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眠れる王  作者: 慧瑠
見えてくる意思

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70/236

いい勉強になったわ

少し短めです

エニア達を相手に手品を見せびらかし、城ヶ崎が子供たちから人気を得ている頃。ギナビア国王城に到着した市羽は、レゴリアとルコと共に訓練場に来ていた。


「すまんな勇者。今日は訓練兵共の見学が重なっていたんだ」


「生徒の子達も困惑してるように見えるけど……急遽予定を組んだのではなくて?」


「王城に来る機会も、俺に会う機会も早々無いからな。緊張でもしているんだろう」


「そういう事にしておくわ」


「眠王といい、一国の王を相手に口が減らねぇなぁ」


「私達の王様が引かない以上、ギナビア国を任されてる私が引くわけないじゃない。形式を取るなら私は、眠王が収める国がギナビア国へ派遣した全権大使よ」


「その言葉の意味を理解して使っているのか?」


「重要案件に関しては、常峰君の意見を煽るけれど……著名、調印、保護、ほぼ一任されていると考えて貰ってもいいわ。私が否を示せば、そうなると思ってちょうだい」


「勇者が来るのは喜ばしいが。大使を寄越すなら、もっと扱いやすそうなのを寄越して欲しいものだな」


「レゴリア王から高評価を頂けるなんて嬉しい限りね。掴みは上々の様で、私も一安心よ」


「本当に大したもんだ」


ルコの他にも、兵達が囲む中で椅子に座り訓練兵の実技訓練を見ながらレゴリアと市羽は会話を続ける。

そのやり取りに少しピリピリとした空気も流れ、近くで会話を聞いているルコや兵達は当然、会話は聞こえずとも空気だけは伝わってくる訓練兵達も、いつも以上に緊張が襲い、動きがぎこちない。


