準備
見知らぬ部屋で目を覚ました。
床も天井も壁も、レンガを積んだ殺風景な部屋。
あれ?私死んだ筈じゃ……?
軽快なファンファーレと共に、部屋の中央に球体が浮かび上がる。
『おめでとうございます!貴方はダンジョンマスターに選ばれました!』
ハイテンションな台詞に反して、機械的な女性の声が部屋中に響く。球体の前に矩形の光が浮かび上がる。女性の台詞がそのまま表示されていた。
私は、この四角い光が何なのか知っている。ウィンドウだ。ステータスを確認したりスキルを発動させるのに必要な物。現状を知るのに使えるかもしれない。光に手を触れた。表示されていたメッセージが崩れ、メニュー画面が現れる。右上に『ヘルプ』がある。タップすると、項目が縦に並んだ。
・ダンジョンマスターとは
・ダンジョンコアとは
・ゲームオーバー条件
・撃退条件
・討伐条件
・ポイント
・召喚
・ショップ
一つ一つ見ていく。
ダンジョンとは魔物の住処。その管理を担うのがダンジョンマスター。
部屋の真ん中にあるこの球体、コアというらしいが、ダンジョンマスターには操作する権限がある。コアの機能は、主に自軍ステータス確認、召喚、ショップ。
召喚は、ポイントを消費して従順な魔物を生成する。
ショップも、ポイントを消費してあらゆる物を生成する。例えば、食品、回復薬、日用品、家具。また、ダンジョンの間取りもここで変えられる。
ポイントの取得条件は、主に侵入者を撃退、あるいは討伐すること。
ダンジョンの外に追い出すことで撃退、殺害することで討伐となる。撃退及び討伐に成功すると、ポイントの入手と共に、自軍全員に経験値が分配される。
コアを侵入者に破壊されたり、テリトリーの外に出して十分以上放置すると、ダンジョン崩壊と共に、ダンジョンマスターが死ぬ。
要は、コアを守りながらダンジョンを運営すればいいようだ。
お知らせの項目上に、『new!』の文字が点滅している。開くと、初回特典が色々届いていた。30日間の猶予と5000ポイント、自分のランクに合った魔物一体無料召喚。取得ボタンを押そうと指を伸ばして、そして止めた。
受取期限は無い。貴重そうだから有効に使いたい。
「……」
時間はたっぷりある。頭をフル回転させて、考え込んだ。今後、どうやって運営しよう。
コアはすぐ見つかる場所に置くのは良くない。何処かに隠さないと。部屋を見回す。壁以外、何もない。隠せそうな所は何処にもない。
「ショップ」
話しかければ、自動でショップのボタンが凹み、開示される。うん。死ぬ前に使ってたウィンドウと、使い勝手は同じ。
「横9ブロック売却」
部屋の間取り図が開かれた。必要分を選んでいく。
『ブロック床×9売却。合計135ポイント取得します。本当によろしいですか?』
「はい」
『売却しました』
音は何もしなかったけど、確かに部屋は狭くなっていた。間取り図を確認してみても、ブロック一列減った分、狭くなっている。不自然に残った1ブロック分の空間に、コアを押し込んだ。
「ダンジョン壁一枚購入」
間取り図を見て、コアを納めた空間を、密閉するように、壁を設置。
『壁×1購入。50ポイント消費します。本当によろしいですか?』
「はい」
『購入しました』
壁を見る。違和感はない。初見じゃ、この中にコアが隠れてるなんて予想もつかないだろう。
「ウィンドウ」
コアが隠れていても、ウィンドウをちゃんと見れるのを確認する。
そうそう、一つ気になることがある。
生前、確認出来たダンジョンは無数にあった。ここ以外にもダンジョンは存在する。
「ダンジョンマスターが、別のダンジョンを攻略したらどうなる?」
ウィンドウには、AIが搭載されている。ある程度の質問には答えられる。
『テリトリーの拡大、コア設置箇所の変更を行えます』
「ウィンドウで操作すれば変更出来る?」
『はい』
ダンジョンから別ダンジョンへ、コアを自由に移動させられるようだ。これは良い事を聞いた。しかし、別ダンジョンを攻略するには、外に出なきゃいけない。ダンジョン外で活動することも視野に入れた方が良さそうだ。
『称号『侵略者』を入手しました』
ん?
