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アキオ

作者: 赤崎みひろ

 秋に生まれたから、秋男。夏のように暑くなく、冬のように寒くなく、ちょうどいい季節である、秋のような男に育て、という意味の秋男という名前。

 しかし、残念ながら僕は、秋空のように気持ちが変わる、“飽きやすい男”に育ってしまいました。


 小学校五年生で、僕は学校に飽きて不登校になった。別にイジメられてたわけじゃない。ただ、飽きたから。学校に行かない代わりに、僕は動物園に通った。近くにあったし、小学生は無料だったから。


 六年生も、一ヵ月しか行ってない。そのころには動物園に飽きて、今度は水族館に通った。子供一人五百円だったから、毎日ではなかったけど。


 中学校は、半年だけ行った。制服とかあって最初はおもしろかったけど、すぐ飽きて行かなくなった。部活は剣道に入ったけど、そっちはなんか、ほかのスポーツと違っておもしろかった。だから休日と平日合わせて週二、三回は部活だけしに学校に行った。これは三年の、夏の大会まで続けた。

 中学休んでる間は、オセロとか囲碁、チェス、将棋、トランプにはまった。近所にテーブルゲームできるところがあったから通ってた。割といろんなゲームできたから、三年間飽きずに通った。


 高校は、通信制にした。決まった時間に決まったことするのにはもう飽きて。もっというと、自分が住んでいる町にも飽きたし。

 だから、高校生の間は、県内のばあちゃんちやいとこの家をふらふらしてた。


 高校卒業してからは、この県に魅力を感じなくなったから、大学行かずに日本一周することにした。誰も、何も言わなかった。バイクに乗って、日本のいろんなとこに行った。フェリーにも何度も乗った。金がなくなったら、ゲストハウスにでも泊って近所でバイト。たまったら出発。それを繰り返した。


 ハタチ過ぎて数年。日本に、飽きた。日本に飽きたら、海外。外国といえばなんとなくアメリカだったので、アメリカに行った。英語はまあまあだが、まあ、なれればいいだろうと。


 アメリカにも飽きた。別の国に飛ぼうか考えていたら、偶然、ロケットの看板が目に入った。宇宙に行くのもいいかもしれない。僕は宇宙飛行士を目指し始めた。


 十年経って、やっと宇宙に行けるようになった。キツイ訓練や試験を乗り越えて、やっと。こんなに喜びを感じたのは、小学校入学以来じゃないだろうか。久々に両親の笑顔を見て、声を聞いた。


 しかし、やはり飽きるときがくる。宇宙や月と地球を行き来し、はや十年。宇宙に飽きた。こんなに広いのに、行ける場所が限られているのだ。オープンワールドのゲームの体験版みたいなものだった。


 地球は、ほとんどの場所に行くことができる。僕も、もう四十。残りの人生半分は、たくさんの国々、たくさんの海、たくさんの山へ行こうと思う。同じ場所にとどまるのは、長くても一ヵ月以内と決めて。

 世界の隅々まで、僕は歩いた。


 もう足が動かない。耳も、目も鼻も口も、鈍くなってきた。僕の体は、もう限界。まあ、いい。そろそろ、この世にも飽きてきた。あの世には、歴史の教科書に載っていたたくさんの人がいるのだろうか。両親、いとこ、祖父母、ずーっと前のご先祖様、絶滅した動物たちにも、会えるのだろうか。

 死後の世界に飽きたら、どうしよう?

 人間以外の生き物に生まれ変わって、その視点でまたたくさんの体験をしよう。


 だんだん感覚がなくなってきた。――この体にも、この世界にも、僕は飽きた。

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