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眠れる王  作者: 慧瑠
見えてくる意思

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ダンジョンからの使い

何時もより少し短めかもしれません。

リーファ王女から日程を告げられて三日、俺は江口と一緒に書物庫で本を読んでいた。現在は江口と共に調べ物をしている最中だ。


現地調査に行くことには了承をした江口は、俺に調べ物の手伝いを頼んできた。その調べ物は翌日には終わったのだが、もう一つの調べ物が一向に終わらない。


「これだけ調べてもサッパリか。出てくるのは御伽噺ばかり」


「やっぱり有益な情報は無さそうだ。ありがとう清次郎君」


「いや、これも俺達はしておかないといけない課題だ」


俺と江口は積み上げていた本を、一冊ずつ元の場所に戻していく。


二人で調べていたのは、俺達を召喚した魔法を調べていた。

来た方法が分かれば、戻る方法のキッカケにもなるはず。と思っていたんだけど、調べても出てくるのは過去に召喚された勇者の話ばかり。逆に言えば、その勇者として語り継がれているモノばかりで、他の事が一切分からなかった。


過去にどれだけ召喚が行われたのか、どういう人物が居たのか、そういう面が分からない。情報がなく、あっても御伽噺でまとめられた本ばかりだ。


「この違和感はやっぱり」


「清次郎君と同じ意見だよ。情報が隠蔽されているんだろうね」


情報の隠蔽。

召喚した魔法だけなら分かるけど、ここまで掴みが無いのは違和感しかない。ログストア国が隠していることが見えないな。

もしかして、過去に帰還した異世界の人間がいるのか…?


「常峰君も時間が掛かりそうだとは言っていたけど、ここまで取っ掛かりも無いと難しそうだね」


「ログストア国では何かと隠されていそうだしな」


「そうだね。他の組が情報を見つけたら、こっちでも別の視点から探れそうだけど、その別の視点も分からないままだと限界がすぐに見えそうだよ」


「調べていく内に、妨害が無いとも言い切れない」


「今はリーファ王女からの依頼を終える事を優先しようか。

清次郎君の話では、王女の護衛もしないといけないみたいだし」


そうだ。帰還方法に関しては、俺達以外も動く予定ではある。だが、目の前の問題は俺達が対処するしかないんだ。

翌日に一度だけ常峰と念話で連絡を取って詳しいことを聞こうとしたけど、問題が起きていた場合は現地調査をしなければ分からない。

大臣達が掘り返した政治問題に関しては、俺達が現地へ赴く事でハルベリア王が後は処理するはず。後は個人問題だから俺が口出しする気はない。とバッサリ切られ、何故か頑張れと激励をされた。


どうも常峰には、俺が見えていない部分が見えているらしい。今回の事を江口に話しても俺と同じ意見で、常峰の考えは分からないままだ。


「そういえば、常峰君が言っていたダンジョンからの人とは会ったのかい?」


「あぁ、今日の昼ぐらいにこっちに着くみたいで、常峰から待ち合わせ場所は聞いてる。

皆傘達も会っておくらしいから、後で合流する予定かな」


「皆傘さん達と合流するという事は、街に行くんだね」


「昨日の内に皆傘達には伝えてあるから、そろそろ向かわないと」


俺と江口は少し急いで本を戻し終え、早足で街まで向かうことにした。


皆傘は自由行動になって以来、街の調査を名目にログストア城には基本的に戻ってきてはいない。宿泊している宿も知っているし、連絡を取ろうと思えばすぐに取れるんだけど、正直何をしているかは知らない状態だ。


