一方その頃:ダンジョンでは書類が敵
少し長くなったかもしれません。
「よくまぁ……短期間でここまで用意したものだ」
「メニアル達の手際が良すぎて、急がざるを得ない状況だったからな」
俺の対面に座るメニアルは、セバリアスが用意してくれたダンジョンの地図を眺め、随分と愉快そうに笑う。その反面、俺は相変わらず書類の山に追われ、乾いた笑みを浮かべるのが精一杯だ。
まぁ、苦肉の策ではあったが、睡眠時間を少し削った甲斐もあって、何とか一段落できている。後は統治するに当たっての人員配置などの問題が残っているが、その辺もある程度は目処を付け終えてはいるから……今は少しだけ休み時間だ。
「それで?我に渡す領地はどれほどか?」
「あー、それに関してなんだが、少し待ってもらっていいか?」
「構わんが…何か問題が出たか」
「問題と言えば問題か。
先にメニアルには話しておくと、予定ではこの国、魔族以外の種も住むことになるかもしれん」
「だろうな。これほど目立ち、大々的に国の宣伝はしておる。
ましてや数刻で、文字通り形を変える国だ。我でも分かる程度には利用価値があるだろう」
「理解があって助かるよ。まぁ分かると思うけど、人間側には金の流れも存在する。
大国と協力関係である以上、無視はできなくてね……。
一応、手は打ってあるからいいとしても、魔王が先に統治しているってのは警戒心を高めそうだから、表立って土地をくれてやれん。
あぁ…それとだな」
俺は椅子に凭れ掛かった姿勢のまま、食堂内を見渡して、近場で待機していたルアールを手招きで呼ぶ。
「お呼びですか?」
「ルアール、ラフィかリピアさんから金に関しての紙を預かってないか?」
「コチラですね」
「すまんな。ありがとう」
「これぐらい当然の事ですよ、我が王よ」
軽く頭を下げたルアールは、時間を軽く確認をすると、厨房の方へと歩いていった。
俺も壁に掛けてある時計を確認したが、時間的にそろそろ夕食時だ。ルアールは準備をしに行ったんだろう。
早めに話しを終わらせて置かないと、飯時にまで話を続けておきたくない。
「これにも目を通しておいてくれ」
「これは…物価かな」
「その通り、物価の目安なんかをまとめた紙だ。魔族には馴染みが無いかもしれんが、その内金銭での取引を導入する予定だ。
既に移住して来ている者達にも、ラフィ達が率先して教えている内容だからメニアルも覚えていたほうがいいぞ」
「ふむ…。自給自足できる環境ではあるが、外から多種を招き入れるには致し方ない事か」
「魔族間だけでなら物々交換でもいいんだけどなぁ。
流石に、魔族以外は納得し無さそうな交換もあるだろうから、目安をこっちで用意して、後は売買する者同士で細かくは決めてもらおうかとね」
当然、まだ問題だらけだ。リピアさん曰く、魔族は通貨に関して興味を示している者と、批判的な者が極端に分かれているらしい。
通貨の必要性をまだ認識できていないからしょうがないだろうし、元々魔族と人間の溝が深すぎるのが一つの要因だろう。
人間の真似事だ!と言う声も上がっているようだし。
それでも通貨は必要なんだ。ある程度の共通認識を植え付けないと、絶対に揉め事が起きてしまう。本当なら内政が落ち着くまで鎖国でもしたい気分なんだが、それを許しはしてくれないだろうしな。
だからメニアルから取り込んで、通貨実装に向けてのクッション役になってもらわないといけない訳で。
「夜継が我に頼みたい事は理解した。
皆には、我から言っておこう。しかし、多少の許容は考えておれ。
最悪の場合として、どうしても受け入れられない者達は、本人達に選ばせ隔離も考えたほうが良かろう」
「できればそれは避けたいな。
今の段階で排他的になると、修復が難しくなる。だからそうだな……物々交換専用の店でも用意する事も視野に入れていこうか」
「それができるのであれば構わんが、相応に品数が必要になるぞ?」
「そこなんだよなぁ……。
用意できれば問題ないけど、無理だったら破綻する。その辺も視野には入れているけど要検討だ」
「需要に対して供給が間に合わんからのぉ」
俺とメニアルは紙と睨めっこをしながら、新しい紙に案を書き込んではダメ出しを繰り返していく。その中でも改善すれば問題無さそうなのを再度上げてて、細かな内容を決めて。
気がつけば、食堂にはダンジョンの者達がかなり集まってきていた。
「流石は統治をしてただけある。
改善案が結構出たな」
「夜継も中々なものだ。
