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眠れる王  作者: 慧瑠
見えてくる意思

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行方不明

少し短めかもしれません

全員が集まり、城の一間で朝食中、ふと思い出したように東郷が安賀多に伝えた。


「そういえば安賀多さん、ポルセレルさんが、演奏会は是非多くの人にと言うことで五日後に場を整える。と言っていましたよ?」


それを聞いた安賀多は一瞬顔をしかめるも、すぐに口にスープを運び少し考える素振りを見せる。指を折り曲げながら何かを数え、横目でまだ寝ぼけ眼の九嶋と中野を見てから最後少し考え答えた。


「案外近いね。そういう事なら、少し根を詰めて合わせないといけないな」


「あまり無理をしないでくださいね?厳しいならポルセレルさんに伝えれば、日程調整はしてくれると思いますよ」


「いや大丈夫さ。ねぇ?沙耶香、理沙」


「おーけー」


へにゃ~っとした笑みでサムズアップを決め込む九嶋の様子に、安賀多も東郷も少し不安を覚えたが、そのやる気に任せた真っ直ぐな行動力を二人は知っているので、あまり気にした様子も無く食事を再開する。


食事中は簡単な談話のみが行われ、全員が食べ終わったのを確認した東郷は全員に質問をした。


「皆さん、今日はどうするんですか?」


「私は調べ物を」


「俺と望は子供達と約束があるかな。艮も誘われてなかったっけ?」


「はい。私も田中君達と一緒に子供達と遊ぶ約束があります」


鴻ノ森に続き、田中、それに同意する様に艮が答える。佐々木は特に答える事はしないが、田中の言葉に頷き同意を示している。


「アタシ達は、その演奏会の準備を進めないといけないからソレかな。あぁそれと、今日もジーズィを借りるよ先生」


「私のではないので、そこはジーズィちゃんに聞いてください」


安賀多からの返答を聞いた東郷はふふっと笑いながら、膝の上で朝食のパンを啄み食べ終え、前後にもふもふと揺れていたジーズィをテーブルの上に置いた。


「ジーズィ、今日も手伝ってくれるかい?」


「キュッ」


安賀多の問いに短く答えたジーズィは、テーブルの上から安賀多の肩に移動して身を小さく丸める。その様子を全員が微笑ましく見ていると……次は、ジーズィの喉元を撫でていた安賀多が東郷に聞く。


「先生は今日の予定は?」


「私ですか?お昼ぐらいまでは部屋に居ると思います。覚えておきたい魔法が残っているので。お昼からは、コニュアちゃんとご飯を食べて、そのままお話をしていると思いますよ」


「皇女様か。そういえば、まだ皇女様の顔を見てないね」


「言われるとそうですね。私ばかりが会っていて、皆はまだでした」


両手を鳴らし合わせハッとした様子で言う東郷が、今日の内にコニュアに伝えておく事を話していると、様子を見に来た使用人が食事を終えている事を確認して、連れてきた数名の使用人と共に皿を下げ始めた。

それと入れ替わる様に鴻ノ森は部屋を出ていこうとする。


「鴻ノ森さんは、もう調べ物をしに?」


「ギルドは何かと混むので、少し早めに足を運んでいこうと」


もう少し話したそうにしている東郷に答えると、鴻ノ森は軽く頭を下げて一度自室へと戻り、少量のお金と小物を準備してギルドへと向かった。


道中、巡回をしている様子の騎士達が少し慌ただしそうだった事以外は、特に変わった様子も無くギルドへと着いた鴻ノ森は、図書館側へと足を進め、まだ読んでいない本を数冊選び空いている場所に腰を下ろす。


辺りを見渡せば、やはり教会とギルドが一緒になっているという事もあるのか、拝礼に来た人物やギルドカウンターで話している人物。喫茶店側で朝食を済ませている人物や、自分と同じように本を手に取り、立ち読みをしている人物など……その様子は様々。


それらを横目に鴻ノ森は持ってきた本を一冊開く。

今日の一冊目は、リュシオン国の歴史が記された本。


遥か昔に大国として名を上げたリュシオン国は、一人の女性を中心に建国された。言わずもがな、その女性とは'聖女'である。

'フクガミ サチコ'と名が記された聖女は、劣勢であった戦況を変える為に喚び出された異界の者であり、結果としては大国を築き上げ、戦況を優勢にひっくり返した実績を持つ。本の内容もリュシオン国の歴史を記す中で、何度も聖女を賞賛し崇める様な単語が並んでいた。


