真っ黒じゃん
ちょっと短め
漆の戦闘は、次回で
昨日、今日と騒々しかった家では、久々の静けさが戻ってきていた。
「皆寝たよ」
「みたいだね」
軋む音を鳴らしながら階段を降りてきたリーカに目を向けるマルセロの表情は、どこか暗く、返事をした声にも明るさはない。
「藤井が言っていた事を気にしてるのかい?」
「まぁ……ね」
「あんな事を突然言われれば、気にはなるだろうけど、どうしろっていう話じゃないか」
「分かってるよ。意味も分からなかったし、どうすればいいかも分からない。けど、気にはなっちゃうんだ」
「でもねぇ。本当にどうすればいいのさ。
'貴方達は、今日明日にでも死にかける様な事態になる'なんて言われても、対処方法すら教えてもらってないのに、私達に出来ることなんて無いだろう」
「そうだね。精々、皆をできるだけ安全な所で匿うぐらいしか」
リーカと話して落ち着いたのか、マルセロの言葉は先程よりは穏やかだ。
だが、それでもマルセロだけではなくリーカの頭の中でも、藤井の言葉が引っかかり抜けることはない。
-貴方達には教えておくけど、今日の夜にでも命の危機が迫ると思います。なので、頑張って生き残ってください。
そうすれば、私達が間に合うと思うので-
淡々と藤井に告げられた言葉に、聞いてた子供達もマルセロとリーカも理解は追いつかなかった。
詳しく聞こうとしたが、それよりも先に藤井は、預かっていた奴隷達に何かを説明し軍を呼んで帰ってしまい、結局その間に話を聞く時間も無く見送ることしかできていない。
時間が経ち、不思議と引っかかるその言葉に、マルセロとリーカは子供達を二階へと上げて、自分達は徹夜で夜を明かす事を決めた。
「そもそもだけどさ、なんで藤井は私達を助けようとするんだろうね」
「そっちはもっと分からないな。助けることで、何か藤井さん達にメリットがあるのかも知れないけど……奴隷の人達は、もう軍に保護されたし……」
「どうにも、善意だけで行動する様な人達には見えないしねぇ」
樽から呑む分の水をコップに移して用意していく。
自分の分も用意してくれたリーカに礼を言って、喉を潤していると、ある音が聞こえてきた。
隙間風が抜ける音。
二階で寝返りをした子が居たのか、天井が少し軋む音。
リーカが歩き、床も同様に音を鳴らしている。
そんな中に、外からカラカラと音がする。
「リーカ、聞こえる?」
「この音かい?神経質になりすぎだよマルセロ。
どうせ、どっかの奴が古い鎧でも盗んできたんだろうさ」
もちろんリーカにも聞こえてはいる。だが、大して気にした様子はなく、椅子に腰掛けて、欠伸を殺しつつボロボロの本を読み始めた。
マルセロは、リーカに神経質を言われ、確かに…と納得しはしたが、やはりその音が気になってしまう。
確かに、外から音が聞こえる事は不思議な事ではない。この時間から活動する者達もスラムには少なくはない。しかし、マルセロは気になる。
徐々に近付いてくる音に。
近付いてくる事で、カラカラの中にガリッと音が混ざり……それはまるで何か、金属を引きずる様な音に。
そして何より
「やっぱり、増えてる」
その音が増えている事に。
「リーカ」
「私は気にしなさすぎかもね」
マルセロに名前を呼ばれたリーカは、読み始めたばかりの本を机に置き、懐と太もも辺りに愛用しているナイフがある事を確認して、玄関側の壁に背を付けた。
同じ様に、反対側にはマルセロも少し刃こぼれした剣を持ち、壁に背を付け、外の音に耳をすましている。
神経質だとは言ったものの、リーカもその音に少しだけ気を引かれていた。そして聞いていれば、マルセロが感じたように近付き、増えている事に気付いた。
互いに息を潜め、近付く音を聞いていると、その音は家の周りから聞こえてき始める。
「ただ、様子見だけだったら嬉しいんだけどね」
「俺もそう思うけど、完全に囲まれてるね」
小さな声で会話をしつつも音を聞き逃さない様にしていると、大分近くまで来ていたはずの音が聞こえなくなった。
今、二人に聞こえているのは二人分の呼吸だけ。
他に何も聞こえない事が、二人にとってストレスになり、それは緊張へと姿を変えていく。
「俺が出て、様子を見てみる」
「私は止めたほうが良いと思うね。相手の数は分かるのかい?」
「もし分かるなら、俺は軍にでも行ってるよ」
軽口を叩きながらも剣を構え押し、少し震えている手を必死に落ち着かせながら扉を開けようとした瞬間、マルセロは反射的に剣を盾代わりに構え、同時に吹き飛んできた扉と共に、部屋の奥へと吹き飛ばされた。
