表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

96/103

バーサス【毒鶏】です!

 瘴気の中に入った私は、【つるはし(特上)】を持ち、中心部へと向かって行った。【隠者のローブ】のフードを被っているため、気配が察知されることもないだろう。

 瘴気は濁っていて、先は見通せない。

 中心部に近づきすぎて、気づかれては困るので、そこそこのところで足をとめ、穴掘りを開始する。

 カリガノちゃんの話では、【毒鶏コカトリス】は一戸建ての家と同じぐらいのサイズらしい。

 その大きな体がしっかり埋まるぐらいが目標だ。つるはしを砂に刺すと、ポコンポコンと真四角に削れていく。普通なら、砂漠の砂をいくら掘っても、またすぐに埋まるのだろうが、さすが【つるはし(特上)】。しっかりと掘れていく上に、崩れることもない。

 街長のシュルテムの屋敷に向かうときも、こうして地下道を掘ったなぁと懐かしく思い出す。


「ふかさ、よし。おおきさ、よし」


 穴の底から空を見上げて、指差し確認。

 これならば、【毒鶏】の体はすっかり収まるだろう。

 というわけで、ピョンと穴から跳び出し、今度こそ瘴気の中心に向かう。瘴気のせいで視界は悪い。が、それはだんだんと姿を現し――


「ふわぁあ……! これが……こかとりす……」


 ――紫色の羽毛と真っ赤なトサカ。うしろ脚のあたりから緑の鱗へと変わり、長い尾が伸びている。

 大きさは体高10mぐらいだろうか。なんというか、恐竜がいたらこんな感じなんだろうなと思う。

 今は眠っているようで、脚を折り畳み、地面の上にうずくまっている。

 私は【毒鶏】のそばまで歩み寄ると、そこでぱっとフードを脱いだ。


「こかとりす」


 私の言葉にハッとしたように【毒鶏】が目を開ける。赤い目は私を見つけるとギラッと光った。そして、素早く立ち上がると私に向かって、うしろ脚の鋭い鉤爪を伸ばす。なるほど、キックだね。


「あたらないよ」


 私はそれをピョンとうしろに跳んで躱す。【毒鶏】はまさか私が避けるとは思っていなかったようで、一瞬、目を大きく開く。そして、羽毛を逆立たせて頭を低く下げた。

 【毒鶏】のうしろ脚を見れば、ぐっと砂を踏みしめているようだ。これは……。


「とっしん」


 【毒鶏】の動きがわかっていた私は、大きく右へ跳んだ。【毒鶏】は元の私がいた位置へまっすぐと走ると、グサッと鋭いくちばしを突き刺した。突進と啄みを組み合わせている感じかな。

 小回りが利くタイプではないようで、私の【跳躍ジャンプ】にはついてこれないようだ。

 そして、この攻撃であれば、私の思惑が活きるはず!


