ピオちゃんと合流しました
キャリエスちゃんが危ない。
情報を得た私とサミューちゃんはすぐに村を立つことにした。
村の人はこどもが解放されて、家族で過ごせることを喜んでくれている。引き留められたけど、今はキャリエスちゃんが優先だ。
「さみゅーちゃん、きゃりえすちゃんのばしょ、わかる?」
「はい。別れる際に旅程を聞いております。現在はこの街のあたりではないかと」
サミューちゃんが地図を開いて、教えてくれる。
縮尺がわからないから、はっきりとはわからないが、それなりに離れているように感じた。
「とおい?」
「そうですね。今日一日で、かなり離れると聞いています。けれど、レニ様のアイテムと私の【魔力操作】で能力を上げた体であれば、追い付くことは可能かと思います」
「うん。じゃあいこう」
「まずはこの道をまっすぐです」
サミューちゃんに案内してもらいながら、キャリエスちゃんの元を目指す。
今日は三日月だから、あまり光はない。でも、猫の目があるから大丈夫。
私がぴょーんっと跳んで、サミューちゃんは一足一足で一気に前に進んでいった。
「レニ様、あともう少しかと思いますが、体調は問題ありませんか?」
「うん」
さすが【猫の手グローブ】と【羽兎のブーツ】。
もう二時間ぐらいはぴょんぴょんと跳んでいるけれど、まったく疲れない。
けれど、実は一つ問題が……。
それはキャリエスちゃんと合流してから考えよう。
なので、言わずにいると、向こうから猛スピードでやってくる馬が見えた。
乗っているのは――
「ぴおちゃん」
「…っ!? レニ君か!?」
ピオちゃんはキャリエスちゃんの騎士。
だから、たくさんの警備の兵士と一緒にキャリエスちゃんを守っていたはずだ。
けれど、ピオちゃんは一人だった。
不思議に思いながら、足を止める。
私の姿を認めたピオちゃんはそのまま馬で走り寄った。
「すまない……っ!! 殿下が……!!」
近くまできたピオちゃんが馬を止める。そして、転がり落ちるようになりながら、私の前で膝をついた。
私を見上げる赤い目はすごく必死で――
「レニ君、助けてほしい。……幼い君にこんなことを頼むのは、恥知らずだとわかっている。でも、君しか……っ!!」
「うん。まず、はなしをきく」
その焦った様子と必死な目から、キャリエスちゃんの身に大変なことが起こったことはわかる。
なので、落ち着いて話をするように促すと、ピオちゃんは要点をかいつまんで教えてくれた。
・もう少しで宿泊する街に着くというところで、強襲された
・敵は大量の【蠢く鎧】だった
・ピオちゃんもがんばったが多勢に無勢で途中で倒れてしまった
・気づいたら、キャリエスちゃんはおらず、ピオちゃん一人が無傷だった
「僕以外は全滅だった。僕も重症を負ったはずだが、なぜか傷がなく、体力も戻っていた。鎧や服には攻撃の痕は残っていたから、攻撃され倒れたのは間違いない。そして、僕は胸にこれを持っていたんだ」
そう言って、ピオちゃんが見せてくれたのは空になった回復薬の入れ物。
「ぴおちゃん、のんだ?」
「いや、気を失っていたし、薬を飲めるような状況ではなかった。ただ……服が濡れていた」
「そっか。きっと、きゃりえすちゃんがかんがえたんだね」
キャリエスちゃんは私がドラゴンと戦った兵士を助けるときに、回復薬をかけて治したところを見ている。
だから、それをピオちゃんに施したのだろう。
「殿下が……」
「れにのかいふくやく、のまなくてもきく」
「そうか……これはそんなにすごいものなのか」
「うん。ふつうはわからない。きゃりえすちゃん、しってた」
私の言葉にピオちゃんの目は悔しそうに歪んだ。
「……僕だけが助かってしまった」
ぽつりと漏れた声は苦しさが滲んでいた。
ピオちゃんがキャリエスちゃんを大事にしていることはわかっている。
きっと、すごくつらいだろう。
「相手は大量のリビングメイル。いくらここで人を集めても敵わない。けれど、王都まで戻って救援を呼んでいては、時間がかかりすぎる。殿下の身に危険が及ぶだろう」
ピオちゃんが一人でここまで走ってきた理由。
それは――
「レニ君しか思い浮かばなかった」
――私を探すため。
「すまない……本当に申し訳ないと思う。幼い君にこんな風に縋るなんて、自分で自分が許せない。だが、君以外に殿下を助けられる人物が見当たらないんだ」
そこまで言うと、ピオちゃんは言葉を選ぶようにそっと告げた。
「トーマス市長の屋敷でリビングメイルを消した光、あれはレニ君だろう?」
……うん。バレている。
「……」
『光になぁれ!』が私だと、普通にバレている。
別に言ってもいいかもしれないが、サミューちゃんは隠そうとしていたみたいだし、どうしたらいい?
なんとも答えることができず、サミューちゃんを振り仰ぐ。
すると、サミューちゃんは私の代わりに話を受けてくれた。
「なぜ、レニ様だと思うのですか?」
「……殿下は立派な方だ。それはこの国の王女殿下として、努力されているから。噂にあるような力があるからではない」
「それで?」
「だから、あの光は殿下から出たものではないことはわかる。そして、君は僕がリビングメイルと相対しているときに『自分には魔物を消す魔力はない』と断言した。そこまで言っておいて、そのあとに力を使うことなどないだろう」
そうなんだよね。タイミングがね……。サミューちゃんが否定したあとだったんだよね……。
「僕はリビングメイルと戦いながら、なにかに守られているような気配をずっと感じていた。姿は見えない。けれど、時折聞こえたレニ君の声と現れ方。僕はレニ君だと考えた。きっと殿下も気づいていらっしゃる。が、それを言うことはないだろう」
どうやら、キャリエスちゃんもあの光が私だと思っているようだ。
そして、二人ともその話をすることはなかったのだろう。
「僕もだ。レニ君が望むならば、だれにも言わない。これまでも、これからも」
ピオちゃんのまっすぐな赤い目。
私はその目を見て――
「わかった。しんじる」
――こくり、と頷いた。
「レニ様……」
サミューちゃんが困ったように眉を寄せる。
心配してくれているのだ。
「さみゅーちゃん、だいじょうぶ」
なので、サミューちゃんを安心させるように、ふふっと笑った。
「ぴおちゃん、りっぱなきし。うそはいわない」
ピオちゃんが生真面目な騎士であるのは最初からわかっている。
キャリエスちゃんを守ろうとしているとき、私に謝ったとき、そして、今。いつだってその言葉はまっすぐだから。
「あのひかり、れにがやった」
ときどき、胸が熱くなる。
その熱いのを集めると、出てくるのだ。
「……じつは、まだうまくつかえない」
が、百発百中ではない。
自分でも使えるときと使えないときの差はわからない。でも、ここぞ! というときには使えているから、なんとかなると思う。
もし、あの光がなくても、私にはカンストしたアイテムがあるから!
「だいじょうぶ」
どれだけの人が倒れていようとも。
「たすける」
最強四歳児なので!
「れににおまかせあれ!」






