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ゲームが大好きです

 私はごく普通の女子高生だ。


 ……と言えればよかったけど、実はひきこもりである。

 小さい頃から他人と一緒にいると、なぜか少し浮いていた。生きづらいなぁって。そんな思いは年齢を重ねる毎に増えていって、中学生になったぐらいで、学校に行けなくなっていた。

 一応、高校受験はしたものの、やっぱり馴染めず、今は籍があるだけで、留年決定。そうなると登校する意味は皆無。

 学校に行かない私は代わりにゲームに没頭した。


 私がハマっていたのはオンラインRPG。

 キャラクターの種族はエルフにして、銀色の髪に金色の目を選んだ。ゲームの開始と同時に始めた私は、あり余った時間をゲームにつぎ込んだ。他にやりたいことがないっていうのもあったけど、そのゲームがすごく楽しかったから。


 私は特定のチームに所属せず、チャットもほぼやらない。いわゆるソロプレイが好きだった。

 魔物を倒して、素材を集めて、装備を作って、ステータスを上げて、メインクエストをクリアする。

 寝る間も惜しんでプレイすれば、あっという間にレベルはカンストし、装備も最強になり、アイテムボックスはいっぱい。

 それでも、ゲームに飽きることはなかった。

 運営はたくさんのイベントをしてくれたし、そのイベントもただ時間だけを食うような単純なものじゃなくて、工夫を凝らして、いつも楽しませてくれた。


 その日、いつも通りにゲームにログインした私は、霊感の洞窟というマップで、穴掘りをしていた。

 洞窟系のマップではつるはしを持っていれば、鉱物を掘ることができる。

 こういう鉱物系の素材を集めることを『穴掘り』と呼ぶんだけど、霊感の洞窟で採れるものは中盤ぐらいに役立つもので、ここで採れる素材は、私はすでにカンストしてしまっている。

 ではなぜ来たのか。


 ――ネットにレアアイテムの情報があったからだ。


 だけど、普通の人にはその情報の意味はわからなかったと思う。ある秘密を知っている者だけが理解できる。そういう情報だった。

 洞窟の素材ポイントで穴掘りをする中級者を見ながら、私は奥へとどんどん進む。洞窟のボスもサクッと倒して、さらに奥へ。


「ボスを倒して、その素材を取らずに、右の壁に沿っていく、と……」


 一見してただの洞窟の壁。

 でも、キャラの姿が壁にめり込んでいって――


「隠し通路があるんだよね」


 たぶん、ごく一部にしか知られていないと思う。

 キャラが壁にすべてめり込むと、暗い画面がしばらく続く。その間、キャラがどう動いているかはわからないし、不安になるけれど、とりあえず前へと進める。すると、画面に明かりが戻って――


