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うちの子は天才

 レニがおたまで土を撒いた夜。いつも忙しく働いている夫妻は珍しく、ゆっくりとした時間を持っていた。

 四人掛けのダイニングテーブルに三つのイス。夫妻は対面に座り、コップに注いだ白湯を飲みながら、ふぅと息を吐いた。


「レニは不思議な子よね」

「そうだな」

「生まれたときだけはしっかり泣いていたけれど、それからほとんど泣くこともなかったわよね。お腹が空いたり、おしめが濡れたりしたときは『あー』って邪魔にならないぐらいの声で主張してくれて……」

「ああ。ミルクの時間も時計を読めるんじゃないかっていうぐらい、ぴったり三時間ずつで教えてくれたな」


 二人は愛娘であり、今はベッドで寝ているレニのことを考えていた。

 二人にとって初めての子。妊娠出産と夫妻は幸せを噛み締めていたのだ。それが――


「俺が怪我をして、病気にかかってしまったばっかりに……」

「猟師は危険な仕事ですもの。そうなってしまったあなたが悪いわけじゃないわ。今、こうして元気になってくれて本当に良かったわ」

「……不甲斐ないな。お前が働きに出ているあいだ、俺はただ一緒にベッドで横になり、レニが時間通りに教えてくれるから、そのときにパン屋が分けてくれたヤギのミルクをあげていただけだ」

「それを言うなら、私なんて、レニになにもしてあげられなかった……」


 過去を語り合い、しんみりとする夫妻。

 そして、そんなときは二人はいつも思うのだった。


「本当に、生まれてきてくれたのがレニでよかったわ」

「ああ、そうだな」

「きっとレニじゃなければ、乗り越えられなかったと思うの」

「レニは最高の娘だ」


 二人はそう話し、笑い合う。そして、妻のほうは、あ! と声を出した。


「今日ね、レニが初めて欲しいものがあるっておねだりしたの」

「そうか。レニはなにが欲しいって?」

「土を掘るもの……たぶん、スコップかしら? それが欲しかったみたい」

「スコップか……でも、うちには……」

「ええ……。だから、レニにごめんなさいって謝って、いつかプレゼントできればって思っていたんだけど、レニったら、私の話の途中で走り出しちゃって」

「……初めて欲しいものを言ったのに、叶えられなくて悲しい気持ちになったんじゃないか?」


 夫はそんなレニのことを想像したのか、苦しそうな顔をする。けれど、妻のほうは、いいえと首を振った。


「私も最初はそう思ったの。でもレニは戻ってきたときには手におたまを持っていたわ」

「おたま?」

「ええ。家の周りに落ちていたって。……でも、うちの敷地内におたまが落ちることなんてないと思うし、レニが持っていたおたまはすごく質のいいものに見えたの」

「それは――魔法か?」

「……きっと」


 夫の真剣な顔に妻も真剣な顔で返した。


「レニは水属性の魔法使いかと思っていたけれど……もっと、すごい力を持っているのかもしれないわ」

「そうだな」

「なんて説明していいかわからないのだけど、レニはものを取り出せる魔法を使えるんじゃないかって思って……」

「ものを取り出せる魔法、か……」


 夫妻はレニが元女子高生の転生者で、ステータスやアイテムボックスを使えるということは知らない。レニもなにもばれていないと思っている。だが、レニと暮らすうちに、夫妻はレニの能力について、かなり真実に近づいていた。そして――


「レニは天才だわ」

「そうだな天才だな」


 素直に受け止め、率直に称賛した。自らの子どもを『天才』と称することに戸惑いはない。なぜなら、夫妻にとってそれが真実だからだ。


「レニを隠し通さないと……」

「そうだな……せめて、もう少し大きくなるまでは……」


 夫妻はそう言って、頷きあった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 取り出せる魔法まで想定しているなら、それを親にすら隠そうとする判断力があるという事も認識しているという事ですね。 となると水浸しの理由にも意味を感じるべきなのだろうけど。
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