アベックに昇格のご報告
更新、遅れ気味です。
「んで晴れてアベックに昇格と」
「いや、まぁ、そうなんだが…言い方古いぞ」
「連絡切ってから、どういう展開がありゃ一回のデートでそうなんだよ。え?何、この時間に訪ねてきたって事は、シーキーか畑に赤飯どうにかしてもらったほうがいいか?」
「それはまだだけどよ…」
「まだ…ね。この世界、小豆ねぇっぽいんだけどどうすっかなぁ……畑とかに相談か、この世界なりの祝い物で代用だな」
「なんか、わりぃな」
「馬鹿言え。こっちが愛想笑いに勤しんでる最中に、鼻の下伸ばしてたなんて聞いたら腹立つが、発展して付き合ったなんて言われりゃ祝いたくもなるわ」
あの後、手を繋ぐまではできた俺は、常峰に報告に来ていた。
時間は遅くなってしまったが、昼間は迷惑も掛けてしまったからな。一言ぐらいはと思って訪ねると、常峰はまだ起きていて書類片手間に、畑が試しに作ってみたピーナッツバターもどきを塗ったトーストとホットミルクを夜食として頬張っていた。
俺が来た時にはシーキーさんも居たんだが、常峰が気を使って俺と二人だけにしてくれて、とりあえず上手く言ったことだけ伝えると、驚いた様子を一瞬だけ見せた後はニヤつきこんな事を言っている。
報告と言っても、普通に関係が発展したことと、ユニークスキルに変化があった事だけを伝えた。
モクナさんは、自分の過去と今の目的を話し、できれば常峰にも言わないようにと口止めをされているんだ。
俺じゃ想像できない過去にも驚いたが、モクナさんは自分の家族を殺した魔族へ復讐しようとしている。その為に、俺を利用したかったらしい。
当然俺は手伝う気で居る。だが、常峰にそれを話す事はできない。口止めもそうだが、モクナさんのやり方を常峰は反対するだろう。でもこれはモクナさんの復讐で、俺はそれを手伝いたい。
まぁ、そんなのは言い訳で、始めから常峰に頼らずに俺がなんとかしたいだけの我儘でもある。
「なぁ、常峰」
「んー?」
俺が呼ぶと、ピーナッツバタートーストを口に詰めた常峰が俺を見る。
多分、どうしようも無くなったら俺は常峰を頼る。だが…どうしようも無くなった時、頼れる状態かは分からない。
だから聞いておきたい。
「もし俺がさ、モクナさんを優先してお前を裏切る様な事になったらどうする」
「別に、いんじゃね?」
「いいのかよ」
結構勇気のいる質問をしたつもりなんだが、あまりにも簡単に返答をされて、俺も呆れたような声しか出てこなかった。
そんな俺を横目に最後の一口を頬張り、ホットミルクで流し込んだ常峰は俺をしっかりと見据えて言う。
「お前が選んで決めたなら別にいい。それが俺の意にそぐわない事でも、お前の裏切りにはならんだろ。女に絆されたぐらいで完全に対立するならそれまでだろうが、俺は安藤が女とイチャコラしやがるのを見るのも悪くないと思ってる。
んな程度で、一々裏切りだのなんだのは思わねぇし言わねぇよ。ただそうだな…もし、本当に対立した時は……まぁ、それもいいだろ。
たまには、安藤と喧嘩をするのも悪くない」
「俺は嫌だよ。お前に敵う気がしねぇ」
「そうか?なら、そうならないように気をつけないとな。
まぁ、惚れた女の為に動くってのはカッコイイと思うよ俺は。それでもしも道を外した時は、ぶん殴ってでも引きずり戻してやるから。
やりたいようにやりゃいいさ」
「ありがとうな」
「ありがとうって……お前、俺が命くれって言ったら二つ返事したの忘れたのか?
俺の馬鹿に付き合ってくれてんだから、俺も付き合うのは当然だ。言っちゃなんだけど、俺も楽しいしな!