様々な前例を知識として持っているな。我が思いつかぬ方法を良くぞ出す」
「俺達の世界じゃ、一般教育で結構知る事ができるからな」
「過ちを晒し次代に繋ぐか」
「今のやり方を正当化するには、それが一番手っ取り早いんだよ」
知ったような事を言いつつ、メニアルとの議論の結果を軽くまとめていると、ルアールが俺とメニアルの分の夕食を持ってきた。
そして少し思案顔を浮かべると、ルアールは俺に報告があると俺に言ってくる。
次はなんだろうか。
昼前ぐらいにエマスからの報告は聞いた。あくまで予想の域を出ないままではあったけど安藤達の件もあったし、警戒と対策をする様には伝えたが、進展があったかな?
「一つ、エマスからの報告で、王女の方は王の目的を知らないと思われるとの事です」
「そうか。まぁ、あくまでハルベリア王の方も当人同士を優先するだろう。無理矢理なんて手は取ってこないはずだ。
エマスには最初に言った通り、過干渉は避けて、相談されたらエマスに任せる様に伝えておいてくれ。
事が事になればリーファ王女の立場上ハルベリア王と、新道の立場上俺とが少し話をしないといけないだろうが……正直、俺には惚れた腫れたに関しては分からん」
「かしこまりました。
次にですが、ジーズィが聖女と合流したと報告が来ています」
「思ったより早かったな」
ルアール達の末っ子であるジーズィ。
基本的にぽやぁ~っとしており、少し難しかったり長い話をすると寝てしまう。俺からすれば親近感の湧くルアール達の妹ちゃんだ。
その正体は、かなり巨大な怪鳥らしく、戦闘能力に関してはレーヴィやエマスと張れる程ではあるという。
そんなジーズィに頼んだことは、東郷先生達の護衛だ。
何か困っていたら俺に報告。それ以外は基本的に護衛に徹してくれとだけ頼んでいる。
「東郷先生の方は、問題は起きて無さそうか?」
「暫しお待ち下さい。……。……。
合流する前に二体の魔族を発見。敵意を判断後、処理をしようとしましたが、聖女の方が別で襲われていたので護衛を優先したようです」
東郷先生の方にも魔族から接触があったか。
ほぼ同タイミングでの接触……完全にこっちの動きがバレてるな。
「分かった。続けて護衛をする様に頼んでくれ。
また何か気付いたら報告を頼む」
「伝えておきます」
さて、魔族側に動きがバレていると言うことは、知る術を向こうは持っている訳で……メニアルの可能性は、全く無いとも言い難い。
契約にはダンジョンの者には手を出さないと言っていただけで、明確な基準としてダンジョンと契約を結んでいるか、いないかの可能性がある。
ただ、可能性としてはかなり低い。メニアルが裏切る理由がない。そう考えると、移住してきた中に密偵が居た場合はどうだ。
……無理だな。ダンジョンの城には、まだメニアルすら入れていないし、移住してきた魔族に俺は会っていない。会話から汲み取ろうにも、そのタイミングは無かったはず。
何よりダンジョンの城付近であれば、変な動きをされたら分かる。それに、各自が何処に向かうかは任せている。大まかな方向が分かった所で接触は…あぁ、だからログストア国にこんなに近い場所か。
相当捻くれた動きをしない限り、必ず通るであろう道に待機していたのか。
俺達が動くタイミングが分かっていて、出立に合わせて接触してきている。
何処で情報が漏れた。何処からなら情報が掴める?……やっぱり、ログストア国だよな。
疑うなら誰だ。
ハルベリア王か?いや、ハルベリア王とは良い協力関係であるはずだ。何より、俺はハッキリと把握していないが、チーアがログストア国の隠し玉の鍵である事を俺が知っていると知っている。
全て把握しているように誤認もしているはず。そうそう危険な手段を取るとも思えない。
なら誰だ。
ギナビアやリュシオンの可能性があるか?……それも低い。
詳しい事情はレゴリア王しか知らない。そんな中で、こうもバレやすくは動かないはずだ。
今、疑われて尚動く理由がない。
リュシオンも同様に、コニュア皇女がこんな手を使うとも考えにくい。どっちの国も、手元に来る予定の市羽と東郷先生を逃す様な方法は取らないはず。
実力調査程度なら、自国に来てからでもできるだろうし、俺が何も手を出さないとも考えないはずだ。どの国にも勧誘なり何なり、何かやる機会は与えているのに、こんな行動をするメリットが見えない。
消去法でいけば、知りたくても知れなかった者が動いている可能性。
俺達に興味があって、そのタイミングを図れた人物。名も知らないログストア国の大臣か?
