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眠れる王  作者: 慧瑠
見えてくる意思

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ゆっくりと行動開始

部屋を移動し、漆、城ヶ崎、藤井、フラウエースが泊まっていた部屋に移動し、漆達と合流した柿島とルアールは、互いに情報交換をする事にした。


「死に方っていうか殺し方が特別で、その方法を使える人物が限られてるっぽいんだよね」


「なるほど。つまり、そのセジュさんと言う方が現状で一番怪しいと」


「そだねぇ……個人的には、別に犯人が居てくれたほうが嬉しいかな」


城ヶ崎の話を聞き終えると、今度は柿島がレゴリアとのやり取りを伝え始める。その間にルアールは、常峰から聞いていたフラウエースに近寄り、その額に指を当てる。


「フラウエースで間違いはないか……」


「はじめまして」


「ん?あぁ、はじめまして。俺はルアール・ルティーアだ。名前は?」


「……フラセオ」


「名前があるのか。会話も成立できる程度には、知恵と理解力がある。我が王のお考え通りか……となれば」


フラセオと名乗ったフラウエースにではなく、ルアールは一人で呟く。それも理解しているのか、フラセオは黙ってその言葉に耳を傾けているようだ。

呟きつつもフラセオの様子を伺っていたルアールは、常峰から対話が可能ならば聞くように言われていた事を問う事にした。


「初めに言っておくけど、嘘は付くなよ?すぐに分かる」


「…」


返事は無かったが、その沈黙を肯定と受け取り続ける。


「お前、一人じゃ無かっただろ。同族はどうした」


「……もう居ない」


「いつまで一緒に居た」


「……ちょっと前まで」


「年数ではどれぐらいだ?」


「?」


首を傾げたフラセオを見て、おそらく年数を理解していないのだろうと分かったルアールは、次の質問に移る。


「分かった。別の質問だが、お前の他に同族は何体居た」


「……三」


「そいつらはどうした」


「……人間が捕まえた」


「そうか。有益な情報だ。

今後、お前は我が王が保護をする事になった。異論はあるか?」


「……要望」


「言うだけ言ってみればいい。俺の独断では許可できない」


「涼しい所」


「あー、うん。我が王に伝えておこう」


ルアールは知っている。フラウエースの言う'涼しい所'というのが、普通に考えれば'極寒'に匹敵する寒さである事を。

ルアールは知っている。常峰は既にフラウエースの住居として、六層から十層までの好きな階層を用意する事を。


つまり、既に要望は常峰が用意している。だが、それを伝えて別の要望を出されてしまっては常峰に迷惑が掛かると考え、適当に話を切り上げた。


ルアールがフラセオに質問を終える頃には柿島も話を終えた様で、振り返れば漆達を含めた四人が思案顔を浮かべていた。


「話は終わったか?」


「えっと……」


「ルアールだ」


状況が気になったルアールが一番近くに居た漆に声を掛けると、思案顔を更に渋め、名前を聞いて尚、明らかに興味なさそうにルアールへ答えた。


「はいはい。ルアールさんねルアールさん。

あぁ、ルアールさんなら分かるかな……夜継の目的」


「我が王の目的?」


「そう。あの大々的な登場も夜継の指示なんでしょ?注目を集める為って、言いたい事は分かるんだけど、それで夜継に何の得があるのかが分からないのよ」


「だから俺が知らないかってことか」


「そういう事。えっと……」


「……ルアールだ」


「だったわね。何か知らないかしら?……」


一向に名前を覚えず、終いには名前すら思い出そうとしなくなった漆の姿に、ルアールは頭を抱えた。そして、ギナビア国へ来る前に共に風呂に入った時、常峰から聞かされていた事を思い出す。


―ルアール、漆 彩ってのが居ると思うが、彩の相手をする時は頑張れよ

―なんでですか?