だから、俺に遠慮はすんなよ。ただし勝手に死ぬような真似は、本気で許さねぇから覚えとけ」
「肝に銘じとくよ」
常峰の言葉を聞いて、不安だった気持ちも落ち着き腹も括れた。
俺が席を立つと、常峰は軽く俺に手を振り見送るついでに一言だけ口にする。
「まぁ、気張れ」
「おう」
そのやり取りを最後に、俺は部屋を後にした。
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所変わって食堂では、岸達が集まり話に花を咲かせていた。
「まさか、マッスルナイトがモクナさんを落としきるとは……。女子視点から見ると、どうなんだ?」
「アタシは妥当な結果かなって思ったけどー……告白は三回目ぐらいがベスト派だからなぁ。ちょっと驚いてる所もあるねー」
「わ、私は…一回目でも……ぅん」
「デートまでにイベント積めて、好感度を見極めて臨機応変にだな」
「つか、デートってその気無いのにするもんなの?」
「いや…げんじぃとまこっちゃんは男だろ。げんじぃに関しては、画面の向こうだろ!」
五人が楽しそうに話している中、並木だけは思案顔で会話に混ざりきれていない。その事に気付いた橋倉は、並木の近くへと行きいつも以上に小さい声を漏らす。
「桜ちゃん?ど、どうか…したの?」
「え?あー、んー、ちょっとね。
前に読んだ一目惚れの結婚確率を思い出してただけ」
「ふぇ、け、結婚……」
「んふふ、何を想像したのかなぁ?」
結婚という単語を聞いて、顔を赤くする橋倉の頬を突きながらも、並木の中では別の事が頭を埋めている。
安藤とモクナのやり取りは聞こえていなかったが、確かに並木は'視て'しまっていた。安藤が渡した髪留めと主の証を確認する時に、たまたま目に入ってきた情報……モクナの所持スキルに'魅了'がある事を。
「そういや、話題のマッスルナイトは何処へ」
「王様に報告しに行くとか言ってたよー」
岸と古河が話していると、食堂に安藤が入ってくる。
「なんだ、岸達もまだ起きてたのか」
「そりゃもう盛り上がる話題があるからなぁ」
「恥ずかしいからやめてくれ」
安藤は並木達が尾行していた事は知らない。それでも知っている事に疑問を覚えないのは、常峰の所に行く前に、岸達にカマをかけられ白状していた。
もちろんモクナとのやり取りは話さず、どうなったかの結果だけを伝えている。
「王様は何か言ってた?」
「いつか赤飯を用意してやるって言われた」
「ふーん…」
並木は、戻ってきた安藤に何気なく聞いてみたが、その様子から魅了の話しが出ていない事を薄々察した。安藤が気付いていない可能性は高く、並木から見ればモクナが安藤を利用している様にしか見えていない。
魔族の一件や、ログストア国の不安定さは常峰から聞いている。実際、こっちに来た時は常峰が被害にあっているのも事実で、幾ら協力関係だからと言っても手を出してこないなんて事はないと並木は考えている。
安藤にスキルを使えない現状では、並木は不安が拭いきれていない。むしろ、安藤すら警戒の対象へとなり始めていた。
できれば身内を疑いたくはない。そうとも考えている並木は、静かに椅子から立ち上がり安藤の隣に立つ。
「ねぇ安藤君、私のスキル使っていい?」
「ん?……構わないっちゃ構わねぇけど、視た所で前と変わんねぇぞ。魔族の魅了を警戒してるなら、そっちも常峰から大丈夫だと言われてるし」
「そっか。ならいいや」
並木の言葉に、岸達は不思議そうに首を傾げるが、安藤だけは冷静に疑問に思う様子も無く返してくる。
その返答は、並木からすれば聞いてもいない'魅了'に触れた様に聞こえ、視られる事を警戒している様にも聞こえた。
これ以上は無駄だろう。と考えた並木は、そのまま椅子に座ることは無く食堂を出ていく。
「桜ちゃん?もう寝るのー?」
「ううん、ちょっと私も王様に報告があるの」
「おっ?もしかして…」
「それはないよ。私、何を考えているか全く分からない人って苦手なの」
ヒラヒラと手を動かし古河に答えた並木は、今度こそ食堂を後にした。
食堂の扉を抜け、常峰の寝室前へ来た並木は、軽く部屋の扉を叩く。
「はい」
「並木だけど」
「どうぞ」
常峰の言葉を聞いた並木が扉を開けて中に入ると、少し太めの針を使って紙に穴を開けている常峰君の姿があった。
並木が入って来た事を一瞬だけ確認した常峰は、そのまま作業を続け、穴に紐を通して紙をまとめていく。
「並木だけか」