上げられる名は、リピアさんから雇い主の話は聞いている人物。ギナビア国が匿名で何人か通して連絡をしていたのは'オーマオ・ドブロス'だったな。
俺の転移事件もオーマオの差し金だったらしいし。そのオーマオが魔族とも繋がりを持っていた?持っていたとして、リピアさんの一件があって早々に動くか?自分が犯人だと言っている様なもんだぞ。
「おそらく手を出してきているのは、人間の言う所の軍の魔王だろう」
俺が悩んでいると、先に飯を食べ始めていたメニアルが言った。
「軍の魔王?」
「うむ。軍の魔王だ。
夜継は、我を含めた五体の魔王を見たことはあると考えてよいな?」
魔王の姿は、リーファ王女が使っていた水晶玉で見てはいる。
記憶を掘り返して、あの時に渡された紙の内容を思い出すと、確かに軍の魔王という単語は見た記憶があるな。
確か名前は……。
「'アーコミア・リジェスタル'」
「おぉ、名まで覚えておるのであれば話は早い。
一見すれば普通の魔族の男がおったと思うが、それがアーコミアだ。我等は魔王として名を持ち、それぞれ肩書の様なモノがいつの間にか付いておる。
我が'孤高の魔王'
アーコミアが'軍の魔王'
ガゴウが'鬼の魔王'
後は、名を持たぬが、人間が名をつけておったな。はて、なんだったか…」
「'不定の魔王'――ショトル
'最古の魔王'――オズミアル
鬼は、正確には'ガゴウ・シュゴウ'だったか?」
「よく覚えておるな。
オズミアルは、我が魔王になるよりも前、それこそ肩書通り最古の魔王だ。知性はあるかは知らぬが、遥か昔から生き続けている巨大な魔王。
ショトルの方は、我も詳しくは知らぬ。いつの間にか魔王として現れておったからな。
一度だけ対峙をした事があるが、形状も不安定、どうも知性も感じなかった。あったとしても赤子程度であろう」
覚えているさ。相当印象の強い映像だったからな。
軍を用いても一方的に蹂躙される様は、本当に勝ち目を感じなかった。当然、メニアルにも勝てる気がしなかった。
しかし、今の会話だけでメニアルは何故軍の魔王だと思ったんだ?