―あいつ、男が相手になると、途端に短気になって痴呆レベルで名前忘れるらしいから。一応、円滑に会話を進める為に柿島と行けば……多分問題は無いと思う


「すまんが名前は?」


「え?男が私の名前なんて、別に覚えなくてもいいわよ」


あぁ……我が王が仰っていた漆 彩はこれだ。


そう確信をしたルアールは一つ溜息を漏らす。そして、自分の指を口元へ持っていき、軽く人差し指を噛む。

すると、徐々にルアールの髪が伸び、輪郭や肌までもが変わり始め、比例する様に漆の目に光りが宿り始める。変化が始まり数秒もすれば、そこに立つルアールは、紛れもない女体へと姿を変えた。


「そんなのって……いや、でも、このお姉さま系は……しかし元は男…うぐぐぐ……み、魅力的過ぎる。こんなのって、こんなのって……」


ルアールの変化に困惑していた漆だが、ぶつぶつと呟き漏らし唸り声を上げ、決意したようにカッと目を見開き声を上げた。


「イけるわ!!」


「「えぇ……」」


何か強い決意を抱いた表情と言葉の漆に、流れを見ていた城ヶ崎と柿島が何とも言えない声を漏らした。その中で藤井は、自分の解放の兆しを見出し、少し顔が明るい。


「まぁ、これで話が進むならいい」


漆の事は聞いていたが、その詳しい内容までは聞いていない。だが、話が進めばそれでいいルアールは、空気を無視して漆の問いに答える事にした。


「我が王の目的だったか。

とりあえず、俺がわざわざ本来の姿で来た理由は、ギナビア国への我等が国の力を見せつけるのが一番の理由だ。

自国の軍事力を見せつけ、行動力に伴う力、問題が飽きた場合即時に対応できる事、軍備に関しては他国の介入の必要性を薄くするため。そして何より、今回はダンジョン所有をギナビア国に認めさせるために来ている」


「軍事力って、来たのはたった二人ですけど……。それにダンジョンの所有を認めさせる必要があるんですか?隠しておけばいいんじゃ」


ルアールの話を聞いていた城ヶ崎が問う。漆も藤井も、そして柿島もルアールの言葉を待った。


柿島には、頼まれていた目的解決の為のダンジョンは取引材料として常峰から告げられていたが、今言っている事が本当であれば、ダンジョンを取引に持ち出す事が常峰の目的という事。


それに、自身の戦闘能力が高くない事を柿島自身知っている。少なからずそこにも問題と疑問があった。だからこそ柿島も耳を傾ける。

そして、言葉の真意に目を向ける。


「まず誤解がある。軍事力……まぁ、今回はそれに匹敵する戦力としては俺一人だけだ。俺を前にして座っていた時点で、それも向こうは理解しているはず。

それを理解していないのなら、そこまでの奴等ってだけだろう。我が王への報告が増えるだけだ。


ダンジョンに関しては、少しは耳にしていると思う。

元よりダンジョンは基本的に敵視されるものであり、その機能を停止させ消滅させる。分かりやすく言えば、これが'ダンジョン攻略'だ。

この事は、今も昔も変わっていなくて安心したよ。


それでもう一つ。俺達のダンジョンは含まれる事は無かったが、経済目的で制圧する事もあるダンジョンがある。攻略に関して難易度が低く、魔法によりダンジョンコアの機能を奪取できた場合、消滅させずに維持する方法だ。


まぁ、どちらにしろダンジョンは攻略する対象なんだが……我等が王は、ダンジョン領域に建国なさった。

しかし、国にダンジョンがある事が一般的に知られれば、後々問題になる可能性があると我等が王はお考えになり、建国後発見したダンジョンを制圧し所有したと言うことにして、ギナビア国に認めさせることで世界に向けてダンジョンの所有の正当化する事が我等が王の今回の目的だ」


言葉の中に嘘はない。

絶対的な自信があり、本当にあの場にて敵対行為を見せようとしたならば、ルアールは相応の対処をする予定だった意思が含まれている。


加えて、常峰の目的と考えを話すルアールの言葉にも嘘はない。むしろ、それ以上に複雑な思考が含まれ、自分達にでも分かりやすく砕かれた内容である事まで柿島には分かった。


「なるほどね。夜継は、自分の目的のついでに私達の件に手を貸す事にしたのね」


真意を視て取れない漆はそう思った。藤井と城ヶ崎も同じ様に考えている。視ていた柿島も、当然だ。そこに漆達の為の行動は含まれていない。

だが、ルアールは漆の言葉を否定する。


「いや、むしろ我等が王の目的がついでだ。

お前等が問題を起こさなければ、もっと手順を踏む予定だったものが、今回の件で都合良くダンジョンを表に出せるとの事だ。

でなければ、わざわざフラウエースの保護などはしない。


まぁ……俺が我が王から受けた命はダンジョン関連と柿島の護衛で、そっちの件は柿島が頼まれていただろ?

