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レニは天才3-②

 キャリエスの強く、まっすぐな言葉。

 それを聞き、ガイラルはパチパチと拍手をした。


「素晴らしい。さすが王女殿下です。王太子殿下や姉殿下と比べ、容姿も能力も劣っていますが、矜持はご立派です」

「……っ」


 ガイラルの言葉に、キャリエスは胸がぎゅうっと掴まれたように痛くなるのを感じた。

 平凡な茶色の髪と茶色い目。手足も長いわけではない。教えられたことをすぐに覚えられる記憶力もなければ、機転が利くわけでもない。運動に関しては言えば、同じ年齢の子どもより下手だという自覚がキャリエスにはあった。

 ガイラルはキャリエスのそばにいた。

 だからこそ、キャリエスの能力を知っているし、キャリエスが劣等感を抱いていることを知っている。


「このままこの国にいたとして、王女殿下はずっと地味で能力の劣った者として扱われるだけです。その矜持もいつまで保っていられるか。私と行きましょう。私は知っています。王女殿下は神の子です。その力があるのだから」

「わたくしは……」


 ――神の子ではない。


「わたくしは、たしかに能力はありません」


 ガイラルが唯一、認めた力はキャリエスのものではなかった。

 ただの地味で能力の劣った王女。

 キャリエスは一番それをわかっていた。


「でも……」


 なにもないけれど。

 なに一つ、優れたものなど持っていないけれど。


「この矜持は失いません!」


 王族として生まれ、育てられた。

 どんなに弱くても、それだけは汚させない。

 民を守るため、いま、ここにいる子どもたちを守るため。キャリエスはガイラルには屈さない。


「ガイラル。あなたは間違っている。あなたとは行きませんわ! 子どもたちを解放しなさい!」


 言い放ったキャリエスにガイラルはやれやれと肩をすくめる。

 そして、壁で待機していたリビングメイルに声をかけた。


「捕らえなさい」


 言葉に反応し、リビングメイルが動き出す。

 キャリエスも抵抗したが、幼い身ではどうしようもできず、あっという間に捕まる。

 そして、部屋の中心へと連れてこられた。


「そこになにがあるかわかりますか?」


 両腕をリビングメイルに捕まれ、暴れてもびくともしない。

 キャリエスは返事はせず、ガイラルを見返した。


「王女殿下の立っている場所は、魔法陣の中心なのです。リワンダーにある大型の魔法陣、あれを解析し、少し手を加えました。リワンダーの宝玉の力を遠隔で使えるようにしています。ただ、力は弱い。それでも、人間の肉体を消すことは可能です」


 ガイラルはキャリエスを見下ろし、朗々と話した。


「不老不死を求めた王は肉体を消し、魂をものに定着させることを考えました。さて、王女殿下。あなたの持つ宝玉はどこにあると思いますか? ――魂です。あなたの魂とともにあるのです」


 穏やかな顔。


「親から子へ受け継がれるものだ、と私はリワンダーの宝玉から知識を得ました。それでは私自身が宝玉を手にすることはできない。で、あるならば、宝玉を持つ子どもの肉体を消し、魂のみにすれば宝玉が浮かび上がるのではないか?」


 ガイラルはそこまで言うと、ふっと表情を消した。


「これは確証を得ていません。ですので、本来ならば、使うべきではない。王女殿下。私は王族なのにただの伯爵としてあなたに仕えていました。ずっと思っていたのです。王族とは名ばかりの能力のない子どもが、なぜ私の前にいるのだろうと」


 初めて見せたガイラルの表情。

 それはいつもの穏やかな顔ではなく、歪んで醜いものだった。


「どうやら私は私が思っているよりも、あなたのことを蔑んでいるようです」


 常にともにいた。

 支えてくれていると思っていた。

 努力している姿を見てくれているのだ、と……。


「王女殿下の魂が宝玉として残るのか、このまま消えるのか、グールになるのか、それはわかりません。ただ、あなたのその声は聞かなくてすむでしょう」


 ガイラルはそう言うと、床に両手をついた。

 魔法陣に言葉を書き足しているのだ。

 そして――


「お別れです」


 ――穏やかな声とともに、床に書かれた魔法陣が発光する。


「……っ」


 金色に光る世界の中、キャリエスは覚悟を決めた。

 これで、終わり。

 だが、子どもたちは大丈夫だろうか。

 【花火石】を投げ、レニに居場所を知らせることはできたと思う。そして、できるだけ話を引き伸ばし、注意を自分だけに引き付けることもできた。

 レニならうまくやってくれる。そう信じて、目を閉じて――


「くっ……! なんだこれは……」


 バリッと体に電撃が走ったかと思うと、胸のあたりに収束し、そのまま散っていった。

 魔法陣の輝きも消え、金色だった世界が元の色へと戻る。


「起動したはずなのに、なぜ生きている」


 ガイラルが驚愕した顔でキャリエスを見る。

 そのとき、キャリエスのポケットからぽろっとそれが落ちた。

 それは――


「人形……?」


 黒焦げになった【身代わり人形】。

 レニのくれたものをキャリエスはポケットにねじ込んでいたのだ。


「レニ……」


 地味で能力がないキャリエス。

 でも、レニはキャリエスの髪をかわいいと言って、瞳をきれいだと言ってくれた。

 お辞儀をしたキャリエスを見て、努力を認めてくれた。


 ――友達になってくれた。


「……レニ」


 また、会いたい。

 会って、一緒に笑い合いたい。


「助けて……」


 小さく声を漏らす。

 すると、その瞬間、轟音とともに、地下室の天井が崩れた。

 地下施設に、強い光が差す。その光とともに現れたのは――


「おそくなってごめん」

この度、2巻の発売が決定しました。

8/25、MFブックス様より発売します。

みなさんに読んでいただいたおかげです。ありがとうございます。

書影などは↓に。

よろしければ、手に取っていただければ嬉しいです。

これからも引き続きがんばります!

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【新作】プロローグの3行目で、すぐ死ぬ王女に転生してしまいました

【2/22】MFコミックス様よりコミックス4巻発売
【5/25】MFブックス様より小説3巻発売

ほのぼの異世界転生デイズコミックス ほのぼの異世界転生デイズ
― 新着の感想 ―
[一言] リビングメイル操れるのわかった時点で出自を明かして不死の騎士団率いて武功でも稼いだほうがまだ出世できたんじゃないかなこの司祭
[気になる点] 前話でガイラルは、王女に自分と結婚してもらうと言ってなかった?
[良い点] ヒロインのピンチにド派手な登場!こんなの惚れてしまう!
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