貯水池がありました
ムートちゃんが教えてくれた場所は湖より山手側。たぶんそこで地下水がなんらかの理由で湖に流れ込まなくなってしまったのだろう。
で、私たちはその「なんらかの理由」を探りに来たのだが、そこで見たのは――
「いけ?」
「なるほど……。地下水を汲み出す大きな井戸を作ったということだったのですね」
「うむ。見事にここで水脈が途切れておるわ」
――貯水池。
本来なら湖まで流れ込むはずの地下水を上流側の井戸で汲み出す。その水を溜めて、貯水池になっているようだ。
これまでは【涼雨の湖】がその役割を担っていたのだが、それを人工的に作り出したのだろう。
「人工的なもののためか、水が濁っていますね」
「そうじゃのう。貯水池の造りも脆いな。これでは大雨で水量が増えた場合、決壊しそうじゃな」
サミューちゃんは眉を顰め、ムートちゃんはやれやれと息を吐いた。
二人からすると、この貯水池はあまりいいものには見えないようだ。
それならば、湖に地下水が流れ込む、今までの形でよかったのではないだろうか。なぜ、これを作ったのだろう。
はて? と首を傾げると、そこにどやどやと人の声と、草を踏む足音が聞こえた。
「おいおい、こんなところに子どもが三人もいるぞ」
「あ? また村のヤツらか?」
「懲りねぇな」
ギャハハハと笑いながら現れたのは柄の悪そうな男が四人。それぞれが腰に武器を佩いている。
男の一人が、はんっと鼻で笑った。
「何度来ても同じだ」
どうやら私たちをどこかの村人だと思っているらしい。
ということは、ここは村人が何度も訪れ、しかもあまりいい関係ではないということだろう。
「待て。よく見ろよ、全員、売れそうな見た目だぞ」
「本当だな。エルフに竜人に猫の獣人か?」
「エルフなんかめったに拝めねぇぞ。噂には聞いていたが、こんなに美人なのか!」
男たちがサミューちゃんを見て、ヒュウと口笛を吹いた。
そして、サミューちゃんはそれを冷えに冷えた目で見ている。サミューちゃん、こういうの本当に嫌いなんだろう。割とよくこういう目をしているもんね……。
「あっちの竜人も珍しいが、あの猫獣人。あの歳なら売れるんじゃねぇか?」
「あー、そういえばあったな。子どもを相場の五倍で買ってくれる場所が……」
「あれなら高く売れるに違いねぇ」
男たちはサミューちゃんから私へと視線を移した。その目はギラギラとしている。
この視線は父母と暮らしていた村の借金取りと同じだ。ある一定の人間から見ると、私がお金に見えるらしい。
「あそこはもう買い取りはしてないんだとよ。上が消えたとかなんとか言ってたぞ」
「あ? そうなのか、惜しいなぁ。絶対高く売れただろうに……」
男たちは残念そうに肩を落とした。
どうやら、私がガイラル伯爵を倒した意味はあったらしい。この国にはびこっていた子どもを攫ったり、売ったりすることはこれからは減るだろう。
子どもを買う組織がなくなったのだから。
「とにかく、こいつらは村とも関係ないだろう。ここは俺たちの土地だ。出ていけ」
男たちはそう言うと、私たちを追い払うようにしっしと手を振った。
私はサミューちゃんと目を合わせると、くるりと踵を返す。そして、そのまま男たちから離れていった。
「なんじゃなんじゃ、どうするんじゃ? 湖を復活させるんじゃなかったのか?」
「うん。みず、もどす」
「それなら、ここを壊すのが早いじゃろう。幼いエルフの力があれば一発じゃ」
「うん。れに、つよい」
ムートちゃんがパタパタと空を飛びながら、サミューちゃんと私についてくる。
ムートちゃんの言うことはもっともなので、頷いていると、サミューちゃんがふぅとため息を吐いた。
「レニ様にはレニ様のお考えがあるのです。まあ、ドラゴンにはわからないでしょうが」
「ムートちゃんと呼べと言っておるに! 余に厳しすぎるじゃろ!」
「レニ様は一度様子を見るおつもりなのです。風貌や態度、会話から悪人であることはほぼ決まりでしょう。あの施設は壊しても問題ないでしょうが、確証はありません」
サミューちゃんはあの一瞬の視線のやりとりで私がなにをしたいのかを察してくれたようだ。
「まずは情報収集。そうですよね、レニ様」
「うん」
サミューちゃんの言葉に頷き、【隠者のローブ】のフードを被る。
これで気配を断ち、あの男たちを探るのだ!
「おお……幼いエルフの気配がなくなった。余でもどこにいるか探ることができないとは……。すごいものを持っているな」
ムートちゃんが【隠者のローブ】の効果に驚いている。これは私が前世でやりこんだゲームのレアアイテム。こちらでも珍しいものだろう。
というわけで。
「れに、これでさぐる」
「はい! 私は森から男たちを探ります。レニ様のそばにいますので、なにかあれば呼んでください」
「余は目立つからな。とりあえず、飛んでおく」
「うん」
貯水池を作った男たちの目的を探っていきましょう!
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