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眠れる王  作者: 慧瑠
見えてくる意思

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獣人

遅くなりました。

「開けるぞ」


「は、はい」


扉を叩く音は聞こえているはずなのに、いつまでも返ってこない返事にエマスの方から声を掛けると、焦りと怯えが含まれた声が返ってくる。


許可を得たのなら遠慮の必要も無い。とエマスが馬車の扉を開けてみれば、中では二人の女が床に膝を付き、エマスへ向けて頭を下げていた。


「ふむ。そなた等は、獣人か」


今気づいたかのように言うエマスだが、気配の感覚から予想はしていた。馬車に近付いた時に予想は確信に変わり、扉を開けて確認した時には種別まで把握する。


大地に足を付けていたのならもっと早く分かったが、どうやら二人は別々の種族らしく。妖狐と犬狼の獣人である事が分かった。

そして、獣人はこの二人だけではなく、後ろの気配の多い馬車の中にも数名居る事まではエマスには分かっている。


「はい!私は、灰犬(はいけん)族のウォレと申します!」


(わたくし)は、朱尾(しゅび)族のキョウと申します」


エマスは二人の自己紹介を聞き、記憶の中から'灰犬'と'朱尾'という種族を思い出す。


記憶にある限りでは、獣人の特徴である獣の部分の色を示す言葉である事。

そもそも獣人という言葉は、幅が広く……人に近く、人間と変わらぬ風貌に各種の部分がある場合と、獣に近く、姿は獣のままで二足歩行や人語を用いている場合と、大まかに分けてこの二種類。

顔は人だが身体は獣寄りな者などもいるが、獣と人の割合を無視し種族関係なく'獣人'という一括りであったはずだと、エマスは記憶している。


その中で、灰犬は犬狼種という括りであり、朱尾は妖狐種という括りで間違ってはいない。だが時代が変わっていく事により、派閥などの問題で種族を呼称する際に細かく分ける様になった事をエマスは知らなかった。


だからあまり聞き慣れない紹介のされ方に、エマスは少しだけ頭を悩ませていたが……獣人である事には変わりなく、それ以外にエマスにとっては重要な情報ではない事なので、そういうものなのだろうと納得をして別の事に気を向けた。


その別の事も、エマスの記憶を随分と食い違うものであり、つまるところの過去と今との奴隷事情である。


「そなた等は奴隷と聞いたが……先に、顔を上げろ」


エマスが持つ記憶と比べ、あまりにも小奇麗な馬車の内装に目を向けていると、自己紹介後も言葉を待つように頭を下げ続けている二人の獣人に気付き、話しを聞く前に普通に座るように伝えた。


エマスに言われて姿勢を正して座り直したウォレとキョウは、やはり小奇麗な印象を受ける。

着ているモノこそ昔と変わらず布を巻いただけではあるが、その布も使い古されている事は変わらないがボロボロなものではなく、ちゃんと管理と保存をされているモノだとエマスでも分かった。


「奴隷商の男に話を聞いてやってくれと頼まれたが、少し確認させろ。

昨今の奴隷とは、そなた等の様な身なりなのか」


「は、はい!私達は少し別の事情で荷台は別ですが、後ろに居る皆も扱いは私やキョウと変わりません。……何か問題がありましたでしょうか?」


突然の問いに対して、不安そうにエマスの様子を伺いながら答えるウォレだが、エマスは一度頷いただけで次の言葉は無い。


二、三分の沈黙。


自分の答え方が悪かったのだろうか。とウォレに焦りが生まれ始め、キョウも少しソワソワとし始めた頃合いで、沈黙の間にルアールとの連絡を終えたエマスは、改めて二人へ顔を向ける。すると、二人は深々と頭を下げていた。


「ウォレの答えが不十分でしたら、私が変わりますのでどうかお気を収めください」


「いや十分だ。

我が王が仰っていたが……どうやら、本当に儂等の知識は古くなっている部分があると再認識できた。このままでは我等が王に恥をかかせてしまっていたかもしれない。礼を言う」


「そ、そうなのですか」


事情は上手く汲み取れず、突然礼を言われてキョウは困惑をしてしまう。ウォレもウォレで、理解が追いつかない様な表情をしているが、そんな二人の様子を気にせずにエマスは先程と同じ様に頭を上げさせ、話しをする様に言う。


