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眠れる王  作者: 慧瑠
見えてくる意思

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71/236

お好きにどうぞ

短めです

消えた音、気が付けば落ちいた色。その数秒後に、全てがゆっくりと戻ってくる錯覚が見ていた者全てを襲った。


「一体何が……」


審判役であった教官が呟きながら状況を確認すれば、全員が地に伏し、完全に気を失っている。やっと状況に意識が追いついた教官が慌てて訓練兵の容態を確認すると、どうやら本当に気を失っているだけで、死人がいる様子はない。


「私の勝ちでいいかしら?」


この現状を引き起こした市羽は、始めと変わらず悠然とした様子で立っている。


当然、審査の余地はない。

もう一度状況を確認した教官は片手を上げ、いつの間にか少しずつ増えていた観戦者に聞こえる様に宣言した。


「勝者、勇者様!

生徒共を運ぶ、見ている者で手が空いている者は手伝ってくれ!」


教官の言葉を聞いていた者達が集まり、訓練兵達を運ぶ準備をする中、市羽は特に手伝う事はせずにレゴリアが座る場所へと移動すると、そこには見知らぬ人物が一人増えていた。


「お初にお目にかかります勇者様。私、ギナビア国軍元帥ヴァジア・ベンルベド。贈呈式の際は、事情により顔をお出しする事はできませんでしたが、以後お見知りおきを」


「ご丁寧に。私は市羽 燈花よ」


レゴリアよりも老いを感じさせる風貌だが、纏う雰囲気は殺伐とし貫禄がある男は手を差し出し、市羽も応え握手をする。

それだけで市羽はヴァジアから実力も感じ取り、刃を交えた場合のシュミレーションを頭の中で巡らせた。


この場で斬りかかっても躱され、更には反撃で自分の腕が裂かれて終わる。魔法を使ったとしても、発動を悟られ、最速で先手を打ってくるだろう。

もしやり合うならば、少し距離を取ってからでないと、今の自分では不利な状況から始まる所まで市羽は読み取れていた。


埋められない差ではないが、現状では分が悪い。それが市羽が出した結論。


「中々に剛気なお嬢さんだ。これがレゴリア王の新しい飼犬……隠し玉ですかな」


市羽から漂う雰囲気で、実力を読み取られた事を察したヴァジアは、隣で不服そうな顔のレゴリアに問いかけた。


「そんな事を言いたくて、わざわざ顔を出したのか?お前とは長い付き合いだが、そんな勘ぐりを口にする奴だとは知らなかったな」


「勇者様が来られると言うのに、お出迎えがレゴリア王一人と言うのも失礼でしょう」


「名ばかりの王一人では荷が重いかもしんな。実権は、お前の方が持っているのも事実だ」


「ハハハ。私の意見など、王の名の前ではあってないようなもの。現に、勇者様が来られていると知ったのも数刻前の事。

知るのが少し遅れれば、危うく王都を離れてしまう所でしたよ」


「今日は随分と喋るじゃねぇか。酒でも入っているのかヴァジア」


「いえいえ、若者の前。ましてや勇者様の前ともあれば、良い印象を受けていただきたい。なんでしたら、出立は明日にズラしているので、今晩にでも食事会を開いて頂ければ、私も一層親睦を深めたいと考えていますよ」


レゴリアとヴァジアの仲が悪い事は周知の事実であり、二人の会話が明らかにギクシャクとしている。ルコを含めた周りも止めるどころか、会話に混ざりはしないものの、護衛同士の睨み合いの様な構図に発展していた。