それに、お前等も我が王に頼む引き換えとして、色々と提示されていると聞いたが……違うのか?別に今から我が王に承諾を貰い、俺がさっさと解決してもいいとは思うけど。その方が早く帰れるのは明白だからな」


当然のように言われた言葉。本当にルアールはそう考えている。

今度は、誰の目にもそれが分かった。


「確かにルアールさんの言う通り、私達は私達で約束をしたんだった。そのつもりは無いけど、もし失敗しても、せめてやる姿勢ぐらいは取っておかないと夜継に怒られる」


「常峰君が怒る所、ちょっと見てみたい気もするけどね」


「面白いものじゃないよ。あの完全に羽虫を見る感じの視線、分かってても精神的に本当に堪えるんだから……」


「へぇ、彩が男相手にもそういう感じあるんだね」


「そういう対象には一切見れないんだけど、幼馴染で友達なのは変わりないからねぇ……。まぁ、基本的に質のいい枕とかで買収できるんだけどさ……」


「あ、意外と簡単に」


自分の名前を覚えていた漆に驚きながらも、何となく話が脱線し始めた事を察したルアールは、さっき似たように親指を軽く咥え、男に戻りながら部屋を出ていく。


「ルアールさん、何処かに行くんですか?」


「我が王から頼まれた買い出しとか、まぁ色々とあるんだよ」


藤井の質問に軽く答えながら、ルアールは部屋を出ていった。

その瞬間、藤井は後ろから圧迫感を感じ、瞬く間に正面にソレは回り込んだ。


「くぅぅ……あの胸に沈みたかった……」


「だからって私の胸に沈まないでください。柿島さんでいいじゃないですか」


「え?」


「永愛ちゃんのは、ぽよよんとする様を眺めていたい感じなの!分かるでしょ?」


「え……?」


「分かりませんよ。それより、犯人探しいいんですか?時間があるようにも思えないんですけど」


「あの」


「あー、それもそうだね」


突然話を振られて困惑している柿島には触れること無く、漆は藤井の胸を枕代わりに寄り掛かりながら服の内側から針を一本取り出した。

その針を使い、指先から血を出すと、その血は零れ落ちる事無く空中に留まり形を変えていく。


その様子を皆が眺めていると、空中には真っ赤な蝙蝠が五匹羽ばたいていた。


「何それ」


「私の血で、今回は私の耳かな。

自分の血液なら、別に視界外でも操作には問題ないからねぇ。これ使って感覚共有すると、それ以外の事がうざったらしくなるから、今日は私はヒッキーしまーす」


もぞもぞと頭を動かして、より頭を沈めてくる彩に呆れている藤井。

無視されて少しショックを受けている柿島。

特に喋る事はなく、ただ見ているだけのフラセオ。

そして、質問に返ってきた答えを聞いて、納得したように頷きベッドに横になる城ヶ崎。


「なんか情報入ったら教えて。それ次第では、私も夜の行動を変えるからさー」


「んー」


それぞれが、部屋でゆったりと行動を開始した。


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---


その頃、ギナビア城の一室では、二人の男が護衛を付けずに食事をしていた。


「レゴリア王」


「今は二人だ。外面は外せヴァジア」


時たまに響く食器の音以外、二人が喋らなければ音はない。当然、使用人達の姿もなく、この場にはレゴリアとヴァジアの二人だけ。


「そうは言うが……今やお前は大国の顔ではないか」


「実権はお前の方が握っているだろう」


「どうだか。今回の事で、それも危うかろう」


「今回の事とはどっちだ?」


「抜かせレゴリア。随分と面倒な者の助力を得ているようだな」


「調子が出てきたじゃないか」


自分の名を呼び捨てにされ、懐かしさを感じるレゴリアは、軽く笑いながら自分の分とヴァジアの分の酒を注ぐ。


「戻る所を引き止めた理由はアレか」


「立場上、水面下で対立しているとは言え、国の事を考えて居るのは同じ。お前も知っておいた方が良いだろう。

