リフォームをしましょう
わが家から離れていく不審者たちに、私もついていく。
たどり着いたのは、村から一番近い街。
父が病気で動けなかった頃に母が働いていたあの街だ。
街は魔物対策のために塀がぐるりとあり、門には兵が立っていた。
この街は基本的に夜間の出入りはできないようになっていると母から聞いたことがある。
そんなに警備が厳しい街ではないので、緊急時や夜間の仕事があるものは出入りは可能だとも言っていたけれど……。
でも、こんな不審者たちがどうやって街に入るんだろう?
不思議に思いながらも、不審者たちの動向を見守る。
すると、驚いたことに、不審者たちはなんの対策も取らず、正門から街に入ろうとした。そこには門兵がいるのに。
きっと、捕まる。
あるいは話を聞かせてくれ、と別室に連れて行かれるはず。
でも――
「入るぞ」
「はい」
――スルー。
こんな怪しい集団を全スルー。
不審者たちは堂々と正門から街に入っていく。
もちろん門兵にも私の姿は見えていないので、その不審者たちに続けば、簡単に街へと入れた。
不審者たちは、口を隠す布は取ったものの、それ以外はなんの警戒をすることもなく、表通りを歩いていく。何人かとすれ違ったが、それも気にしている様子はない。
そうして、歩みを止めたのは、表通りの一本奥の通りだった。
表通りにもたくさんの建物がぎゅうぎゅうに立ち並んでいたが、こちらのほうが隣との距離がない。
夜だからわからないが、採光もあまり望めそうにないだろう。
不審者たちはそんな建物の一軒へと入っていった。
木造三階建て。同じような造りの建物がたくさんある中で特徴的なのは、扉の上に掲げられた看板。
『スラニタ金融』
看板にはそう書かれていた。
「やっぱりしゃっきんとりだ」
その文字を見て、不審者たちが借金取りだったと繋がる。
『スラニタ』というのはこの街の名前。『金融』はそのまま金貸しの意味だから、非常にわかりやすい。
生活費と父の治療費が必要だったときに、母がここでお金を借りたのだ。
表通りから一本奥に行ったと言っても、きれいな外観の建物。まさかこんなことになるなんて、母にはわからなかったと思う。
それにしても。
「へんだよね」
不審者であることを隠しもしないまま、正門から街へ。
そして、まっすぐにアジト(とリーダー格の男は言っていた)に戻るなんて不用心にもほどがある。
というか、街がこういう行為を許しているようにも見える。
「うえとかんけい、かぁ……」
リーダー格の男が、『上との関係が強固になる』という発言も気になるよね。
これまでのことを考えれば、美人の母を売るためだけに仕組んだにしては、手が込みすぎている……ような気もする。でも、母は女神様みたいにキレイだからなぁ。
ま、とにかく、今、私がやることは。
「じゃんぷ!」
ぴょんっと地面を思いっきり蹴って【飛翔】。
ふわっと浮いた体は重力を感じさせず、一気に木造三階建ての屋根まで飛び上がった。
「ちゃくち、よし」
屋根にしっかりと両足を着ける。
この建物には少なくとも六人の借金取りがいることがわかっているが、もしかしたらもう少しいるかもしれない。
玄関から堂々と入って、一人ずつ倒してもいいんだけど、相手の人数が多いと逃げられる可能性がある。
私の存在に気づいておらず、油断しているのだから、どうせなら一網打尽にしたい。
建物ごと吹き飛ばす手もあるけど、ちょっと聞きたいことがあるんだよね。
なので、外からはバレずに中の人だけを片付けてしまいたい。
そこで、私が考えた作戦は――
「ねこのつめ!」
言葉と同時に、屋根に向かって手を振る。
すると、【猫の爪】が発動し、屋根に向かって、五本の筋が走った。
そして――
ガラガラガシャーン
木造三階建ての建物の屋根が支えを失くし、落ちていく。
さらに【猫の爪】の威力は屋根を落とすだけでは衰えず、一階の地面までたどり着いた。
そう私の考えた作戦とは。
「りふぉーむです」
なんということでしょう。日当たりが悪く、採光の望めなかった一階まで、星明りが差し込んでいます。
最強三歳児の匠の手によって、一階からも、星空がとってもきれいに見える、吹き抜けになりました!