まあ後で確認しよう。
「召喚」
アンロックされている魔物を見ていく。ゴブリン、ピクシー、スライム、アースワーム、スカラペンドラ……、流石に面子が弱い。
今召喚出来る中だと、ピクシーが一番、偵察に適している。ピクシーは小柄で飛べる、愛らしい妖精だ。比較的、人間と良好な関係を築いている。
周辺の土地確認や情報収集は、絶対にやっておきたい。偵察用に、一匹買おう。
「召喚した魔物と意志疎通出来る?」
『はい』
「OK。特典5000ポイント取得。ピクシー選択」
『5000ポイント取得しました。ピクシー召喚。250ポイント消費します。本当によろしいですか?』
「はい」
これで使えるポイントは、残り4835。計算が合っているかどうか、ステータス画面で確認する。ついでに自分の能力値も見る。
名前 ???
レベル 1
体力 1000
筋力 250
知力 900
敏捷 300
魅力 150
運 666
称号『柔軟』パッシブスキル『情報吸収』
卓越した適応力と理解力を持つあなたに。情報整理能力と知識吸収率が大幅にアップする。
称号『ひよっこダンジョンマスター』パッシブスキル『ダンジョンマスターレベル1』
ダンジョン内では自分及び味方のステータス値に補正が入る。召喚した魔物、隷属した者が従順になる。コアの元へ瞬間移動出来る。
称号『侵略者』パッシブスキル『侵略行為レベル1』
同業者を陥れる者。他所のダンジョンに入る事で相手のスキル『ダンジョンマスター』の補正より1.5倍、自軍のステータス値を引き上げる。
侵略者は元々持っていなかった称号だ。他ダンジョンを攻略することを考えたら、勝手に入手していた。他の称号にも、入手条件が色々ありそうだ。
能力値はバラけている。体力がめちゃくちゃ多い。そう感じるのは、以前の私がただの村娘だったからだろう。
欲を言えば、敏捷はもっと欲しかった。魔物を召喚出来るから、隊列次第で幾らでも、鈍さをカバー出来そうだけど。
長所は伸ばすとして、どういう戦術が私のステータスに合うだろうか。受け型魔術師……?ダンジョンマスターが受け型なのはどうなんだろう?
ステータス画面を見ている間に、魔物の生成が終わった。くりっとした瞳が、私の顔を覗き込んでる。見つめ返すと、人懐こい笑みを浮かべて、詰めすぎた距離を開けた。空中で、お辞儀する。
ステータス確認。
種族 ピクシー
レベル 1
体力 150
筋力 50
知力 300
敏捷 75
魅力 350
運 700
称号『悪戯っ子』アクティブスキル『幻術レベル1』
相手に幻を見せて、迷わせる。
称号『幸運を招く者』パッシブスキル『幸福』『愛されレベル1』
目を合わせた人間に多幸感を与える。人間に守られ易くなる。
う~ん、貧弱。人間が危害を与えなくても、ダンジョン外で彷徨ってる適当な魔物にやられて、死にそう。レベル上げしようか。
「ダンジョンコア。30日間の猶予は要らない。今すぐダンジョン開放して」
『30日分の準備期間を90000ポイントに還元してダンジョンを開放します。よろしいですか?』
90000÷30=3000
1日3000ポイント還元か。90000ポイント入るのはでかい。
「はい」
『入り口を設置してください』
コアが隠れてる壁のすぐ隣に、入り口を作る。灯台もと暗し。
『ダンジョンを開放しました!』
『開放特典を入手しました』
5000ポイント贈呈される。これはすぐに受け取っておく。ポイントは幾らでも必要。
「ピクシー、近くの村の様子を見てきて。あ、魔物を見かけたらすぐ逃げるんだよ」
『りょうかい!ますたー』
可愛らしい声が、脳に直接響く。妖精種は本来、喋らないんだけど……ダンジョンマスターの特権か。
ピクシーが偵察に行ってる間に、ダンジョンの外回りにいる魔物を討伐しよう。経験値稼いで少しでもピクシーを強化せねば。
「斧購入」
『2000ポイント消費します。本当によろしいですか?』
「はい」
『購入しました。装備しますか?』
「はい」
開いた手の中に納まるように、斧が出現する。落ちる前にしっかり握る。振って、使い心地を確認する。
「ダンジョンから離れても、侵入者は確認出来る?」
『はい。アラームでお知らせします』
よし。行ってきます。