての拷問にしては上出来だと思う。

 しかし、この奴隷契約。どこまで信用出来るか判らない。裏切られた場合、一気にこちらが窮地に陥る。慎重にならざるを得なかった。

 奴隷の一人にナイフを握らせ、私の手の甲を軽く切らせる。すると、その奴隷の首が飛んだ。仮令主人の命令と言えど、主人に直接害をなした場合死ぬらしい。

 もう一人には、常に凶器を持たせた。スキルのお陰か、襲われたりせず、寧ろ従順な方だったが、少しでもやましい思いがあったのか、三日も持たずに死んでいた。害意を抱えた時点で死ぬのなら、裏切りようがない。

 最後の一人は、残した。

 もう一人、東の村から出てきた人間も拐い、奴隷にする。

 名前を知らないのは不便だから、二人に聞いてみた。西の村の方はヤス。東の村の方はイトというらしい。

 それぞれの村に帰らせる。彼等は役に立つだろうか。


 まだ、西の村は開戦に踏み切っていない。

 そこで、導火線に火を点けることにした。岩を破壊された直後、ペンドラの毒を川水に混ぜ込んでいく。


 ペンドラ達のスキル『ポイズン』のレベルは2。ピクシーと共に、大分成長していた。しかし、スキルはそうホイホイレベルが上がるものではないらしい。コアに聞けば、最大レベルは5までとの事だ。


 とにかくこれで、西の村に死者が出る。


 西の村はマジギレだ。


 頃合いを見計らって、山に向かった。川はそこから流れている。ペンドラ十匹にしこたま猛毒を流して貰った。

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