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眠れる王  作者: 慧瑠
見えてくる意思

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演奏会

「よし!こんな感じでどうでしょう?」


安賀多の髪のセットを終えた東郷は、椅子に座り終わるのを待っていた安賀多へ手鏡を渡した。


「良い感じだね。ありがとう先生」


「いえいえ。これぐらいしかお手伝いができないので」


「そうは言っても、昨日は前夜祭で先生も聖歌隊と一緒に歌っていたじゃないか」


「あはは、ここ数日コニュアちゃんのご指導の元で練習していたんです!

初代の聖女さんが考案した'祈りの聖歌'というスキルを発動する歌らしいですよ。15歳から18歳の時にリュシオン国では二週間程教会に泊まり込み覚えるスキルらしいです。

覚える用に使う聖書がなければスキルとしては覚えられないらしいですが、歌自体は子守唄などで覚えている子も多くて、簡単に言えば国歌みたいになっているんだとか」


「先生はそのスキルを覚えたのかい?」


「いいえ。スキルはリュシオン国の国民でなければ覚えさせては貰えないらしくて、頼めば私なら問題は無いらしいのですが……私は帰りたい子達と一緒に帰るつもりなので」


「覚えなかったと」


「コニュアちゃんも、聖女のスキルを持っている私には不要なモノでもある。と納得してくれましたから」


「なるほどねぇ。にしてもリュシオンでの聖女ってのはスゴいもんだね。前夜祭でド本命が出ちゃって、アタシ達も変にプレッシャー掛かってるよ」


「私はとても楽しみですよ!」


「そりゃ頑張らないとね」


既に衣装へと着替えも終え、後は本番までの時間を待つのみ。


安賀多の言う通り、昨日行われた前夜祭では東郷がリュシオン国聖歌隊と共にステージに上がり、大盛り上がりを見せていた。

その熱気は冷める事無く、今から行われる安賀多達のステージへの期待へと変わっている。


初の大舞台という事もあり、中野は緊張でソワソワと忙しなく、九嶋ですらも緊張の様子を見せている事が分かる。


「ゆかちゃん、緊張しないの?」


「ん?あんた達を見てると、緊張もしてられないのさ」


などと九嶋の問いには余裕を見せ返答するも、準備を始めた辺りからの水分補給量は、既にリットル付近に差し掛かっており、腹はちゃぷんと音を立て、本番途中でトイレに行きたくはならないか……と本人は不安を抱えていた。


全員の髪のセットを終えた東郷も、三人の緊張が伝わってかソワソワとワクワクが表情に浮かんでいる。


「戻りました」


そんな緊張が満たす部屋の扉を、鴻ノ森が開けて入ってきた。


「一応、田中君と佐々木君も打ち合わせ通りに準備を終え、私の方も後二十分程で大丈夫だと思います。奇冴さんとジーズィさんは、ジーズィさんが昨晩言っていた気になる事の確認から、まだ戻っていませんね」


「そうかい。鴻ノ森にも手伝ってもらって悪いね」


「いえ。どちらにしろ私は聞くだけなので」


昨日急遽決めた演出の準備を終えた鴻ノ森に、安賀多はもう一度礼を言うと目を閉じ集中を始めた。それに習い、中野や九嶋も深呼吸と共に集中を始める。



その頃、外では安賀多達が立つステージ前に集まり始めた人、人、人。見渡す限り人が入り乱れ、周囲に開かれた露店も繁盛を見せている。


ステージの前には立ったまま飲み食いできる用に、水の入ったボールの中に浮かぶ甘い香りを放つ黒い蓮の花が置かれた背の高いテーブルが幾つも用意され、そのテーブルも利用する者達で埋め尽くされていた。


「いいか!楽しむのは構わん!しかし、職務を放棄してはならん!」


「「「「ハッ!!」」」


「よし!!!では交代の時間だ!」


見回りの交代の時間を迎えた聖騎士とギルド員達も、休憩の時間で存分に祭りを楽しんでいる様子だ。


時間も忘れる程の賑わいが続き、その日の仕事を終えた者達も集まり始め、人の多さがピークを迎え始めた時。露店や装飾に使われていた光を放つ道具が、ゆっくりとその光を小さく小さくしていく。

