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眠れる王  作者: 慧瑠
見えてくる意思

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テンプレ

「何か用っすか?」


「そう警戒すんな新人。俺が色々と教えてやろうと思ってなぁ」


後ろでは岸達が予想通りだと呟いているが、テンプレでは色々と教えてくれる人が現れるタイミングなのか。


「まぁ、とりあえず」


発した言葉に合わせて男は腕を振り上げ、一歩近付いてくる。

一瞬、男の動きを警戒したが、力が入っている様子はない。警戒と同時にスキルを使ったが、筋肉を見れば攻撃的行動でない事も分かった。


ただ腕を振り上げ、一歩近付いてきているだけ。脱力からの攻撃も警戒はしてもいいけど、そういう力の抜き方ではない。


「待てよ」


俺の予想では、そのまま肩を組むつもりで振り上げられた腕は、後ろから伸びてきた長野の手に止められた。


「あん?」


「確かに俺達は新人だけどよ……あんまり、見下すもんじゃねぇぜ」


「ガキが、随分と威勢が良いじゃねぇかよ」


掴み掴まれの姿勢のまま、俺を挟んで長野の男が睨み合っている。間に居る俺をスルーして、何やら盛り上がっている。

正直、展開が分からん。岸達がテンプレと予想したからには、それなりに展開は決まっているんだろうが……俺はここからどうすればいい。


腕を組み、少し視線を後ろへ逸らしてみるが、何かやる気の長野とキメ顔の岸に佐藤。逆側の後ろを見てみると、並木達はギルドから受け取った手帳と睨めっこをしながら話している。

岸達は俺に説明をするなり、並木達はもう少しこっちに興味を持つなりしてくれて良いんじゃなかろうか。


「威勢だけじゃねぇよ」


「礼儀を知らねぇガキだ。ついて来い、一先ず礼儀ってやつを教えてやる」


「上等。皆は手を出すなよ」


「ったく、おいしいところ持っていきやがって」「まぁ、今回はげんじぃに譲ってやるか」


ん?これは、どうすればいいんだ。

なんで長野と親切な男は、一体何をする気だ?……と気になるが、男の事は長野に任せて、俺は別でこっちに向かってきてる人の相手をするべきか。


特に説明も無く、男と何処かへ行く長野を見送り、俺は俺で明らかに俺達を見て向かってきている男女合わせて三人のグループの方を見た。


男が一人、女が二人で計三人。何か呆れた様子だが、間違いなく俺達の方を見て向かってきている。


「だから言ったでしょ?あのバカには絶対無理だって」


「アイツが行くって言って聞かなかっただけだろ?」


「ゴレアさんは、人が良いですからねぇ」


三人の聞こえる会話を耳にしながら待っていると、案の定三人組は俺達の前まで来て止まった。

並木達は……ダメだな。まだ何か話しながら手帳と睨めっこをしている。岸と佐藤は、貼り出しボードの方を見て気付いていないな。


つまり、この三人組の相手は俺がしないといけないのか。


どうしたものかと悩んでいると、先に三人組の気の強そうな方の女が話しかけてきた。


「はじめまして、私は'キャロ・ミルリト'よろしくね。

こっちの子は'フリム・ルルリア'でうちのヒーラー。こっちの優男は'ファイルアン・パブロフ'優秀な偵察。

そして、さっき君達に絡んでたのが、うちの'消えない篝火'のリーダーの'ゴレア・モーリン'って言うんだけど……さっきはゴメンね。うちのバカが驚かせちゃったみたいで。

えっと、君達は新人だよね?」


気の強そうな女の紹介に合わせて、もう一人の女は頭を下げて、男の方はヒラヒラと手を振っている。流石に女装と男装の確率も低いだろうから、女の方がフリムで男がファイルアンで合っているだろう。

