死ねば死ぬほど強くなる安藤君
簡単なスキル説明回
結局、メイドさんが何に驚いたのか分からなかった俺は、一旦その事を保留して、前を歩くメイドさんの案内に従いつつ、安藤に幾つかの確認をすることにした。
「安藤、さっきの話は皆には?」
「多分東郷先生がしてるはずだ」
「なるほど…」
きっと個人個人で思う所はあるだろうが、今は個々で動くには問題があるだろう。
スキルの使い方。
戦い方。
自分達が置かれている状況。
ログストア国の目的。
元の世界に帰る方法への可能性。
他にも細かく分ければ色々とある。だが、大まかにはこの辺りが課題か。
一番ハッキリさせるのに時間掛かりそうなのは、間違いなく元の世界への帰還法だとは思う。思うんだけど…俺の考えが正しければ、これは下手すりゃ考える必要すら無くなるかもしれん。
スキルという可能性は、元の世界での可能性を確実に殺している。
戻った場合に使えるか?と聞かれれば、あの光は言った…'私が全力で元の環境を提供する'と。つまりはスキルを消す事もしてくるだろう。
環境の変化に適応して、帰還法を見つけたとしてだ…この世界でも特別で個々でも強力で、言ってしまえば夢の様なこの力を手放す事ができるのだろうか。
「そうとう問題があるか、気に食わん限り無理だろうな」
「どうした?」
「いや、考え事だ」
その時が来なくても分かる結果に、思わず言葉が漏れてしまった。聞こえていた安藤には、適当に答え、もう一度考える。
元の世界に帰りたい欲求が強いヤツが居るなら、それでいい。それでいいが…やっぱりあの光の言い方は、俺達が帰る選択をしないと確信めいたモノがあって言っている気がしてならない。
スキル以外にも何か俺達に仕込んだか?
………。分からないな。仮に完全に帰る必要性を潰すとして、俺達に何をどうするかが分からない。
はぁ…分かってから考えるか。今は、状況把握と必要な情報収集を優先すっかな。
「そういえば、他のクラスメイトのスキルなんだけどな」
「あとで聞くわ」
考えを一通りまとめ終えた俺を見計らって安藤が言おうとしたのを、俺は遮る様に止めた。
スキルの内容は知りたい。知っておいて損はないし、仮に何かで戦う事になった場合には必要な情報だ。
でも、それを今聞いてはダメっぽい。
安藤がスキル内容を言いかけた途端、目の前を歩くメイドさん二人の歩行の速度がほんの少しだけ遅くなって俺と安藤との距離が縮まったのを確認しながら、安藤へ話題を振る。
「あぁ、そういやスキル詳細とか、なんか情報があるのか?
俺のスキル…名前だけでどんなのか分からんのだが…。いや、勇者ってのも筋肉騎士ってのも名前だけじゃ分からないんだけどな」
「できるぞ。
さっきの半透明の紙を出して、知りたいスキルをタッチすると詳細が出てくる」
「タッチパネルとか、ファンタジーのくせにハイテク感あるわ」
「ハハハ!確かにそれは感じるな」
安藤ももう一度確認しているのか、手元を何か見ている。
俺も自分のスキルをしっかりと把握するために、同じように手元を見て声には出さずに'スキルフォルダ'と頭の中で唱えてみた。
なるほど、安藤が唱えた様子は無かったけど、出したいと考えてれば頭の中でも良いのか。
手元に現れた半透明の紙を見て、そんな事を考えながら'眠王'の項目をタッチした。
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眠王
|説明|
その者、眠れる王。眠りを愛し、眠る事に至福を感じる王。
|スキル効果|
・'眠王の法'を習得する。
眠王の法 Lv:--
一定空間に法を用いて、その場を支配する。使用後、寝不足になる。
・自身に対して、許可のない干渉、状態異常を無効化する。
・睡眠時に外部からの攻撃的行動へ対する防御、抵抗が上がる。
・睡魔時、急速回復。上限魔力上昇。
・起床から三時間以降、次の睡眠までの間、毎分戦闘能力向上。
・起床から三時間以降、寝不足状態。
・寝不足時、防御低下。
|ログ|
スキル適応の為、体質を変化させる為の強制睡眠を発動。
完了。
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寝てれば防御型、起きれば攻撃型と…笑うわこんなん。
「無表情…というか、そんな真顔でどうした?結構扱いの難しいスキルだったのか?」
「いや、うん…うーん…。
こう…俺らしいスキルではあるんだ。あるんだが…俺の最大の敵は睡魔かもしれんなぁって」
「いつもの事じゃね?」
「…言い返せねぇ」
安藤からの辛辣なお言葉を頂戴しつつ、もう一つのスキルを確認する。
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念話
|効果|
・'印'の制作が可能。