その言葉で、ウォレは思い出したように身体を震わせ怯え始め、キョウはそんなウォレを優しく抱き寄せてからエマスに自分達が感じている事を伝え始めた。


「何者かがずっと見ているのです」


周囲の様子を伺いながら、ぽつりぽつりと話された内容は、エマスも興味を惹かれるものだった。


初めにソレに気付いたのはウォレの方だとキョウは言った。

ずっと背後から視線を感じ、その事に気付くと恐怖心が掻き立てられ、次第に精神に負担が掛かり始めて、気を緩めれば意識を引っ張られそうになるとキョウは話し……それに続くように、そのまま意識を引っ張られてしまうと次に目を覚ます事はなく、そのまま戻ってこれなくなるとウォレが断言する様にエマスへ伝えたのだ。


「誰かがそうなったのか」


「まだです。まだですけど、絶対にアレに引っ張られてはダメなんです」


「ウォレ……落ち着いて」


パニック気味に口にするウォレは、明らかに自己紹介の時とは違い心ここにあらず。

ブツブツと呟くように、ダメ……と言葉を繰り返し始める。キョウもウォレを抱き寄せて落ち着かせる様に背中を擦るが、こちらも分かりやすく顔色が悪くなっている。


「貴様も其奴と同じ意見か」


「はい…」


「心当たりは」


「ありません。ただ、あの視線を感じ始めると、耳元で何かを囁かれ続け、肉が腐敗した様な臭いがしてくるのです」


「近くにいるのか?」


「居ません。気配も感じません。でも私達を見ていて、近くにいるはずなのに居ないのです」


怯えて話せる様子ではないウォレの代わりにキョウが答えるが、身を抱くようにウォレを擦る腕を握る手は震えて、それを無理矢理抑えるように力が入っていることが分かる。


話された内容から、持ち合わせの知識で思考を張り巡らせるが、エマスでもやはり答えが出ない。


獣人とは人間に比べて警戒心が高く、気配を捉える事に関しては基礎的なもので人間よりも圧倒的に高い。それはスキルで気配を消したとしても、僅かなニオイや音で気配を捉える事すらできる。

故に、獣人族に気配を悟られたくなければ消すのではなく、スキルを磨き気配を消した上で偽れて初めて自分の気配を殺せるのだ。


その獣人である二人が気配を感じる事ができないのであれば、ソレは卓越した隠密性能を持つ者だが……わざわざ悟らせる様な理由が見当たらない。加えて、聴覚や嗅覚にまで影響を及ぼしているのであれば、獣人が何一つ分からないのも不思議なもの。


そして一番の理由として、キョウが話をしている最中に周囲の気配を調べたが、エマスも不審な気配を見つけられていない。


「今も見られているか?」


「はい…。ずっと。

でも、貴方様が近くに居ると、少し遠くに居るような気がします」


遠く感じるだけで消えてはいない。しかし、エマスの探知には引っかからない。いくら気配を上手く殺そうと、地に足が触れていれば、木々に身体の一部でも触れていればエマスが見逃すことはない。


それでも居るとなれば…と考えたエマスは、一度荷台から出て空を見上げた。意識を集中させて、風に自分の意識を任せ探るが……


「近くには居ないな。

儂が衰え、捉えられていない可能性もあるが、痕跡の一つもないとなれば幻惑の可能性を視野にいれるべきだな」


一人呟くエマスは、怯えと不安で震えて自分の様子を見ているウォレとキョウの元へと戻る。


「少し調べたいが、その前に一つ聞きたい。

何故、儂等に助けを求めようと思った」


「貴方達が近づくに連れて、アレが遠くに、嫌がるんです!だから、どうか!」


エマスの言葉に答えたウォレは、荷台から降りてエマスに縋り付き震えを強くした。

ウォレの声の大きさもあって、秋末と食事をしていモールが戻ってこようとしたが、エマスは大丈夫の意志を示す為に手で制し、地面に座り込んでしまったウォレと視線の高さを合わせて目を視る。