キャロの言い方を聞くに、長野と何処かに言った男がゴレアで、三人はゴレアの連れか。


「はじめまして、俺は安藤 駆っす。

そっちの連れの人と一緒に行ったのが、長野で、あそこでボードを見ているのが岸と佐藤。そっちで興味なさげなのが、左から並木、橋倉、古河です」


とりあえず失礼の無いように俺も紹介をしていく。

並木や岸達も、やっとキャロ達の存在に気付いた様で、合わせて頭を下げている。


そして全員の紹介が終わると、キャロ達三人は不思議そうに見てきた。


「王都では珍しい名前ね。

島国の方に、似たようなタイプを聞いた事があるけど……」


「あぁ、実は知り合い同士でこっちの方に来たばかりなんすよ」


「なるほどね」


俺の代わりに佐藤が答えてくれた。その答えにキャロ達も納得したようだったが……そうか、確かに日本人の名前は聞かなかったな。

こっちで知り合ったのは横文字っぽい名前ばかりだ。


だが、聞いた感じでは珍しいだけで居ないわけじゃないのか。


「私達が知ってる場所でも、普通にログストア王都から半月は掛かるわ。遠い所ご苦労さまね。

まぁ…でも良くわかったわ。島国の方のギルドは自警団に近かったし、その新人丸出しなのも納得よ」


さっきから、やけに新人と言われるが、ここのギルドは新人だと何か問題があるんだろうか。事実だから言い返す事も出来ないだんけど、こう何度も言われると流石に気になってくる。


その事をいざ聞こうとする前に、キャロが口を開いた。


「別にこういうお節介を焼く理由は無いんだけど、うちのバカが絡んだのが原因だから教えておくわね。


知ってるかもしれないけど、ここは冒険者ギルド。何時何時(いつなんどき)、どういう理由で仕事が入ってくるかも分からない場所よ。

集団暴走(スタンピード)があったりして、緊急出動が命じられる時だってあるのだから、せめて一人ぐらいは戦える事を示しておくべきだわ。


それに、うちのバカより厄介な飲んだくれ共が絡んでくる事だって普通にあるの。ナメられると面倒よ?」


キャロは腰に下げている剣を指先で小突きながら俺達に向けて言った。そのおかげで、やっと絡まれた理由に気付く。


俺達は今、ログストア城でメイド達が用意してくれた普段着に、ハルベリア王が用意してくれたショルダーバッグのみ。

バッグの中身は、個人個人で用意したものが入っているとは言え、武器の一つも持っていない。


「別に登録だけなら絡まれないと思うけど、君達依頼を受けようとしてるでしょ。

そこまで素人丸出しだと、絡まれる前に騙されるわよ」


そういえば、ゼス騎士団長も言っていた。

色々と見て回る前に武器屋に行って、自分に合う武器を探してみたほうがいいと。無くても、予備として腰に下げる分ぐらいは買っておく事を勧められたな。


治安が良い方だとは言え、そういう輩が居ないわけじゃないか。寧ろ、治安が良い分、騙されやすい奴も多い可能性すらある。

これから様々な場所を周るのに、この体たらくは……常峰にバカにされそうだ。


「助言助かるっす」


「良いのよ。先に絡んだのは、うちのバカだから。

えっと、安藤君だっけ?迷惑料として、食事でも奢るわよ。どうせ、うちのバカに連れられたのなら、お風呂だろうしすぐには戻ってこないわ」


キャロは有無を言わさずに、踵を返して酒場の方へ行ってしまった。フルムとファイルアンも、キャロの後を追っていくし……これは、行くしか無さそうだな。


「なぁ、マッスルナイト」


「ん?どうした。この先もテンプレなのか?」


「いや、テンプレとは違う展開だけど……今、あの人さ、風呂とか言わなかったか?」


「言ってたな」


「あー……そっかぁ」


何やら岸は、スゥー…っと息を吸い、佐藤の肩に手をおいて首を横に振っている。

風呂だったらどうだと言うんだ。


「戻ってきたら多分わかるわ。とりあえず、奢ってくれるなら飯にしようぜ」


不思議に思い岸と佐藤を見ていると、二人だけの中では完結したようで、岸はキャロが待つテーブルへと足を運んでいく。


「後で説明はする。

ちょっと、女子の前じゃあな…」


佐藤は佐藤で並木達と一瞥すると、俺の肩を軽く叩いて岸の後を追った。


並木達が居ると言い辛いことなのか。言い辛いなら、別に俺にも話さなくていいんだが……。まぁ、後で教えてくれるってなら、それはそれでいいか。


大して気にせずに、俺も並木達にも声を掛けて全員でキャロの元へと向かう。


キャロ達と、先に着いている岸と佐藤へ近づけば、当然喧騒も大きくなる。

五人は奥にあるカウンター近くのテーブルに座っている為、途中で騒いでいる人達の間を抜けて向かうが、アルコールの匂いが強い。

ゴレアからも感じたが、ここで騒いでいる連中は、かなり酒が入っているようだな。確かに、酔っ払っているなら絡まれるのも不思議じゃない。


近くを通れば、俺達の姿を見て鼻で笑う奴や、まったく気にしない奴や、絡んできそうな雰囲気の奴と様々だが、これ以上は流石に面倒なので並木達を連れて足早にキャロ達が待つテーブルへ向かった。


