表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

65/103

封印が解けました

本日、書籍2巻発売です!

 ガイラル伯爵の声とともに、光が私に向かって集まる。

 そして、稲妻が走ったような衝撃が駆け抜けた。


「レニッ!」

「レニ君……っ!」


 遠くでキャリエスちゃんとピオちゃんの声がする。

 ……なぜだろう。

 その声の持ち主がだれかはわかるのに、心がそこへ向かない。

 遠くなる意識。そして――


「からだ……あつい……」


 全身が燃えていくみたい。

 足先と手先。そこからどんどん燃え広がっていく。

 これが体が消えていく感覚なのだろうか。


「でも……」


 痛みも苦しみもない。

 目を閉じ、燃える体ではなく、胸の中心に意識を集中する。

 すると、胸の奥でなにかにひびが入る音がした。


「まけない」


 私は最強四歳児。

 キャリエスちゃんと子どもたちを助けに来たのだ!


「れににおまかせあれ!」


 目を開け、胸の中心にあるものを一気に全身へ! 全身から吹き上がる炎をその力で上書きする感覚だ。

 その瞬間、胸にあったもの……殻のようなものが、バキンと音を立て、消え去るのがわかった。


「これは……なぜだ、なぜ消えない……?」


 ガイラル伯爵は魔法陣の中心に立ち続ける私を見て、驚愕に目を開く。

 魔法陣の光はすでになくなっている。

 私は、ふふんと胸を張って答えた。


「ほうぎょく、だよ」


 私の胸の前。そこに光輝くものが浮かんでいた。

 私はその光を支えるように、両手で覆う。

 

 ――これが宝玉。


 転生前にゲームで手に入れたアイテム。

 クリスマスの夜、隠し部屋で穴掘りをした。【つるはし(神)】を使い、1マス1マス調べたんだよね。

 そして、それが功を奏し、オリジナルエフェクトがあり、手に入れた……と思う。【宝玉(神)】は「手に入れた」と表示されたが、それ以外のステータスやアイテム欄、図鑑と、どこにも確認できなかった。

 ここでは父とサミューちゃんがドラゴンから手に入れ、母の魔力暴走を治療するために使ったと聞いた。娘である私が受け継いだのだろうか。

 わかるのは、今、宝玉は私とともにあるということ。

 きっと、生まれたときから私と一緒だったのだ。


「レニ君、耳が……」

「レニ……エルフだったの?」


 ピオちゃんとキャリエスちゃんの声に、はて? と首を傾げる。

 耳……とは、たぶん猫耳のほうではない。

 右手を宝玉から外し、顔の横へと持ってくる。

 そして、そっと触れば――


「ほんとうだ」


 耳が尖っている。たぶん、サミューちゃんと同じ感じだろう。

 尖った耳と胸に中心から全身に行き渡っていく力。

 ステータスを確認するまでもない。


「ふういん、とけた」


 魔法陣は私の肉体を消そうとし、私はそれに対抗した。

 結果【エルフ(封印)】となっていたステータスの封印部分が外れたのだろう。

 なるほど、と頷く。すると、ガイラル伯爵が体を戦慄かせた。


「すばらしい……! なんとすばらしい光だ……。しかも、その姿……ただの獣人だと思っていましたが、そうではない‥‥…。わかりました……! あなた自身が宝玉なのだ!」


 胸に宝玉を抱き、封印の解かれた私を見て、ガイラルは叫んだ。


「あなたが望めばすべてが手に入る! 私もともに……‼ 私をそばにお置きください。必ず役に立ってみせます。一国の主など小さい夢でした。あなたであれば、世界が手に入る……!」