本人が言うには、もしもの時に街を隅々まで把握しているだけ。その為に、すっかり俺達の間では浸透した親衛隊の四人が駆け回っているらしい。

俺達との連絡係として日替わりで親衛隊の一人が城には戻ってきているから……一応、まだログストア王都内には居るはず。


「恵美も来るのかい?」


「昨日、秋末には武宮にも伝えとくようには言ってある」


「そっかそっか。昨日は恵美に会ってないから、後で渡したい物もあるし行こうと思ってたから丁度良かった」


そういえば、江口の彼女の武宮は武器屋に居るんだったか。

手伝った最初の調べ物は、現地調査に行く場所に珍しい鉱石があるかだったけど……あの調べ物は、武宮の為だったんだな。



武宮に会えるからなのか、少し上機嫌な江口と他愛無い話をして歩く事数十分。約束していた店に着いたのだが…。


「江口、俺の見間違いかな?皆傘がお嬢様みたいに見えるんだけど」


「あれは凄いね。近寄りがたい感じがするよ」


待ち合わせに指定した場所は至って普通の食堂なんだけど、店内に入ると知り合いが明らかに浮いていた。物理的にではなく、雰囲気というか……皆傘達が場に合っていない。


白いドレスを纏い、物腰やわらかく笑う皆傘の後ろには、親衛隊の四人がどこで調達したか分からない執事服に身を包んで立っている。


明らかに浮いている。周りのお客も少し距離を取り、チラチラと視線を送っている所を見ると、目立っているのは間違いない。

俺は顔もバレているからと外出用のフードを被って来たにも関わらず、これはあの場に寄るだけで目立つよな。

ハッキリ言って、今は変に注目されたくないし近寄りたくない。


「やっほ正輝。どうしたの?こんな所で突っ立って…って、あれ皆傘さん達…だよね?」


「多分ね。そっくりさんの可能性は低いと思うよ」


後ろから抱きついてきた武宮に驚く事無く、江口は首に回された腕に手を置いて苦笑いを浮かべている。もちろん、皆傘達の姿を見た武宮も目を丸くして、自分の認識に自信が無さげだ。


少し見ない間に、随分と変わってしまった知り合いの姿に困惑していると、背後に突然現れた謎の圧を感じて振り返った。


巨漢。

その言葉に尽きる。二メートルは超えている筋骨たくましい身の丈に、俺と同じぐらいの大きさの大鉈と大きな袋を担いだ男が、布か何かで目隠しをしているにも関わらず俺達を見ていた。見られていると感じた。


「先に行くぞ」


巨漢は、明らかに俺達に向けて告げると、他のお客の注目を集めながら店内を進み、皆傘の向かい側に大鉈を立てかけ腰を下ろす。


察したよ。あの巨漢がダンジョンから来た人で、今から俺達は一層注目されているあの場に向かわなきゃならないと……。


-


「話を始める前に、我が王から届け物を預かっている。追加の服だ」


「あらあら。こんなに早く頂けるなんて、キングさんとシーキーさんにはお礼を言わなければいけませんねぇ」


「元々あった物を、そなた等の体格に合わせて調整するだけだった故、大した苦労では無いとシーキーが言っていた。

我が王は何も言っていなかったが、礼ならば行動で示せ。我が王の役に立て」


「うふふ、そうですねぇ~。

十島くん達が、色々と調べているので近い内に報告しますねぇ」


「お嬢様の顔に泥は塗らない。この十島晃司を筆頭に、親衛隊として当然のこと」

「この湯方、受けた恩には報いる!」

「この篠崎、仇を返したりはしない」

「この秋末、倍にしてお返ししよう」


「「「「我等皆傘親衛隊!必ずや期待に応えよう!」」」」


「あらあらぁ、息がピッタリですねぇ」


色々と言いたいことがある。


なんで常峰から服が届くのか。

ちょっと前まで、普通に同級生だったクラスメイトをお嬢様と呼ぶ事に抵抗もなく、こなれている空気が出せているのか。

その息の合い様はなんなのか。

どうしてその様子を見て、お嬢様になっている皆傘はパチパチと手を叩くだけで他人事とはどうなのか。


本当に色々と言いたいことはある。なんなら、ここで常峰に念話をして服の件を聞きたいまでにもなってきているがそんな疑問よりも……。


「どこのお嬢様?」「見たこと無いな」「隣国の貴族の方かも」「使用人は忠誠心が高いのね」「結構べっぴんさんだな」「あの巨漢、すげぇ武器持ってるな」「隣の三人はなんだ?」「巨漢の使用人とか?」「巨漢も貴族か」「風格から冒険者かなんかだろ」「でも我が王とか言ってなかった?」「巨漢も使用人?」