「ついた」


 霊感の洞窟。隠し通路の奥の小部屋。

 洞窟のマップの中で、ここだけは部屋になっている。

 木の床に白い壁、魔法の光をたたえたランプ。

 どうして、洞窟のマップが突然こうなってしまうのかはわからないけど、バグというにはしっかりできすぎているし、やはり運営が意図的に作っているのだとは思う。


 だけど、ここにはなにもない。


 最初に発見したときは興奮して、強いボスがいるか、宝箱があるか、または違うマップへの道があるんじゃないかと思ったけれど、調べても調べてもなにもなかった。

 時間が関係するんじゃないかと、一日中この小部屋にいたこともあるし、日が関係するんじゃないかと、毎日訪れてもみた。

 それからもう一年。

 結局、なんにもなくて、諦めていたのだが、やはりここにはなにかあったらしい。

 ネットに乗っていた情報はほんの少しだけ。


『洞窟の小部屋で、クリスマスに穴掘り(神)』


 少なすぎる情報にだれも返事をせず、流されていった。

 でも、『洞窟の小部屋』がここだと知っていれば、一気に信憑性が増す。


「クリスマスに、つるはしで穴掘りか……」


 クリスマスに来ることも、つるはしで掘ることも試してみたけど、その二つを同時にやったことはなかったかもしれない。私としたことが抜かっていた。

 ちなみにつるはしは普通のつるはしじゃなくて、つるはし(神)じゃないとダメなのだろう。

 作業道具も素材を集めて、アイテム錬成をして作るんだけど、ランクがある。

 (ボロ)、(並)、(上)、(特上)、(神)の五ランクだ。

 それぞれ特性があるけれど、つるはし(神)は必ずSS素材以上を確約。だけど、一回で壊れてしまう。

 つるはし(神)の錬成にはS素材がたくさん必要なので、割に合わないとほとんどの人が使っていないのが現状だ。

 私はS素材を出し惜しむ必要はないので、よく使っているけど。


「よし。じゃあ、やってみよう」


 ごくりと唾を飲む。

 12月25日。クリスマス。洞窟の小部屋で延々と穴掘りだ!

 小部屋といっても穴を掘るポイントはたくさんある。というか床の全部が穴掘りポイントだから、すべて調べようと思えば、百回は必要。つるはし(神)は一回で壊れてしまうので、要は百本必要になってしまうけれど、私なら大丈夫。

 というわけで、まずは小部屋の中央でつるはし(神)を振り上げる。そして、それが木の床に突き刺さった。

 が――


「……なにも起きないかぁ」


 一回でうまくいくとは思っていない。だが、やはりちょっと落胆する。

 状況ステータスには『【つるはし(神)】が壊れました』とだけ出ていた。いつも通り。SS素材確定のはずだが、ここでいくらやってもアイテムは出ず、つるはしが壊れるだけなのだ。


「次」


 だが、こんなことはゲームをやっていればよくあること。

 すぐに気を取り直して、今度は右上から少しずつ移動しながら、つるはしを振っていく。百本のつるはしを全部壊してもかまわない。

 そうして、つるはしが壊れるだけの時間が進んでいった。すでに小部屋の半分は終え、後半に入った。中央よりやや下の右側部分。とくに目印もないそこにつるはしを振り下ろしたときに、それは起こった。


「ッ――! オリジナルエフェクトだ――ッ!!」


 来た!

 情報は本当だった――!


「すごい! こんなエフェクト見たことない!」


 こんなにゲームをやり込んで。それでも、まだ私の知らない世界がある。


 ――だから、やめられない。

 ――だから、ずっと大好き。


 つるはしの刺さった木の床はそこからひび割れていき、割れ目から光があふれ出す。その光が小部屋全部に広がると、画面は真っ白な空間になった。そこにいるのは私が作った銀髪に金色の目のエルフ。そして、その手には――


「玉……?」


 丸い水晶のようなものを持っている。

 そんなアイテムあったかな……?

 疑問に思っていると、画面は変わり、気づけば、霊感の洞窟のボスのマップまで戻ってきていた。

 そして、状況ステータスの一文が追加されていて――


『【宝玉(神)】を手に入れました』


 やった……!

 私は本当にうれしかった。

 ただ、そのアイテムはアイテムボックスにはなくて、装備品やアクセサリーとも違うようだった。ステータスを見ても変化はないし、なにか称号がついたわけでもない。

 どこにも存在していない。

 でも、たしかにオリジナルエフェクトがあり、状況ステータスには表示された。

 だから、手に入れたことは間違いないのだ。


 ――どんな効果があるんだろう。

 ――この世界にはまだ宝玉が眠っているのかもしれない。


 そう思うとワクワクして……。

 まだまだ、このゲームを楽しめると確信しながら、久しぶりにベッドで眠ることにした。

 そして――


 ――私はそのまま死んでしまったらしい。


 そんな残念すぎます……!

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ほのぼの異世界転生デイズコミックス ほのぼの異世界転生デイズ
― 新着の感想 ―
[一言] ご両親かわいそう
[一言] 死因は 心筋梗塞かな~
[良い点] この手に入れたアイテムも何かのちの伏線になりそうですね。 [気になる点] かくこうして死因はゲームのやりすぎという噂がたつの、か?
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