2.エルフの女性
声のした方へとやってくると、そこにいたのは数人の人間の男。
そして、大きな樹を背に尻餅をつく女性だった。
「どうやら、さっきの声の主で間違いなさそうだな」
「そう、ですね……」
少し離れた木陰に隠れて、俺とアリスは言葉を交わす。
そして改めて女性の身なりを確認するのだった。見たところ、奴隷のようだ。
あまりにも粗末な衣服に、首には偶然に鎖が切れたのだろう鉄製の首輪がされている。足には拘束具の類はないが、手は縄で自由を奪われていた。
状況から察するに、移送されている最中に偶さかの機会を得た、というところか。
「相手の力も把握できていないが、行けるか? ――アリス」
「はい。任せてください!」
俺はそんなことを考えつつ、少女にそんな確認を取った。
すると彼女は、小さな声ながら力強くそう答える。
そして、真っすぐに飛び出した。
まぁ、勇者としてのアリスの活躍は、説明するまでもないだろう。
◆◇◆
男たちを昏倒させて、女性を拘束具から解放した。
そうして近くに寄ってから分かるのは、怯えた様子の女性がエルフ族である、ということ。人間の中でも長命とされるエルフ。その特徴とも云える長い耳に、長いこと風呂にも入れていないのか緑の長い髪はボサボサで、あちこちに飛び跳ねまくっていた。
身体つきは食事が不十分だということもあるのだろう。
無駄な肉がなく、すらりとした身体つきをしていた。
「ぁ、ありがとう、ございます……」
緊張から解き放たれたためだろう。
完全に力の抜けた声で、彼女はそう言った。
アリスはそんな女性のもとに寄り添って、背中をさすっている。
「見たところ奴隷のようだな。こいつらは、どこの者たちだ?」
だが、悠長に語っているつもりなどない。
したがって俺は、単刀直入に女性へそう問いかけた。
「あ、はい……。この先にある町、ニドメにある奴隷商の、です」
「ふむ。俺たちが行こうとしていた町の、か」
「あの、レオさん……!」
すると、そんな中でアリスが声を上げる。
顔を見ると、そこにあったのは――。
「――どうやら、無視できない、という感じだな」
真っすぐな眼差しだった。
正義感の塊であるこの少女のことだ。奴隷などと云う、人間の尊厳を踏みにじるような集団のこと、許せるはずがなかった。
それは、ある程度は予測していた発言。
だとすれば、俺の答えは――。
「……分かった。それなら、次の目的は決まったな」
「ありがとうございます!!」
俺が答えると、アリスは満面の笑みでそう言った。
さて、そうと決まれば丁度いい口実だ。
「それなら、俺はこいつらから奴隷商の情報を引き出す。アリスたちはどこかで、今夜の野営の準備をしていてくれ」――と。
そう、指示を出した。
二人が見えなくなるのを確認してから、俺はほくそ笑むのだった。
次回更新は、明日の昼ごろ!
よろしくお願い致します!!
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