整地します!
「っ、はいっ!」
サミューちゃんが私の言葉を聞いて、体をそっと離す。
私はサミューちゃんに親指を立ててみせると、そのまま水の消えた貯水池の底へと降りて行った。
「ちゃくちよし」
ゆっくりふわふわと降りると、水のなくなった貯水池は、水の枯れてしまった【涼雨の湖】と同じ感じだ。
違うのは、山側の底から水が沸き出ていることだろうか。ここに水脈があったのだろう。
水脈はまだ枯れておらず、水量も十分だ。
「せいち、する!」
私はよし! と気合を入れ、アイテムボックスを開いた。
取り出すものは――
「つち」
土!
「つち、つち、つち!」
私が、そこ! と指差した場所に四角く切り取られた土がボコッと置かれる。私は横へ移動しながら、まずは貯水池の底、横一列に土を並べていった。
ゲームでおなじみのあれである。1ブロックずつ置いていけるやつだ。ホーム設定している土地に家を建てたり、畑を作ったりいろいろできる要素があった。
現実で1ブロック単位として考えると、こうして突然、四角い土が出てきて、すこし不思議だが、端からしっかりと埋めていけば大丈夫だろう。
そして、そうして作業をしていると声がかかり――
「なんじゃこれは……! 幼いエルフよ、今、なにをしておるのじゃ!?」
「つち、うめてる」
「それは見ればわかる! そうじゃないぞ! どうして、なにもない空間からものを取り出せているんじゃ!? しかもその土は、『まるで地面から切り出したまま』ではないか!」
「うん。そのままだよ」
ムートちゃんが底まで降りてきて、私が出した土を触り、ふぉぉぉおお! と驚いている。
続いて降りてきたサミューちゃんも土のブロックを触り、ごくり、と喉を鳴らした。
「レニ様……これは、シュルテムの屋敷に行く際、地下道を作ったことと関係がありますか?」
「うん。このつち、つるはしでほったあと」
「……あのとき、おかしいと思ったのです。地下への道を掘っていれば、確実に残土が出るはず。なのにそれが一切出なかった」
「れに、もってた」
「っそう、そうなのですね。……さすがレニ様です。私の考えの遥か高みをあっという間に飛んでいくのですね」
シュルテムの屋敷の地下に行くために、地下道を作ったのは3歳のときだったなぁ。懐かしい!
今、私が出した土はゲームで貯めていたものだから、あのときの土ではないかもしれないが、まあ、基本は一緒だ。1ブロックずつ削った土はそのままアイテムボックスへ仕舞われる。そして、こうやっていつでも出せる。
「この説明で納得できるのか!? 土魔法で周りの土を崩し、埋めているわけじゃないんじゃぞ! こんな……まるでなにもなかったかのように元に戻せるなぞ……」
「はい。普通ならば、掘られた池を埋めるには、どこかから持ってきた土で埋めるしかありません。しかし、一度掘ってしまった土で同じような土地とするのは不可能です。どれだけ踏み固めても、そこはやわらかくなってしまい、雨で土が流れ出してしまったり、水が浸透し、そこだけ他より地面が下がってしまい、結局、池に戻ってしまう可能性が高い」
「じゃが、幼いエルフが出した土はどうじゃ……。この固さ、この質。すでに周りの土と馴染み、始めからこういう形に彫り込まれたようではないか……」
「これならば……掘られてしまったこの土地は元通りになりますね」
二人が戦慄いたあと、私を見る。
だから、私は、自信たっぷりに頷いた。
「れに、できるっていった」
そう! 貯水池を最初からなかったかのように。そして、水脈を枯らしたり、場所を変えることなく、そのまま湖に戻すのだ。
「ここは、つちやめる」
私が指差した場所。そこは水が沸き出ている場所だ。ここに土を置いてしまうと、水脈の流れを塞いでしまう形になってしまう。なので、ここは……。
「まるいし」
アイテムボックスを選んで指差せば、そこにポコンと丸石を敷き詰めたブロックが出現した。
「は!? 土だけじゃないのか!?」
「そざい、いっぱいある」
「な、なるほど……。土だと水は流れない。けれど、丸石であれば隙間があるためそこを水が通るというわけですね」
「うん。もっときれいにできればいいんだけど……」
本来なら、土のちょっとした割れ目とか、大岩と大岩の隙間などだった可能性もある。しかし、最初と同じという再現は難しい。
ので、ここは湖までの水脈が復活すればいいと考えて、丸石で道を作ることにする。
「のこり、ぜんぶやる」
サミューちゃんとムートちゃんに声をかけて、どんどん作業を続けていく。
土をポコポコ出し、丸石を湖への水脈へ繋げて……。ときどき失敗するので、そんなときは【つるはし(特上)】を装備して、土を壊した。
水脈を繋げたあとは、地面の高さまで、四角に切り取られた土を置いていけば――
「できた!」
――貯水池はきれいさっぱりなくなりました!
ゲームだと1マスずつ置いていく単純作業になるのだが、こうして実際にやってみると割と体力も必要だった。
土のブロックを一つ置いたら隣、一つ置いたら隣と移動し、さらに段が上がるときは、よいしょと登らないといけないしね。
達成感に額の汗を拭う。
「なんじゃその、規格外の能力は……」
「さすがレニ様です……! すばらしい力です……!」
元の地面と私が置いた土との境目を触ったあと、二人はそれぞれの表情をした。
ムートちゃんは呆れかえったという顔。サミューちゃんは胸の前で両手を組み、私を崇拝するような感じ。
私はそれに「うん」と頷いた。
「これで、なーが、たたかえるね」
――さあ、【水蛇】と対決です!






