旅に出たら、さっそく事件です!
時計台から、なんとか落ちずに持ちこたえたサミューちゃんと私。
守護者の契約はきちんと成功し、私とサミューちゃんの間で【精神感応】が使えるようになった。
耳の丸い、封印状態の私だけれど、やはり種族は【エルフ】だったようだ。
時計台で一命をとりとめたサミューちゃんの話では、私の中にはちゃんと魔力はあり循環しているようだ。ただ、その流れは封印されており、私の意思ではうまく使えないのかもしれない、とのことだった。母もそのような状態で、しかしエルフの血族としてサミューちゃんとの守護者契約は続いていた。
だから、私も守護者契約はできたのだろう。
【精神感応】ってどんな感じかな? と実験もしてみたけれど、私の考えのすべてが伝わったり、サミューちゃんの考えがわかったりするようなものではなかった。
なんていうか、サミューちゃんに伝えたい、と思いながら考えたことだけがサミューちゃんに届くような感じで、イメージだと電話が近い。
この能力があれば、どんなに離れていても、お互いにやりとりができるので、便利だ。
母とサミューちゃんもやりとりができるので、もし父や母になにかあっても、すぐにサミューちゃんに連絡がくるだろう。これから旅に出ても安心。
というわけで。
「ぱぱ、まま、いってくるね」
レニ・シュルム・グオーガ。立派に四歳になりました!
四歳! それは旅立ちの季節!
「いっぱい寝て、たくさん食べて、しっかり大きくなってね」
「うん。れに、もっとつよくなる」
「そうだな。レニなら心配いらないな」
四歳になるまで、たくさんの思い出を作った私たち家族は、笑顔で旅立ちの朝を迎えた。……んだけど、父はちょっと涙ぐんでいる。
「ぱぱ、ちゃんとにんぎょうもってね」
「わかってる。レニがたくさん家に飾ってくれたからな。大丈夫だ」
「まま、あんまりむりしないでね。たいへんなことがあったら、すぐにさみゅーちゃんにいってね」
「ええ。レニも困ったことがあったら、サミューに言うのよ」
「うん」
最後にぎゅーっと母に抱きつく。すると母もふんわりと抱き返してくれた。
「レニ。……気を、つけてっなっ……!」
そして、母から父へと渡され、父が私をしっかりと抱きしめる。
ついに涙ぐむどころではなく、声まで裏返ってしまったけれど、父は私を離し、そっと地面へと降ろした。
「サミューっ。頼んだ、ぞッ」
「お願いね、サミュー」
「はい。必ずお守りします」
私の頭上で大人三人が視線を交わし合う。
お互いに強く頷き合い、その後、サミューちゃんが私の手を握った。
「レニ様。参りましょう」
「うん!」
天気は晴れ。
風も心地いいし、とってもいい日だ。まさに旅立ち日和。
「いってきます!」
父と母に手を振る。
母は笑顔で、父も泣きながらも笑顔で見送ってくれた。
「すらにたの、あたらしいがいちょうはどう?」
「新しく就任した者ですね。シュルテムがいなくなったので急ぎでの就任だったために長くは在籍しない予定のようですが、現在は立て直しに必死なようですね」
「そっか」
「シュルテムが公金をかなり横領したり、近隣から法外な税金を集めていたようで、その後処理に追われているようです。新しい街長自体は無能ではなく、悪事をする素振りはありません。問題ないと判断しました」
「じゃあ、あんしんだね」
とことこと道を歩きながら、サミューちゃんと話をする。
こういうのも【精神感応】でもいいが、会話のほうが簡単だ。
シュルテムがいなくなり、一時は騒然としたけれど、どうやら新しい街長はなんとかやっているようだ。
これなら、父や母、助けた女性たちも安心だろう。
「ただ、まだ、こどもたちの行方がわかっていないのです。レニ様と旅立つまでに時間があったのに申し訳ありません」
「ううん。しらべてくれてありがとう。こども、どこにいったんだろうね」
シュルテムに女性たちと一緒に集められ、どこかへ売られたこどもたち。
シュルテムは上との繋がりのためだ、と言っていたけれど……。
「さみゅーちゃん、まずはどこにいく?」
「最初はここの村や街を管轄している、市の中心地へ行こうと思います」
「しちょうがいるところ?」
「はい。レオリガ市といいます。もし、シュルテムと繋がりがあるのならば、そこから辿れるか、と」
「わかった」
サミューちゃんの言葉に頷く。
シュルテムが上と繋がりたい、と言ってたのだから、まずは街長の上の位である市長が怪しいというのはたしかに考えられる。
「すでに調査はしたのですが、またレニ様が直接見ればわかることもあるかもしれません。なにより一帯では一番栄えている場所ですので、レニ様が観光するのにもいいのではないかと思います」
「うん! いってみたい!」
「レオリガ市は交通の要衝で、たくさんの商売人が立ち寄ります。ですので、宿屋も多く、旅人向けに店も多いのです。きっとレニ様の気に入るものがあるかと思います」
「たのしみ!」
ずっと村で暮らしてきて、一番栄えたところといっても、私が直接見たことがあるのはスラニタの街だけだ。
ゲーム内で見たような、たくさんの屋台や店が建ち並んだ通りがあるならば、ぜひともこの目で見たい! サミューちゃんの説明で、わくわくが止まらなくなったよね!
目指すは、市長が住む、レオリガ市!
「どれぐらいあるく?」
「レオリガ市までは3日ぐらいでしょうか。途中に街がありますので、宿泊場所の心配はありません。もし、急ぐようなら私がレニ様を運びますが……」
「ううん、れに、じぶんであるく」
サミューちゃんにだっこで運んでもらえば、早いし楽だし、すぐに着くけれど、私は筋肉をつけなくてはならない。
能力がまだまだマイナス補正なのだ。
「そうですね。ゆっくり参りましょう。道中にもレニ様が楽しめるものがあると思います」
「うん!」
そうして、旅に出て3日。
旅の途中で、お肉が有名な食事処でおいしいステーキを食べたり、果物狩りができる農園に寄ったりしながら、楽しんでいたら、あっという間だった。
サミューちゃんによると、今日中にはレオリガ市に着くだろう、とのことだ。
「みちもひろいし、ばしゃもふえたね」
「はい。やはり交通の要衝ですね。往来が盛んです」
私の生まれた村からスラニタの街へは舗装もされていない道で、人がやっとすれ違えるぐらいの道だったのに、今では馬車がすれ違えるぐらいの広さの道があり、なおかつ舗装もされている。
馬車が渋滞しているようなことはないけれど、1台通過したと思ったら、すぐにまた横を通っていく。
それだけで、レオリガ市がとても栄えていることがわかった。
「……さみゅーちゃん、あれ」
「どうしたのでしょうか」
また1台、横を馬車が通る。
その馬車を目で追いかけていると、なぜかその馬車は途中で止まった。そして、進路を変更し、また私たちの元へと戻ってくる。
「おい! 逃げろ!」
すれ違いざま、馭者が私たちへと声をかけた。
「南を見ろ!! ドラゴンだ!!」






