三魔公
「あぁ~、やっと戻ってこれた」
宿泊している部屋に戻った城ヶ崎は、大きく溜息を吐いて指を鳴らし服装を変える。
途中で姿を戻し、白い衣装へ変えて駐屯地から抜け出したのだが、気配の探知に長けた者が居たのか……思ったよりも追手が早く、見つからずに移動するにも時間が掛かり、体力と魔力をかなり使って戻ってきていた。
「あれ?彩達は?」
着替えを終えてやっと一息つけた城ヶ崎はベッドに腰掛け、軽く室内を見渡してフラセオしか部屋に居ない事に気付く。
「……これを」
部屋の隅で椅子に座り、自分の様子を観察していたフラセオに聞くと、机に置いてあった手紙を手に取り差し出してくる。
礼と共に手紙を受け取って中を読んでみると、それは柿島が書いたモノのようで、漆と藤井はスラムへ。書き手の柿島はレゴリアの元へと向かう事が書かれていた。
「いつ頃出ていったの?」
「…? さっき」
「さっきかぁ~」
城ヶ崎の問いに一度首を傾げてから告げられた答えに、苦笑いしながら城ヶ崎は考えた。
今の自分の残り体力と魔力から考えて、スラムに行っても良いものかと。
何かしらの危機があの子供達に迫っている事は藤井から聞いている。だが、ユニークスキルが満足に使えなければ、自分が少し手癖の悪い一介の女子高生である事も城ヶ崎は理解している。
仮に戦闘や突拍子も無い災害が原因だった場合、今の自分が行っては逆に守られる側になってしまう可能性の方が高い。
ならば柿島を追った場合。
情報は握ったが、それを報告するには些か手順が必要になってしまった。カジェラに見つかったことで、今の状況での報告は自分が侵入者である事を自白するのと変わらない。
今後の自分が考えている怪盗活動をするのであれば、自分と怪盗は切り離して認識させておきたい。となれば、情報を提供するにしても柿島と事前に打ち合わせをしておかなければならない。と城ヶ崎は考える。
「それに多分、今頃カジェラさんが地下を確認しているだろうしなぁ……。そういえば、ニャニャムさんとルアールさんは?」
「……」
フラセオは城ヶ崎の言葉に首を横に振って答えた。
「帰ってきてない。と……んー、どうしたものか」
口では悩む素振りを漏らすものの、城ヶ崎はベッドへとダイブを決め込み枕へと顔を埋めた。そして数秒、う~~。と唸り声を上げた後に仰向けになり呟く。
「まぁ、何かあったら動こうかな。それまで少し休憩しよ」
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「ぁ……が……」
視界が揺らぐ。音も何処か遠く。身体に力が入らない。
「ほらほら、立たねぇと彼女が殺られちまうよ」
「あぁああぁあああぁああ”あ”あ”」
何度目か分からない衝撃と、鈍くなっていく感覚の中でも強烈な刺激が痛覚を叩き起こして、気絶する事もできない。
右肩に深く深くと突き立て抉られる痛みを堪える事もできず、枯れた喉を震わせ声が漏れる。
「マルセロ!!!」
そう呼ばれて、また彼は朦朧と淀む意識を自ら手繰り寄せ立ち上がる。
「粘るねぇ」
彼を子供達とリーカの前で嬲る男達は、マルセロが立ち上がる度に笑い声を上げて手を叩くが、既にマルセロには男達の煽りなど聞こえては居ない。
男達をどうやって追っ払うか。どうやって捕まってしまったリーカや子供達を助けるか。どうしてこんな事になっているのか。男達が来てから果たして何時間経ったのか。自分はまだ立ち上がれているのか。なんで自分がこんな目に合わなければならないのか。もはや自分が生きているのか死んでいるのかも分からない。
死にたくはない。でも、皆を見捨てて生きたくはない。けど、やっぱり死にたくはない。自分を嘲笑った男達が、リーカや子供達に手を出そうとしている男達が憎い。そんなヤツがのうのうと目の前で生きているのに死にたくない。