「という事らしいが?勇者はどう考える」


二人の様子を見ていた市羽はレゴリアに問われ、すぐには答えず護衛の面々の様子も観察してから答えた。


「別に良いわよ。後々、私の顔は知っておいて貰ったほうが、私も楽でしょうし」


「ご理解がある方で嬉しい限りですな」


「はぁ……ルコ、各方面に伝達。

今宵、勇者の歓迎会を行う。職務優先、余裕があれば顔を出すように」


「ハッ!」


市羽の答えに喜ぶヴァジア。逆に大きく溜息を漏らしたレゴリアは、隣で待機していたルコに予定を伝え、それを聞いたルコは敬礼をしてから連絡をするために駆けていった。


「では夜まで時間があるので、どうだろうか?先に下の者達に顔見世を済ませておくというのは」


「悪くはない。勇者はそれでいいか?」


「そうね。どうせ今日はレゴリア王に時間を割く予定だったから、おまかせするわ」


「素直に肯定できねぇもんかねぇ…」


市羽の返答に呆れたレゴリアは、一人ボヤキながら席を立ち、おそらくヴァジアの指示で既に隊列を組み待っているであろう軍の者達が居る場所まで足を進めた。


-


市羽がレゴリアとヴァジアに案内をされている頃、エニア達と別れた城ヶ崎達は王都の見物に勤しんでいた。


「ショッピングとかには向いてないね」


「そうだね。道行く女の子達も、中々ボディラインが分かりづらい服ばかりだね」


「今、月衣さん、ショッピングって言った気がしたんだけど」


「品定めって意味合いでは同じよ同じ」


そんな会話も程々に一人だけ違うモノを見ている中、後ろが騒がしくなり振り返ると、大きな馬車が道のど真ん中を二頭の馬とは違う獣に轢かれながら闊歩して来ていた。


「合わせて逸れようか」


「今は面倒事を起こしたくないしねぇ」


城ヶ崎達も周りの空気に合わせて道を開けていると、豪華な装飾に家紋が入った馬車と、後ろからは更に一回り大きな馬車が見える。

その二台の馬車が過ぎるのを待っている城ヶ崎達の耳に、周りの会話が入ってきた。


「あの家紋、ファンディル家だ」「また奴隷を連れてきたのか」「確か先週も連れてただろ」「どっから金が出てくるのかねぇ」「言っても貴族だし。奴隷売買にも手を出してるからな」「要らなくなったら自分の所の商品ってか」「そんな所だろ…裏で汚ねぇ事もしてるみたいだしな。死神に目を付けられるのも時間の問題じゃね」「おぉ、こわ」


会話を耳に、改めて馬車に目を移すと、いつの間にか自分達の前を通過する時だったようで、少しすれば二台目の大きな馬車の中が確認する事もできた。


目から生気を感じず、抵抗する事も無く馬車に揺られる女達。その一番奥には、六角の氷柱が押し込められている。


「奴隷ねぇ。漆さんは、ああいうの見てどう思う?」


「中に居る女の子達が笑顔だったら最高ね。飛び込みたいわ。……という気持ちもあるんだけど、今はあの奥の氷柱が気になるかな」


「やっぱり?

明らかに異質だよね。流石にカキ氷用なんて考えは、おかしいもんね」


「あの氷、なんか血が通ってるみたいだし」


「生き物なのあれ」


城ヶ崎が漆の言葉を聞いて、再度氷柱に目を向けるが、やはり生きているとは思えない。一見、ただの氷の塊だ。

漆も漆で、良く良く観察をし直して、見えている血の流れが不安定な事ぐらいしか分かっていない。


二人が首を軽く傾げて見ていると、一緒になって見ていた藤井が二人に呟いた。


「中の人達、二人は処置しないと死んじゃうね。氷の方も、今夜辺りが峠かも」


「それほんと?」


藤井の言葉に漆が聴き直すと、藤井は軽く頷いて言葉を続ける。


「うん。

その三人だけ死線が下がって切れかかってる。結び直してあげてもいいけど、流石にもうちょっと近寄らないと無理ですね。

それに、氷じゃない二人の方は、毒から来てるみたいだから、そっちの処置しないと無駄に苦しめるだけになっちゃいます」


瞳孔の奥に青みが生まれている藤井は、馬車の中から目を離そうとしない。本人が言うように、'死の支配人'を持つ藤井には城ヶ崎や漆とは違うモノが確かに見えている。


無数に揺らめく死線の中で、絡みつく様に纏わりつき、今にも切れそうになっているモノが三本。それに触れて処理する事も、切る事も藤井にはできるが、こうも動かれ離れられては手元が狂う可能性もある。

何より、藤井にとっては別にどうにかしたい訳ではない。


「藍ちゃんが言うなら本当なんだろうけど……周りの反応を見る限り、手を出したのがバレたら問題だよね」


「バレたら問題だねぇ」


「……一応言っておきますけど、私は反対ですよ。

最初から目の前に居るならまだしも「大丈夫、大丈夫。藍ちゃんは何も見てないし聞いていない。そんなバレる事は私達もしないよ。ね、月衣」


「そだねー」


「はぁ……」


言葉を遮ってまで否定はしているが、漆が握る自分の手は一層にぎにぎされているし、明らかに二人の目は好奇心と獲物と欲と、周囲で揺れている死線も触れたくなさそうに避けている様子を見て、藤井は小さくため息を漏らすしかできない。