「どうして?という顔をしておるな。
なに、簡単なこと。アーコミアは人間が異界の者を召喚する事を知っておった。どうやらアーコミアに手を貸しておるのが人間側に居るらしくての。
何より、魔族を使ってそういう回りくどいのをするのは、大体アーコミアが絡んでいる」
マジでか。
俺は、アーコミアがちょっかいを出しているという事より、人間側に魔王に手を貸している者がいる方に驚いた。仮に今回の件が魔王アーコミア絡みだとして、漏れる可能性として高いのはログストア国だ。
つまり、俺達の情報が入手できる立ち位置に魔王の協力者が居る。
大問題だぞ。ハルベリア王はコレを知っているのだろうか。……いや、多分知らない。
俺等とは訳が違う。それこそ、国家反逆のレベルの問題で、流石に大国の王が見逃していい問題じゃないはずだ。
「メニアル、念の為に聞いておきたいんだが、魔王アーコミアはメニアルの様に人間と手を組むタイプの魔王か?」
「無いな。
奴は、魔神の復活を最も願う魔王だ。それを阻止する人間側を利用する事はあっても、協力はせんだろう」
メニアルの様に、条件提示さえすれば協力関係になれるなら良かったんだが、どうやら魔王アーコミアに関しては完全に敵らしいな。
魔神の復活がどうかは分からないが、大国と協力関係である以上、メニアルの様に手を組めないのであれば俺達の敵になるだろう。
これは少し本腰入れて魔神の情報も集めないといけないな。
「もう一つ聞きたいんだが、魔神というのはなんだ」
「初代魔王と言えばいいか……。
そもそも、今の魔王は人間の王とあまり変わらぬ。
幾多の魔族が王と認め、その元に集う。我やアーコミア、ガゴウはそうだ。
他には絶対的な力の象徴として、その肩書で呼ばれることもある。我と対峙して尚生き残ったショトルや、長命で巨体を持ち、その背には魔族が住むとすら言われているオズミアルがそれだ。
それで魔神は、昨今の魔王とはちと違う。
今の形となる魔族を生み、力を与え、神の御業を有したと言われる初代魔王。いつしか神と崇められ、長き生の果てに初代勇者に殺された。それが初代魔王であり、魔神だ」
ラフィが言っていた話と大体同じだな。
魔族を生んだ。とは言ってなかったが、多少の違いはあれど初代魔王である事は間違い無さそうだ。
しかし、やっぱりおかしな話だ。
「魔神は初代勇者に殺されたんだよな?
俺達は、魔神の討伐まで頼まれたんだが…」
「我は魔神に興味が無いから詳しくは知らぬが、アーコミア曰く、魔神は不死であり復活の時を迎えているそうだ。
その片鱗として、ここ数年で魔族の中に、魔力量などが急激に上がった者が現れたりしておる」
「復活は間違いないのか」
「分からぬな。
アーコミアは、もうすぐだと言っておったが、正確な事は知らん」
その復活が本当だとしたら厄介だな。
初代魔王と初代勇者の情報も集めておきたい。そういえばコア君も何か知っていると言っていたな……今夜辺りにでもDMルームを試してみるか。
なるべく早くできる情報収集の手段を考えていると、念話が繋げられる感覚がした。別に拒否をする理由もないので繋げると、既に懐かしく感じる声が頭に響く。
《常峰君、お久しぶりです》
《そんなに経ってないですけどね東郷先生》
と言いつつも、本当にお久しぶりな感じだ。
そこから少し雑談を挟み、念話をしてきた本題を聞く。
《そういえば、何か用があって念話をしてきたんじゃないんですか?》
《あ!そうでした!すっかりお話が楽しくて。
こんなに可愛らしい護衛をありがとうございます。って伝えたくて念話をしたんでした》
久々に常峰君の声を聞きたかったのも理由なんですけどね。と付け加える東郷先生は、声の明るさからしてジーズィの事を気に入ってくれたらしい。
確かにジーズィはぽやぁ~っとしていて、癒し系といえば癒し系だからな。
《でも、実物は初めてみました》
《何をですか?》
《真っ白なシマエナガですよ!》
ん?あれ、話が変わったのか?東郷先生は何の話をしているんだ?
その前に、シマエナガってなんだ…。
《やっぱり可愛いですね。もこもこ具合が写真よりももこもこして、もふもふしていますよ!
こっちの世界にも居たんですねーシマエナガ》
《東郷先生、シマエナガってなんですか?》
《北海道に生息する小さな鳥です。……あれ?このジーズィちゃんは、常峰君の仲間の子ですよね?
