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眠れる王  作者: 慧瑠
冒頭
8/236

俺は…寝る

「さてと…こんなもんでいいか?」


「いやー、流石は俺等のスリーピングナイトだ!」


「いつからお前等のになったんだよ」


部屋の隅に移動する際、岸達に視線を送れば満足そうに頷き、俺と同じ場所まで移動してきた。


隅に移動を終えて振り返ってみると、いつもの岸グループの後ろでは、クラスメイト達はどこの組に行くかと相談をしていたり、既に思い思いの組のリーダー前へと移動して話していたりしている。


「まぁ…やれる事はやった。一応、これで好きに動いても問題はないはずだ。

だが、さっき言ったように少しの間は自重してくれよ。いくら本で知ってるからと言っても、実際に動くなら勝手が違うのも理解はしているだろ?」


「もちろんだ。序盤の失敗例で進むのも十分知ってるさ。

それで何から話せばいい?」


《さっきは使うタイミングがなかったが、これが俺のスキルの一つ'念話'だ。

脳で会話できるから、岸達の考えはこっちで聞こう》


岸達から視線をずらせば、俺の方に数人歩いてきているのが見えた。


「安藤が来るのは予想していたが…俺の組に入りたがる物好きが他にも居るなんてな…」


先頭を歩いていた安藤の後ろには、古河、並木、橋倉はしくらの四人。岸達と俺を合わせれば、世界巡り組は八人の生徒が集まった。


「私のスキルは、一箇所に居るよりは色々と周って見た方が有効な気がしてねぇ」


並木は、俺の呟きが聞こえたのか、へらっと笑って言う。


「アタシはただ、拘束条件が少なそうな組が常峰君の所かなぁって思っただけー」


古河も古河で軽い感じで並木に続いて言った。


古河のユニークは確か…'魔術改造(リモデリングエンチャンター)'とかだったっけか。詳しい内容は知らんが、ニュアンス的に補助系と考えても問題は無いか…?