恥ずかしいんで止めて欲しい。


俺達は行きたくない気持ちに打ち勝ち、不幸にも空いていた隣のテーブルを皆傘達が座るテーブルと合わせ座った。

俺達が座った事を確認した巨漢が、持ってきていた大きな袋を皆傘達に渡した所でさっきの流れだ。


江口も武宮も、視線が完全に何も置いていないテーブルに向けられている。俺も顔が上げきらない。それでも店内の会話は耳に入るわけで……羞恥で顔が焼けそうだ。


「さて、では話の続きをするか」


「ふふっ。依頼のお話でしたねぇ」


「我が王から詳細は伏せるように言われている。故に端的に聞くが、行く者は誰だ」


あぁ、どうしてそんなに気にせずに話が進められるんだ。正直、俺はもう一言も声を出したくないんだけど。

いやでも、視線は皆傘達の視線がコッチに向いているし、話を進めなければいけない。


俺はフードを深めに被り、深呼吸をして気持ちを落ち着かせ切り替える。


「依頼には俺と江口と護衛、そして貴方が行くまでは決まってます。最後の一人は…」


「俺が行く」


手を上げたのは秋末だった。


武宮は修行で行くつもりは無さそうだったし、親衛隊からも誰も来ないようなら、ゼスさんと相談して騎士団の人達から一人同行を頼めないか聞くつもりだったけど、その必要は無さそうだな。


「秋末まで入れて全員ですね」


巨漢は行く予定の三人を一人一人見て、江口を見た時に動きが止まり凝視し始めた。

目隠しをしているので正確には分からないけど、動きも止まっているし、おそらく凝視をしていると思う。


「なるほど。我が王が仰っていた人物は此奴か。貴様、名を何という」


「僕ですか?江口 正輝です」


「その名しかと覚えた。江口 正輝、我が王の配慮により、貴様に儂の加護をくれてやる。

他の者達も儂が名を知っておくが良い」


巨漢の言葉と共に、目隠し奥が光った。


次の瞬間、視界が暗転して店内から見たことも無い……宇宙の様な風景に囲まれ、水が流れ続けている狭い円盤の上に俺達は立っている。

驚きを隠せずに周囲を見渡していると、骨に響くような声が響き始めた。


「名はエマス。姓はルティーア。

江口 正輝に儂の加護を与えよう。励むと良い、さすれば地は、貴様を愛すだろう」


上から降り注ぐ様に響く声の後、江口の身体が光り、徐々にその明るさを増していき目が開けていられなくなる。その光りの強さは、目を閉じていても分かる程に眩しくなり、フッと風に肌を撫でられた後には耳に音が戻ってきた。


さっきまでの眩しさが嘘の様に目を開けられた俺は、改めて周りを見渡すと、そこはあの不思議な空間ではなく、少し客が多くなった店内の様子が伺える。


「正輝?正輝!!」


隣で武宮の叫ぶような声が聞こえ、慌てて声の方を見ると、江口が机に伏して起きる様子がない。


「案ずるな。身に余る加護に、心身が自己防衛を働かせただけだ。

暫し寝かせておけば、じきに加護が馴染む。


それより、加護は与える気は無いが、我が王の友人であればコレをくれてやろう」


巨漢の声が耳に入り、さっきまで骨に響くような声と同じ声である事をやっと理解した。


巨漢――エマスさんだったか。

エマスさんは軽く握り拳を作ると、その拳を振り、少し乱暴にテーブルに何かを投げ置く。それは木彫りの指輪だった。数は七つで、江口を抜かせば丁度七人。言葉からしても、まぁ俺達用だろうな。


しかしこの木彫りの指輪、不思議な感じがする。適当に一つ手にとってみると、その不思議さが一層伝わってきた。

熱を持っているわけじゃないのに、温かい感じがするんだ。持っているだけで何かに包まれたような温かさと安心感が身を満たしていく。


「あらあら、いいんですかぁ?

こんなに良いモノを頂いて」


「構わん。お守りの様なモノだ。

わざわざ着けずとも、身に持っていれば良い」


「ふふふっ。ありがとうございます~」


皆傘が木彫りの指輪を一つ手に取り、左親指にはめると指輪は勝手にサイズを変えてピッタリとはまり、更には蔦が指輪に巻き付いて小さな花が咲き誇った。


「うふふ。やっぱり、とても良いモノですねぇ」


「ほぉ……。芽吹くか」


皆傘は満足気に、エマスさんは感心したように。そのやり取りは、本人達しか分からない空気で行われている。

それを見ていた俺もエマスさんにお礼の言葉を言った後に、中指に着けてみるけど蔦が巻き付くなんて事はなく。サイズだけはピッタリになった。


一応、外そうと思えば簡単に外れるし、着けていてもそれほど厚みも幅も無いので邪魔にもならない。お守りと言うのなら、俺は着けておきたいな。


「エマスさん、ありがとうございます」


「儂に礼の言葉はいらん。

恩義は我が王に返せ。それが儂への礼になる。


さて、飯だ。その後に依頼に行く者の実力を見せてみろ。知っておきたい」


「ハーイ!サラダと唐揚げと、その他諸々おまちぃ!」


エマスさんの言葉に続いて、台車に大量の料理を乗せた店員さんが次々テーブルを料理で埋めていく。どんどん埋まっていき置き場が無くなり始め、木彫り指輪を受け取ってなかった武宮達もお礼を言いつつ貰うも、料理は置ききれなかった。