「マルセロ!! ぐっぁ」
突然吹き飛んだマルセロを目で追ったリーカは、巻き上がる埃の中から伸びる手に反応できず、首を捕まれ持ち上げられてしまう。
急に息が出来なくなり、混乱する脳。それでもできるだけ息を吸おうとする中で、視界は自分の首を掴み上げる手の先へ向ける。
「やれ」
自分を持ち上げる男は、虚ろな目をしたまま小さく呟いた。
すると、その声に応える様に、外から何かを叩きつける様な音と、窓からは石が投げ込まれ、元よりボロボロだった窓ガラスは簡単に砕け散る。
そしてそこから、男たちが家の中へと入ってきた。
「ぁ…!っ!!マル、セロ!!」
振り絞り、やっとの思いで呼べた名。
「リーカ……」
名前を呼ばれたマルセロは、自分の上に乗っていた扉をどかし立ち上がる。だが、吹き飛ばされた際に頭を打ったようで、頭部から血が顔を伝い、地面に血が落ちていく。
答えた声も、荒い息の間で絞り出した様に漏れた様だった。
「くっ、そっ!」
「……」
もがいていたリーカは、太ももからナイフを取り出し、首を掴む手に突き立てる事で力が弱まり、抜け出すと同時に距離をとる。
そのままマルセロの近くまで移動すると、マルセロを庇う様に前に立ち、懐からもう一本ナイフを取り出して構えた。
「リーカ?」
「助けるなんてできないからね!アンタはアンタで身は守ってよ。階段は、私が何とかするから」
「ハハハ。大丈夫、俺もやるさ」
少しずつ意識がハッキリとしてきたマルセロは、滴る血を袖で拭い、リーカの横に剣を構え立った。
家の壁は既に壊され、窓や扉の無い玄関からも男達が入ってくる。
二階には子供達が寝ており、何があっても降りてこない様に伝えてあるが、上がられては意味がない。
マルセロとリーカの二人が対峙するのは、ハンマーや剣を持つ武装した男達。見えているだけでも最低十数人。
「リーカ、分かってるね?」
「悔しいけど、分かってる」
言葉通り、リーカはマルセロの言いたいことが分かっている。
けっして自分達から仕掛けない。この階段前を死守する。そして……
「あの人達が来る事を祈るしか無いってのは、十分に分かってるよ」
自分達では勝てない事も分かっている。
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「思ってたより簡単に入れたなぁ……」
白い服に、顔の上半分を隠す仮面。お仕事スタイルと決めた服装に身を包んだ城ヶ崎は、木の上に登り、枝に腰掛けて、ある建物の様子をみていた。
城ヶ崎の視界に移っている建物では、ちらほらと軍服を来た人物が廊下を歩き、他に目立った動きはない。
ここはギナビア国城から少し離れた場所にあたり、所謂'駐屯地'である。
「彩が集めた情報では、ここの管理がそうなはずなんだけど」
城ヶ崎は数十分前より駐屯地の様子を見ているが、目的の人物の姿が見当たらない。
「少し場所を移動しようかな」
一人呟く城ヶ崎は、丁度巡回の為に下を歩いていた者の後ろに音も無く飛び降り、襟の裏から取り出した小さな錠剤を背後からその者の口に投げ込み飲ます。
すると、巡回警備に勤しんでいた者は、フッと身体の力が抜けたように崩れ落ち、小さく寝息を立て始めた。
「リピアさんから幾つか貰ったけど、やっぱ凄い効き目だわぁ…コレ」
そう呟き、襟裏を指先で擦れば、白い錠剤が襟裏にある小さな収納部分に追加される。
その錠剤。まだ、ログストア城で訓練期間の時にリピアから譲り受けたもの。
耐性を得る訓練の際に、リピアは耐性の種類についての説明があった。
・死に至る猛毒。時間を掛けて人体の活動に影響を及ぼすモノ。麻痺などの一時的機能を奪う様なモノ。など様々で、それらの耐性を全て得る事は、先天性の耐性スキルがなければ不可能である。
・無効する様なスキルでは無い限り、耐性にも限界が存在する。
耐性スキルを得るに当たって、最も注意してほしいという事で、この二つは何度か説明された。
例として、麻痺耐性を極限まで高めたとしても、それは無効ではなく、麻痺状態でも活動が可能であるだけだと。
完全に耐性を得たとしても、人の手が加えられ強力になった毒は、一瞬だけ掛かる事もある。そう説明を受けた城ヶ崎は、その日にリピアに聞いた。
リピアさんが最も警戒している毒はあるのか……と。
その時に、リピアはこの錠剤を見せて答えてくれていた。
その錠剤は、眠らせる作用がある毒を持った植物から、その成分を抽出して効果を高めて固めたものらしく。中途半端な耐性持ちであれば、関係なく眠らせ、毒に耐性が強くとも短時間眠らせる事ができる代物。