んで最後に'橋倉(はしくら) 妃沙(ひさ)'だ。

なんというか…小動物の様なイメージの女子生徒で、橋倉に関しては、なんで俺の所に来たかも分かる。十中八九、岸が来たからだろう。


「あの、えと…私もこっちで…」


言葉はどんどん小さくなって、最後には耳をすまないと聞き取れない様な声量で告げられた。


いつもの事だから別に気にはしない。元々、自分の意見を伝えるのが苦手なタイプなのは理解しているし、俺の組に来た理由も、岸への好意からだろう。

まぁ、当の本人は佐藤と長野とつるむのが楽しいらしく気付いてすら居ない様子だが。


《とまぁ、こんな感じだな。……おいスリーピングナイト、これ本当に聞こえてるんだよな?》


《あー聞いてる聞いてる》


《なんでそんなに面倒くさそうなんだよ》


《ちょっと、眠気と惚気とでな》


《は?》


《うん》


女子生徒達が話している最中も、岸との念話は続いていて、一応岸達が何故嘘をついたかも分かった。


要約すれば、落ちこぼれ主人公?の様な展開を進んでいこうとしているらしい。

格差ができて、そこからの疎外…または、陰湿なイジメなどに発展。何かしらのトラブルで、殺されかけるというかなんというかからの成り上がり。


勇者という王道は新道と市羽が歩くから、自分達は簡単に言えばダークサイド主人公の路線を歩いてみようとの事。


《理由は分かった。その路線を行くのは構わないが、仲間はずれみたいな事にはならんと思っていてくれ。

正直、お前らの個人的なやり方で俺にまで被害が飛ぶのはゴメンだ》


《あぁ、そうならない流れだなってのは分かってる》


《あともう一つ》


《ん?》


《この世界巡り組には、本当のスキルの事を教えておいてくれ。

何かあった場合に遠回しで説明するのは面倒だ》


《…ちょっと、げんじぃとまこっちゃんに相談する》


《無理だったらそれでもいいさ》


俺はそう言って岸から念話を切った。

もし言わないとしても、それはそれでやりようは幾らでもあるからいい。だが、岸達は何かと読んでいた本の展開を信用しすぎている気もする。


その知恵が役に立っている事は否定しない。実際に、岸達からすればある程度は物語の展開を辿っているのだろう。

今までは…。


もしもの場合は考えて、この組ぐらいでは理解者を増やして動けるようにしておいて欲しい。それを理解してくれるかは…まぁ、岸達に任せるか。


「んじゃ、一応確認するけど、橋倉さんのユニークは'魔導帝'であってるか?」


「は、はい」


岸達がどうするかは保留して、今は集まった四人のスキル内容を共有していこうと思う。


「名前からして魔法っぽいのが得意そうなんだが…その辺りはどうか聞いてもいいか?」


「大丈夫です。えっと、常峰君の考えの通りで…魔法がですね…その…得意なんです」


途中、声が小さすぎて聞き取りづらい所もあったが、まとめれば"魔法に関して、全てに補正が入る。"と言うものだった。

スキルを覚えた際のレベル上昇補正や、消費魔力量軽減、魔法効果への上昇補正、あと覚えやすさ?が高いとかなんとか…。

最後は何がどういう事なのか分からんが、要は魔法のプロフェッショナルなんだろうな。


細かい内容もあったが、要約すればこんなもんか。


「バリバリの戦闘系なんだな!心強いぜ」


「あっ…そ、そうかな?な、永禮ながれ君のスキルはどういうのなの…?」


相談が終わったのか、岸から話題に入ってきた。

そうなれば、当然自分のスキルも言わなきゃならん流れになると分かるだろうが…さて、どう答えるか見ものだな。

ここには並木も居る。下手に嘘をつけば、突っ込まれるぞ。


「俺のスキルか?あー、教えてもいいんだけどさ…ここだけの秘密にして欲しいんだ」


「秘密…ですか?」


「あぁ、俺のスキルは普通に考えれば倫理観に反するモノだからなぁ。

スキルのせいで変に距離を取られたくないんだよ」


まぁ、確かに俺はクラスメイト全員にとは言ってないし、それで構わないが…。人の口に戸は立てられないと言うぞ?口約束にも限界がある。

いや、そうか…岸のスキルなら口を封じる事もできるのか。


「私は…良いですけど。その、間違って言っちゃうかも……しれないです」


「その辺は大丈夫だ。それこそユニークスキルを使おうと思ってるよ」


やっぱりか。しかし…うーん…。あまり同郷同士をスキルで縛りたくは無いんだが…。


「な、永禮君のスキルで…?」


「いや、俺じゃない別の誰かので。な!スリーピングナイト!」


「は?」


「全員のスキルを把握してるスリーピングナイトなら、適任が誰か分かるんじゃないのか?

俺がするよりは、そっちの方が皆も納得するだろうし…俺以外に隠したい奴も、一人二人は居るだろうしなぁ」


意味ありげに言う岸の後ろでは、佐藤と長野の他に並木が加わって俺を見ていた。


こいつ…自分は言うから、他の二人には嘘をつかせろと…。そして、全員のスキルを知っているであろう並木には事情を説明しておいて、並木から俺のスキルを聞いたな。

並木も岸達に賛同したのか、凄まじく良い笑顔で俺を見てやがる。


一応俺も、自分のスキルがどう作用するのか知りたかった。空間内で対象を決めてやった事が、その空間外でどう作用するのかとか…。でもな、使ったことも無いスキルに期待するなよ…。


はぁ…。自分だけの事なら、こんなに考えずに放置して即寝するのに…面倒な。


「で、できるの?常峰君」


何故か期待の面持ちで橋倉も俺を見てくる。


「はぁ…やってやるよ。

その代わり、この組の初仕事を後でやらせるから…覚悟しろ。もちろん、橋倉さんだけじゃなく残りの連中もだ」


「え、まて常峰、俺も?」


「安藤…お前は、強制だ」


今まで聞き専だった安藤が、嫌そうな顔をした。

何を驚いているのだろう…俺とお前の仲じゃないか。察せ。


「えー、難しい仕事は嫌だよぉ」


「簡単な仕事だ。分からん事があれば、他に聞けばいいさ」


特に会話に混ざる訳でもなく興味深そうに話を聞いていた古河は、ただ面倒くさそうなだけなので、軽く流しておく。

何かあれば、マイフレンド安藤がなんとかする。


「おい、今、完全に厄介事を俺に投げただろ」


「流石安藤。察してくれる」


更に顔を顰めた安藤を他所に、俺は今日最後の仕事をする事にした。

これ以上はもう無理。眠いし何もする気がおきん。…何より、今からする事をすれば、ほぼ間違いなく睡魔が俺にフレンチ・キスをしてくるだろうしな。


「まぁ俺も、自分のスキルを使ってみたいって思っていたのは確かだ」


俺は小さく呟いて、少し大きめに音が鳴るように手を叩いた。そうすると、クラスメイト達の視線が音の発生源である俺へと向く。

それを確認して、息を軽く吸い、全員に聞こえるように言った。


「全員、ある程度思い思いの組へ移動したと思う。

基本的に、そのメンバーで組むと思ってくれて構わない。ユニークを考慮するとは言ったが、さっきも言ったように別の方向で進むのもできるわけだからな。


一応確認はしておきたいから、各組のリーダーはメンバーの名前を書いた紙を安藤まで持ってきてくれ。

安藤は、一応全員のスキルを聞いたメモを持っている。これから少しの間だけでも行動を共にするメンバーなんだ、組内のメンバーの分だけでもユニークは知っておいてもらいたい。


