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これが私のスコップです

「しゅこっぷ、しゅこっぷ……」


 とてとてと走りながら、ぶつぶつと呟き、視線でアイテムを探していく。

 土を掬って運べそうなもの。しかも幼児が持てるもの。この辺に落ちてたとしても、あんまり不思議じゃないもの。

 なかなかの難条件だったけれど、私のカンストしたアイテムボックスにはちょうどいいものがあって――


「レニ!」


 家をぐるっと一周してきた私を見つけた母が、こっちにおいでと手招きをする。

 私はアイテムボックスから取り出したそれを持ち、母へと近づいていった。

 母はすぐに戻ってきた私に、ほっと安心したような顔をする。そして、私が手に持っているものに気づいて、あら? と首を傾げた。

 

「おたま?」

「あい」

「おたまなんてどこに……?」

「おちてた」


 私の答えに母は不審げに眉根を寄せる。


「お家の周りに?」

「あい」

「おたまが?」

「あい」

「……うちの敷地にどうしておたまが……? しかも、すごくいいものに見える……」


 母はうーんと首をひねった。

 そんな母に私はおおーと心の中で拍手を送る。母の言った「すごくいいもの」というのが、本当のことだからだ。


 このおたまは実は武器で、種類としては短剣に分類される。

 錬成にはSS素材数種類とS素材を大量に使用する、とても貴重なものなのだ。

 それを見抜くとは母の審美眼はなかなかのものである。

 ちなみに、このおたま、それだけ貴重なものにも関わらず、武器としての攻撃力は非常に弱い。砥石を使わずとも攻撃力が下がらないことだけが利点だった。

 じゃあなぜそんな武器があるのか。

 ゲーム内では、コスプレをするためのファッションアイテムの一つという見方が主だった。

 同じく、錬成の難易度の割に防御力の低いコックコートとコック帽を装着し、仲のいい人たちが集まって、合わせをする人が多かったと思う。

 そんなおたまがわが家の周囲に落ちているはずがない。

 母が不審に思うのは当然だが、母には悩んでいる時間はなくて――


・もし持ち主が現れたら、ちゃんと返すこと

・大切に使うこと

・畑で土を触ってもいいが、野菜に悪戯はしないこと


 などを私に言い聞かせ、急いで畑仕事を開始したのだった。

 大丈夫。私におまかせあれ!

 この【肥料(神)】によりできあがった、栄養に富む土を、おたまでしっかり撒いていくので!

 というわけで、地面にしゃがみこみ、ふかふかの土を、おたまで掬い上げる。こぼさないように慎重に歩き、芋の畝へと近づく。そして、芋の葉やつるを避け、しっかりと根元に土をかぶせることに成功……!


「ふわぁ……!」


 できた……!

 なんだかはじめてうまくいった気がする……!

 おたまはスコップに比べれば使いづらい。だが、ちゃんと脳内で考えていた通りに道具としての使命を果たしてくれた。さあ、あとはこれを畑全面に……!

 ……全面に? うそ……。


「みりゃいがとおい……」


 未来が遠いよ……。

 一回で喜んでいたけど、どう考えてもあと二百回はこの作業が必要な気がする。いや、二百回じゃすまない気がする……。

 ……でも、やるしかない。

 そう。ゲームではこんなことは日常茶飯事だ。レベル上げだって単純作業を繰り返すから、気づけば強くなっているのだ。一回の成功ですべてが終わり、大成功です、とはならない。成功を繰り返し続ける。これが大切なのだ。


「よし!」


 おたまを握り直し、うんしょと立ち上がる。母はまだ畑仕事を続けるようだし、私もこの作業を続けていこう!

 そして、気になることも確認していきたい。


 ――このお金のなさだ。


 畑は地道にやっていけば、すぐに大豊作になり、父と母は楽になると思う。……思っていた。だけど、本当にそうだろうか。父の体が治り、畑で稼げるようになれば解決するだろうか?

 現状、父と母が朝から夜遅くまで働いていて、こんなにお金がないなんて、なにかおかしい。なにかがある気がする。


 ――これからは調査任務ですね。

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