さっき、器用に文字を書いて教えてくれましたけど……あれ?》
俺が知っているジーズィは、レーヴィよりは少し身長の高い、ぽやぁ~っとした女の子なんだが。これは聞いてみるのが早いな。
「ルアール、ちょっと」
「如何ないさいましたか?」
俺は、丁度メニアルに頼まれたおかわりを持ってきたルアールに聞いてみる事にする。
「ジーズィが、白くてもこもこしてるらしいんだが」
自分でも何を言っているか分からないけど伝わってくれ。と他力本願で聞いてみると、ルアールは察してくれたようで、悩む様子も無く答えてくれた。
「そういうことでしたら、多分これぐらいの小さい姿になっているのかと」
ルアールは、手で小さく包みを作る様にして俺にサイズを説明してくれる。
何それ、野球ボールより小さいんだけど。雀か何かになってんのか?
「……。……。今、ジーズィに聞いてみましたが、予想した通り小さい鳥類になっているそうです。
場所も取らないし、聖女の肩や頭に止まれるので護衛に最適だと思って。と言っていますが、おそらくは人型になりそこなって、面倒になったのでしょう」
つまり、その小さい鳥類がシマエナガとやらにそっくりなのか。
「ありがとうルアール」
「これぐらい、礼などいりませんよ」
《常峰君?》
一生懸命頭の中でシマエナガをイメージするために、白い綿毛を鳥っぽく想像していたら返事を忘れていた。
《あー、ですです。ジーズィには東郷先生達の護衛を頼んだんですよ》
《ですよね。良かった。
もしこんなに可愛らしい子が敵だったら、どうしようと思っていました》
俺も一瞬焦ったよ。
ジーズィ達の情報まで漏れていたらどうしようかと……。
不安と誤解が解けたその後は、今後の予定では五日程でログストア国の国境を越える事になりそう。という事を聞き、一緒に居る安賀多達の状況なんかを聞いて、そろそろお風呂だと言うことで念話を切った。
東郷先生達は襲われはしたが、大半がジーズィが相手をして、漏れた分は田中や佐々木が相手をして、東郷先生や安賀多達は守りに徹していたらしい。
後、襲ってきたのは魔物のみだったという事も重なり、精神的には問題ないようだ。
どうしてもシマエナガの事が少し気にはなっているけど、それに関しては今度ジーズィに見せてもらうとして、聞いた話では東郷先生達を襲った魔物も、やっぱり五十程度の群れを組んでいた。
おそらくは、ジーズィが最初に見つけたという二人の魔族が絡んでいると見て問題はないだろう。
「俺の所にも、近々なんかしらのアクションがあるかもしれないな」
「その可能性は低かろう」
俺の呟きに、おかわりも綺麗に平らげたメニアルが答えた。
「そうなのか?」
「我が居るからな。
奴もバカでは無い。我に直接何かはしてこぬよ。
直接動くとしても今ではない。もっと整えてから動くであろう」
他の魔王に対しても、孤高の魔王の名はそれだけの意味を持つのか。
そういや……
「なんでメニアルは孤高の魔王なんて呼ばれているんだ?」
「我が単騎でしか戦場に出んのだ。
我の軍は、民を守る事にしか使っておらん。故に前線には我しか出ない。そこから付いた異名が'孤高の魔王'だ。
単騎同士であれば、我と対峙できるのはガゴウぐらいだからな。いや、今では夜継もおるか」
「命の取り合いになれば分からないだろ」
「ハハハ!そうならぬようにせねばな」
「そのつもりだ」
-
「う”お”ぁ~……」
「随分とお疲れですね。我が王」
自分でも何処から出してるか分からない声が漏れ、ルアールが苦笑いを浮かべている。
「今は俺とルアールしかいない。堅苦しい喋り方は止めてもセバリアスには怒られないぞ」
「ハハハ、セバ爺が何処で聞いてるか分からないから、無礼を働くわけにはいきません」
「セバリアスは今、俺の頼み事で天空街の視察に行ってる。役所の場所決めの為にな」
「知らないんですか?セバ爺は、地獄耳なんですよ」
「俺が無礼と思わなくてもダメか」
「ダメですね。俺が無礼だと思うので。