すぐにその変化に集まった者達が気付き、驚きとざわつきを見せるが、完全に消えた事でテーブルに用意されていた黒い蓮が淡く光っている事に意識が惹かれた。


瞬間、ステージに三本の光が差す。

同時に集まった者達は静まり、これから始まる事を理解した。


――そして。


「Hey! Where's the drum?」


安賀多達のライブが始まった。


それは、この世界には存在しない曲。今、存在した曲。

歌詞を理解できる者は居ないだろう。

だが響く音楽に垣根は存在しない。


始まりからテンポの良い音が聞くものの心に手を伸ばし、そのテンポに合わせて聞こえる歌詞を完全に理解できずとも、知っている単語の含まれている。


それだけでいい。それだけで聞いてる者は楽しめる。

だが楽しむのならば、もっと楽しみたい。


ステージの上に居る安賀多達だけを照らしていた光。その後ろから明るく白い炎と、青白く輝く雷光がステージを駆け巡り、見ていた者達の間を抜けて照らしていく。


乱雑に不規則に曲がり枝分かれする雷光も、直線的に炎上して間を縫う炎も見ている者達に危害を加える事はない。むしろ、ステージの光源以外として見ている者達を照らしている。


驚きと困惑以上に、次の展開が楽しみになってきた者達が期待していると、その雷光と炎の道を滑る様に小さな動物達が踊りながら楽器を弾き、ある動物達はペアで踊りながら観客側へ。


その可愛さに顔が緩む者をいれば、子供達と一緒に目を輝かせる者もいる。そんな中で、ある一匹のタキシードを着た動物が雷光の道から外れて一人の少女の前に立った。


「え?えっと……」


それは親と一緒に見に来ていたセナだ。

安賀多達が演奏する曲のリズムに合わせて縦乗りしながら揺れていると、目の前に目の前にタキシードに身を包んだ小さな兎が立ち手を差し出している。


困惑し、両親の方をチラチラと見ながらも兎の手を取ると……。


「わぁ!」


セナの服はおとぎ話の魔法の様な、星屑に包まれて可愛らしいドレスへと変わっていく。そしてそのまま兎はセナの手を握り、リズムの乗って踊り始めた。


難しい踊りではない。前に後ろに。右に左に。ただリズムにちょっとステップを踏むだけ。


それを見ていた他の子供達が、セナの変わりようと楽しそうな笑みに目を輝かせていると、他の動物達が子供達の前に移動して手を差し出していく。

見ていたから知っている。この手を握れば――綺麗な衣装に包まれて、晴れて自分たちも主役の一人へと変わるのだ。


見に来ていた子供達が動物達と楽しそうに踊る姿に、見ていた者達は笑みを浮かべてそれを見ている。ちょっと感化されて子供達と一緒にリズムに乗っていた大人や酔っぱらいが、近場同士で手を取り合えば、そんな彼らの服までもが高級そうなモノに変わりスポットライトが当たった様な感覚になる。


本来であれば存在しないループを混ぜて、間奏を長引かせ。観客側も見て楽しむ者。踊り楽しむ者に分かれつつも良い盛り上がりを見計らい、空からキラキラとした紙吹雪が舞い始め、気がつけば観客側もステージの一つになっていた。


それから少しして、一曲目が終わりを告げる。曲が終わったことで、リズムが止み、踊っていた者達も笑みのまま余韻を楽しんでいると、安賀多が皆に向けて話し始めた。


「はじめまして。ボーカルとギターをしていた安賀多です。

そしてベースの九嶋 沙耶香。ドラムの中野 理沙。


今日は、こんな場を用意してくれてありがとうございます。せっかくの場なので、聞いている方も楽しめればと思っての選曲でした。

次もリズムに乗れると言うか、踊りやすいんで良かったら真似してみてください」


挨拶を終えた安賀多が手を上げると、子供達と踊っていた動物達が安賀多の前に集まる。

そして、動物達が手招きをすれば、大人から許可を貰った子供達も数名動物達の手を取った。


すると、先程まで来ていたパーティードレスやタキシードとは違い、少し動きやすそうなオシャレな服へと変わり驚いている。


「さぁ、まずは拍手から始めようか。Everybody clap your hands」


また服が変わったことで先程の興奮が湧き返って来た子供達の様子を確認した安賀多は、動物と子供に語りかける様に曲を始めた。


最初は曲も少しペースを落とし、初めてでも付いてこれるテンポを刻む。

手を叩き、テンポを刻み、まずは左に。


安賀多が曲に合わせて指示を出すと、動物達がそれに合わせ、子供達がそれに習いリズムに乗る。


次第に一つ一つと音が増え始め、聞いている者達もリズムに乗り始めた。またもテンションが上がって来た者達もダンスに混ざり始めると、見ていた者達の中からも一人また一人。