頭の中では、まとまらない考えが濁流のように流れては戻ってきている。
「さて、もう一度問おうか。死神の遺産は何処にある」
後から現れた男がマルセロに問いを投げかけた。そんな男を、マルセロは睨み返す事しかできていない。
最初に自分達の家を荒らした男達よりも後に現れた男。最初の男達よりも身なりが良い事が、顔を隠しているローブからでも良く分かる。ソイツが現れてから、男達が虚ろな目は変わらないが嬉々として喋る様にもなった。
それが耳障りで、今すぐにでも身なりの良い男に飛びかかり、握る剣を突き立てられればどれほど満たされるんだろうか。
しかし、マルセロにはそんな体力も無く。それ以上に、男達に捉えられ動かないように脅されている子供達が、身なりの良い男の隣で悪漢に拘束されているリーカが居る。そんな中で、自分が飛びかかる選択が最悪な結果になる事をマルセロは理解していた。
「答えないか……おい」
「へへっ」
「ッ…!」
自分の呼吸が殆どを占める中で、何かが裂ける音が聞こえる。
ゆっくりとしが動かせない目を向ければ、リーカを拘束していた男が、リーカの服を破っていた。
「小僧、次に答えられなければ、小娘には恥辱を受けてもらう。死神の遺産は何処にある」
「……ろ」
「聞こえないな」
身なりの良い男が軽く合図を出すと、リーカの服を破った男は、そのままリーカを押し倒して下卑た笑みを浮かべた。
これから何をされるか分かっているリーカは、抵抗しようにも手足を縛られて動けない。だから耐える為に、意思を強く持つ為に、血が垂れ流れる事も気にせず唇を強く噛み締めて覆いかぶさる男を睨む。
「リーカ姉ぇ!!」
「やめろぉぉおおおぉおおお!!!!」
その姿と叫ぶエニアの声を聞いた瞬間、何かが切れる音がしたマルセロは、考えるよりも先に動かすことが出来なかったはずの身体が動き、リーカに覆い被さる男へと飛び掛かっていた。
「愚行だな」
「そうでもないわ」
迫るマルセロと男の間に立ち、腰に下げていた剣を振り抜いた身なりの良い男が呆れた様に零した言葉に、その場の誰でもない声が答える。
そして、マルセロの首を刎ねるはずだった剣は薄い赤い壁に堰き止められ、リーカを襲おうとしていた男の喉には、リーカの唇から伸びる赤く細長い針が深々と突き刺さっていた。
「何者だ」
「いくら身なりがよくても、野蛮なゴミを連れているだけあって所詮頭は同類ね。
他人に名前を聞くなら、名乗れなんて言わないけど……せめて、そのフードぐらいは脱いだらどうなの?」
何が起こっているか分からないマルセロやリーカ、男達を他所に、身なりの良い男は周りを見渡しながら気配を探る。
念の為にと防がれている剣を鞘に収め、懐から柄だけを取りだして。
「まぁ、別に顔も見たくはないからいいけど。それよりも……私達が間に合ったのは、君の功績よ。よく頑張ったわね、男の子」
気がつけば視界は赤に染まり、視界が晴れる頃には近くからその言葉が聞こえた。
混乱しているマルセロは、不思議と流血も収まり、痛みもあまり感じなくなっている事に気付き、隣に気配を感じて視線を横に向ける。
すると、そこには暗闇に溶け込む深紅のドレスを纏い、その輪郭を辿り見上げれば淡く光る赤い瞳。マルセロは、その人物を知っていた。
「漆……さん……」
「…。悪かったわね、少なからず今回は私のせいでもあるわ」
止血したとは言え、痛々しい姿のマルセロを一瞥した漆は、小さな言葉で謝罪を述べて一歩踏み出し前に立つ。
「後は私に任せて少し見てなさい」
そう告げた漆が前に翳した指先には、赤黒い小さな玉が浮遊し、霧となって消えていく。
「話は終わったかな?」
「えぇ。なんなら、仕込みも終わったわ」