「止め!これより、レゴリア王の御厚意を受け、今朝連絡した通り特別演習に移る!」


準備運動と軽い打ち合いを済ませた訓練兵達は、教官の言葉で直ぐ様レゴリアの前へ整列をする。


「これから何をするのかしら?」


特別演習の内容を知らない市羽が聞くと、隣に座るレゴリアは意地が悪そうな笑みを浮かべ答えた。


「大使と認めるかは、俺側にも権利がある。俺に意見するに値するかは…」


「ひとまず実力を見せろ。そういう事ね」


これから何をするかを理解した市羽は、椅子から立ち上がり教官の隣へと歩いていく。


「では、これより勇者様が手解きをしてくださる!相手を願う者は「全員同時でいいわよ」…は?」


整列する訓練兵の前に立った市羽は教官の言葉を遮り、悠然とした態度で告げた。


唖然とする教官と訓練兵、ルコ達を他所に市羽は目の前の空間を指でなぞれば、指先を追いかける様に鞘に収められた一振りの刀が現れる。


「刃引きはしてあるわ。さぁ…始めましょう」


静かに告げられた言葉に合わせ変わっていく市羽の雰囲気に、向かい合う訓練兵は飲まれ、周囲の空気は緊張を増長させていく。


完全にやる気になっている市羽に声が掛けづらく、教官がレゴリアに視線を送ると、レゴリアは言葉にしなくても愉快だと伝わる表情のまま頷き返す。

この場に置いて、レゴリアがそういうならば否定する者はいない。


教官はレゴリアの指示に従い、市羽から少し距離を取り、訓練兵達に指示を出す。


「勇者様からの提案により、貴様等は全員で相手をする様に。

普通ならば認められないが……空気に飲まれ、怯えている貴様等の姿を見れば妥当だと思えてきた。


ハッキリ言おう。貴様等は舐められている。全員で問題ないと、勇者様は判断したのだ。

貴様等の中には、勇者様より歳が上の者も居るが、戦場では強者が上だ。力で足りないのであれば、技術で埋めろ。技術で及ばないのならば、知恵で埋めろ。

ありとあらゆるモノを使い、勝利したものが強者だ。勇者様一人に、貴様等は五十という数で挑むが……敗北など認められない事は理解しているだろうな」


「「「「「ハッ!!」」」」」


「合図は訓練用のものを使え!レゴリア王に、不甲斐ない姿は見せるなよ!」


「「「「「ハッ!!」」」」」


教官の鼓舞で、飲まれていた空気が切り替わった訓練兵達は各組でまとまり、各自の役目に合わせて準備をしていく。


その間に、教官は市羽の元へ戻ってきた。


「では勇者様、生徒達をよろしくお願いします」


「えぇ。私もいい経験をさせてもらうわ」


「非常に優秀な生徒達ですので、あまり舐めて掛かると取り返しのつかないお怪我をするかもしれませんので、お気をつけください」


「それは楽しみね」


レゴリアの判断とは言え、自分の生徒達を馬鹿にしたような提案に、教官の言葉にも声にも棘がある。だが、それが分かっている市羽は、飄々としているにも関わらず、自身に触れる事を禁止する空気を纏い答えるだけ。


教官はそれ以上言う事はなく、訓練兵と市羽から距離を取り手を上げた。


「これより特別実践演習を行う。

致命傷が確認された場合や、明らかな過剰攻撃が見られた場合は介入する。

それ以外では、敗北宣言及び、勇者様か貴様等全員が行動不能になった場合で勝敗を判断させてもらう」


反論がない事を確認する為に間を置き、市羽も訓練兵も同意の意思を示した事まで確認した教官は、上げていた腕に力を入れ、振り下ろし……


「開始!」


その声が響き渡る。――同時に、市羽に二十を越える魔法が襲いかかった。


「ルコ、勇者に鑑定を」


「分かりました」


爆音と砂煙で市羽の姿が見えなくなる中で、レゴリアの言葉に従ってルコは鑑定を使い……その表情が驚愕に染まるまで、時間は掛からない。


「報告は」


「す、すみません。ご報告します」


いつまでも驚くばかりで、次の言葉が来ないレゴリアが問うと、自身が見たままの事をルコは報告した。


「異常スキルは'勇者'のみですが、EXに'刀神への可能性'という見たことのないスキルを。そして、他のスキルですが……少し目を疑う程の数のスキルを有しています」


「それほどの数を持っているのか」


「武器は粗方、魔法に関しても属性はほぼ網羅して……えっ?」


見たままを報告していたルコは、ただでさえ疑わしい情報を目にしていたにも関わらず、新たに飛び込んできた情報に驚きを通り越し、理解が追いつかなくなる。


「どうした?」


「市羽様が鑑定を…」


「持っていたのか?」


「いえ、今……覚えました」


「先天性のスキルだぞ?見間違いじゃないのか?」


「た、確かにさっきまでは無かったんです!でも、今スキルに追加されました」


ルコの報告を聞いたレゴリアは、何かしらの偽装を行った可能性を考えながら晴れ始めた砂煙から視線を外さない。訓練兵達も、追撃は過剰と判断して様子を見ていた。


すると、自然に晴れていく砂煙には人影が一つ。影は悠然と歩き、出てきた姿には傷一つ、服にも汚れ一つない。


「今程度なら、遠慮無く追撃してきても構わないわ。でも一応お礼を言っておくわね。

あまり覗かれるのは良いモノではなかったけれど、便利なスキルを覚えることができたわ」


市羽の視線がルコを捕らえた瞬間、ルコは自分が持つ鑑定阻害の魔道具が反応したのを確認した。


「熟練度を上げないと、使い物にはならなそうね」


ルコに市羽の声は聞こえていないが、阻害された事も理解している様子で視線を外されたことに、異界の者の異常性が頭を過る。そして同時に常峰を思い出し、得体の知れない存在に底知れぬ恐怖を感じた。


市羽は、ルコの様子に気付くも興味を失い、その視線を訓練兵達へと向ける。


あの攻撃で無傷である市羽に対して警戒が高まり、不用意に行動を起こせない訓練兵達に、市羽は少しだけ溜息を漏らし一歩踏み出す。


ただの一歩。


それだけの動作だったはずなのに、訓練兵には市羽の姿が消えたように見え、次に市羽の姿を捕らえた時には、前列に立っていた一人の訓練兵が鞘に収められた刀で胸元を小突かれ軽く小さな音が響き、吹き飛ばされる姿と同時だった。