「どこみてるの? こっちだよ」


 【水蛇ナーガ】でわかったことだけど、魔物は人間の言葉を理解しているものがいる。キャリエスちゃんを襲ったアースドラゴンもガイラルの言葉をわかっていたようだし。

 なので、それと同じぐらい強いと思われる【毒鶏】も私の言葉がわかるはずだ。

 つまり、こうして挑発すれば……。


『グゥェッ!』


 赤い目が、さらに強くギラギラと光った。

 うん、怒っている。いきなり現れた私に眠りを邪魔され、こんなことを言われれば、それは怒るよね。

 【毒鶏】はまた頭を低くし、うしろ脚に力を入れた。今度はザッザッとうしろ脚で砂をかき、より力強く突進できるように、力を溜めているようだ。

 じっと私を見据え、狙いを定めている。そして――


『グェェエエ!!』


 咆哮とともに、私へ向かって突進。

 力を溜めていただけあって、一度目よりもスピードが速い。そしてそれだけでなく、体から一気に瘴気が吹き上がった。

 きっと、瘴気で体が動けなくなった敵を、突進で吹き飛ばしていくのが【毒鶏】の戦闘スタイルなのだろう。

 だが、私には瘴気は効かない。さらに、突進もまっすぐに向かってくるだけならば、私は跳んで躱せばいいのだ。

 いつだって避けることができる。

 だからこそ、私は【毒鶏】の突進が当たるぎりぎりまでその場で待った。


 ――当たる。


 【毒鶏】はそう思ったのだろう。瘴気により動けなくなった私はそのまま的となる、と。

 赤い目が勝利を前に笑みの形に細まった。だが、甘い!


「じゃんぷ!」


 私は【毒鶏】を十分にひきつけたあと、うしろへ跳んだ。

 すると――


『クェ?』


 ――勢いづいた【毒鶏】は、ぽかんとした顔をして、穴の中へ落ちていった。


「ここ!」


 【毒鶏】が落ちたのは、もちろん、私が掘った穴。私は淵のぎりぎりに立ち、【毒鶏】を誘っていたのだ。

 反対側の淵へと跳び移った形になった私は、そのまま【毒鶏】を指差す。穴に落ちただけでは【毒鶏】は脱出できてしまう。なので……!


「すな! すなすなすなすな、すな!」


 ちょうど【毒鶏】の首のあたりを目掛けて、アイテムボックスからどんどんと砂を出していく。すると、四角く切り取られた砂が【毒鶏】の頭と、首から下を分けるような形でパパパパパッと置かれていった。

 まさか砂漠の真ん中に穴があり、しかもそこに落ちるなんて思っていなかった【毒鶏】は呆然としている。

 ようやく自分の首回りが窮屈になってきたところで、ハッと気づいたようだった。だがもう遅い!


『グェ……! グエエエェエエ!!』


 【毒鶏】は穴から脱出しようと、その大きな翼をはためかせようとしたようだ。しかし、すでに首から下は砂に埋まってしまっている。

 なんとか脱出しようとした【毒鶏】は咆哮を上げ、頭をぐいぐいと動かす。きっと埋まっている首から下も羽ばたいたり、蹴ったりと暴れているはず。しかし……。


『クェ……。クゥ……』


 暴れても無意味。むしろ、蟻地獄のようなそこは、暴れれば暴れるほどより、砂に埋まってしまうのだ。それを察したようで【毒鶏】は咆哮をやめ、しょんぼりと首を垂れた。


「ほかく、よし!」


 完璧……! 完璧な捕獲大作戦だった……!

 我ながらうまくいったことに、思わず「ふわぁあ!」と声が出る。

 やはり大型モンスターの捕獲は、罠を作り、嵌めて捕まえるのが王道!

 瘴気を纏い、周囲に撒き散らす【毒鶏】は普通に戦っていたら、瘴気の被害が多くなってしまう。そこで、こうやって罠に嵌めて、動きを止めることにしたのだ。

 ゲーム内でも大型モンスターを倒すのに、罠を作ることがあった。建築を駆使して、その魔物専用の罠を作る情報がネットに流れていたなぁ。

 なんにしろ、これで【毒鶏】は動けず、逃げることもできない。

 そして、まだ、私には秘策がある!

 このままでは、サミューちゃんとカリガノちゃんはここに来ることはできない。瘴気が濃すぎるのだ。


「しょうき、なくす」


 【毒鶏】を捕まえたら、あとはこの瘴気を消す。瘴気を消せば、サミューちゃんやカリガノちゃんも近づくことができるだろう。

 その方法は――


「かいふくやく、しゃわー!」


 ――【回復薬(神)】を【毒鶏】の体にふりかける!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新作】プロローグの3行目で、すぐ死ぬ王女に転生してしまいました

【2/22】MFコミックス様よりコミックス4巻発売
【5/25】MFブックス様より小説3巻発売

ほのぼの異世界転生デイズコミックス ほのぼの異世界転生デイズ
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