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4.【強奪】





 ――そして、その力は圧巻だった。

 森の中にある盗賊団のアジトへとアリスを導くと、彼女は敵から奪った小さな剣を手に、獅子奮迅の活躍を見せたのである。その細腕のどこにそのような力があるのかと、思わず首を傾げてしまった。だが、それがきっと『選定』の持つ力なのだろう。


「この先に、盗賊団の首領が……」


 そんな彼女を俺は陰ながら支援しつつ、導いていた。

 もっとも、目的地までの最短ルートを『ギフト』の応用によるものだと、そう言い張って教えただけだが。細かいことを気にするような性格ではないアリスは、それで納得していた。

 彼女の中での俺は、知恵者という立ち位置になっているのだろう。

 それはそれで、とても助かった。


「あぁ、いまのアリスなら倒すことができるだろう。しかし、命を奪ってはならない、ということは分かっているな?」

「はい、レオさん。悪人と云えども、人間の殺生は呪いとなる――ですよね?」

「あぁ、そうだ。アリスの力は、魂の濁りによって弱体化する」

「だから、私にできるのは……」


 そう言って、少女は胸に手を当てた。

 もちろんだが、呪いとなるなど嘘っぱちだ。

 そのようなことで勇者としての力が減退するなら、とんだ欠陥だと云える。これはこの後、俺が果たさんとすることの布石に過ぎなかった。


「はい。でも、私には最初から人は殺せないと思います」


 まぁ、そんな設定を付与しなくても、アリスが人間を殺すことはないと思えたが。これは後々のための保険だと、そう云えた。

 とりあえず、今は目の前の敵を倒すこととしよう。


「――行くぞ、アリス」


 そう俺が言うと少女は無言で頷く。

 そして、ひときわ大きな布での仕切りを潜るのだった。



  ◆



 その先に広がっていたのは、木々が除かれた空間だ。

 森の中とは思えない丁寧な一室となったそこにいたのは、筋骨隆々な一人の男。椅子代わりの切り株に腰かけたそいつは、頬杖をつきながら、にたりと汚い笑みを浮かべていた。こいつの名前はダン・レイウン――『剛腕』のギフトを持つ実力者である。


「ほう、娘っ子一人にオレ様の盗賊団が壊滅か。くくく、面白い……」


 そう口にしたダンの傍らには、村から攫われた女性たちの姿。

 手足を拘束され身動きできないのだろう。各々の表情は、一様に恐怖に歪んでいた。しかし、そんな彼女たちに俺の興味は向かない。

 目的は、もっと他にあるからだ。


「みんなを、解放してください!!」


 アリスが声を上げる。

 幼いその響きは、深い森の中に木霊していった。

 ダンはそれを受けて、ゆっくりと立ち上がる。二メイルを優に超える巨体を見せつけるように腕を組んで、威圧するように俺たちを見下ろしてきた。


「あぁ、良いだろう。ただし――」


 そして、ダンはそこで言葉を切って身を屈める。

 次いで彼はニタリと笑い……。


「――オレ様を倒せたらなぁ!!」


 アリスに向かって直進した。

 丸太のような太い腕を振りかぶり、勢いそのままに叩きつける。


「きゃっ……!?」


 少女は短い悲鳴を上げつつも、間一髪でそれを回避。

 横に転がりながら、ダンのことを睨み上げた。対して注目すべきは、ダンによって撃ち抜かれた大地である。そこは深く陥没し、地割れが発生していた。

 これを喰らえばさすがの魔族も、ただでは済まない。


 ――轟音。

 何度も、それは森の中に響き渡った。

 アリス目がけて打ち込まれるそれは木々をなぎ倒し、巨大な岩石をも砕く。


「――――――――」


 しかし、やはり勇者としてのアリスを捉えることは出来ない。

 軽い身のこなしでそれらを避け続けた少女は、まるで身体が勝手に動いているといった風に、瞬間の隙を突いてダンの足を払った。

 息を呑みながら転倒したダンは、したたか身体を地面に打ち付ける。

 苦悶の表情を浮かべるそんな彼に、アリスは――。


「――すみません!」


 そう言いながら、剣を振り下ろす。

 命は奪わない。後頭部に一撃を加えて、その意識を刈り取った。


「……終わった、な」


 俺はその様子を見て、呟いた。

 なるほど。一度見ておきたかったアリスの力も、だいたいが確認できた。少女が女性たちを助けているのを尻目に、俺は内心でほくそ笑む。

 倒れ伏すダンを見下ろして、歓喜に震えていた。



 さて、それなら取り掛かるとするか――。



「――アリス。お前は、先にみんなと逃げろ」

「え……? レオさんはどうするんですか?」

「俺にはまだ、やることがある。大したことじゃないから心配はするな」


 俺の言葉に、少しだけ考え込むアリス。

 だがしかし納得したのか、一つ頷いて駆け出した。

 女性たちもその後を追って、最後には俺とダンだけが取り残される。


「う、ぐぅ……!」


 その時だ。

 ダンが、うめき声を発しながら目を覚ましたのは。


「よう、目が覚めたか? ――首領殿」

「……あぁ?」


 まだ、意識がハッキリとしないのであろう彼に声をかけてみた。

 するとその目は、俺の方へと向く。


「てめぇは、あのガキと一緒にいた……?」

「あぁ、そうだ。さて――それなら、始めるとするか」

「始める、だ? なにを言ってやがるんだ、てめぇ――」


 短い会話。

 だが、それはすぐに途切れた。

 俺はダンに向けて手をかざし、ニタリと笑う。そして、こう口にした。



「いただくぞ、お前の才能を」――と。



 その瞬間に。

 微かな光と共に、俺の中に力が流れ込んでくる。

 同時にダンは己の身に起きている異変に気が付いたのだろう。目を見開いて、こちらへと向かって悲鳴に近い叫び声を上げるのだった。


「や、やめ――!」


 だが、それも最後まで続かない。

 俺は男から伸ばされた腕を掴んで、拘束した。そして――。


「ぐ、あ――!?」

「ほう。『剛腕』ってのは、こんなにも力が出るのか」


 その首を、ゆっくりと締め上げる。

 身体に新しい『ギフト』が馴染んでいくのを感じながら、ゆっくりと……。




「それじゃあ、サヨナラだ。――不憫な荒くれ者」




 それでも、最後はとてもあっさりと。

 断末魔すらなく。



「く、くくく……!」



 森の中には、俺の笑い声だけが残っていた。


 


次回更新は明日の昼ごろに!

よろしくお願い致します!!


<(_ _)>

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