眠王――常峰 夜継。それが市羽……ひいては異界の者の手綱を握る者の名だ」


「名は聞いている。だが、本人は顔を見せなかったようだが?」


「その周りを知っているか知っていないかでは大きな違いだろう。それに、今回はどうやら国として来たらしいしな」


「ふむ。確かにそうではあるな。

此度、使いとして来た柿島 永愛という娘も得体が知れない者ではあったが、やはりその後ろに控えていた者……あの男」


「下手に動けば、俺達もただでは済まなかっただろうな。お前でも厳しいだろ?」


「厳しいどころではない。完全に私が殺されている。相手取るならば、相応の準備をして……やっと厳しいという状況に持ち込めるだろう」


名すら名乗らなかったルアールの姿を二人は浮かべ、一息つく為に酒を呑む。


「三大国が建国を認めたと聞いた時、その判断を疑った。魔王メニアルを下したと通達が届いた時も同様に。だが、その立場であれば私も同じ判断をしたかも知れん。

レゴリア、今回眠王の行動、何が目的だと考える」


「ギナビア国を名を利用して、眠王が所有するダンジョンを公にする事。柿島の口からも出ていただろう……眠王はダンジョンを商業利用するつもりで、その足掛かりとしてギナビア国の名を使うつもりだ」


「それは理解している。だが、眠王の国には魔族が多いはずだ。

なにせ、魔王メニアルとその配下を全て抱えてたと報告が入っている。そんな場に、人間を招くつもりか?

眠王の最終目的が見えてこんのだ」


「俺も知らん。

世界平和を謳っている訳でもなく、その思想がある素振りもない。あくまで、敵対しなければ協力者である事を主張する。


ログストアに送った奴の話では、帰還方法の確立を目標としているらしい……が、それは目的の一つでしかないだろうな」


再度二人は酒を呑む。

そして、空になったグラスに注ぎ、もう一口。


「まぁ、良くも悪くも眠王は影響力がある。

今回の件も、ヴァジアとしては早々にケリを付けておきたいだろう」


「死神か」


「そうだ。コヌチルはお前の派閥だったはずだが、それが殺された。だが、俺の差金でもないとなると……外部からの何者か、野心持ちが勝手に行動をした事になる。

ただの殺人ならば警戒には値しないが、その手際と技量は警戒に値するものだ」


「トルガスはなんと?聞きにいったのだろう?」


「知らんってよ」


「であろうな」


ヴァジアが目を閉じ、同期であり既に戦線から身を引いた友人の姿を浮かべる。国を思う気持ちは同じであったが、そのやり方は違った。


レゴリア然り、トルガス然り。

いや、トルガスに至っては家族を持ち、家庭の為に、隠居を選んだ。


今では懐かしい思い出の一つ。

それは、他の二人も同じである。


「眠王の手の者の手際、今回はそれを見る事にしよう」


「元より、そのつもりで話を進めている。

だが良いのかレゴリア……敵対派閥は私で無い方がやりやすいのではないか?」


「そうでもない。

立場を抜けば、お前は信頼に足る人物だ。仮に何かあったとて、お前が居ればと考えられる。

それに、お前の考えなど手に取る様に分かる。これ以上にやりやすい相手は居ない」


「言ってくれる。私とて、レゴリアの考えなど掌で転がせるわ」


二人はその後も酒を飲み、久々の雑談に興じ、懐かしい時間を過ごした。

その様子を、いつの間にか入り込んでいた赤い蝙蝠が聞いているとも知らずに。

更新……ただでさえ遅れ気味なのに、ちょっと体調崩しました。

早急に治すよう、がんばります。


テンポも、もう少し良く出来るようにしなければ……。


ブクマありがとうございます!

励みになります!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 漆の態度が気持ち悪すぎます。百合とか同性愛とかの話ではなく誰にでも性的な態度を取っているのが不快でした。
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