自称勇者で他称魔王 ー呼ばれてないけど来てやったぞー 後編
前編ありますのでそちらから読んで下さい。。
帝国の王城 帝王の間
「なに?皇国に、神剣を引き抜くものが現れただと!!?」
「はっ、そのようです。計画を前倒しで進めますか?」
「そうだな、その勇者が神剣を使いこなすまでに氾濫を発生させたい。それに邪神の封印もそろそろ解けそうなんだろう?」
「はい、そのとおりです。」
「ならば速やかに遂行せよ。皇国を滅ぼし、我が帝国が世界を統一する!」
「はっ」
ここは死の森、最奥部、そこには朽ち果てた遺跡があり、その奥には祭壇がある。ここに帝国が誇る魔術師団と、凄腕の実力者が多数揃っていた。
「では、これより封印を解く。」
「でも大丈夫なんですか隊長?邪神が我々を襲ってきたらどうします?」
「大丈夫だ、そのために我ら魔術師団が居る。封印が解け次第、奴隷魔術で邪神とやらを従属させてみようぞ!」
「では開始します。」
そして、封印が解かれた。祭壇に魔力が集まってくる
「なんとすさまじい魔力だ!皆気合を入れて奴隷魔術を行使するぞ!」
「「「はっ!」」」
「×○△◇~~~放て!!」
「「「スレイブ!!」」」
ドンっ!!
…………
「やったか?」
「「「…」」」
「何もない?おい、お前達…!」
そこには隊長と呼ばれた男以外が既に骸と化していた。
「な!…あ、あぁ…」
「お前か?我らの封印を解いたのは?」
「…」
そこには少女と首のない騎士が立っていた。しかし、その身から溢れる瘴気は隊長の戦意を折るのには十分すぎるほど、不吉な予感を抱かせた。
無理だ!こんなもの我らが操れるわけがない!
「あっ」
それが隊長の発した最後の言葉である。
「褒めて遣わす、褒美に我らの糧となるがよい。」
「…」
「アダムの気配は…あっちね。少し大仰な話し方をしたけど疲れるわね。」
「…」
「うむ、もう行こうか。私達を封印した報い、彼の者の縁者すべて葬ることで贖ってもらおっか♡」
「…」
邪神たちがフラワ王国に向かって飛翔する。そして、彼らの残した濃密な瘴気は、森の魔物を活性化させ、新たに魔物を生み、最悪なことに全ての魔物が、フラワ王国の王都に向けて進軍した。その数なんと50000を超える。絶望にまみれた戦いが、始まる予感がした。
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「ロン!タンヤオ、一盃口、どら4、これで大師のトビだな。」
「ぐぬぬぬ…」
「爺さんのぐぬぬは可愛くないぜ?」
「もう一回じゃ!」
「駄目に決まっているでしょう大師?仕事はどうしたのですか?」
マオ様が現れて1か月、マオ様がやらかした案件の事後処理で私は3徹しています。もうそろそろ手を出しても良いのではないでしょうか?
「お、落ち着けリリィ!!!」
「そうですじゃ!これは男と男の真剣勝負ですぞ!」
「ふふふっ、私はこれでも、当代1の美姫と呼ばれたこともあるのですよ?その私が、肌の荒れも碌に手入れも出来ず、寝る暇もなく、隈を作ってまで働いているのに…一度潰れて見ますか?」
「おい止めろ!」
「リリィ様お待ちください!!」
「ふんっ!」
「ぐえっ」
「ぎゃっ」
神力を使って1か月、その間、この力の使い方を試行錯誤しました。すると、今回の勇者召喚で、召喚した対象を召喚者の神力をもって従えることが出来るということが分かりました。
マオ様は非常に純粋な方ではありますが、純粋故か、好奇心が強く、その規格外の力をもって、明後日の方向に被害をまき散らします。その事後処理に奔走する羽目になり、一度本気で殺意を抱いたのを切っ掛けにこの力を自覚しました。
「フォロウィン」
そう呼ばれる古の魔法です。
「マオ様、大丈夫ですか?」
チェリーがマオ様に駆け寄ります。彼女はマオ様が来た次の日、マオ様に挑みました。
「貴方がお姉さまを辱めたという極悪人ですね!このチェリーがあなたを討ちます!!」
「ふんっ!」
「キャアアアアアァァッ!?」
彼女が泣きながら語るには、縛られた後、舐められたり吸われたり弄られたりしたらしいのです。詳しくは聞けませんでした。
そして、マオ様がさすがに悪いと思ったのか、彼女に優しく接したら、いつの間にかチェリーは彼に懐いてしまいました。
やはりこの方を一度消した方が良いのではないでしょうか?