 感極まったように叫び、ガイラル伯爵はその場で平伏する。

 すると、ドアからまっすぐに矢が飛んできた。


「だれだ!!」


 ガイラル伯爵に矢が刺さる寸前。ガイラル伯爵は素早く立ち上がると後ろに身を引いて、矢を躱した。

 けれど、ビリッという音とともに赤い布が引き裂かれた。

 平伏していたために、反応が遅れ、ガイラル伯爵が垂らしていた赤い布に矢が刺さったのだ。

 矢を放ったのはもちろん――


「愚かな」


 ――サミューちゃん。

 子どもたちの救出を終え、戻ってきてくれたのだろう。


「レニ様が世界を手に入れたいと願いましたか? 宝玉はたしかにすばらしいアイテムです。その宝玉はレニ様とともにある。が、あなたの望みを叶えるためにレニ様がいらっしゃるのではない」


 サミューちゃんはそう言うと、また矢をつがえた。


「レニ様が願うことが大切なのです。自分自身の願いのためにレニ様とともにありたいなど、ありえません!!」


 そう言って放たれた矢は、再びガイラルへと向かっていく。

 ガイラルはそれに顔を歪めると、サッと手を振る。

 すると、リビングメイルが現れ、矢の軌道を逸らした。


「だれもかれも……なぜ、私の言葉が通じない? そこの宝玉がいる。自分の望みを叶えようとしてなにがいけない?」

「あなたの野望など興味はありません。レニ様にふさわしくない。それだけです」

「……ふさわしくない。そうですね、一理ある」


 ガイラルはパチパチと拍手した。


「見たところ、宝玉はまだ幼い」


 そう言うと、リビングメイルの陰から、私をじっと見つめた。


「宝玉よ。あなたはこどもを助けたい。違いますか?」


 ガイラル伯爵はそう言うと、私を見て穏やかに笑う。

 私はすこし考えて……正直に、こくんと頷いた。


「こどもたち、もとのばしょへかえす」

「ええ。わかります。私は宝玉を持つこどもを捜していた。つまり、あなたを捜すために集めたこどもたちです。あなたのせいで犠牲になっているといっても過言ではない。心が痛みますね。あなたがすべての元凶です」

「うん。そうかも」


 父と母が私を隠してくれた。

 私が生まれたことを登録せず、父が病気になり、貧しい中でもずっと守ってくれた。だから、私はここに連れ去られることはなかった。

 私が隠れていたから、こどもたちがここに連れてこられた。


「王女殿下が噂で苦しんだのも、ドラゴンに襲われたのも、こうして私にさらわれたのも、あなたのせいだと思いませんか?」

「そうだね」


 私が宝玉を持って、この世界に生まれたことで、予言があり、ガイラル伯爵が動いたのならば、それはたしかに私のせいと言えるかもしれない。

 私の存在がすべての元凶なのだとすれば――


「――だから、たすける」


 起こったことは戻らないけれど。

 今、泣いている人たちを救えばいい。


「ハハハッ! なんと単純な!!」


 私の答えを聞いたガイラル伯爵は声を上げて笑った。


「そんなことは不可能だ! すべてを助けることができるとでも!?」


 すると、その笑い声をかき消すように、凛とした声が響いた。


「黙りなさい。ここにいたこどもたちはすべて逃がしました。すべて助けました。そして、悪事の証拠も集めています。あなたはここで終わりです」

「私はレニのせいだと一切思いませんわ! レニに力がある。それを欲し、悪事を働いたのはガイラル、あなた自身です!!」

「力があることは悪ではない。どう扱うか、それだけだ!!」


 サミューちゃん、キャリエスちゃん、ピオちゃん。

 三人は強い瞳でガイラル伯爵を見つめる。

 ガイラル伯爵はそれを聞き、けれど、私から目を離さなかった。


「だとすれば!! 宝玉よ、あなたはどう使うのか? その力ですべての悪を倒すとでも? ……私を見てください。あなたの力を求め、悪となりました。悪は倒せば消えるのでしょうか。あなたが力を示せば示すほど、悪は増えるのではありませんか? あなたの目には世界が美しく見えているかもしれません。けれど、我が王都リワンダーのように、汚く腐り落ちているのです!!」