「一言だけ。

貴方達から学ぶものが無いと判断した瞬間、この演習を終わりにするわ」


明らかなる挑発。

いつでも終わらせられると、市羽は言う。その言葉を受けて訓練兵達は苛立ちを覚えるが、無闇に突撃する者は居ない。


警戒を怠らず、数を利用して市羽を取り囲み、槍持ちが市羽の背後から先手を打った。


死角からの一撃。

だが、市羽は振り返る事もせず、動くことも無く鞘で槍を弾き上げ、その一連の流れの中で槍を突いてきた訓練兵の顎を打ち上げた。


槍持ちを皮切りに、前衛の者達が迫り、市羽を直接狙わず回避行動を制限する様に魔法が放たれる。


左右から振られる剣を避けようとすれば、その先には火球が迫り、大きく回避行動を取ろうとすれば、残りの前衛が明らかに狙っているのが市羽には分かっている。


故に、敢えて、市羽はその場に留まる選択をした。


「貰った!」


左から剣を振っていた訓練兵は、確実に市羽を仕留めたと思い声を漏らす。


「何をかしら?」


市羽は後ろから迫る剣を鞘を使い上から抑え軌道を変えると、そのままバク転の要領で二本の剣の間を抜ける。そんな避け方をされるとは思っていなかった剣を振っていた二人は驚きの表情を浮かべるが、他の訓練兵は市羽の動きに反応して、着地の瞬間を目掛けて各々武器を突き立てようとした。


しかし、その刃すら市羽には当たらない。


迫る刃の隙間に鞘を突き立て、身体を垂直の状態で停止して避けた市羽は、交差する武器を足場に軽々と着地をする。


それでも追撃は止まず、牽制をしていた者とは別の者が市羽へ向けて魔法を発動。頭上から降り注ぐ魔法を見上げた市羽はソレに向け手をかざし呟いた。


「'水壁'」


市羽の呟きと共に頭上に現れた小さな魔法陣は周囲から水を掻き集め、小さな渦が出来上がり、直撃する予定だった魔法だけを防いでいる。そして、そっと市羽が柄に手を置くと――チン。


魔法が着弾する音に紛れて響くその音は、不思議と全員の耳に届いた。


「'抜刀・玉堂星'」


音に遅れ、聞こえた声。同時に市羽が足場にしていた武器は、まるでガラスが砕け散る様に粉々になり、中央に降り立つ市羽の周りで光を反射している。


その有様は美しく、武器が失われたのにも関わらず見惚れてしまうほど。


「'納刀・龍高星'」


市羽の刀は既に鞘に収められている。いや、元より抜かれた瞬間を捕らえられた者はいない。

それでも遅れて聞こえた二つ目の言葉は、一度抜かれた事を指し、響いた小さな音の間に二つの技を市羽が使っていた事を意味する。


察した数名の者が慌てて行動を起こす前に突風が吹き荒れ、防御の間すら与えず、破片となった刃が訓練兵達を襲った。

後方で魔法を使っていた者達は、急ぎ対策を図り防御魔法を展開。数名の救護を担う者が、負傷者の治療を始め、軽傷で済んだ者達は別の武器を手に取り構え直す。


市羽は動かず、訓練兵達の様子を眺めながら次の攻撃をただただ待つ。


訓練兵達も分かっている。自分に先手を譲り続けている市羽にはまだ余裕があり、まるで誘う様に隙だらけな態度である事を。だが踏み込めない。


薄々過り始めた考え……自分達は、一撃すら与えられないのではないか?