「まぁ、結構ニオイが独特だから、気付く人は気付くらしいけど……知らなければフルーティーだよね」
ちゃんと補充できた事を確認する城ヶ崎は独り言を漏らす。その言葉通り、襟からは薄っすらと果物の様な匂いがしている。
「今度、機会がある時に作り方を教えてもらっとこ」
リピアから答えを聞き、その時に幾つか貰っていた錠剤はそれほど多くない。
自分の行動上、その便利さを考えて、今度作り方を教わろうと決めた城ヶ崎は、寝息を立てている者を見つけづらい場所へと移動させて自分のスキルを使い、姿を寝ている人物へと変えた。
「さてと、巡回時間とか知らないから、さっさと入ってみますかね」
寝ている人物から服を拝借した城ヶ崎は、一度セブンツールの一つ、'変装'のスキルで服を収納してから指を鳴らすと、服装までもその人物を同じモノに変わる。
傍から見れば、どこからどう見ても寝ている人物と瓜二つ。
変装を終え、軽く服の伸縮を確認した城ヶ崎は、目的の為に建物の中へと入っていった。
堂々と正面から入る城ヶ崎に不信感を抱くものは一人も居ない。元々、出歩いている者も少ないが、すれ違った所で止められる様な事も無く。どんどん城ヶ崎は建物の中を進んでいく。
部屋には入らずに、扉に掛かっているネームプレートを横目で確認しつつ進んでいくと、一つだけネームプレートも無く、両開きの扉を見つけた。
「私の勘が怪しいと告げているぞっ」
小さく呟く独り言。
周囲を見渡し、誰も居ない事を確認した城ヶ崎は、耳を当てて部屋の中の音を聞き、人が居ない事を確認した後に。境界無き錠を使い鍵を開け、ゆっくりと部屋の中へと入っていく。
中は整理された本棚に、机の上なども綺麗に整理されている。
「几帳面な人なのかな?この前のコヌチル部屋よりは、綺麗だね」
これは物色するにも荒らすと後が面倒そうだと思いながら、本棚を端から眺めていくと、ふと風の流れが違う事を感じた。
「お宝の匂いはしないけど……隠し部屋は気になっちゃうよねぇ」
その奥に道がある事を確信した城ヶ崎は、本棚を動かしてみようと試みる。だが、当然のように本棚は動かない。
「どっかに仕掛けがあるんだろうけどなぁ。今は、時間が無いから少しズルっこしよう」
そう言い、指を鳴らす城ヶ崎の手には、境界無き錠が握られている。
「どんな仕掛けでも、鍵である以上、私には通用しないんだなぁこれが」
本棚を城ヶ崎の間の空間に鍵穴が現れ、それに握っていた鍵を差し込み捻ると、ガコンと何かがハマる音が響き、本棚が前に横にとズレていく。
そして現れたのは、下へ降りる道。
「さてはて、何が出てくるやら」
道が見えた瞬間、鼻腔を通過したニオイに顔を顰めながらも城ヶ崎は階段を降りていく。
降りるに連れニオイが強くなっていく事に、城ヶ崎の顔も険しいものになるが、足を止めずに降りていくと少し大きめの広い部屋に出る。そこで足が止まった。そして、嗚咽がこみ上げてきた。
「ぅ……なに、これ…」
城ヶ崎の視界に入ってきたのは、綺麗に並べられている人達。だが、誰一人として城ヶ崎の姿に反応する者は居ない。
それもそのはずだ。
立ち並ぶ彼等は、死んでいる。
漂っていたニオイは死臭である事を城ヶ崎は理解した。今すぐにソコから離れようとした城ヶ崎だが、ふと前列の一人に視線が止まる。
五体が切断されているにも関わらず、支えて人の形を保っているソレの切断面が凍っているのだ。
「彩が、誰とも会話をしてないって言ってたから調べて見ようと思ったけど……これは当たりかな?」
踵を返そうとしていた足を止め、吐き出しそうになる気持ちを抑えて、城ヶ崎は次々と並ぶ死体を調べる事にした。
前列から奥に行くに連れ、切断されている死体が減り、最後には切り口も無く五体満足のまま死んでいる者が並んでいる。
「でも死んでるって事は……そういう事だよね」
触れれば死後の為か冷たいが、首の辺りだけが異常に硬い。
「でも、出来るってだけでやった証拠としては薄いよね。まだ可能性として浮上しただけで」
綺麗に並ぶ死体を越え、更に奥に行けば小さな部屋があった。そこも綺麗に整理されており、持ち主の性格が伺える。しかし、物色していく内、その部屋に城ヶ崎は気持ち悪さを覚えた。
異常なまでに集められた様々な不死に関する資料。その中には当然フラウエースに関する資料もある。そして、近々主催予定だった奴隷オークションの案内と、出品一覧の内容の中で、フラウエースの所に何十も丸が付けられている。
「これは、証拠として強いんじゃない?