漆と城ヶ崎は、藤井のため息なんて聞こえず、そのまま馬車の後を追うように人混みの中へを消えていく。


-


時は過ぎ――夜。


ギナビア国王城では、使用人達がバタバタと慌ただしく駆けていた。それもそのはず、突然舞い込んだ予定は、国王であるレゴリアと同等の権力を持つヴァジア元帥が主催で行われている食事会。

更に招待されている客人が勇者とくれば、粗相があれば最悪打首までありえる。


そのため、現状で用意できる最高のもてなしをする為に、ある一室の前以外では多くの使用人……だけには留まらず、階級の低い兵までもが手を貸していた。


そしてある一室……使用人達も兵達も足音を立てず、息と身だしなみを整えてから出入りする部屋の中では、まばらに席は空いているものの数人の男女が席に座り、食事が並び終えるのを待っている。

護衛として立ち並ぶ者達は表情を一つ動かす事無く、何時何時(いつなんどき)事が起きても動ける様に張り詰めた空気を保っている。


「すまんな。何分、急遽入れた予定だ。まだ準備が終わらん」


「気にしていないわ。私から言わせてもらえるのなら、別にここまでしなくても結構よ」


「勇者様をもてなすと言うのに手を抜いたとあれば、我がギナビア国の恥。急遽とは言え、この手際の悪さ……食事ぐらいは、良いモノを準備させてもらいたい」


「そう。お好きにどうぞ」


レゴリアの言葉に、対面に位置する場所に座る市羽が答えれば、レゴリアの隣に座るヴァジアが市羽へ謝罪をする。

市羽もそれ以上言い返す事はせず、早めに用意されたカップを飲み干し空にすれば、後ろで市羽の護衛として控えているルコが手際良くおかわりを用意して、時間は過ぎていく。


他に座る者達も市羽に視線を向け観察したり、目を閉じて準備が終わるのを待っていると、最後の料理を乗せた台車と一緒に二人のメイドが部屋に入ってくる。


一つ一つと二人のメイドが料理を並べて行くのを見ていた市羽は、片方のメイドの違和感に気付き目で追っていた。すると、市羽が違和感を覚えた方のメイドは市羽に近付き、料理を並べる流れで誰にも気付かれない速度で市羽の膝上に折り畳まれた紙を置く。