「落ち着いてください姫様!!」
「ソフィア?」
「姫様は大変疲れておられるのです!!さぁ、早くベッドに行きましょう?」
ソフィアに誘われて、自室のベッドに寝かされます。そして直ぐに私の意識は沈んでいきました…
起きたときには翌日の昼近くになっていました。かなり疲れが溜まっていたようですね…これだけ眠ったのは久しぶりです。
すると、とてもあわただしい足音が部屋に近づいてきます。
「姫様!至急お伝えするべき報告があります!!」
!これほど切羽詰まった報告は今までありませんでした。私はすぐに会議を開くよう指示し、身だしなみを最低限整え、会場に向かいます。
「……以上が報告です。」
「そんな…邪神が復活…それに50000の魔物…」
「奴らは絶望を与えるようにか、わざとゆっくり移動しているようです。まるで我々の心を折るように…」
「国民を避難させなさい。父上と兄上は?」
「戦の準備をしています。現場の士気向上に努め、軍を編成しています。」
「なりません。父と兄を今すぐ離脱させなさい。私が現場に出ます。」
「「「姫様?!」」」
「我がフラワ王国を継げるのは男子のみ、父上と兄上がもしいなくなれば、その時点で国は消滅してしまいます。それに、士気向上は私でもできます。これでも美姫と呼ばれているのです。父上と兄上と同等には士気も向上するでしょう。大師、私と共に死んでください。」
「姫様…お供させて頂きます。」
「それとチェリーは避難させなさい。彼女も皇王家の血を引くもの、国の維持には必要な人材です。」
「「「…」」」
「ソフィア」
「はっ」
「今日まで私に付いて来てくれてありがとう。これからはチェリーを支えてください。」
「姫様!私も共に…」
「それ以上は言ってはいけません…」
私は彼女の口に指を付け、先の言葉を言わせません。
「私と一緒にいたからこそ、貴方は私のやり方を知っています。ですので、これからチェリーを正しく導くけるのは、最も信頼できる貴方にしか頼めません。」
「ぐスっ…姫様…う…うぅ…」
「皆の者、あとは任せましたよ。」
「「「「「「はっ」」」」」」
「俺を忘れてないか?」
「マオ様…」
「俺も一緒に行くぞ。」
「いえ、貴方はこの国の民ではありません。貴方も国民達と共に避難するのです。」
「いや、俺勇者だろ?」
「ええ、ですので国民を守って頂きたいのです。報告にあった数の魔物…どうしても全てを止めることは出来ず、何体もの魔物が国民達を襲うでしょう。貴方にはそれを防いでほしいのです。」
「俺が最前線に出て、全て屠ればいい!」
「命令です『フォロウィン』」
「な!!?」
「貴方を巻き込んでしまってごめんなさい。この一か月、迷惑もかけられたけども、とても楽しい毎日でした。」
さあ、皇女としての責務を果たしましょう。
私の目の前には、予想よりもはるかに多い兵士や、ハンター達が居ました。
「本当にバカな人達…」
「皆、姫様と共に行くことを決めた者達ですじゃ、さあ、声を掛けてあげてくだされ。」
「皆聞いてください!これより我々が相手するのは古に存在した邪神とその眷属たち!尋常な相手ではありません!むしろここに居るもので生き残る者はほぼいないでしょう!!」
「……」
皆静かに聞いてくれています。
「しかし、我々の後ろには、未来を託した者たちが居ます。彼らが同盟の力を借り、必ずや反撃の狼煙をあげます。我々の役目は彼らに時間を与えること、そして、少しでも敵の戦力を削ぐことです。」
そして、私は集まってくれたもの全員に残酷なことを言います。
「ですので、逃げることは許しません!!逃げるくらいならば、1匹でも多くの魔物を道連れにしなさい!!邪神に一太刀でも浴びせなさい!!それが、必ずや未来に繋がる道になります。」
「「「「「……」」」」」」
「私もここで死ぬでしょう、しかし、未来を託した者たちが必ずや我々の死を礎に、皇国をより発展させてくれます。ですから、あなた達の命、私に下さい!!共に死んでください!!!」
「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォッッ!!!!」」」」」
ふふっ、本当にバカな国民、私は彼らを喪う悲しさと、私に付いて来てくれる嬉しさに涙を流しました。