次の瞬間、身なりの良い男以外の暴漢達が呻き声と共に倒れ込んだ。一人だけ無事な男が横目に様子を見れば、男達の首を貫通するように赤く細い針が突き出していた。
これは……と、リーカに覆いかぶさっていた男の方を見てみれば、同じ様にリーカの唇から離れた赤く細い針は男の首を貫通している。だが、一滴たりとも血が漏れ出てくる様子はない。
「個人的に、貴方達を殺すことに躊躇いは無いんだけど、まだ生かしておいてあげる。
私の言いたい事……分かるわよね?」
「妙な気は起こすな。と」
「分かってるなら、問い返さなくていいわ」
漆は男から目を離したつもりは無かった。いつでもユニークスキルを発動出来るように離す気も無かった。そのはずなのに、身なりの良い男は一瞬にして視界から消え、背後で金属音が聞こえた。
「チッ」
「分かってないじゃない」
男は悪態をつき、漆は呆れた声で呟く。一連を見ていたはずの子供達やマルセロもリーカも、何が起きたのか分かっていない。
ただ、消えたはずの男は漆の後ろに現れ、振り抜いたはずの剣は紙の様に薄い赤黒い人影に当たり止まっている。その事だけは、見る事で分かった。
そしてもう一つ。
剣を受け止めた赤黒い人影が徐々に凍り始めている事も。
真っ先に気付いたマルセロがその事を伝えようとする前に、身なりの良い男は刃の無い柄を振り抜く。が、それすらも何かが漆の首にめり込んだ辺りで止まる。
「冷たいわ」
小さく呟く漆。
それに呼応するように、剣を受け止めていた人影がぬるりと動き、まだ凍っていない腕を男へと伸ばした。
自分の攻撃が止められ反撃が来たことに、男は漆から距離を取る。
「貴様一体なんだ」
「それに答える必要性を感じないわね」
問いかけには答えず、人影が男へと接近し、男は慌てた様子も無く柄を前に掲げる。すると、もう少しで男に手が届く所で人影は胸の辺りから凍り始め、数秒と経たずに完全に氷像と化した。
「……次に動けば、仲間を殺すわ」
「別に仲間ではないからな、構わない。次は斬る」
漆の警告を小馬鹿にしたよな声で答えた男は、助けを乞う様な男達の視線を無視した。そして、またしても姿が消えた様に見え、次の瞬間には漆の目の前で柄だけを振っていた。
しかし結果は変わらない。
響く金属音に、途中で止まる男の手。いや、結果は変わっていた。
先程とは違い男は漆の目の前で柄を振った。つまり既に漆は男を視界に捉えている。
「貴様!本当に人間か!?」
「頭に血が上ってるわ。冷静にならないと、それは隙になるわよ」
漆の指摘など聞くつもりはなかったが、男は突然湧き上がる嗚咽に襲われた。耐え難い嗚咽と、頭を襲う鈍痛に立つことが困難になり、その場に膝を付いてしまう。
「ハッ…ハッ……なんだッ、これはッ!きさ「告げます。'動きを止めてください'」…!」
冷静になれず、男は声を荒げ、がむしゃらに柄を振る。その過程で柄からは流された魔力で刃を形成して漆の首を狙った。だが、それは第三者の声が耳に届く事で振るう腕は止まった。
男はまともに思考が追いつかず、まるで内側から意識を一瞬だけ鷲掴みにされた様に、言われるがままに手を止めてしまっていた事に驚きを隠せていない。
男が自分の身に起きた事を理解する前に、またしても新しい声が聞こえた。
「陸軍第三部隊ルコ・ペトリネです。現行犯により、あなた方を拘束します。
皆さんは子供達の保護と、負傷者の治療を」
その声は男も知っていた。
動けないので姿を見る事はできないが、歩いてくる足音は聞こえている。
「柿島さんからの報告があったので駆けつけましたが……騒ぎを起こしていたのは漆さん達でしたか」
「少し用事があって来たら大変な事になってたから。少し手を貸しただけよ?ルコさん」
「たまたまにせよ、意図的にせよ、子供達を守っていただきありがとうございます!