当然市羽だけは紙に気付き、そっとバレない様に内容を確認すると。


今夜泊まる店。

不思議な氷。

とある場所が欲しい。


と三つの事が簡単に書かれていた。

内容から、さっきの違和感を覚えたメイドは城ヶ崎が変装していると理解して、受け取った紙をポケットの中へと落とすと、自然な流れでワザとスプーンを落とす。


「あら、ごめんなさい」


「すぐにお取り換えします」


落ちた音で視線が集まる中、悪びれた様子も無くスプーンを拾おうとすると、メイドに変装した城ヶ崎がすぐに駆け寄り新しいスプーンを用意した。


「ありがとう。行っていいわよ」


城ヶ崎からスプーンを受け取った市羽が言うと、軽く一礼をしてから城ヶ崎は一緒に入ってきたメイドと共に台車を押して出ていく。


何気ない会話だが、それは市羽からの返答であり、城ヶ崎もそれを分かっていて部屋を出ていった。


「さて、食事も出揃った所で挨拶からしようか。俺とヴァジアは済ませてある。ペニュサ、お前から順だ」


「アタシから?まぁ、いいけど」


メイド二人が部屋を出ていったのを確認したレゴリアは、空いている席を飛ばし、目を閉じていた一人の名を呼んだ。

ペニュサと呼ばれた女性は眉間にシワを寄せ、少し面倒臭そうに立ち上がり市羽に向けて敬礼をした。


「ギナビア国空軍の'ペニュサ・パラダ'。階級は将軍。以後よろしく」


自分の紹介を終えたペニュサが席に座り直すと、次の人物が立ち上がる。


「ギナビア国陸軍所属'ナールズ・グレンド'。階級は同じく将軍に就かせてもらっている。どうぞ、よろしく」


同じ様に、海軍第一部隊隊長'フォミュール・ロニア'、陸軍第一部隊隊長'カジェラ・モーポリア'の二人が挨拶を終えると、市羽に順番が回ってくる。


「眠王が収める国の全権大使の市羽 燈花よ。こんな場を設けて頂いて嬉しい限り……これからよろしくお願いするわ」


自分の紹介を終えた市羽が座ると、レゴリアは軽く手を叩き食事会の開始を合図した。


食事中の話題は、市羽と訓練兵達の演習の話になり、いつの間にか軍の構成の話になっていく。

軍の統括として元帥。陸海空にそれぞれ将軍を据え、それぞれに大きく分けて三部隊。更に下に細かく部隊がある事を市羽が説明されていると、慌てた様子で一人の兵が扉を叩き入ってきた。


「何事だ」


「お食事中失礼します!大至急ご報告があり、参じました!」


「話せ」


ヴァジアが兵に問えば、相当急いだのか息切れした兵が敬礼をして許可を貰い報告を続けた。


「ギルド伝いで西方防衛拠点より緊急連絡!第一防衛ラインが魔族の猛攻により陥落したようです!

防衛にあたっていた陸軍第二部隊の二○一から二○四編制部隊は半壊、第二防衛ラインに撤退後、第二部隊隊長の指揮のもとで死守を継続中。

第二部隊隊長'ジェンル・ファンディル'様より救援要請が来ています!」


その報告に、食事会の空気など消え去り、控えていた護衛の兵達が簡易テーブルを用意して地図を広げる。


「ジェンルを失うのは惜しい。ヴァジア、すぐに動かせる兵は」


「ここから西方防衛拠点までは陸路だと山を越える事になる故、半月は掛かる。海路も道は無い、最速で動かすのであれば、やはり空路だろう。

先んじて空の中隊編制で送り、陸は連隊編制で送り込みたいが、魔族側の数は」


「最終観測時では二十万と報告が届いて以降は分かりません」


連絡を持ってきた兵の言葉に、護衛達が地図に分かりやすく色が付いた石を置いていく。


「ジェンルが二十万程度で第一防衛ラインを突破されるとは考えにくい」


「となれば、増援を考えるべきですな」


そっちのけで進んでいく会話を耳に、少し離れた所から地図を見ていた市羽はポケットから紙を取り出しもう一度内容を確認する。

そしてレゴリアとヴァジアの会話に割って入った。


「そのファンディルって人は、優秀なのかしら」


「貴族の家系だ。弟が家督を継ぎ、腕を買われ軍に入ったのが兄のジェンルだ。剣の腕前も当然、指揮力も見事なもの。ここで失うには惜しい人材だ」


レゴリアからジェンルの事を聞いた市羽は、そう…。と答えると地図に視線を落とし、その視線を同じ様に地図を見ていたペニュサへと向ける。


「ん?」


市羽の視線に気付いたペニュサが目を合わせると、テーブルの縁に並べられた石の中で小さいモノを手に取りながらペニュサに問う。


「空路なら空軍の出番よね?ペニュサさん、ここから予定している第二防衛ラインまでは、どれぐらい掛かるのかしら?」


「飛竜を休まず飛ばせして四日。休憩を挟むなら……余裕見て五日と半日だな」


ペニュサが少し悩み答えれば、軽く頷く市羽は次にレゴリアとヴァジアに向けて提案をした。


「レゴリア王、ヴァジア元帥、モノは相談なのだけれど……私を使ってみる気はないかしら?」


突然の言葉に顔を顰めるヴァジアと、何か言い出しそうなレゴリアよりも先に市羽は続ける。


「まだお互いに信用は出来ていないでしょう?

今後取引があった場合、円滑に進める為に、一度ここで恩の売り買いをしたいの。


私からの要求は二つ。

開発地区の一角を少し欲しいの。ほんの少しでいいわ。

それと、貸し一つでどうかしら」


「それで勇者は西方拠点の防衛に当たってくれると?」


市羽の言葉に驚きを見せる者達も居る中で、レゴリアは問う。すると、市羽は余裕の笑みを見せ悠々とした態度で手に持っていた小さい石を、赤い石の上に置き


「そうね。望むなら第一防衛ライン、取り返してきてあげるわ」


事もなげに告げた。

そろそろ一回、一方を入れたい衝動と、リュシオン側の様子をどうやって入れるかで頭を悩ましています。


遅くなってすみません。



ブクマありがとうございます!

評価、感想もありがとうございます!!

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