 濁った灰色の目。穏やかな笑顔はそれが仮面であったのだと想像できた。

 その目を見つめ返す。

 逸らす必要はない。だって、答えは決まっているから。


「れに、たびしたい」


 大好きだったゲームの世界。

 引きこもりで日常生活に溶け込めなかった私を助けてくれた世界。


「すきなひと、たいせつなひと。ないてたら、たすけたい」


 好きな人が増えた。大切だと思う人が増えた。

 ……泣かないでほしいって思うから。


「このせかいが、きれいかきたないか」


 ガイラル伯爵が言うように、この世界はきれいな色だけではできていないのだろう。


「れにがみて、きめる」


 だって、まだなにも知らない。なにも見ていない。

 もっともっと世界の果てまで旅をして、いろんな人と会って。

 それから、決めても遅くない。


「……それはすばらしい。宝玉との旅は楽しいものになるでしょう」


 ガイラルはそう呟いて……。

 また穏やかに笑った。


「ところで、エルフの少女はこう言いましたね。『すべて助けた』と。本当でしょうか? この地下施設が一つだけだと確証はありますか? 私はリビングメイルのほか、デスバードもグールも操れます。あのような格下のものを操るのは好きではありませんが。こどもたちを集めるにはちょうどいい」


 そして、話を続けていく。

 ――人質はまだいるのだ、と。


「まだいます。こどもたちは私の手の中です。宝玉よ、こどもたちを見捨てますか? 私とともに行くのであれば、領都にいるこどもたちは解放します。あなたは泣いてほしくないと言った。けれど、今のままではこどもたちは泣くことになります」

「わかった」


 私はそれに、こくんと頷いた。

 話をまとめると、領都にはほかにも地下施設があって、そこにこどもたちがいる。

 そういうことだよね? それなら――


「ほうぎょくよ」


 これまでは胸の中心から右手だけに集めていた。

 でも、今はそんなことをする必要もない。

 体からあふれる熱さを地面まで広げればいいのだ。


 ――一気に浄化すればいい!


 範囲はこの領都全体。

 ガイラルがどこにリビングメイルを待機させていても、力が届くように……。


「すべてをあるべきすがたに」


 放つ!


「ひかりになぁれ!!」


 その途端、体が一瞬カッと熱くなった。

 そして、地面からまばゆく光が立ち上っていく。


「うぐぅっ!!」


 ガイラル伯爵のくぐもった悲鳴と一緒にガシャンガシャンとたくさんの鎧が崩れていく音がした。

 実際の範囲はわからないけれど、地下室だけじゃなく、領都全体がこうして光り輝いているはず。

 私はそこでダンッと床を蹴った。


「れに、あなたのねがい、かなえる」


 向かったのはガイラル伯爵の懐。

 リビングメイルの守りがなくなれば、立っているのはこの男一人だ。


「りわんだー、じょうかする」


 【彷徨える王都 リワンダー】。そこの騎士たちや、この魔法陣に実験として使われた人たちの肉体はもうない。

 そして、意志と関係なくガイラルに操られ続けている。

 『カエリタイ』ときっと泣いているから。


「ねこぱんち!」


 拳を握って、しっかり肘を引く。

 あとはジャンプの勢いも載せ、思いっきり!!


「おほしさまになぁれ!!」


 ――キラン。


 光り輝くガイラル領都に星が流れました。

本日、8/25に書籍2巻が発売になりました。

みなさんのおかげです。本当にありがとうございます。

↓の書影や、活動報告に詳しくありますので、お手に取っていただけるとうれしいです。

引き続きがんばります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新作】プロローグの3行目で、すぐ死ぬ王女に転生してしまいました

【2/22】MFコミックス様よりコミックス4巻発売
【5/25】MFブックス様より小説3巻発売

ほのぼの異世界転生デイズコミックス ほのぼの異世界転生デイズ
― 新着の感想 ―
これでエルフの国が人の世界に女王が居るを良しとせず 攫いに来たりするのかね。
[一言] もっと紆余曲折あって、少しずつ封印がとけていくのかと思ったが、意外に早かったね。 これならコミカライズ版が続けばこの辺も見られるかも…?
[良い点] お星様になれ=落下死しろ 化石になれ=壁に埋まって死ね 悪には死よねw確実に殺してまた同じ敵が出てこないようにするのありがたいわ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