それで、男達の喉元のアレは」
「あぁ、拘束し終えたのなら外すわ。ただ神経を圧迫しているだけだから」
「だけ…ですか。
えっと、それでこの方が」
「首謀者じゃない?」
漆とルコの会話を聞いていた男のフードが取られた。
顕になる顔を見て、ルコは酷く残念そうな表情を浮かべる。
「ナールズ・グレンド将軍。貴方でしたか」
「ル…コ……!」
「後に聞くことなので先にお伝えしておきます。
本日、グレンド将軍管理の駐屯地に侵入した者がいます。結果としては、カジェラ隊長が駆けつけ、逃がすという形でした。
その際、グレンド将軍の私室にて隠し通路が見つかり、紛失物の有無を確認する為、軽く中を調査した結果……もう、おわかりかと思います。
ナールズ・グレンド、貴方を反逆罪及び国家転覆の容疑にて拘束する旨となりました」
ルコからの報告を聞いたナールズは、目を見開き声を出そうとする。だが、思考が纏まらずに上手く言葉が出せない。
「すみません。冷静さを失っている言葉を使わせていただきました。
先日ぶりですね、ナールズさん。どうぞ、'落ち着いてお喋りください'」
「柿島ぁ…!」
柿島の言葉を聞いた瞬間、靄が晴れたように頭が回り
自分は泳がされ、フラウエースを抜いた残りの奴隷たちを保護させる事で、死神の住処を教える。そこで動いた自分を、現行犯として拘束する。
裏では、自分の隠し部屋へと侵入し、証拠を確保しておく。逃げ道を塞ぐように、柿島が組んだシナリオを歩かされていた。
と、誤解した。
「クソ、クソ!フラウエースさえ手に入れば!」
「詳しい事は、レゴリア王の前で。連れていきなさい!」
声を荒げるナールズは、ルコに指示された兵に連れて行かれる。
「漆さんはどうしますか?」
「あぁ、私は藍ちゃんを待たないと」
「藤井さんですか?どちらに……」
「んー?壊された家で捜し物を」
漆が向ける視線の先には、ある程度の壁を残しながらも廃墟同然となっている元ボロ家。数分程眺めていると、そこから捜し物を見つけた藤井が出てきた。
「あったの?」
「はい。これだけやっぱり死線が異常に薄いです」
「藍ちゃんのも良くわからないけど、箱に死線ってのもやっぱりよく分からないなぁ」
「感覚的なモノが多いので説明し辛いです。
とりあえず、私はコレに'サイコメトラー'を使ってみます」
あまり話についていけていないルコは、隣で何となく頷いて合わせていると、藤井の手を紫の靄が纏い始める。
きっと、これが会話に出てきたサイコメトラーなのだろうと思って、ルコは藤井のやることを観察する。
藤井は藤井で、ある程度靄が手を覆い尽くすと、そのまま箱に触れた。
「うっ!う”ぇ…」
「藍ちゃん!?」
憎悪、恐怖、困惑。怒声、叫声、哭声。言葉で表すには、あまりにも混じり合いすぎた不の感情が藤井の頭の中に濁流の様に流れ込んできた。
それは一人のモノではなく、複数の様々な生物の声であり、幾ら意識から外そうとしても脳内を埋めていく。
耐えきれなくなった藤井は箱を手で払う様に遠くへ飛ばし、胃の中を地面へとぶちまけた。
突然吐いた藤井に驚いた漆は、声を掛けながら藤井の背中を擦り落ち着かせようとする。
「どうしたんですか!」
「わからないです、箱に触れたら突然……。治療魔法を使えて手の空いている者は!」
少し離れていた柿島も藤井の様子に気付いて駆けつけ、隣に居たルコも手当をしている兵を呼ぶ。
ルコの声で、藤井の異常は子供達も気付き、少し空気が慌ただしくなりはじめた時……パチパチと軽く手を叩く音が響いた。
「ゴホッゴホッ…いやぁ、様子見だけだったんですけどね?何やら面白いスキルが集まっているようで……」
手を叩きながら現れた者は、咳をしながら姿を見せた。
「特に、貴女と貴女は実に興味深い。ゴホッ……私にとって、興味深い」
そう言い、漆と藤井の二人を指差す。
「名前を聞いても良いかしら?」