先程は各々がリズムに乗って好きに踊っていたが、次は同じテンポで同じ様に踊り、一体感が生まれ始めていた。


数分もすればその曲も終わり、少し張り切り過ぎて息が上がっている者も居る。そんな中で、安賀多はステージから降りて踊っていた子供の一人に声を掛けた。


「突然だけど少年、名前は?」


「ジョアン!」


「ありがとう。それじゃあジョアン、どんな服が好きかね」


「え?えっと……最初の服みたいなカッコイイ服かな?」


「タキシードか。いいチョイスだ」


答えたジョアンの頭を安賀多がポンポンと軽く撫でてあげれば、ジョアンの服は光に包まれタキシードへと変わっていく。


「さぁ、次はゆっくりな曲さ。リズムに乗って踊るも良し、聞きながら祭りを楽しむも良し。思い思いの服で、思い思いに楽しんでおくれ」


安賀多はそう言うとステージに戻り、自分の服もジョアンの様に変えて演奏を始めた。更には動物達もバラバラで思い思いの服に着替え、子供達が想像すれば自分の服も子供達が願ったようなモノへと変わっていく。


-


その様子を、リュシオン城の一室から見ていた鴻ノ森は、少し気怠そうに体を動かして紅茶を口にした。


「範囲が広くなれば、やっぱり結構魔力というのを使うんですね……」


鴻ノ森と同じ様に遠くから見ていれば、大した変化を見る事はできないだろう。服が変わる事も、紙吹雪が舞うことも。視界すら、雷光や炎ではなく、周りの明かりが照らすだろう。


現に鴻ノ森にはそう見えている。

正確には、そちらを見ている。


「失礼する」


ぼーっと安賀多達のステージを離れた所から見ていた鴻ノ森の耳に、扉が開く音と入ってきた男の声が聞こえた。


「出店で適当に見繕わせて貰ったが……良かったか?」


「わざわざありがとうございます」


「気にすることではない。私は君に聞きたい事がある。

あの場に行き、ここに戻りハッキリと分かったが、あれは幻惑魔法だな。それが君のスキルか」


「気付いたんですか」


「気付いた訳ではない。どの時にそれが掛けられていたのか、それほどの範囲がそうなのか分からぬままだ。

現に私は、あの場に着いた時には既に術中に捕らわれていた。森の怪物の時と同じ様に」


部屋に入ってきたガレオは、鴻ノ森の前にあるテーブルに買ってきた物を並べながら自分の予想を口にする。それを耳に、並べられた物から一つを手に取り鴻ノ森は聞く。


「幻惑魔法に対して私は魔道具で対処している。こういう言い方をしてしまっては誤解を生むかもしれんが、安物や粗悪品ではない。相応の効果を持つ道具だ」


「'終始望む幻想(パラノイア)'と言います」


「何?」


まだ話し続けようとしたガレオの言葉に割り込んだ鴻ノ森は、視線と手振りだけで対面に座るように合図をだした。

それに従いガレオは鴻ノ森の対面に座り、ふと視線を上げると。


「ッ!?」


「そういう道具で止められた事は、まだありません」


鴻ノ森が座っていたはずの場所には森の怪物が座っている様に見え、反射的にガレオは剣を抜こうとする。それに対し、鴻ノ森が焦った様子も無く言葉を続けると、その姿は瞬きの間に鴻ノ森のものへと変わった。


