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とても怒っています

 家の外に出ると、すぐに借金取りたちを見つけることができた。

 どうやら、わが家をあとにして、どこかへ向かうようだ。その背中を急いで追いかける。

 【隠者のローブ】は役目を果たしているようで、借金取りたちの背後2mのところまで来ても、まったく存在に気づかれることはなかった。


「いってぇ、くそっ」


 そこまで近づけば、借金取りたちの声がしっかりと聞きとれる。

 借金取りの人数は三。父と戦ったときに負傷したのか、一人は肩を押さえ、あとの二人は腰をさすっていた。


「やっぱりあいつは強いな」

「ああ。普通に相手してちゃ敵わねぇ」


 借金取りたちはちっと舌打ちしながら、父についての話をしているようだ。悔しそうな声音で話す二人。だが、もう一人は、ひひっと嫌な感じで笑った。


「でも、あいつも魔物の前じゃ形無しだっただろ? 仲間を庇ってケガをしてよぉ。まさかそいつが俺達に買収されてるとも知らないで」

「だな。まんまと罠にかかってくれたもんな」

「そのまま死ねばよかったのに、生き残りやがってよぉ」


 その言葉に私は頭がスッと冷静になっていくのを感じた。借金取りの言葉でいろいろなことが腑に落ちたからだ。

 なるほど。おかしいとは思っていたのだ。

 父は腕のいい猟師だと言っていた。今日の借金取りたちとの戦いを見ても、かなりの戦闘スキルを持っていると考えられる。

 その父がなぜ、いつもの狩り場、いつもの獲物のはずだったのに、ケガを負い、そこから病気になってしまったのか。

 父の慢心でもなければ、運が悪かったわけでもない。


 ――最初から仕組まれていた。


 そういうことだ。


「あいつが死ねば、生活に困った嫁に声をかけて、子どもごと引き取る予定だったのになぁ」

「子どもは女だったんだろ? 惜しいことしたよなぁ。あの嫁の子どもなら高く売れたはずだろ?」

「終わったことを言ってもしかたねぇ。とりあえず嫁に金を借りさせて、今は儲けてんだからいいじゃねぇか。そろそろ嫁も手に入りそうだしな」

「そういえば、死んだ仲間の家族も養ってるんだろ? 自分が助けられなかったからだって責任を感じて、金を出してるんだってよ。馬鹿だよな。その仲間は俺たちに買収されて、あいつを売ったのに」

「無理やり借金を作らせて、あいつを売るように仕向けたのも俺たちだけどな」

「どうせ殺すつもりだったが、魔物に殺されてくれてラッキーだったな。口封じの手間もいらねぇし、死んでもなお、俺たちの役に立ってくれるなんてなぁ!」

「この村のやつらはちょろすぎるな」


 借金取りたちが顔を見合わせて、ひひひっと笑う。

 その声を聞いていると、胸がムカムカとしてきて――


「あいてむぼっくす」


 ぼそりと呟き、ずらりと並んだアイテム名の中から【猫の手グローブ】を選択した。


「けってい」


 胸元に現れたのは、ふかふかの毛皮とぷにぷにの肉球を持つ、かわいらしい手袋型の装備品【猫の手グローブ】。

 かわいい見た目だが、用途は武器。種類は双剣になっている。

 【猫の手グローブ】の錬成にはたくさんのSS素材が必要で、攻撃力も強く、私がゲーム内でずっと愛用していたものだ。

 追加素材で錬成をし、付加を続けたために、ほとんどの敵はワンパン。メインクエストの最終ボスもツーパンで倒せるまでになっていた。

 それを両手につけ、ぎゅっぎゅっと手を動かして、調子を確認する。

 うん。いける。三歳児の手にうまく入らず、使えなかったらどうしようかと思ったが、【猫の手グローブ】はしっくりと私の手に馴染んだ。


「ちょっといいですか」


 借金取りたちに声をかけながら、目深に被っていた【隠者のローブ】のフードを頭から外した。

 こうすれば、借金取りたちも私のことが見えるはずだ。

 借金取りたちは突然聞こえた声にびっくりしたようで、その場でぎくりと体を凍らせた。


「しゃくようしょをわたして」


 私の言葉に、借金取りたちが振り返る。

 そして、私の姿を見た途端、ふぅと息を吐き、わかりやすく緊張を解いた。


「おい、なんだ子どもじゃねぇか」

「おまえ、あっち行ってな」


 借金取りの二人はすぐに私から興味を失くしたようで、しっしっと手を動かし、追い払う仕草をした。

 だが、一人は私の顔をまじまじと見て――


「おい、待てよ。見ろ、すげぇぞ」

「「あ?」」


 借金取りたちの視線が私に注がれる。

 しばらく呆けたように私を見たあと、ごくりと喉を鳴らした。


「本当だ……これは、これは……」


 借金取りたちは視線をかわし合う。その瞬間、心の中で舌なめずりしたのが簡単にわかった。

 こんなにわかりやすくていいの?

 借金取りたちの態度に胸のムカムカはより強くなる。

 借金取りたちはそんな私の胸中など知らず、不自然なほどの優しい笑顔を私に向けた。


「お嬢ちゃん、どこから来たんだい? おじさんたちに道案内してくれるかな?」

「ちょっと道に迷っちゃったんだ」


 にこにこという擬音が似合う笑顔。

 私は真顔でそれを受け止めると、気負いなく近づいて行った。


「お、案内してくれるのかい?」

「優しいお嬢ちゃんだねぇ」


 借金取り二人が私の気を引く。もう一人はというと、荷物を下ろし、なにかを取り出しているようだ。それはたぶん――


「ろーぷとぬのぶくろ」


 なるほど。油断させ、借金取りの二人が私を捕まえる。そして、もう一人の借金取りが用意したロープで縛り、布袋に入れてさらうつもりなのだろう。


「つかまらない」

「「は?」」


 借金取り二人が私に手を伸ばす。

 私はその手に捕まらないように右に避け、もう一人の借金取りへと走り寄った。


「ねこぱんち!」


 脇を締めて、右手をしっかりと引く。左足でしっかりと踏み込み、体重を乗せてパンチ!

 私の言葉と同時に繰り出したパンチは、ロープと布袋を用意していた男のお腹にしっかりと入った。

 が、そうは言っても、ただの三歳児のパンチ。

 みぞおちに入ったとしても、ちょっと痛いだけですぐに復活できるだろう。


 だけど――


 私が追加素材を重ね、たくさんの効果を付加した【猫の手グローブ】で【猫パンチ】を繰り出せば、三歳児のパンチが衝撃波となるのだ!


「おほしさまになぁれ!」


 言葉と同時に借金取りのお腹の辺りに空気が圧縮される。

 そして、圧縮された空気は借金取りの方向に一気に解放されて――


「――ッどぅわぁああっ!!!」


 ――キラン


 ロープと布袋を用意していた男は、そのまま空の彼方に吹っ飛んでいった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 初おほしさま
[一言] しゃくよ~しょはぁ?(>_<)
[良い点] 普通に面白いかなぁ。 [気になる点] しかし、私個人の感想としては、一つだけ非常に大きいの設定矛盾が有ります。 これまでの物語の経過では、主人公さんは赤ちゃんの体力の無さのせいで、数々のア…
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