印の形状は発動者のイメージにより形状を変化できる。
・目視できる相手から対象を選び、脳内での会話が可能となる。
・長距離念話をする場合、スキル'念話'による'印'を相手が持っている必要がある。
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要は、携帯電話か。
…少し試してみるかな。
俺は横で歩く安藤を視界に収めて'念話'を使おうと意識してみた。そうすると、こう…言葉にはし辛いが、スキルが発動して繋がったと言う事がハッキリと理解できた。
《安藤、聞こえるか?》
「おぅ!?」
《今、俺のスキルの一つを使って脳内に話しかけてる。多分、お前に話しかける様にしてみればできると思う》
突然響いたであろう俺の声に驚いて、周りをキョロキョロと見渡す安藤は面白いんだが…あんまり放置をして様子見をしていると目の前のメイドさんが不審に思うかもしれない。
そこから、変に勘違いをされても困る。だから簡単に安藤へスキルの説明をすると、すぐにスキル効果を理解したようだ。
《こいつ…直接脳内にッ!》
《また懐かしく感じるネタを》
安藤の戸惑いの内容と、俺の考えが伝わらなかった所を考えると、相手に伝える意思…まぁ話しかける様な考えがなければ個人での思考も可能と。
本当に形のない携帯電話みたいなものか。
後は、複数人に同時発動できるのか。
俺を介さなくても'印'持ち同士での思念は可能なのか。
できずとも、俺を介せば他者同士での意思疎通は可能なのか。
この辺りを検証してみる必要はあるな。
《スキルは眠王だけじゃなかったのか》
《ユニークスキルは眠王だけだ。
これは、EXスキル枠の'念話'ってスキルだ。安藤もそんな感じで他のスキルがあるんじゃないのか?》
《あぁ、'リヴァイブアーマー'ってのを持ってる》
《なんか強そう》
《実際強いと思うわ》
思念の有効時間などの検証がてら、安藤のEXスキル'リヴァイブアーマー'の効果を聞いてみることにした。
したのだが…安藤の過大評価などではなく、リヴァイブアーマーは実際に驚くスキルだった。
簡単に説明すれば、蘇るスキル。
俺の'念話'みたいな任意発動型ではなく常時発動型のスキルで、死亡した際に一時強化されて蘇るらしい。
一応スキルにもクールタイムが存在しているらしく、蘇生ストックを使い切ると一時間は蘇生できなくなるんだと。んでもって、蘇生ストックは最大が三つ。
つまり、単純に安藤を殺すなら天寿を全うするのを待つか、三回殺した後に一時間以内で四回目を迎えさせればいい。
まだ未確認だが、もしかしたら蘇生時に起きる一時的強化は重複するかもしれないし…ともかく、安藤を戦闘で殺すのは骨が折れるのは確かだ。
《回数制限付きゾンビ戦法を手に入れたんだな》
《言い方よ。まぁ、実際はそんな感じだ。
ユニークスキルも中々に相性が良いんだわ》
《筋肉騎士だっけか》
《そうそう。あぁそうだ、後でお前にその筋肉騎士のスキルのヤツ渡すわ》
《?》
なんでも安藤のユニークスキル'筋肉騎士'は、自分の主人の様な立ち位置の人物を決めないといけないらしい。
・主人の指定人数は四人。
・指定した主人の数に応じて自身の筋力が上がり、一定の距離内であれば主人の元へ瞬時に移動ができる。
・自身が瀕死に近づけは近づく程、筋力と防御が上がり主人の盾となれる。
・筋肉の動きが見える。
・筋肉の調整ができる。
そんな感じの説明が長々と書かれていると安藤は俺に伝えてきた。
他にも幾つか恩恵はあるらしいんだが、やっぱり気になるのはリヴァイブアーマーで蘇生した場合に、その瀕死に近づく程の効果が引き継がれるのかどうか。もし引き継がれるなら、死ねば死ぬほど強くなる安藤君になるわけだ。
ははは…俺のもおかしいとは思っていたけど、安藤のもおかしいわ。
そうなると、他のクラスメイトのスキルも気になってくる。後は…今は聞く分、見る分で'元の世界で考えれば'おかしいというか強力なモノだと感じているが、この世界で俺達のスキルが本当に常軌を逸しているモノなのかも気になる所だな。
まぁ……その辺は、遅かれ早かれ分かることか。
「こちらです。
皆様は既にお待ちです」
考えに耽っていると、どうやら目的地に着いたようで…。二人のメイドさんは扉を開けて、両側に逸れ頭を下げている。
「もし御用の際は、私達は外で待機しておりますので遠慮なく申し付けください」
手で俺達を室内へ誘導しながら言うメイドさんと、俺を様付けで呼んで以降一言も発さず同じように誘導するメイドさん。
「あー、じゃあその時はよろしくお願いします」
適当にメイドさんの言葉に返しつつ部屋へを足を進めた。
部屋に入ってこないのであれば好都合。向こうが何を企んでいるかは知らないけど…今の内にちゃちゃっと簡単な事だけ決めておくのが良いだろう。
あぁ…冒頭が長くなりそう。