「バカな…」


「あの場にある黒い蓮は、私のスキルの一つです。以前ガレオさんにしたような眠りを誘発する事はありませんが、見ている者の意識には介入しています。

幻惑魔法と言われれば、類的にそれで間違ってはいないと思いますよ」


無警戒ではなかった。

それでも、僅か一瞬で幻惑に掛かり驚愕しているガレオに説明をした鴻ノ森は、そのまま視線を外へと向ける。


「この距離で一人だけならすぐなのですが、ああも離れて大勢となると、それなりの手順を踏んでいます。なので、そこまで警戒をしなくても平気ですよ。

別に、リュシオン国を夢に落とそうとは考えていないので」


「勘付かれていたか」


「私達の王様が用心深い人なので。おそらくは監視が付くだろうとも予想していました」


「だからと言って気付かれるようでは、私もまだまだだな」


「さぁ、どうでしょう。…………?」


そう答えながら次の品に手を伸ばそうとした鴻ノ森は、その手を止めて視線を外へと向ける。


かなり遠くにコチラへと向かってきている影がある。それを確認したと同時に、窓から一枚の羽根がテーブルへと落ち、一枚の紙へと形を変えた。


紙に書いてある内容に目を通した鴻ノ森は、もう一度影の方へ視線を向ければ、追従する様にもう一つ。離れた影の更に後ろに、別の影が見えた。


「ガレオさん。敵が来ます」


「どういう事だ」


「詳しい事は分かりません。でも、森の怪物が居る進入禁止区域とは反対側、北の方にある村が壊滅していたそうです。

そこから、魔族と魔物の混合軍がコチラへ向かってきていると連絡が来ました」


「なんだと!?今は外からの者たちも多いというのに…パニックになっては被害が拡大するぞ」


読み終えた紙をガレオへ渡した鴻ノ森は、向かってきている影の方へと意識を向けた。


「早急に縁さん達にも知らせるべきですね」


-


一通り演奏を終え、今は動物達のみがゆったりとした曲を演奏し始めている。安賀多達は演奏を終えて挨拶を済ますと、観客達に囲まれるという事態に陥り、警備していた聖騎士とギルド員の指示の元で握手会の様な状態になっていた。


一人一人握手を済ませて軽く会話を交わしていると、突然周囲が暗くなり、消えていた様に錯覚していた露店などの明かりが戻ってくる。


事前に打ち合わせしていた予定では、安賀多達が鴻ノ森の元へ戻るまではスキルを解く事はないはずなのだが、戻ってきた現実に安賀多達が不思議に思っていると、視界に影が指した。


安賀多達だけではなく、他の者達も釣られて見上げれば、一体のキラキラと光るドラゴンが現れ吠えた。


「ド、ドラゴン!?」


誰かが叫び、周りの者達が声を上げようとした瞬間、それよりも速く雷光と白い炎がドラゴンへ向けて伸びていく。

雷光は雷鳴を轟かせ、白い炎はドラゴンへと近付くに連れて赤へと色を変えて。


迫る二つの攻撃に対してドラゴンは微動だにせず、その身に受けると天に向けて咆哮を上げて花火の様に散る。


「お、おぉぉお!すげぇ!!」


一撃で葬られたドラゴンに子供達が歓喜の声を上げ、唖然としていた者達も、演出の一種である可能性が浮かんだ。


だが、安賀多達は不審に思う。

この様な打ち合わせはしていない。田中と佐々木が攻撃をしたのも、普通に敵襲だと思い対応したまで。


状況の理解に追いつかない五人だったが、ヒラヒラと自分達の手元に落ちてきた羽根が紙に変わり、その内容に目を通した事で理解した。


「ゆかちゃんこれ」


「分かってる。鴻ノ森の意図も分かった。準備はいいね?」


「うん」


「理沙!」


安賀多に名前を呼ばれ、同じく理解をした中野はコクコクと頷き返しつつドラムの方へと走る。そして安賀多と九嶋も頷き合うと、並んでいた人達に'また後で'と言葉を掛けてステージの上へと立つ。


そして、安賀多と九嶋が準備できた事を確認した中野は、ドラムの前に用意していた大きな銅鑼を鳴らした。花火を見上げていた者達は、突然聞こえてきた銅鑼の音に驚きつつも安賀多達の方へと視線を向ける。


「せっかくだからもう一曲。良かったら聞いておくれ!」


おぉぉぉ!と安賀多の言葉に盛り上がりを見せる中、その歓声を耳に田中と佐々木は教会の屋根の上へと移動し終えていた。


「結構な数が居るね」


「みたいだな」


高い場所から見た事で、やっと田中と佐々木にもコチラへ向かってきている影を見ることができた。


鴻ノ森が見た時よりも近くに来ている影は、その形を薄っすらと認識する事ができる。巨鳥の後ろから迫っているドラゴンの姿も。

砂埃を上げて進軍してきている魔物の群れも。


「鴻ノ森が気付いてるって事は、多分聖騎士にも伝わってんだろ。僚太、俺達のやることは分かってんな?」


「リュシオン国の壁を越えさせない。でしょ?」


田中と佐々木は笑みを浮かべ、その身を雷と炎へ変えていく。


大群が迫っていると言うのに不思議と恐怖はない。むしろ安賀多達の曲の効果もあってが気分が向上し高ぶっている。


毛の先まで魔力が満たされた二人は、更に笑みを浮かべて姿を消した。

自分の頭の中では、Classicやcha-cha slideなどが流れていました。



ブクマありがとうございます!

是非、これからもお付き合いください。

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