おばけですよ
吹き抜けになるということは、屋根が落ちたということだ。
なので、それを足場にしていた私も同時に家の中へと落ちていく。
【羽兎のブーツ】のおかげでふわふわとゆっくり降りていった私は、一階の床に両足を着いた。
「ちゃくち、よし」
「ぐぇ」
足を置いた瞬間、床からつぶれたカエルみたいな声がした。
たぶん、ちょうど人がいたんだろうね。
「うっ……うぐっ……」
「あが……」
よく耳を澄ませば、そんな声がたくさん聞こえてくる。
家の中に入ったのは六人だったけど、中にはもう少し人がいたのかもしれない。一撃で全員昏倒させちゃったから、よくわからないけれど。
一気に仕留めたほうが楽かなぁとリフォームしたが、完璧にうまくいった。
さすが私。最強三歳児。
ふふん、と胸を張る。そして、まだやりたいことがあるので、次の作業開始した!
「はっくつ!」
次の作業。それは発掘作業です。
「ひと、き、ひと、き、ひとひと、き」
一階の床に積み重なった、なにかの木材や壊れた家具をひょいひょいと【猫の手グローブ】の爪にひっかけ、選り分けていく。
人は左、木は右。
大まかに人と瓦礫を分けながら、一階の床が見えるまで掘り起こしていく。
そうしているうちに、目当てのものを見つけて――
「いた。りーだー」
重そうな家具をどけると、そこには大柄な男性。
そう。これはわが家にやってきた六人の中のリーダー的存在だ。
他の人はわが家に関わるのをやめようとしていたが、この人がそれを止め、会話を誘導していた。
そのせいで、だれも諦めず、引き続き、わが家が付け狙われることになってしまったんだよね。
この人がいなければ、比較的平和にわが家の問題は解決できたはずだ。
「はなしをする」
というわけで、リーダーとは話し合いが必要だと考えた。
見つけたリーダーを爪でひっかけて、ずるずると引っ張っていく。
屋根はなくなったものの、壁は四方向とも存在している。なので、北側の壁に背をもたれさせて座らせた。
「おきて」
声をかけてみたが、リーダーが返答をする気配はない。
リーダーを発掘するまでに、たくさんの木材や家具、人をどけた。
重量がかなりかかっていたみたいだから、血がめぐらず、気を失ってしまったんだろう。
うーん。目を覚ますのを待つのもめんどくさいなぁ……。
悩んでいると、左側から「ひっ」という声が聞こえて――
「なんだこれ……どうなって……っくそっ」
どうやら一人目が覚めたらしい。
男は壊滅したアジトと、無造作に積まれた仲間たちを見て、悲鳴を上げたようだ。
焦った男は立ち上がることもできず、四つん這いでドアに向かっている。
逃げ出そうとしているんだろう。
「にげちゃだめ」
リーダーは放っておいて、逃げ出そうとした男の前に立つ。
そして――
「ねこのつめ」
ザシュッ
男が進もうとしていた、床に向かって【猫の爪】を繰り出す。
すると、五本の筋がしっかりと床に刻まれた。
「ひぃぃいいい!」
抉れた床を見て、男は四つん這いで来た道を戻っていく。
積み重ねられた仲間たちを盾にして、必死に自分の姿を隠そうとしているようだった。
「もういやだ……やっぱりあの家はおかしい……手を引けばよかったんだ、こんな、こんな……」
怯えながら、ぶつぶつと呟いている。
私はふむ、と考えると、手近にあった瓦礫をひょいっと爪にひっかけて、ぽいっと投げた。
ガツン!
「ひぃ!」
瓦礫が壁に当たった音。
男はその瞬間ビクッと体を震わせて、悲鳴を上げた。
「助けてくれ……助けてくれ……」
よっぽど心に来たのか、ついに男は両手を顔の前で組み合わせ、祈り始めた。
ガタガタと震えながら、一心に祈る姿は本当に恐怖に染まっていて……。
これ以上、不気味なことは起きて欲しくない、それがひしひしと伝わってくる。
「なるほど」
「ひぃぃ!」
私が呟いた声にも過剰に反応。
これまでの男の反応から察するに、私の起こすことがすべて怪奇現象に思えているのだろう。
それも仕方がないことかもしれない。
【隠者のローブ】を着て、フードを被っている私の姿を見ることはできず、気配もわからないのだ。
いきなり屋根が落ち、物が勝手に動き、人が積み上げられていく。そして、トドメとばかりに床に爪が刻まれ、壁に物がぶつかれば――
……たしかに怖いかも?
「呪いだ……俺たちは呪われたんだ……ひっ」
ふむ、と手を叩くと肉球同士が当たり、きゅむっと音が鳴る。
男はそんなかわいい音にも「ひぃっ!」と悲鳴を上げた。
――どうやら、私は悪霊になったみたいです。