だから、各組のメンバーに合わせてユニークスキルの書いた紙を俺等の組が用意する。EXスキルとかは、個人個人で共有するならしていいし、隠したいなら隠しておいても良いだろう。正直、そこまで把握してないしな。


んで、その各組のスキル一覧を用意する時に、もしかしたら別の組に移動して欲しいと思うことがあるかもしれないが、その時は相談はする。嫌だったら断ってくれても構わない。


一応、これで本当に話し合いは終わりだ。この後は自由行動としよう。

近いうちに模擬戦があるらしいが、その事は…まぁ、日程が決まってからでもいいだろう。


あぁ…それと最後になるが、俺達'世界巡り旅行組'はスキル表を作る時に全員のスキルを知ることになる。それは不公平とか思うかもしれないから、各組には俺達のスキル表も渡しておく。少し詳細に書いたやつをな。

だから、配られたやつは全員一応目を通しておいて欲しい。


そしてもう一つ。

最後と言いつつ長引かせて悪いが、今から俺のスキルを皆に使う。攻撃的なスキルではないが、ちょっとまだこの国の連中に信用が置けないから、情報漏洩対策。事故防止程度に考えて欲しい。

もちろん、嫌なら後で俺に言ってくれ、スキルを解除するから。


とりあえず、俺の自己満足の為って事で…いいか?」


クラスメイト達の顔を見れば、まぁ気に食わなさそうな顔をしているのも居るが、嫌なら後で言ってくるだろう。

ここは、反論の間をおかずに多少強引にやる。この国の連中が信用ならんのは本当だしな。


「ま、俺のスキルお披露目も兼ねて、すまんが協力してくれ」


俺は手を軽く前に掲げ、自分のスキルを意識する。

使い方もしっかり知らないはずなのに、意識すればそれの発動準備が始まり、整った事を脳が告げた。


「"この場に居る者達に法を敷く。

今後、この場に居る者同士は当事者の了承無しでのスキル干渉、及び当人の許可無く他者へのスキル公開する事を禁ずる。

又、補助、治療などの行為は例外とする"」


言い終えると、身体から何かがごっそりと抜けていく感覚…それを満たす様に強烈な睡魔が襲ってきた。

あー、なるほどなるほど…耐えきれるぐらいの眠気ではあるが…これは、うん。身体だるっ。


「はい。今のが俺のユニークスキルの'眠王'の一部、'眠王の法'ってスキルなわけなんだが…。

多分成功した。

内容は聞いての通り、スキルで干渉するのと、他人にスキル内容を喋るのを禁止したんだわ。


別に俺が解除したり、当人同士で許可し合えばできるから、深くは考えんでくれ。


うん…あー…うん。まぁ、後は安藤とかに聞いて欲しい。俺は…寝る」


《安藤、俺のスキルの効果がちゃんと発揮されるか調べててくれ。後、この部屋の外でも大丈夫か。

任せたわ》


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---


シーンと静まり返った部屋に、今まで喋っていた人物の寝息だけが響く。


「……ん?マジか。おーい、常峰」


俺の言葉に返ってくるのは、スースーと気持ち良さそうな寝息。


「ねーねー安藤君、もしかして常峰君って」


俺の隣で、唖然とした表情の古河が聞いてきた。


「あぁ…こいつ、立ったまま寝やがった」


「わーお」


本当にわーおだわ。常峰が眠った事を察した皆は、その視線を俺に向けた。


おいこら、お前が俺にとか言うから。


俺の恨みこもった視線を他所に、気持ち良さそうに寝ている常峰。

次の言葉を待つように俺を見る皆。


湧き上がる殴りたい衝動を抑えつつ、俺は考えを張り巡らせ、やっとの思いで言葉を口にした…。


「とりあえず、飯…食わね?」


「「「…」」」


…常峰君よ、どうしてくれるこの空気。

眠王の法。初お披露目でしたね。

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[一言] これは王の器ですわ
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