「えぇ。私も、貴女の名前を知りたい」
指された漆が問えば、その者は嬉しそうに頷いた。
「漆 彩よ」
「ゴホッゴホッ…なるほど。彩ですね?覚えました。
私は、人間の間では三魔公などと呼ばれ、名は'ニルニーア・ミューチ'です。ゴホッ…良かったらそちらの貴女もお名前を」
「なっ!三魔公!?」
名前を聞いて最も反応したのはルコだった。その周りでも、ルコが連れてきた兵達は驚きの表情と共にニルニーアを見る。
「悪いけど教えられないわ」
「んーゴホッ、それは残念、では「ニルニーア様!!!」…おや?」
藤井の名前は聞けず、少し残念そうな表情を浮かべていると、ナールズが自分を連行しようとしていた兵に体当たりをして抜け出し、縛られたままニルニーアの元へと駆けていく。
「ゴホッゴホッ。確か貴方は」
「お力添えを!」
「ゴホッ…ゴホッ…。フラウエースの奪還に失敗し、無様に敗北して尚、醜態を晒すと?」
「そ、それは…。必ずフラウエースは奪還して参ります!なので、今はお力を!私は、私は必ずや不死に!」
必死に縋るナールズを、ニルニーアは冷めた目で見下ろしていた。
「不死ですか。ゴホッ…」
誰にも聞こえない程に小さな声で呟いたニルニーアは、ナールズの襟を持ち立たせて顔を近づけていく。そして……顔を過ぎ、首元に牙を立てた。
「ニルニーア…さ…ま?」
急速に干からびていくナールズは、何も理解できないまま力が抜けていき、そのまま恍惚の表情を浮かべて死んだ。
首元から牙を抜いたニルニーアはゴミの様にナールズを投げ捨て、改めて嬉しそうな表情で漆達を見る。
「殺しちゃって良かったの?」
今の行動に、警戒心が高まっている漆が問えば、ニルニーアは小さく頷き漆と目を合わせた。
「ゴホッ…不死など求める愚か者は、私には要らないので。それよりも、さぁ……貴女の力を見せて」
合わせている視線を外さず、舌先を自分の牙で浅く切り、唾液と共に血を垂らす。だが、その血は地面に落ちる事無く形状を剣へと変え、凄まじい速度で漆へ向けて射出された。
「漆さん!」
「大丈夫」
その言葉通りに向かってきていた血の剣は漆の目の前でピタリと止まり、一度形を球体へ、そして戻った形状の剣先をニルニーアへと向けて返した。
「ゴホッ…ゴホッ…。あぁ、やっぱり、貴女のスキルは血を操れるんですねぇ」
甘い吐息と恍惚な表情を浮かべるニルニーアへ向かう剣は、速度を落とすこと無くニルニーアの頭に突き刺さる。その反動で身体が反るが、倒れることは無く。
ニルニーアがゆっくりと姿勢を戻すと一緒に、頭に刺さっていた剣は、ニルニーアの中へと吸い込まれていった。
「あぁ…ゴホッ、もっと見たい。次は、そちらの貴女もぜひ!」
声がどんどん大きくなり、興奮気味のニルニーアは自分の胸に腕を突き刺し、ぐちゅりと周囲に音を響かせると腕を引き抜く。
すると穴の空いた胸からは、噴水の様に血が舞い上がり、それらは地に落ちる事無くニルニーアを中心に空を舞う。
「'銀の十字架'」
出方を伺っていた漆達だったが、一人だけ先手を打つ。柿島がユニークスキルを使い、ソレを呼び出した。
空に現れた十字架は、その速度を上げながら落下し、両手を広げ天を仰ぐニルニーアの胸の穴を潰す様に突き刺さる。
「ゴホッ…おやおや、純銀の十字架とは贅沢な。久々に身が焼けそうです」
そうは言うものの効果があるようには見えず。ニルニーアは、自分を貫いている十字架を優しく撫でた。そして数秒……十字架は血に染まり、崩壊した。
「ゴホッゴホッ、さぁ、次は私が行きますよ?」
ニルニーアの周りを蠢く血液が形を変え、その先を漆達……そして、子供達にまで向けられた。
「ゴホッ。どうぞ、力を使って防いでくださいな」
魔王勢もちょっとずつ出していかねば。
おろろろ。
お腹が何かすごく痛いです。
ブクマありがとうございます!