店員さんは、残りは後で持ってきますね!と言い残し、まだ料理が乗っている台車を置いて接客へ戻っていく。

これはつまり、あの台車に乗っている以外にも注文したのか?もう、ざっと十五人分ぐらいはありそうなんだけど……どれだけ、いつの間に注文したんだ。


「ここの分は儂が払う。

好きに飲み食いするといい」


エマスさんはパン!と手を合わせ、十秒程黙祷をすると、凄まじい速度で皿を空にし始めた。

その様子に、皆傘に言われて席に着いた親衛隊も含め、俺達も乗せられた様に手を合わせて皆傘のいただきます。を合図に食べ始める。


途中で江口も目が覚め、安心した武宮と異常な空腹感を訴えた江口が、エマスさんに張るように皿を空にし、追加の台車まで三人で食い尽くしていった。


-----------


新道達とエマスが厨房を泣かせていた頃。

自室で一人、減らない報告書や申請書に目を通していたハルベリアは、その部屋に自分以外の存在が浮き出るように現れた事に気づいく。


「何者かな」


「貴様に用があります」


書類から目を離し視線を上げると、虚空が切り取られて形作られる様に侵入者は現れ始めた。気がつけば、窓から入る光りも室内灯も照らしていたはずの部屋は薄暗くなっている。それと同じくして、次第に侵入者の姿がハッリキと分かるようになる。


黒い髪を軽く纏め上げ、使用人達が着ている物と似てはいるが、細部違う黒い服。足先までも黒い靴。部屋の薄暗さも重なり、上から下まで黒の印象を与えてくる女が、見上げてたハルベリアに視線を返していた。


「私に用か……。

他の者達に手は出さぬのかね?」


ハルベリアは警戒を高めていく。

突然現れた女は自分に用があると言うが、ここまで近付かれるまで気付かない程の手練。外から騒ぎが聞こえない事も考えれば、誰にも見られず知られず自室まで侵入を許している。


つまり、その気になればリーファやチーアを狙う事も可能なはずだ。ゼス程では無いにしろ戦闘ができる自分だが、それでも目の前の侵入者相手に時間稼ぎすらできるか……。


そう考えてはいるが、ハルベリアには分かっていた。武器も持たぬ今の状態で、先手を譲られたとしても歯が立たないであろう事を。

臨戦態勢でも無い女から伝わる実力差が、ハルベリアをジリジリと追い詰めていく。


「手?何を勘違いしてるんですか、出しませんよ。我が王からその様な命は受けていません」


ハルベリアの問いに呆れた様子で返した女は、一歩一歩ハルベリアに近付きながら胸ポケットから紙を一枚取り出し、ハルベリアが見ていた紙を取り上げ、取り出した紙を一番上にしてテーブルに置いた。


「我が王からです」


「つまり君は、常峰君の使いか?」


「くん……?私の名を知らないから私に対しての呼称は良いとしても、我が王に対して'くん'とは?」


「これは失礼した。

眠王の使いであっているかね?」


「その通りです。私は我が王からの命を受け、貴様にこうして(ふみ)を届けに来ました。

王からの文、心して読むように。


では、私はまだ我が王からの命が残っているので失礼します」


侵入者の女――ケノンは、ハルベリアに有無を言わさず言い終えると、先程の逆再生を見ているかの様に虚空に溶けて消えていった。


ケノンが消え、気配までも消えると部屋は本来の明るさを取り戻していく。それと同時にハルベリアは大きく息を吐きながら、ケノンが置いていった紙に目を落とし……苦笑いを浮かべる。


「君も中々に苦労していそうだな。常峰君」


-ハルベリア王へ

まず初めに、おそらく使いの者が無礼を働いたと思うので、謝罪から入らせて頂きます-


その一文から手紙は始まっていた。

ルティーア兄弟姉妹の最後の一人を出すのは、もう少し先になりそうですね。

予定として、末っ子は東郷先生達と合流させるつもりです。



ブクマありがとうございます!そして、評価までありがとうございます!

励みに今後も精進していきたいと思います!


嬉しさの勢いでしたが、久々に寸胴鍋でカレーを作るのは、流石に疲れました!

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