「私だけ。少し王様に伝えておきたい事があってね。……今、大丈夫かな?」
「構わないよ。
地区ごとの名簿をまとめているだけだから、話は聞ける」
常峰が紙から目を離し、少し指を動かすと並木が座れるように椅子が現れる。
並木は遠慮すること無く用意された椅子に座り、遠回しに伝える様な事はせず、単刀直入に要件を伝えた。
「モクナさんが'魅了'のスキルを持っている」
その言葉に、常峰の手が止まった。
表情に変化は無く、一時停止したように動きが止まった常峰の様子をみていると、数秒程で常峰は作業を再開する。そして、束ねた紙を山積みの上に置くと、背もたれに寄りかかり大きく息を吐く。
並木は、常峰が聞く姿勢に入った事を確認して言葉を続けた。
「これは私の予想だけど、多分安藤君はモクナさんに魅了されてると思う。さっき、鑑眼を使おうとしたら、魔族からの魅了の心配はないって言われたし」
「魅了に掛かっているか確認したいって言ったのか?」
「ううん。ただ、スキルを使っていいか聞いたら、魅了の心配はないって」
「そうか」
常峰は目を閉じて考えている素振りを見せる。その姿に並木が常峰の次の言葉を待っていると、ゆっくりと開かれた目が並木を捕らえた。
すぐに言葉が出てくることはなく、感情の読み取れない視線が並木を見続ける。当然並木も常峰を見返すが、何を考えているかは一切分からず、沈黙した時間が流れる事数分……常峰が口を開いた。
「魅了の件は分かった。並木が視たのなら間違いは無いんだろう。だが、おそらく安藤はそれを知っていて、今の安藤は魅了に掛かっていない」
「どうして断言できるの?」
「仮に安藤が魅了に掛かっていたとしたら、視られる事を警戒しないからだ。
モクナさんは、並木のスキルを知らない。どうにかして知っていたとしても、何処まで見れるかは分からないだろう。
通常の鑑定では、そこまで分かるものじゃない。だからモクナさんが鑑定されないように……なんて命令しておくとは考えにくい。
んで、セバリアス曰く魅了に掛けられた相手は、自分が魅了のスキルを使われたなんて気付かないもんらしい。安藤が警戒したのなら、それはモクナさんの魅了の存在を知っていたからだ。
魔族の魅了を警戒したなら拒否する理由はないが、モクナさんの魅了を知っていたとすれば……何らかの理由で解除された?
そうだ。知っているだけなら視られて困る事はないはず。警戒したって事は、視られたら魅了の事が露見すると安藤は分かっていた…?」
説明していたはずの常峰の声はどんどん小さくなり、最終的には黙り考え込み始めてしまった。途中まで常峰の声が聞こえていた並木も、同じ様に考え込み、一つの結論が出てくる。
それは自分にとってあまり考えたくない事であり、常峰からすれば最も避けたいはずの結論。だからこそ、並木は考えて違う結論を出そうとするが、一度出てしまったソレを否定しきれない。
「並木、モクナさんは鑑定のスキルを持っていたか?」
「持ってなかったよ。剣術と暗器術に隠密系統のスキル、火属性の魔法適正と家事全般、そしてEXに魅了があったぐらい」
「無かったか…」
並木の答えを聞いてまた口を閉じ、更に常峰は考え込んでしまう。
常峰は、モクナが鑑定を持っていると認識していた。以前にモクナからの鑑定を無効化した事があったからだ。だが、それが鑑定では無く魅了のスキルだったとしたら……と考え、ハルベリア王がそれを知っていたかを考える。
知っている可能性もあるが、ハルベリア王の行動を考えると、モクナさんの独断であり知らない可能性も高い。そもそも、モクナさんは安藤が俺の事を話していたからなんて言っていたけど、俺のスキルの事を安藤は喋れないはずだ。漏れるとすれば、一度失敗しているリピアさんか…。と進む思考から、常峰も二つの可能性と一つの結論が出た。
「ギナビアかログストアか、どちらにしろモクナさんが魅了を使ったことには違いないだろう」
「ってことは、安藤君は」
「モクナさんから何かを聞いて、それに協力するつもりかもな」
先程安藤が言った言葉を常峰は思い出す。
モクナさんを優先して――並木からの情報を聞いた後で考えれば、まるで予告の様な言葉に、思わず常峰は笑みが漏れてしまう。
「どうするの?裏切り行為を見逃す気?」
突然笑みを浮かべた常峰を不思議に思いながらも並木が聞くと、頭を乱暴に掻いた常峰は答える。
「裏切り行為になった時は、相応の対応はするさ。ただ、せっかく安藤が惚れた女の為に頑張ろうとしてんだからなぁ……俺個人としては、見守ってやりたい」