「姫様、お見事です。必ずや最後は皇国が勝利を掴みますぞ!」
「ええ、行きましょう。」
そして、とうとう邪神たちが姿を現しました。
「っ!!?」
その身から凄まじく禍々しい瘴気が溢れています。残っていてくれた者達も、その瘴気に当てられ、動揺しています。
「ホーリープロテクト!!」
私は神力を解放し、自陣に勇敢の加護を付けます。これで心は負けないはずです。皆も正気に戻り、戦意を漲らせています。
「おや、可愛い娘ね?アダムはどうしたの?」
邪神が話しかけてきます。
「始祖様は、記録も曖昧になるほど昔の人物です。その最後は記されていません。」
「へぇ~あなたはアダムの子孫なんだ?なら仕方ないか、貴女を絶望させてからその魂を食べてあげる。」
「行きます!!」
「「「「「「「ウオオオオオオオオオォォォォォォオオオオオォォォオォオオォオォォッ!!」」」」」」」
戦いの火ぶたが切って落とされた。
そこかしこで怒号や剣戟の音が鳴っている。神力を使える私と、魔術師の大師は邪神の相手だ。
「はっ、ホーリー!!」
「もう、危ないわね。」
「ならば滅せよ!ファイアトマホーク!!」
相手は邪神、渾身の一撃でも即倒れる訳では無いですが、確かなダメージを追っています。攻撃が通じる!彼女の纏っている瘴気が目に見えて小さくなります。
「もうっ、鬱陶しい!!」
そしてそこから5分後、ようやく私の神力と大師の魔法が邪神を貫きます。
「ゴホッ!」
「これで終わりです。」
「くっ…、こんな…」
「はっ…はっ…最後に…言い残すことはありますか?」
「くっ…ううっ…」
全身に傷を負い、立っているのもやっとですが、最後の力を振り絞って神力を右手に集めます。
「くっ…うっ…くっ…」
「無ければこれで最後です。」
そして私は神力を解放しようとして、
ドゴッ!!
出来ませんでした…
「くっくっくっ…ふふふっ…あははははははあはははははははあははははっ、ナニコレ全然効かない!」
「ぐっ、馬鹿な…あれだけ傷ついていたのに…」
邪神の傷が一瞬で無かったように消えます。
「あははははっ、あなた達の攻撃なんて撫でられているようなものだったよ?ホントは全然効いてませんでした!!デュラ?そっちの調子はどう?」
いつの間にか剣戟は止んでます。
「なっ?!」
皆倒れており立っているものは一人もいません。
「キチンと皆生きてるよね?」
「…」コクンッ
「よし!上出来!!これであなたの死に様を見せられるね!!♡」
「くっ…」
「あはは、皆が命を懸けてたのに軽くあしらわれて、さらに姫様を目の前でなぶり殺しにしたらどれだけ絶望にまみれるかな?かな?」
「…この、悪魔っ」
「あはは、そんな奴らと一緒にしないで、私は神なのよ!!」
結局私たちの力は一切通じず、遊ばれていただけなんて…
「うっ…ううっ…」
「あ~あ、泣いちゃった。ごめんね?絶望に心折れた顔って大好きなのっ♡」
皆、ごめんなさい。私、役目を果たせなかった。父さん、兄さん、ごめんね。チェリー、大変なことを押し付けるけど、あとはお願い。ソフィア、チェリーを守ってあげて…
「じゃぁ、さ・よ・お・な・ら♡」
貴方と会えて楽しかったです。
「マ…オ…様…」
「応」
「ぎゃっ?!」
「…!!」
「え?」
マオ様?
「ワイドエリアヒール」
あたりに光が降り注ぎます。痛みが、引いていく?
「どうしてっ、逃げてって言ったではないですか!!」
焦りと、嬉しさで涙が溢れてきます。
「…ああ、そうだな。」
「何で来てしまったのですか…皆はどうしたのです!?」
「ああ、あいつらは強い、だからここは任せて行けと言われた。いや、託された!」
「それでも何で来てしまったのです…」
もう涙で前が見えません…
「俺は我儘なんだ。やりたいことをやりたいから手段を選ばずに来た。リリィ、君を操ってまでもね、だから君に魔法を使われた時は焦ったよ。いい線いってたぞ。でもこの通り俺にはもう通じない。だから…
呼ばれてないけど来てやったぞ?」
「マオ様ぁ…」
「急に来てこん棒振り回して、何あなた?」
「…」
「これは神剣だ。そして俺はリリィに呼ばせた勇者だ。」
(そして、私はアダムと共にあった、そして今はマオと共にあるアプリコットなのだ!!)