ウォレは、当然目隠しをしているエマスの目は見えないのだが何故か視線が離せなくなり、次第に震えも収まり始めた。


「抵抗はするな。少し調べさせろ」


その言葉を口に、ウォレの返答を待つこともせずエマスは、その大きな手でウォレの目元から頭にかけて包む様に鷲掴みにする。

ウォレも抵抗する事無く、自分の耳が邪魔にならないように少し畳み、エマスの手を受け入れた。


「これは……。貴様、リュシオン側に居たのか」


エマスの言葉に、ウォレとキョウは大きく反応を見せ、何故か怯えとは別の慌てた様子でエマスを荷台の中へと引っ張っていく。


「申し訳ありません。貴方様のお名前をお聞きしていいですか?」


「エマスと呼べ」


エマスは引っ張られるがまま荷台へと戻り、対面に座り直したウォレとキョウの言葉を待っていると、キョウに名を聞かれた。それに答えたエマスを見据えて、今まで出さなかった低めの声でキョウは聞く。


「何故、ウォレがリュシオンに居たと思ったのですか」


「其奴には、リュシオン方面でよく使われる生誕の洗礼の痕跡があった。少々、昔とは違うモノではあったが、根本的には変わらぬものだ。

特殊な魔法の一種故、そうそう間違えるモノでもない」


「そうでしたか。……その様な事をできる方が居るとは思いませんでしたが、エマス様を信用してお話しします」


この話は内密にして欲しいと前置きをしたキョウは、自分達の素性を語った。


キョウとウォレは、元々同じ集落で暮らしていた。キョウは集落の長娘であり、ウォレとは幼馴染。二人が住む集落は平和なもので、森の中で静かに暮らしていたのだが、その平和な暮らしも長くは続かなかった。


ある日の夜、集落が何者かの集団に襲われたのだ。


武装した集団の襲撃により、対応に遅れた集落の者達は散り散りになり、キョウとウォレも家族と一緒に逃げ出した。しかし、罠を張られて囲まれたキョウ達。

まだ若いキョウとウォレを逃がそうと、家族の者達が奮闘し囮になる事で、二人はギリギリ逃げ出せたのだという。


だが、襲撃から手荷物も無しに森を抜け逃げ続け、最も近い村まで数日。僅かな気力を振り絞り逃げた先、そこは既に村と言えるものではなく、見知った顔が鎖に繋がれ、恐らく抵抗し続けたであろう者達は、見せしめの様に表に立ち並ぶ惨憺たる光景。

助けを求めた村は、例の襲撃してきた武装集団の臨時拠点となっていた。


限界を越えて尚逃げてきた二人だったが、晒し並べられている仲の良かった者や家族の姿、受け入れたくないその事実に最後の気力まで奪われ、縋り付く光明を失った二人は捕らえられた。


そこからは違法奴隷商に商品として売られるまで、隷属魔法により自害も許されず、できる事は現実逃避。無理矢理引き戻された現実は絶望の中、泥を噛む方がましだと思う日々を送っていた。


「そして、幸運にも私達は一緒に買われ、主人となった方の元で二年ほど経ったある日、主人が旅行で向かったログストア国にて、違法奴隷所持の罪で捕まりました。

正確にはログストア国内ではなく、傘下の小国'パブロフ国'ですが、魔族襲来があったようで現在はログストアの王の管轄になっていて、王国騎士団の方々が主人を捕らえたそうです」


「それで何故、また奴隷に」


今二人を襲っている恐怖に加え、当時の事を語るキョウの声は、既に抑えられずに震えていた。それでも話を聞いていたエマスは、目の前にこうして奴隷となっている二人が居る事を不思議に思う。


「私達は数日前まで、まだ主人の奴隷だったのです。


主人と私達は、隷属魔法により主人の死に合わせ私達も死ぬ契約を結ばされていました。

その事を知った騎士団の方は、主人に契約破棄をする様に説得していたらしいのですが、契約をしていれば死罪は免れると分かっていたんだと思います。


私達を含め同じ様に主人の奴隷になっていた者達は、騎士団の保護下で精神療法を受けていたのですが、二週間程前にログストア国の違法奴隷を保護する施設へと移動する事になり、先日そこで隷属を強制解除して頂いたのです。

そこからはログストアの王の取り計らいで、身寄りと帰る場所の無い私達は、違法奴隷商が再度手を出させない様に隷属魔法を使用し軽罰の奴隷という形を取り、信頼できる奴隷商へ引き継いだ後に近隣の街や国で働く事になりました。


ログストア国の違法奴隷保護施設は有名であり、王都の者達は施設に居る者の顔を知っている方々も多いので、当人同士の了承以外では、偏見を受けない環境の為に近隣へ移動するそうです。


今は、モールさんの本店があるポポモリスへ向かう途中です。到着したら、ある程度精神に余裕が出来た者から主人を充てがわれ、罪状は'ログストア国内で貴族への不敬行為'情状酌量により刑罰期間は三年。