「惚れたって、それは魅了のスキルのせいじゃないの?」
「さっきも言ったと思うが、安藤は魅了に掛かっちゃいない。正確に分かる限りで言えば、今は掛かっちゃいない。
それでもモクナさん側に立とうとしてるってことは、そういう事なんだろう。
心配なら、安藤と並木を法から外してやろうか?そうすりゃ、当事者の許可なく鑑眼は使えるぞ」
常峰からの提案は、ここに来る間で並木も考えていた。
実際、自分だけでも法外にいれば鑑眼を使う事は理解しているし、安藤まで外せば、仮に常峰が鑑定で見える内容を書き換える様な事ができたとしても、その影響外になると並木は分かっている。
だが並木は常峰の提案に、首を横に振った。
この部屋に来た時、その提案をされていれば頷いたかもしれないが、今の並木は別の事が聞きたくなっている。だから並木は、常峰からの提案を飲まずに聞く。
「王様がそう言うならいいや。私だけ外されても、皆に知られた時面倒だろうし…。
でも、私も心配しなくていいように一つ聞きたいかな」
「なんだ?」
「常峰君って安藤君と仲が良いし、互いを信頼してるって感じだけどさ、私が知ってる限りじゃ今年からだよね同じクラスになったの。
前から仲が良かったの?」
「同じクラスになる前から知り合いだったよ。ちょっと変わった知り合い方だったが、まぁ…だから普通よりも互いに信頼してんのかも」
「その知り合い方を聞いてもいい?」
「構わんが、長くなるぞ」
「短くがいいな」
短くと言われ顔をしかめた常峰は、少し唸り声を漏らすと、簡潔にまとめた内容を並木に話す。
「俺が深夜にコンビニに行った時、チンピラに絡まれてな。そこをたまたま通りかかった安藤が助けてくれたんだよ。
これが安藤との出会いだ」
うんうん。と頷く並木だが、それ以上常峰が何か言うことは無く、静かな時間が流れる。あまりにも長い間が空いた事で、並木は常峰が話し終えた事に気付き、目を丸くした。
「え、それだけ?」
「並木が短くって言ったんだろ?」
「いや、そうだけど…」
並木の反応を見て、常峰は少し面倒臭そうに溜息を吐いて、もう少し話せば…と言葉を続ける。
「詳しく言う気は無いが、簡単に言えば安藤の親は毒親ってやつだったんだよ。んで、一悶着あってな。チンピラから助けてもらったお礼として、俺の家に一月ちょっとぐらい泊めてた時がある。
俺の親は、その辺りの理解力があったと言うか、血筋なのか知らんが、割と放任主義でな。自分で責任持って何とかするなら、勝手にすればいいって許可は貰った。
まぁ、親から助言を貰ったりして、その一件は終息したんだ。そんなこんなで、なんやかんやあってなぁ……学校外では普通に遊んだりもあったり、喧嘩も無く、気がつきゃ仲良しよ。互いに腐れ縁になるなこりゃ。ぐらいは思ってるさ」
「思ってたより複雑な話しだったんだけど、どう反応すればいいかな?」
「聞いたのそっちなんだが…。
別に、どうもしなくていいだろ。俺と安藤の中では話は終わってる。今更野外からツッコまれる様な事でもない。
まぁモクナさんの目的が分からない以上は、俺もそれなりに警戒はしとくよ」
「そっか。うん、分かったよ。
私も全面の信頼はおけないけど、王様が何とかしてくれるって言うなら、少しは安心だ」
「何とかする時に、手伝ってもらう可能性もある事は頭に入れててくれ。安藤だけの問題ならいいが、モクナさんが絡むとなると……ログストアは絡んできそうだから」
「うへぇ…」
今度は並木が心底面倒臭そうな顔を見せ、常峰も苦笑いを返す。
その後は、大した会話も無く、すぐに並木は食堂へと戻っていった。
残された常峰は、並木からの情報を元にリピアと話をする必要があると考え、時間を作らねば予定を振り返ったが……過密なスケジュールに頭を抱え、そっと布団に潜った。
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常峰がいそいそと睡眠という現実逃避をし始めた頃、ギナビア国王都の中央に堂々と聳え立つ城の一室では、国の長であるレゴリア・ギナビアが報告書に目を通していた。
「ヒューシ、将官共の反応が書かれていないが?」
「書面ではヴァジア元帥の目を通す事になりますので、口頭でのご報告が良いかと愚考した次第です」
「ならば報告を聞こう」
ヒューシと呼ばれた男は、敬礼の姿勢を崩さずにレゴリアの言葉に従い報告を始める。
「ハッ!