ナールズ・グレンド将軍……真っ黒じゃん」
この部屋は証拠として強いが、持ち出してしまっては言い逃れが出来るだろう。と考えた城ヶ崎は、その部屋から何も持ち出す事はせずに戻る事にした。
「ここを調査してもらう為に、柿島さんに協力してもらえば何とかなるはず。うん、そうしよう」
次にやる事を決めた城ヶ崎が階段を登り、最初の部屋に戻った……のだが、最初とは状況が変わっていた。
「ここで何をしているのか、答えて貰っていいかな?」
「少し調査です」
「ほぉ。ナールズ将軍が一介の兵に自室へ入る事を許すとは、私も知らなかったな」
「自分も不思議で仕方なかったですね。それで、カジェラ隊長はなぜココに?それも、沢山部下の方を連れて……」
そう。無人だった部屋には、カジェラを筆頭に数十名の兵が待機していたのだ。
変装は解いていない為、カジェラ達から見れば城ヶ崎である事はバレていない。しかし、巡回警備をしていた者がココに居る事自体が問題である事は、カジェラの言葉を聞けばすぐに理解できた。
「本日、ナールズ将軍より警備をするよう言われていたのだがな。部下が扉が空いている事に気付き、ナールズ将軍に挨拶をと思い入れば、誰もおらずに不審な道があると報告があった。
僅かにではあるが、死臭がしたとも報告があり、最近は物騒だからな……私が来たのだ。
さて、私は答えたぞ。貴様はココで何をしていた」
城ヶ崎の問いに答えたカジェラは、構えこそ取らないものの、その手は腰の得物に添えられている。
部屋の様子を伺い、カジェラ達の立ち位置を確認していた城ヶ崎は、問いに答えず。それに対し、いつまでも問いに答えない城ヶ崎にカジェラ達の警戒は高まっていく。
「まぁ、何をしていたかって言われると。さっき行ったように調査なんですけどね」
口を開いた城ヶ崎の雰囲気が変わったことに、カジェラが反応して剣を抜く。その瞬間、城ヶ崎がカジェラに向けて手を翳した。
「ちょっと待った!敵対の意思はないですよ」
「それを信じれるかと思うか?」
「あはは。確かに」
軽口を叩いた城ヶ崎がパン!と手を叩くと、その手には小さな箱が現れた。
「'悪戯な箱'」
その部屋に居た全員は、音に惹かれ、突然現れた箱に一瞬意識を持っていかれた。それが分かっていたかの様に城ヶ崎は、すぐに箱の蓋を開ける。瞬間、箱は強烈に光り、城ヶ崎以外の者の視界を奪った。
「その奥を調べてくれると嬉しいなぁ!それじゃまた、どこかで!」
突然の光に呻き声を上げているカジェラに告げると、城ヶ崎は窓から飛び降りようとする。だが、視界を潰されながらも気配と音だけでカジェラは剣を振った。
「逃したか…」
僅かな手応えしかなかった事に、不服そうな声で言葉を漏らすカジェラ。しかし、逃亡に成功した城ヶ崎は、屋根の上で冷や汗をかいていた。
「あっぶな」
そう呟く城ヶ崎の右頬は、薄く斬れており、血が垂れている。
「今後、こういう事するなら、もう少し戦う術も必要そうだなぁ」
一人呟く城ヶ崎は、先の予定を考えながら、騒がしくなりはじめた駐屯地を後にした。
ド派手な戦闘が書けないぃ。頭が沸騰しそうだよぉ。と、ぐるぐる頭が煮られてます。
体調を崩し、夏バテしていて、ついでに熱中症らしいです。
そのせいでギリッギリの更新ですみません。
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