その考えが、既に敗北である事を理解してしまい、一歩を踏み出せない。


「まさか、この程度で終わりでは無いわよね?」


訓練兵達はその言葉が挑発などではなく、市羽の本心から漏れていると分かってしまった。だからなのだろうか……下手な挑発よりも彼等は火が付き、無策のまま、感情に任せて飛びかかる者達が居た。


「'風の刃 眼前を切り裂け

 ―ウィンドエッジ―'」


飛び掛かった者の中で薙刀を持った者が魔法を唱えると、風が揺らめき、そこから刃となった風が市羽を襲う。

直線的な風の刃を、半身逸らすだけで避けた市羽に、薙刀の刃が足元を掬う様に振られた。


市羽が刃を鞘で押さえつけ止めようとすると、別方向から援護するように飛んでくる魔法に気付き、軽く飛び上がる事で刃は避け、魔法に向けて手を翳し防御魔法を発動しようとする。

だが、振られた薙刀は途中で止まり、刃は飛び上がった市羽に向けられ、訓練兵はそのまま斬り上げた。


「へぇ…」


訓練兵の動きに驚嘆の声を漏らした市羽は、鞘に飛んできている魔法を当て、その反動で身体の向きを強制的に変えると、振り上げられた刃に鍔を引っ掛けて体勢を戻し着地する。が、着地した市羽の眼前には薙刀の訓練兵が握る短剣の刃が迫っていた。


「'空蝉'」


短剣が刺さる瞬間、市羽が呟くと、捕らえたはずの短剣は空を斬り、訓練兵の後ろに市羽の姿が現れる。


「貴方……他の人達と少し動きが違うわね」


「優秀なもんでね」


突然市羽が消えた事に驚く様子もなく、薙刀の石打の部分を使い、後ろにいる市羽の頭部を狙う。市羽も慌てる事無く顔を傾け避けたが、そのまま回転する薙刀は、斜め下から斬り上げる様に市羽を襲った。


同時に様子を見ていた他の訓練兵達も動き、周囲を囲む様に魔法も放たれる。


「確かに優秀ね」


周囲瞬時に確認した市羽は、一歩だけ下がり片足だけ膝を地面に付けた。


「おいおい…マジかよ」


薙刀を振り上げていた訓練兵は、驚きで声を漏らす。それも当然だ。

下から見上げる市羽は表情一つ崩さず、何より、それだけで全ての攻撃を避けてみせたのだ。


市羽は瞬時に全ての攻撃の軌道を読み切り、安全な位置と体勢を導き出した。少しでも動けば魔法か刃が触れる位置だが、動かなければ何一つ攻撃が当たらない結果を。


訓練兵は驚きのあまりに止まっていた手を動かし市羽を狙うが、僅かな間は市羽にとって十分な時間であり、刀の柄に触れればまた軽い音が響く。


「'抜刀・玉堂星'」


先程も聞いた言葉。そして、先程の様に武器は粉々に刻まれる。

武器が破壊され、追撃ができなくなった隙に市羽は大きく飛び上がり距離を取った。


「少し私も調子に乗っていた事を謝罪するわ。

二度も武器を破壊してごめんなさい。今回はこれまでにしましょう」


「降参するのか?」


市羽が喋りながら刀をなぞると、指先を追う様に刀は消えていく。その様子を見ていた訓練兵達の中で、代表して薙刀を使っていた者が聞くが、市羽は軽く首を横に振り否定の意思を見せる。


「お詫びとして、少しだけ私も全力を見せようと思うの」


そう言って市羽が手を横に翳せば、柄だけが現れ。

その柄を握れば、刀身が姿を表す。


長く、美しく、靭やかな刀身は、そこだけで市羽の身長を越えている。剣先が現れる頃には、その刀身は実に三メートル程。


市羽が持つにはあまりにも大きすぎる刀に、訓練兵達が困惑していると市羽は手首を捻り、峰を訓練兵達へ向けた。


「ありがとう。貴方達のおかげで自分の未熟さが知れて、いい勉強になったわ」


魔力が込められていく刀身は幻想的なまでに輝き、透明になっていく。


そして、次の瞬間。




―'瞬刀・(かすみ)'―




音が消えた。

やっぱり、戦闘描写は難しい。こう……なんでしょうね!難しい!


更新、まだ遅れ気味ですみません。ちょっと立て込んでます。



ブクマありがとうございます!

評価もありがとうございます!


今後もお付き合い頂ければ、幸いです。

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[一言] うわぁ…市羽、天狗になってる…
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