此度の異界の者達に領地を与えた件ですが、意見は半々に分かれました」
「今回は俺の独断に近いからな。それで、どう分かれた」
レゴリアの問いに、ヒューシは脇に抱えていた紙束から一枚抜き取り、それをレゴリアへ見せながら報告を続ける。
「協力関係に賛成した将官は二名。残り二名は反対の意を見せています。私の上官であるペニュサ将軍は、どちらでもいい事を伝えろと言伝を預かっております」
「大方予想通りの結果だ。お前の考えを汲み取れば、ヴァジアは反対したか」
「会議中に明言はありませんでしたが、おそらくは反対勢力かと」
「だったら反対は三人だな。これだけでは決定打に欠ける……まだ、泳がせておくべきだな。よし、ヒューシ、報告はまだあるか?」
手元の紙を眺め終えたレゴリアがヒューシに視線を向けると、ヒューシは別の紙を取り出してレゴリアへと見せた。
「本日、勇者市羽様が王都へ入ったと報告が来ています。当初の予定通り、ルコ隊長が接触し、明日の正午に面会の申請が届いております」
「思ったより早いな。
まぁいい。面会は許可する、他の連中が同席したいと言ってきた場合は、そっちが合わせる様に伝えておけ」
「ハッ!では、報告は以上になります」
「では下がれ」
「失礼しました!」
最後に敬礼をし直しヒューシが部屋を出ていくと、レゴリアは立ち上がると大きく息を吐き――壁に掛けていた大剣を手に取り、背後に向け振り抜いた。
「礼儀を知らないのですか?」
「どの口が言う」
大剣を振り抜いた風圧で紙が舞う中、その声は呆れている様子で呟き、レゴリアは鋭い視線を声の主に向ける。
レゴリアが視線を向けた先、振り抜いた大剣の面に立つ女は、明らかに見下した目でレゴリアを見ていた。
「勝手に俺の部屋に入ってくるたぁ、死ぬ覚悟ぐらいは出来てんだろ?」
「死ぬ覚悟ぐらいはありますが、我が王から死ぬ許可は頂いていません」
「我が王…?てめぇ、どこの者だ」
「我等が王、眠王様と言えば貴様でも理解が出来ますか?我が王から文を預かっております、受け取りなさい」
大剣の上に立つ女は当たり前の様に言い張り、胸ポケットから手紙を取り出すと、そのまま手紙も大剣の上に置く。
そして、女が踵を返し軽く大剣を踏み鳴らせば、その姿は切り抜かれるように消えて始めた。
「待て、貴様の名はなんだ」
「ケノンですが…?」
呼び止められたケノンは、不思議そうな顔で答える。名前を聞いたレゴリアは、呆れた様子を見せ……
「自分の主の事を考えるなら、ちったぁ礼儀を学べ。
王の使いってんなら、敵対の意思がねぇって事ぐらいは、自己紹介と共に最初にするべきだ。
じゃねぇと、信用してお前を送り出した眠王の顔に泥を塗ることになるぞ」
大剣を握っていない方の手で顔を覆い言うレゴリアの言葉を、ケノンは見下した姿勢のまま聞き、少し悩む素振りを見せると、困り顔になる。
「それはいけません。
良き事を教えてもらいました。以後は気をつける事にしましょう。……では、私は次に向かうので、貴様からの助言、助かりました」
その言葉を最後に、ケノンの姿は完全に消え、レゴリアが感じていた気配も無くなっていた。
「本当に気をつけられるのか?」
一人、部屋で呟いたレゴリアは、大剣に乗せられた手紙を取ると中を見て、苦笑いを浮かべる。
その手紙の内容はレゴリアにとって嬉しい事でもあるが、書かれていた条件を見ていくと、明らかに別の意図も含まれている事を察したからだ。
「ヒューシか……いや、もういっその事ベニュサがいいか…」
その意図を察しつつも、レゴリアは常峰への返事を書くために机へ戻り、筆を執った。
更新が遅れ気味ですみません。
帰宅すると、_(:3 」∠)_←こんな感じになってしまってます。
まだ全快していないのと、世界を恨んでいた数日分の予定を消化していました。むしろ、まだ溜まっていて消化中です。
なので、もう少しだけ更新が遅れると思います。すみません。
そろそろ、市羽達に視点をシフトする予定です。
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