「種族大戦……。聖女が人間以外の種族と同盟を結んだ事により戦況に変化。

焦った敵も幾つかの種族と交渉をし、連合を結成。これによって実質、連合とリュシオン国の二極分化。それでも優勢を維持したリュシオン国から停戦協定を提案して、大戦は武力紛争から話し合いへ移行した」


斜め読みではあるが読み進めていくと、その様な事が分かる。

更に読み進めれば、その話し合いは中々終わりを見せなかったが、どちらにも参加をしなかった魔族の間で再誕した'魔王'という第三勢力の介入により事態は急変。後のギナビア国となる連合とリュシオン国と協力し魔王と対峙していく事になっている。


正確な年数は不明であるが、それは実に初代勇者が魔王を倒してから、二百年程経った後の魔王の再来であったらしい。


「…ん?」


望む情報ではなかったものの、中々に面白いと思い最後まで読み進めていた鴻ノ森は、ある事に気付いた。

それは、ギナビア国の事であり、その創設者達の事。勇者の生まれ変わりと呼ばれ、連合国を指揮した'アルベルト・ギナビア'という名前……の下に書かれていた名前――'セノリア・ログストア'


ログストアという単語だけで目についたのではなく、何故か名前に覚えがあり、少し考えた鴻ノ森は思い出す。聖女の名前が書かれていた最初の方のページ。そこの下の方にはリュシオン国の創設時に協力した人物の名前が連なっており、その中の一人に確かに書いてあった。


'セノリア・ログストア'


「建国後に裏切った?いや、もしそうなら、こんな風に称える様に名前を残すものなのかしら」


少し気になった鴻ノ森が本を最初から読み直そうとすると、突然目の前でドン!という音がして思考を一旦止め顔を上げる。

すると、二つの飲み物を挟み、自分の対面に見知らぬおじさんが座っていた……いや、鴻ノ森にはその顔に少しだけ覚えがあり、数秒の見つめ合いの末に思い出す。


「昨日の」


「コルガだ。今日は妹ちゃんは一緒じゃねぇんだな」


「まぁ…そうですね」


そう。目の前のコルガと名乗った男は、昨日鴻ノ森に子供を一人にするなと注意をした人物。流石に、実は妹じゃないんですよ。と言う訳にもいかず、鴻ノ森は適当に相槌を返した。


「何か御用でしたか?」


何かの待ち時間で、たまたま相席になっただけなのかもしれないと考え、コルガの事を無視して本を読んでいた鴻ノ森だったが、コルガは鴻ノ森から視線を外そうとしない。

鴻ノ森も気付きつつ無視をしていたが、ずっと見られているのも気分が悪く、一旦本を閉じてコルガへと視線を向けた。


「あんまこの辺じゃ見ねぇ顔だからな。昨日の今日で興味が湧いただけだ。

まぁ、飲めよ。奢りだ」


差し出されたのは、テーブルに置かれた片方の飲み物。容器の柄から察するに、喫茶店で買ってきたのだろうと予想できる。


「ただの果実水だ。警戒すんなよ」


「流石に怪しいですよ」


「ハハハハ!確かにそうだな。信用に値するかは任せるが、こういうモンだから安心してくれや」


コルガは懐から手帳を取り出して魔力を込める。すると、カウンターの看板と同じ模様が手帳に浮かび上がった。


「……?」


「…あぁ、そういうことか。これはギルド登録の時に渡されるギルド公認の冒険者証明みたいなもんだ。ま、俺の場合は少し違うけどな」


その行為の意味が分からない鴻ノ森が首を傾げると、色々と察したコルガが手帳と浮かび上がった模様の意味を簡単に説明してくれる。そして、手帳の一番最初のページを開き、鴻ノ森に見せた。


冒険者ギルド組合 リュシオン国支部 

支部長コルガ・ファンテシア


「ここを管理している方でしたか」


「そういうこった。ま、だから安心してくれや」


鴻ノ森は、一度頭を下げてから飲み物を口にする。その間でコルガを観察した。


着崩した服装に、適当に掻き上げられている髪。頬辺りに古傷はあるものの、近寄り難い空気はなく、むしろ温厚なイメージを受ける。


「リュシオン国の事を調べてんのか」


「そうですね。国の成り立ちが気になりまして」


「ほーん」


観察されている事に気付いているコルガだが、別に気にした様子もなく鴻ノ森が読んでいた本に視線を落とした。鴻ノ森も鴻ノ森で、適当に理由をでっち上げ答え、本の続きを読もうと開きかけた時――