その間は、新たな主人の元で働く事になっています」


エマスの質問に、キョウは無理矢理作った様な笑顔を見せて答えた。


キョウの話を聞いたエマスは、常峰が用意させていた隷解符を使用したのだろうと容易に考える事は出来た。その行動の早さから、常峰が用意できると言った時から準備をしていたのだろうとも。


「……。……。ふむ、そなた等の事情は分かった。境遇に同情してやる事はできん。

我等が王が、王の御意志で手を差し伸べた日には、儂も相応の対応はしよう。王の御意志無しには、手を貸してやろうとは思わん。


だが、王の為となるならば、多少は手を貸してやる。故に儂等に恩を売れ、今から聞く事に答えよ。その返答次第では、その恐怖取り払ってやる」


「えっ?」


「ど、どうにかできるのですか?」


「儂ができるのは、その恐怖心を取り払うだけだ。我等が王ならば、恐らくは根本的な解決をしてくれよう」


当然のような口ぶりで言うエマスに、キョウもウォレも驚いた表情しかできない。

本人は'だけ'と言っているが、その'だけ'がどれほど心に余裕を生んだ言葉かは、エマスは気にする事はないだろう。


今のエマスは、聞きたい事が出来ている。エマスでも分からない状況は、新たな情報が転がっている事を示した。

現在エマスはルアールと連絡を取り続けて、キョウの話とウォレ達が置かれている状況から予想してた事を伝え、既に常峰は寝ている為ルアールと考察を重ねて、自身等の王である常峰の為に情報が欲しいのだ。


だから、驚く二人が頷くのを待ち、質問を始めた。


「その視線は何時から感じている」


「ログストア国を出た日からです!」


どうにかしてもらえると分かったウォレとキョウは、幾分か良くなった顔でエマスの質問に偽り無く答えた。

結果、エマスが分かったことは……


ログストア国を出た日の夜から視線を感じ始めた。

次第にそれは近付き始めたように感じ、翌日にはキョウを含めた数名の奴隷も感じるようになった。

気配は無く、何度も集中して探したが姿は見えない。

時間は関係なく、夜だけの日もあれば、一日中視線を感じる事がある。

過去に似た様な経験をしたことはない。

ソレはこの付近に近付くに連れて遠ざかった様な気がして、エマスが来たことで感じなくはなっている。


そして、エマスとルアールの考えで秋末に協力してもらい、エマスが離れ秋末が近くに行って見た所、ウォレ曰く感じなくなった。という事が分かった。


「最後の質問だ。

そなた等が前の主人の元に居た時、何か特殊な事をしたことはないか?」


エマスの最後の質問に、二人は少し考えた。

相応の扱いを受け、夜の相手もしたことはあるが、恐らくエマスがそういう事を聞いているのではないと分かっている。それはエマスの望む答えではないと。


そして、数秒考えた後、ウォレが思い出したように言った。


「買われた日に、誕生の洗礼を受けました」


「え?私は、受けてませんが…」


「ふむ。分かった」


二人の言葉を聞いたエマスは、納得したように頷き、荷台から降りていく。そしてエマスが一度だけ軽く地面を踏み鳴らし手を翳すと、その手には地面から徐々に土が集まり始めた。


エマスの様子を黙って二人が見ていると、一握り分程度に集まった土を腰に下げていた袋から取り出した小さな袋に入れて漏れない様に口を縛る。その小袋を二つ作り終えたエマスは、一つの小袋を荷台の中に置いた。


「あの……これは?」


「そなた等の協力に対する儂からの礼だ。三日程度だが、これで視線から外れるだろう。

故に何があっても、ポポモリスに到着するまではこの小袋を荷台から降ろすな」


「これ…で?」


「コレは我が王の魔力を内包した土だ。

儂は今から後ろの荷台の様子も見に行く。それでも視線を感じたようならば、もう一度声を掛けてこい」


理解が追いついていない様子の二人にそれだけ言い残し、エマスは後ろの荷台へ行く。

当然、荷台の中には奴隷達がおり、怯えた様子でエマスを見た。エマスは、落ち着かせる為に軽く話を聞き、事情を説明してウォレ達と同じ質問をすると、返答は似たようなモノだった。