こうして共に湯に浸かっているのも、正直無礼だと思うほどですから。勘弁してください……これ以上無礼を重ねると、セバ爺だけじゃなく他の者にもシバかれます」
「さよか」
ルアールの言う通り、今は俺とルアールの二人だけで風呂に入っている。
食事も終え、メニアルとの今後の話し合いに一区切り付けた俺は、エマスからの報告もあった場合を考えてルアールを風呂に誘った。
断られたらそれはそれで仕方ないと思っていたが、そんな事もなくルアールは了承してくれて、背中を流してもらい、次は俺がと言うと拒否られ、今はこうして二人で湯に浸かっている。
今の流れなら!と思って、日頃シーキー達に話すような口調を求めてみたが、結局それも失敗に終わったところだ。
「我が王」
「んー」
「少々問題が発生しました」
「問題?」
「王の許可なく、エマスが試練を行使しました」
試練……試練ねぇ。
ルアールから事前に聞いてはいる。ルティーア兄弟姉妹が生まれた時から持つ、スキルでは無い特殊な能力の一つ。
加護に近いと本人達は言っている。
詳しく聞いてみれば、同一人物に二度は使えない能力であり、試練内容というのも個人によって変わるらしい。
統一しているのは、自分と向き合う為のモノで、強き意志がなければ試練を乗り越えることはできないだろうと言う。ただし、本質を受け入れ乗り越えられた場合、潜在を掘り起こし大きな力を得られる。
という感じのゲームで言う覚醒イベントに似たモノだ。まぁ、似ていると言うだけで失敗をする事もある。最悪の場合も……当然。
「エマスから連絡がありました。
試練を与えた相手は、新道 清次郎のようです」
江口のスキルとエマスは相性が良さそうだったから、加護の事や色々と分かりそうだったら教えてあげてほしいと頼んでいたんだが…そうか、新道か。
「エマスが新道に何を感じたかは分からないが、新道なら大丈夫だと感じての行動だろ?」
「おそらくは。しかし、最悪の場合もございます。
我等が王のご友人にもしもの事があれば、俺等はエマスを許しはしませんよ」
「その時は対応を考えるさ。
ただ、エマスが大丈夫だと思ったのなら平気だろうし、新道なら乗り越えるさ。新道は、本人が思っている以上に負けず嫌いだからな。
エマスにも伝えておいてくれ。
その判断を俺は信じている。と」
「王がそう仰るなら……愚弟が申し訳ありません」
「そう責めてやるな。新道達も自分で判断できるんだし、エマスやもちろんルアール達の事も信用している。別に俺がなんでもかんでも決めるもんじゃないさ」
「お、王よ……」
くっ!と目頭を抑えているルアールの横で、俺は身体をより深く沈める。
言い方はキツいものがあったが、ルアールも別にエマスを処罰したいわけじゃないのは分かっている。昔の名残なのか、俺の前である以上そう言う他ないのだろう。
まぁ…ルアール達の期待に応えるのも結構大変だから、この宗教じみた信仰心が薄れてくれればともちょっとは思う。一言一言に感銘を受けられても、存外恥ずかしさが出てくるもんなんだ。
「風呂を上がったら書類をまとめないとなぁ」
「是非、俺に手伝わせてください」
「頼もしいね。眠気が結構ピークだから、早く終わらそう」
「はい!」
俺は一方的に助けてもらってるからな。もっとこう、気を楽にしてくれて構わんのだが。まぁ、個人の意識までどうこうするつもりはない。そんな事よりも、目下の敵……寝室で待っている書類を何とかせねば。
翌日。昼時に目が覚めた俺は、ルアールへの謝罪から一日が始まった。
まさか、寝室に戻って山積みの書類と向き合った瞬間、DMルームに行く暇も無く普通に寝落ちするとは……。
やっと、魔王全員の名前を考えついて出せました。
そしてルティーア兄弟姉妹の最後の末っ子もちょっとだけ出せました。
ブクマありがとうございます!
そして、感想もありがとうございます!!
嬉しくて、嬉しくて……今日は御馳走を作らねばと燃えています。