「何故だ!」


大きな声が響く。


よく邪魔をされるな……と思いながらも、鴻ノ森はコルガと同じ様に声の方へ視線を向けると、そこには甲冑を身に着けているこれまた見た顔が。


「教会も兼ねていますので、大声を上げるのはお控えください」


「うっ…すまない。だが、本当におらぬのか」


「昨晩依頼された'行方不明の子供の探索'でしたら、まだ誰も受けてはおりません。依頼申請よりまだ半日程度なので、仕方のない事かと思われます」


「しかしだな!」


「声をお控えください」


「ぐっ…」


もちろん鴻ノ森は、その顔だけではなく、声の大きさにも覚えがある。


「ロバーソンか」


コルガが呟いた名前と同じ名前が、鴻ノ森の頭の中にも浮かんでいた。記憶にあるのは、武器を向けられた事と、東郷がロバーソンの勢いに気圧されていた事ぐらいだが……。


しかし今回でハッキリと覚えるだろう。

今後、少なからずとも関わりがあろう人物が、ああして声を荒げているのだから。


「頼む!誰か受けてはくれないか!報酬も悪くないはずだ!」


カウンターを背に、ロバーソンは集まる視線の全てに向けて頭を下げる。だが、その声に答え返す者はいない。


「無理だと思うけどな」


「そうなんですか?」


ボソッと呟いたコルガに鴻ノ森が問うと、哀れみと申し訳無さを含んだ難しい顔でロバーソンを見ながら無理な理由を語る。


「確かに昨日の夜に依頼された内容から考えて、ロバーソンが提示している報酬は破格だ。普通に考えれば、朝一で依頼を受けてくれる奴等で溢れかえるだろうよ。

でもなぁ……国ってのは大概が一枚岩じゃない。派閥ってのが存在する。当然、リュシオンにもあるんだ」


「旧派と新派ですか」


「そこは知ってるんだな」


「噂話程度で」


「あぁ、そういや、ロバーソンが聖女に武器を向けたとか噂になってたな」


鴻ノ森の言葉に何度か頷き納得したコルガは、自分の分の飲み物を一気に飲み干してから続けた。


「リュシオン国が総じて崇めてるのは'聖女'だ。そこは旧派も新派も同じなんだが、崇める内容が少し違っててな」


「……どういうことですか?」


「旧派は'聖女'を崇めている。新派は'フクガミ サチコ'という'聖女'を唯一無二として崇めてんだ」


言われてやっと鴻ノ森は違いを理解する。

聖女の肩書の信仰か、聖女として君臨した人物の信仰か。崇めるモノは同じであっても、その対象は大きく違っている。

先程読んだ分でも分かったことだが、東郷以前に福神 幸子以外の聖女は存在していない。今までは水面下で議論してあっていたとしても、今は東郷という聖女が生まれてしまっているのだ。


元よりあった亀裂が大きくなるのは当然と言えば当然のことである。


「つまり、ここの人達は殆どが新派の方々だと?」


「ってわけじゃねぇ。リュシオンでは聖女って存在が絶対的な信仰であるせいか、どちらかの派閥である事がバレると面倒な事もあってな。

偽名でも使って依頼すりゃ良かったものの、ああやって騎士団が出張ってくると……」


「協力した時点で、どちらかの派閥であるか認定されてしまうと」


「そういうこった。ギルドは中立だから、そうである以上、依頼に関しても受けはする。だが、どちらかを優遇したりはできねぇのさ。ここの連中も、リュシオン国で活動するならどっち就かずで、こういうのには関わらねぇのが利口って分かってんだよ。


仮に、旧派の連中でも表立って手はかさねぇ。どっちだってのがバレると面倒なのは、旧派も新派も分かってる。何がきっかけで派閥間で争いが起こるか分からねぇからな……どっちもまだ火種を灯そうなんざ思ってないだろ。

まぁ、だからと言ってギルドである以上は冷遇する訳にもいかねぇからなぁ……」


こうして話している間にも、ロバーソンは近場の人間に頭を下げては断られている。不憫に思うコルガだが、手を貸してしまってはそれこと派閥間の問題でギルドという組織に迷惑が掛かってくる事を理解している。