「誕生の洗礼をされたのは一人だけか…」


そもそも、後ろの荷台の全員がウォレやキョウと同じ主人ではなく、ある程度心身共に落ち着いた元違法奴隷者が乗っていた。その中に二人と同じ主人の元に居た者は半数に満たない程。だが、関係なくウォレが感じた視線や恐怖心は蔓延している様で、それ以外の真新しい情報は無い。


集めた情報は、既にルアールには伝えてある。ルアールからは、王が起き次第お伝えして、追って連絡をするとの事だ。


エマスは情報の整理を終え、一度ウォレとキョウが乗る荷台の前に立ったが、声を掛けられる事はなく代わりに一人分の寝息が聞こえた。そして、少しだけ開けられた扉からはキョウが軽く下げている。


その事を確認したエマスは、荷台の扉を閉めてモールと秋末が待つ場所へと戻る事にした。


-


「おかえりなさい。どうでしたか?」


「三日程度であれば大丈夫だろう。

だが、儂がしたのは精神面のその場しのぎだ。なるべく早くポポモリスへ向かう方が良かろう」


「原因や、貴方のした'その場しのぎ方法'をお聞きしても?」


「ハッキリとは言えんが、何かしらの干渉を受けている。ソレは、儂の目を欺く程だ。

だが臆病なのか、儂……というよりは、連れの魔力を恐れている。今し方、連れの魔力と似た性質が宿る物を置いてきた。

それから魔力が抜けるまでは、安全だろう」


「そうですか。それなら、お連れの方に御用意してもらう他ないみたいですね。

分かりました、馬をもう少し休めたかったのですが、少し無理をしてもらう事にします」


「それがいいだろう」


当たり障りの無い事をモールには伝え、エマスは秋末が温め直している料理を待つ間、少しだけ考える。


恐らく、ウォレ達の言う視線は気の所為などではなく、本当に何かが見ているのだろう。そしてソレは確かに近場に存在していて、人が多いと姿を見せない臆病者。

更に分かった事は、自分というよりは異界の者を恐れている節があるという事。現に秋末だけでもソレは反応を見せ、王の魔力にも反応を見せている。

そこから導き出せる答えの一つとして、魔族の存在。


もしこれが魔族の仕業であるならば、常峰が関心を示す内容であり、そうなればエマスが動くべき内容でもある。

様々な可能性をエマスが考えていると、馬を馬車へ繋ぎ終えたモールは、秋末へ挨拶を終えた後にエマスの元へと来て、あっ…と思い出したように声を漏らし、少し恥ずかしそうな顔でエマスに聞いた。


「今更で大変失礼な事ですが、最後にお名前を聞いてよろしいですか?」


「そういえば、教えていなかったな。儂の事はエマスと呼べ」


「エマスさんですね。今回は色々とお世話になりました。

もし、ご機会があれば、どうぞアバルコ奴隷商をご利用ください。色は付けますので」


「考えておこう」


エマスの返事に、是非。と言葉を返したモールは、最後に軽く頭を下げて馬車をポポモリスへ向けて走らせ始めた。

その様子を注意深く見ていたエマスに、温め直した食事を持った秋末が興味津々な様子を見せる。


「話には聞いてたんすけど、獣人とか初めて見ました。ログストアの王都って、あんまり人間以外の姿を見ないんすよね」


「確かに王都は少ないようだが、気付かない方が多いのだろう」


「というと?」


「そなた等と待ち合わせをしていた店で、儂等の食事を運んでいた店員を覚えているか?」


「あー、あの元気な女店員さんですよね?」


「そうだ。あの娘はハーフエルフだ」


「え”、うそ、エルフ?」


「純血ではなく、ハーフのようだがな。

実際、人間に近い風貌の者は、服装や少しの細工で紛れる事ができる。耳や尻尾を服装で隠されては、先程の獣人も今の貴様では見分けが付かんだろう。


しかし、あの王都には人間以外の異種が少ないのも事実だ。出るまでに獣人も何人か見たが、そうである事を隠している様子でもあったからな。何らかの理由があるのだろう」


空腹が限界を迎えていたエマスは、目を丸くして驚いている秋末を他所に、すぐに皿を空にしておかわりをよそい、見分け方の質問をしてくる秋末の相手をしながら腹を満たし夜明けを待った。

すみません。少し投稿が遅くなってしまいました。

日替わり前に投稿しようと用事を済ませ、夜中に帰宅して急ぎましたが……日を越えてしまいました。すみません。


ブクマありがとうございます!

本当、嬉しいです!

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