「…どうやら本当に神剣みたいだね。イメチェンでもした?」
(…これにはいろいろと訳があるの…)
「ふん、これは俺だけが扱える、撲殺剣アプリコットだ!!」
(ちがうよ?!そんな物騒な名前じゃないもん、もっと神聖さあふれる可愛い名前なんだよ私は!!)
「夫婦漫才は聞きたくない、あなた不愉快…本気で殺す。」
(「夫婦違う!!」)
「俺も、リリィやダチを痛めつけられてキレてんだ。容赦しねえ。」
「ふん、やっtブッ!!?」
なんとマオ様は邪神の顔面にアプリコットを投げつけました。
(いい加減、剣の扱いしてよぉぉぉ!!!!)
アプリコットの心からの叫びが響きます。
「……」
そして、ゴッドデュラハンがマオ様に迫ります。
「ふんっ!!」
ドゴッ!!
デュラハンの脚にローキックを決めました。あまりの威力に地面が陥没し、数十mに渡ってひび割れていきます。
ゴッ
デュラハンは膝をつき、動けません。あんな技見たことありません。
「む、蹴り一発でとは軟弱な、だが隙あり!!」
ただの蹴りなのですか?!
「ハァァァァッ!!!ライトブラスタアアァァァ!!!!」
マオ様の両手に桁違いの聖の魔力が集まり、極大の光線が放たれます。
「ああああぁぁぁ嘘よこんなのおおおぉぉぉぉっぉぉ」
「???!?!?!?!……………」
その光線は邪神たちを飲み込み、残ったモンスターを薙ぎ払い、さらに先まで飛んでいきます。
「あ、帝国にも悩まされてるんだったな、ついでに帝国も攻撃しておこう。」
そして、マオ様はその光線を帝国の方向に向けるよう、操作します。
「マオ様、それでは帝国の無関係な民たちが!」
「ああ、その辺は悪逆な貴族しか狙わないように設定してあるから大丈夫。」
「無茶苦茶過ぎますよ貴方!!?」
そして辺りには静寂が戻った。死者はいないようで、皆マオ様の魔法で立ち上がれるぐらいまで回復しました。
「さて」
「きゃっ///」
私は神力の使い過ぎで立てないので、マオ様にお姫様抱っこされます。
「~~~っもうマオ様、あまり無茶はしないでください!」
「俺は勇者だぞ?リリィを助けることが無茶なわけないだろう?」
「/////////…馬鹿ッ…っ」
せっかく止まったのに、嬉し涙がまた溢れてきます。
「…皆の所に戻ろうか。」
「はい…」
そして、別れた皆の所に無事付きます。また生きて会えるなんて…
「リリィお姉さま!よかったぁ…ああぁぁぁ!」
「姫様…マオ…本当にありがとう…」
「ああ、これで一件落着だな。」
こうして、危機を乗り越えたフラワ皇国に真の勇者が誕生した。彼は皇国の姫をはじめ、何人もの美姫を娶り、多くの子供や孫に囲まれ幸せに暮らした。
「変なナレーションは止めてください!それに気が早すぎます!!まだ城に帰ってすらありませんよ!!?」
「お姉さまその言い方じゃあ…」
「城に帰ったらOKに聞こえますよ…」
「違います!そういう意味じゃないですよ!!」
「お姫様抱っこされたまま、顔を赤くして言っても説得力がないぞ?」
「もうっ!マオ様のばかぁ―――!!」
「「「「「あははははははははっ」」」」」
(マオのばかぁ――――!!!私を忘れて行くな――――!!!!)
自称勇者で他称魔王 ー呼ばれてないけど来てやったぞー 完
マオはその後、またやりたい放題やり、リリィに怒られ、チェリーに懐かれ、ソフィアがツンデレる。そして、やらかしまくったせいで、他国から魔王と恐れられ、皇華連合は魔王国と呼ばれるようになる。
あと、こちらも連載しています。
シリアス×コミカル 悪役令嬢えんざいかのじょのヒーローは、とある世界の廃課金者せんしです。
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