「子供の行方不明でしたね……」


「やめとけ。異界の者がギルド通して割り込んだとなりゃ、それは別の厄介ごとになっちまう。下手すりゃロバーソンの自作自演だとも捉えられかねねぇぞ」


「何を言っているんですか?」


このまま無視をしても良いのだが、子供と聞いて脳裏にセナが過った鴻ノ森は、仕方なくロバーソンの元へ向かおうとした。しかし、コルガの言葉で一瞬だけ動きが止まる。

停止したのは一瞬で、すぐに鴻ノ森は白を切る事を選んだ。


その様子に、コルガは空になっている事を忘れて傾けた容器を眺め、一滴も垂れてこない飲み物に顔を顰めて立ち上がった。


「登録時に使用方法の説明があるとは言え、今となっちゃギルド手帳は身分の証明として一般常識だ。昨日の嬢ちゃんぐらいの歳なら知らなくても仕方ねぇけど、あんたぐらいの歳なら知らない方がおかしい。

身なりからしても田舎もんでもなさそうだし、見た限り人間以外の種族でもなさそうだからな。それに、ついこの前に聖女が来たとなりゃ予想ぐらいはできる」


「なるほど…」


言ったつもりもないのに自分が異界の者である事がバレた理由を納得した鴻ノ森は、今後隠す場合には気をつけないければと認識をしなおし、ロバーソンへと視線を向ける。


「こっちは俺が何とかすっから、そっちで頑張ってくれ」


であればどうしたものか…。と考え始めた鴻ノ森に、コルガはそう伝え、空になった容器を片手にロバーソンの元へと歩き出す。

頑張れと言われて、何のことか分かっていない鴻ノ森がコルガを目で追うと、ロバーソンの側まで行ったコルガは後ろからロバーソンに肩を組んだ。ロバーソンも、いきなり肩を組まれ、その相手がコルガであると分かりつつも、いきなりの事で驚いている間にズルズルとコルガに喫茶店の方まで連れられていく。


「―――!――だが、それでは!」


「―――?だったら――」


二人の行動に殆どの者が注目しているせいか、少し離れた喫茶店の会話も途切れ途切れではあるが聞こえてくる。しかし、それだけでは内容が分からない鴻ノ森は、少しだけ近寄り聞こうとすると、容器を喫茶店の店員に返したコルガが肩越しに目を合わせ、鴻ノ森に出ていくように顎で支持を出してきた。


内容は気になるものの、仕方なく指示に従い、鴻ノ森はギルドを後にする。


「さて…」


ギルドを出た鴻ノ森は、この後どうするか考えた。


戻って情報集めの為の読書に勤しむ事はできない。しかし、人に聞いて情報集めをしようにも内容が内容なだけに人を選ぶ。

幾つか候補を考えるものの、ついさっき身バレをした事で自分の警戒心が高まり、中々行動に移せなくなっている事に気付いた鴻ノ森は、一度城へと戻る事にした……のだが、そんな鴻ノ森の名前を呼ぶものが居た。


「きよかおねえちゃん!!」


「はい?」


突然後ろから自分の名前を呼ばれ振り返ると、そこには息を切らしたセナの姿があった。

鴻ノ森が立ち止まった事で、走っていたセナは追いつき、勢いそのままに鴻ノ森の足にギュッとしがみつく。


これでは身動きが取れない。


邪険に払う訳にもいかず、鴻ノ森がセナの次の言葉を待っていると、息を落ち着かせたセナはバッと顔を上げた。


「お友達が居なくなっちゃったの…」


「そうですか」


セナの言葉を聞いた鴻ノ森の頭の中で、先程のロバーソンの頭を下げる姿が浮かぶ。


行方不明の子供と、セナの言うお友達は恐らく同一人物である事を理解した鴻ノ森は、しがみつくセナの肩に手を置き、しゃがんで目線を合わせた。


きっとしっかり寝れず、今日も朝から探していたのだろう。


うるうると瞳を潤ませるセナの頭に手を置き、優しくなでた鴻ノ森は少しだけ笑みを浮かべて、できるだけ優しく告げた。


「一緒に探しましょうか」

投稿、ギリギリ間に合い……いえ、ギリギリアウトですね。

すみません。



ブクマありがとうございます!

嬉しさで、気合いを入れて、スーツを着込んで自宅のPCに向かう姿を友人にキョトンとした顔で見られました。

こんな私ですが、どうぞこれからもよろしくおねがいします。

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