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光の中に

 気づけば私は声を上げて泣き、サミューちゃんに抱き着いていた。

 いっぱい泣いているうちに、胸が熱くなっていく。

 これは……宝玉だ。そうか、この世界を創ったのは……。


「宝玉よ」


 呼びかければ、宝玉が姿を現す。球の中心から光が幾重にも幾重にも紡ぎ出されていく。……まるで、世界を織るように。


「私の願いを……叶えてくれたの?」


 私の問いかけに答えるように、淡く明滅した。正と。そういうことだろう。


「宝玉はエルフの女王を人間に変え、その子へ受け継がれました。そして、女王の魔力とその子の魔力を封印することに宝玉の力を使っていた。が、封印が解かれたとき、宝玉は力を使う先がなくなっていたのです」


 サミューちゃんの説明に、「うん」と頷く。

 私の封印が解かれたときから、宝玉は力を余らせていたのだろう。

 そして、私が魔力暴走した際、私とともに宝玉も消えるところだった。

 普通ならば、私が消えれば宝玉は世界に残るはず。それが、なぜ私とともに消えそうだったのか。それは――


「――宝玉は、世界を創ろうとしていたから」


 私とずっとともにいた宝玉。

 きっと、私の胸の奥にあった願いにも気づいたのだろう。……私自身でも気づいていなかった、『日本で普通に暮らしたい』……『ちゃんとしたい』という願いを。


「この世界は、その宝玉一つで新しく創られた世界です。……世界を支える宝玉は七つ揃って世界を支えているのです。まさか、それがたった一つだけで新しい世界を創り上げるなど、だれも考え付きませんでした」

「……そうだね」


 あまりにも宝玉の力が強すぎる。

 ……きっとそれは、母の望みや私の素質や、そういうもので魔力が膨大にありすぎたせいかもしれない。

 歴代のエルフの女王随一の魔力量を誇るママ。人間になりたいと願ったため、その魔力はすべて宝玉へ吸収された。そして、レベルカンストして生まれた私。魔力量は桁違い。それがずっと宝玉とともにあったのだ。


「あっちの世界は大丈夫? 宝玉がなくなったら困るってムートちゃんは言っていたけど……」


 そう、七つのうちの一つでも欠ければ、世界は滅びると言っていた。今、私とともにある宝玉は私の願いを叶えて世界を創り上げてしまった。それはつまり、あちらの世界では一つ欠けてしまったのではないだろうか。


「大丈夫です。今はドラゴンが支えています」

「ムートちゃんが」

「あまり褒めたくはないですが、やはりブラックバハムートドラゴンですね。透写の森で異変が起こり、世界がひび割れた瞬間、すぐに建て直しました。今はまだ維持はできているようです」

「……今は、まだ?」


 サミューちゃんの言い方が引っかかる。

 まるで、その先はないような……そんな言い方だったから。

 探るようにサミューちゃんの黒い目を見る。サミューちゃんは悲しむように眉を下げた。


「……最初、私はあなたを連れ戻しに来ました」

「……うん」

「ブラックバハムートドラゴンの力を借りて。逆鱗を依り代にして、私をこの世界へ飛ばすことができる、と。宝玉の暴走を止め、世界へ戻る。そうすれば、宝玉はふたたび七つとなり、世界は平穏を取り戻す。それでうまくいくはずでした」


 サミューちゃんはそこまで言うと、目を優しく細めた。


「でも、私はこの世界での姿を見て、……この世界でいいのではないかと思いました。……あなたが笑っている。これが望みであれば、それを叶えたい、と」

「サミューちゃん……」

「私は……。すべてを隠すことを選びました。……もし、ブラックバハムートドラゴンの力が足りず、あちらの世界が滅びたとしても。私は、あなたの笑顔が一番大切だから」


 そして、ふぅと息を吐いた。


「しかし、やはり私は浅はかでした。私の浅慮など飛び越えて、いつもすばらしいものを選び取る」

「……うん」

「ご自分で気づいて、こうして私とまっすぐに話をする。さすがです」

「……だって、サミューちゃん。私が気づかなかったら、なにも言わないサミューちゃんが苦しいよ」


 サミューちゃんはあちらの世界でずっと育って暮らしていた。大切なものもたくさんある。そして、今、私を連れ戻すという世界を背負った使命があったはずなのに。

 私一人の願いを叶えるために、それを全部犠牲にしようとするなんて。そんなの……。

 そして、ここまで話を聞いた私が選ぶ道はただ一つ。


「――この世界は、終わりにする」


 私の夢が叶った世界。でも、この世界は選べないから。

 サミューちゃんはぎゅっと私を抱きしめた。


「私は……今も、まだ、この世界でいいと思っています。……この話を聞いてしまえば、選ぶ道はそれしかありません。ですが……っ」

「……ありがとう。……ここまで来てくれて。……こっちの世界でも私を助けてくれて」


 幸せ……だったなぁ。

 ちゃんと学校に行って、友達とお弁当を食べて、父と母がため息をついていない。


「でも……私は……」


 私は……クリスマスの夜に死んでしまったから。

 不摂生で睡眠時間も短かったし、自分の体調も全然気にしていなかった。本当の死因はわからないけれど、死んでもおかしくない生活をしていたと思う。


 でも……、もし、私が生きていたとしたら。

 ゲームをたくさんして、その中で得た経験を活かしていけたとしたら。


「こんな風な未来も……あったのかも」


 サミューちゃんはいないのだから、こんなに簡単に物事がうまく回るはずはない。きっと学校に行ったとしても友達はすぐにはできないだろうし、また結局引きこもりに戻っていただけかもしれない。

 でも……。そう思えたことが。

 閉塞感だけじゃない、すこしは明るい未来があったかもと可能性を信じられることが。それが私の胸にずっと残るから。


 全部が普通なんて無理だったかもしれない。でも、通信制の高校なら行けるかもしれない。そこで大学受験をできる資格をとって……。大学生になって。

 もしかしたら、もしかしたら、もしかしたら。

 たくさんの未来が見える。ただの引きこもりの女子高生だった私に、いろんな道が。

 ――死んでしまった私には叶えられない道。


「ありがとう」


 ありがとう。たくさんの可能性を見せてくれて。


「宝玉よ」


 光を織るそれに語りかける。

 すると、一層、光が強くなった。


「――帰ろう」


 光の中で、自分の姿が変わっていくのがわかる。

 小さくなった体で、隣を見上げる。

 そこにいるのは金色の髪に碧色の瞳。とってもかわいいエルフの女の子。


「いこう、さみゅーちゃん」

「はい、レニ様!」

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