表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/7

1.謀略







「キミたちは村の英雄だ。そして、これからは世界の英雄となっていくのだろう」


 アリスの叔父であるニールが、俺たちに向かってそう言った。

 あの事件から一週間が経過。村には平穏が戻り、しかし少女の力が目覚めたことにより、世界には大きなうねりが発生した。勇者が誕生したことは、すでに魔族に伝わっているだろう。それはすなわち、魔族と人間による戦争の始まりだった。


「はい、叔父さん。私たちは、必ずや魔王軍を討ち果たします」

「あぁ、頑張るんだよ。アリス……そして――」


 ニールはにこやかにアリスへ語りかけ、


「――アリスのことを頼むよ。レオくん」


 俺に向かって、そう言った。

 それに対して無言で頷く。まるで、大きな決意をしたかのような表情で。そして、ゆっくりとこう言葉を紡ぐのであった。




「俺がアリスを導きます。それが、役目なのですから」――と。



◆◇◆



 状況を説明すると、俺はアリス――勇者の導き手として、パーティーに潜り込んだのである。表向きは彼女を陰ながらに助け、その実は少女のことを操るのだ。

 今日はその第一歩を踏み出したところ。

 旅立ちだった。


「そういえばあの盗賊団はその後、どうなったのでしょう?」

「あぁ、あの盗賊団か」


 そんな折にアリスは、森の中を歩きながら思い出したように言った。

 それは一週間前の戦いの、後のこと。俺は彼女に、優しく諭すように答える。


「俺があの後、あそこに残っただろう? 今後、村に手出しをしないことを約束させたんだ。意外と話が分かる奴らだったからな、助かった」

「そうなんですね! 平和的に解決できたのなら、良かったです!」


 ――もちろん、嘘っぱちだが。


 ダンの『ギフト』を強奪した後、俺は残りの盗賊の息の根を止めて回った。

 以前の俺ならばとても出来ない芸当だ。だが一人残らず殺しつくしていくのは、ある種の快楽を覚えた。俺の『強奪』を知られないために行ったことだが――これはクセになりそうだ。もっとも、大きな目標に向かうまでの些事にすぎない。


 したがって、俺は殺人鬼に堕ちることはない。

 俺は復讐者であるのだから……。


「ところでアリス――一つだけ、いいか?」

「はい、なんでしょうか?」


 そこでふと、俺はアリスにそう声をかけた。

 すると少女は無垢な眼差しをこちらへと投げながら、小首を傾げる。


「今後あのような騒動が発生した時は、俺がまず一人で交渉をすることにしよう。アリスは勇者であるとはいえ、まだ経験も少なく幼い。相手にも舐められてしまうからな。――難しいかもしれないが、俺のことを信頼してほしい」


 そんな彼女に俺はそう伝えた。

 それは、まず交渉の窓口には俺が入るということ。

 不測の事態なら仕方ないが、正義感の強いアリスに何でもかんでも先に動かれては面倒だ。思ったように行動するためにも、主導権を握っておく必要があった。


 俺の提案に、少女は少しだけ考えてから答える。


「分かりました! 大丈夫です。私はレオさんのこと、信用してますから!」

「そうか。それなら、安心だな」

「はい!」


 元気いっぱいに。

 それを聞いて、俺は優しく笑みを作った。

 無邪気ながらも、それ故に疑うことを知らないこの少女は利用しやすい。心の底ではそう考えるものの、口には当然出さなかった。

 だが面白いように騙される彼女が、可笑しくて仕方ないのも事実。

 そのため、俺は少しだけ肩の力を抜いた。


「それにしても、ずいぶんと信じてもらってるみたいだな。俺のことを」


 本当に何気なく、アリスにそう声をかける。

 すると彼女は途端に赤くなって、


「そ、そそそれは当然です! だって私は、レオさんのことが――」


 そう言ったかと思えば、今度はキュッと縮こまってしまった。

 声は次第に小さくなって最後まで聞き取れない。


「……ん?」


 そのことに違和感を抱いた俺は、なにがどうしたのか、問いかけようとした。

 その時だった。唐突に、森の奥から――。



「だ、誰か! 助けてくださいっ!」



 そんな、女性の声が聞こえてきたのは。

 分かり易く助けを求めたそれに、俺は思考を持っていかれた。

 そしてそれはアリスも同様だったらしい。彼女は俺の顔を見上げて、


「レオさん……!」


 なにかを訴えるように、そう名前を呼んできた。


「ふむ。まぁ、仕方ないか……」


 俺は自分にしか聞こえない声でそう口にする。

 ここで声の主を助けないようなことをすれば、アリスからの信用を失いかねない。それは今後のためを考えると、大きな損失だと考えられた。


 だとすれば、ここは女性の救出に向かうのが最良か……。


「……分かった。行くぞ、アリス」

「はい! 行きましょう!!」


 俺がそう口にすると、ニールから授けられた剣を引き抜いてアリスが答えた。

 どうやら、この判断は正解だったらしいな。



 そう打算的な思考に塗れながら、俺は駆け出す。

 声のした方へと向かって。



 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