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エルフの森は燃えがちです

更新遅くなり申し訳ありません。

 慌てて部屋に飛び込んできたのはエルフの男性。

 その言葉に、ハサノちゃんは立ち上がり、すぐに男性へと視線を飛ばした。


「規模は?」

「それがっ、エルフの森の全周です! エルフの森を囲うように輪のように燃え上がり、ここの中心地点に向かって燃え広がっています!」

「消火を進めているのね?」

「はいっ! ですがあまりにも範囲が広く……っ、さらに炎は魔法の力があるようで、普通の水では消火できず、魔法の力でしか消せないのですっ!」

「結界はどうなっているの?」

「普段であれば魔法の力を遮るはずなのですが……っ」


 男性の焦った声と悲痛な息遣い。

 そこから緊急事態であるとすぐにわかった。


「とにかく、ここを出ます。現状確認を」

「はいっ」


 ハサノちゃんを案内するように男性が小走りで廊下へと向かう。

 私もその後ろを追った。


「れにもいく」

「はいっ!」


 エルフの男性、ハサノちゃん、私、サミューちゃんと外へ出ていく。

 外ではエルフたちがあわただしく動いていた。

 私たちが出てきたのを見て、何人かのエルフがこちらへと走り寄る。

 そして、ハサノちゃんへと悲痛な表情を見せた。


「ダメですっ、消火が間に合いませんっ」

「水魔法を使えるものが消火にあたっていますが、範囲が広すぎて……っ」

「結界がっ、持ちません……っ!!」


 その言葉の途端、空が大きくぐにゃりと揺れた。

 エルフの森を覆っていた古代の魔法。それにより他者が入れないようにしていたものがなくなってしまったのだろう。

 すると、これまで見えなかった人影が現れて――


「やっぱり、あのこだ」


 ――長い黒髪に大きなしっぽ。そして背中には翼があり、それを羽ばたかせていた。

 サミューちゃんが吹き飛ばし続けたドラゴンの女の子。

 私から姿が見えたように、あちらからも私を見つけたのだろう。

 紫色の目が吊り上がり、私とサミューちゃんをビシッと指差した。


「見つけたぞ! ようやく姿を現したな! 余の話を聞かなかったことを後悔するがいい!!」


 ドラゴンの女の子はフハハハハッと笑う。

 サミューちゃんは無言で矢を構えると、なんの気兼ねもなく矢を放った。

 魔力を込めた矢はまっすぐに向かっていく。

 フハハハハッと笑っていた女の子は油断しているようで、矢に気づかない。

 しかし、寸前で気づいたらしく、慌ててしっぽで矢を叩き落とした。


「ううぉおい! 危ないではないか! 刺さったらどうする!!」

「刺そうと思ったので、当然です」

「なんじゃこの危険なエルフは!!」

「どうでもいいことです。それより、森を囲む炎はあなたの仕業ですか?」

「そうじゃ! おぬしらが出てこないならば仕方がないよのぅ!」


 ドラゴンの女の子はそう言うと、悪い顔でクククッと笑った。


「伝説のブラックバハムートドラゴン様の炎じゃぞ? 地上を焼き尽くすまで消えん。余にこのような力を使わせた非礼を後悔しながら焼かれるとよいわ!」


 フハハハハハハッ!

 上空に浮かぶ女の子の言葉に、周りにいたエルフたちが息を呑むのがわかった。


「このままでは……私たちは……」

「ともに燃え尽きるしかないのでしょうか……」

「そんなっ……」

「くそっ……」


 聞こえてくるのは絶望の嘆き。


「大丈夫よ、みんな。……ここを守り続け、ここにしかないものもたくさんある。燃えてしまうのは悲しいけれど、私たちまでともに消えることはありません」


 そんなみんなを鼓舞するようにハサノちゃんは頷いた。


「一点突破です。招集をかけましょう。水魔法が使えるもので私たちが通れるだけ消火し、外へ逃れるのです」

「っはい!」


 ハサノちゃんの言葉にエルフの男性が駆け出す。

 すると、それを追うようにドラゴンの女の子が上空を移動した。


「ふんっ! 逃がすと思うか?」


 急降下し、男性へと手を伸ばす。が――


「手は出させませんっ」


 その言葉とともに、サミューちゃんが矢を放つ。

 矢はまっすぐに飛び、女の子の目前で前髪を焼いて通過した。


「おおぃ! じゃから! 危ないじゃろ! 止まらなかったら当たっておったぞ!?」

「当てようとしていますので」


 さらりと答えたサミューちゃんはまた矢を構える。

 ドラゴンの女の子は慌てて、空高く飛んだ。


「ここは私が止めます」

「さあ、早く行って」

「はいっ!」


 サミューちゃんとハサノちゃんの声に、足が止まっていたエルフの男性が走り出す。

 今度はドラゴンの女の子は追わなかった。


「……レニ様っ、レニ様っ」


 矢を構えたまま、サミューちゃんがこっそりと私へと話しかける。

 でも、私はその声に答えず、ぼーっとドラゴンの女の子を見つめ続けていた。


「ぶらっくばはむーとどらごん……」


 ドラゴンの女の子はそう名乗っていた。

 【世界礎の黒竜ブラックバハムートドラゴン】。ゲームの知識で知ってはいる。

 この世界の根源。それを支える伝説の竜の名だ。

 ゲーム内ではオープニングにちょっとだけ絵姿が出ただけ。自らが世界の基礎となるために眠ったドラゴン。それを元に女神が地上を作り、この世界ができあがっている。ムービーで語られる、神話を見て、わくわくと胸を躍らせたのが懐かしい。

 【宝玉】を守っていたアースドラゴンなど目じゃない。

 そのドラゴンが……ここに……。生きて、動いて……話している……っ!!


「レニ様っ……きらきらした瞳は大変美しいですが、今はそれどころではなく……っ」


 サミューちゃんの心配そうな声。

 そうだよね、今はそれどころではない。エルフの森が燃えているのだ。しかも周囲をすべて焼かれて。縮まる円の中心にいる私たちはここで燃え尽きてしまうかもしれない。

 でも――


「かっこいいね」


 ――私は思わず声を出していた。

2/21にコミックの2巻が発売されます!明後日…!

2巻ではサミューがたくさん活躍し、レニのわくわくウキウキ楽しい!を吉元先生が魅力的に表現してくださっています。

ぜひぜひ迎えていただければ、うれしく思います。

よろしくお願いします。

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[一言] 緊張感が仕事してないw
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