「あぁ、やっと来た。

そこにメニューがあるから、適当に頼んでいいわよ」


俺達が来た事に気付いたキャロは、テーブルに投げ置いてあるメニュー表を指差す。

メニューも見たいが、座るための椅子がない。と思っていると、ファイルアンが近くの空いていたテーブルから四つ椅子を持ってきてくれた。


「ほれ。とりあえず、座れよ」


「あざっす」


椅子を用意してくれたファイルアンに礼を言い、俺達は椅子に座るメニューを見ると、結構知ってる料理名が並んでいる。

並木達もフルムが持ってきてくれたメニュー表を受け取り、何にしようかと相談しているようだ。


俺もメニューを眺めて何にしようか悩んでいると、キャロと岸達の会話が聞こえてきた。


「貴方達、チーム登録まではしなかったのね」


「チームっすか?」


「知らないの?あぁ…まぁ、申請しないと基本的に新人には教えないわね。


チームっていうのは、固定メンバーの集まりよ。私達は'消えない篝火'っていうチームを組んでいるんだけどね。長く冒険者をしていると、一期一会で知らない人と組んで依頼をしたりもするけど、固定メンバーで依頼に挑む事が多くなってチーム登録をしたりするのよ。


人数が多くなるとクラン登録をしたりするらしいわ。クランを立ち上げれば、ギルドでの権限なんかも貰えたりするらしいけど、私達みたいに四人だったり、そうね……十人ぐらいまではチーム登録になるんじゃないかしら」


「へぇ……有名なクランとかあるんすか?」


「有名っていうより、そもそも冒険者ギルドにはクランは二つしか無いわ。商業の方は、クランじゃなくて商会って別の言い方をするって聞くし」


「教えてもらっても?」


「別にいいわよ?知ろうと思えば、すぐに分かることだしね。

一つは、ギナビア国から領地まで貰ってる'大地の爪痕'ってクランね。ギナビア中心都市から南、魔族の領地の近くに'ヴァロア'って街があるの。

元々は小さな街があったらしいんだけど、だいぶ前に魔族の襲撃にあったらしくてね。周辺の村も軒並み根絶やしにされたとか。


それで、ログストア国の騎士団と一緒になって、その地を取り返したのが大地の爪痕。元から数百人規模の大きなクランで、点在する仲間の拠点としてギナビアから領地を貰って、今では街の経営までしてるって聞くわ」


「有名な話しなんすか?」


「有名だと思うわ。

もう十年だか十五年だか前の話で、私はまだ子供だったから詳しくは知らないけど、あの付近では大地の爪痕のクランマスターは英雄扱いよ。

魔族千体斬りをしたなんて噂まで聞くけど、真実はどうかしらね」


なるほど。そういう人物もいるのか。

でもあれだな、そのヴァロアって街は、普通に街と言うより防衛拠点扱いなのかもしれないな。現に、いい例として常峰の国がある。

ぽんぽんと領地は渡せるものじゃない気がするし、それなら理由としてまだ妥当なはずだ。多分。


メニューを見てはいるものの、話が気になり更に会話に集中する。


「それで二つ目のクランだけど、クラン名は'ファントムカラー'よ。

拠点も無いし、構成人数も不明。誰がそのクランの人間かは、ギルド組合連合の上層部しか知らないらしいわ。

私も、そういうクランがあるってだけで詳しくは知らない」


「へぇ、会ってみたいっすね」


「会っても、ファントムカラーのメンバーか分からないと思うわよ。

クラン名以外情報が無いもの」


詳細不明のクランか。

それだけ聞くと警戒をするべきか悩むが、何を警戒すればいいか分からない今だと……この考えは無意味だな。

こう頭を悩ませるのは、常峰の分野だ。情報として頭には入れておこう。


「はい!唐揚げとレッドグリルにオムライスお待ちど!」


「あ、このホワイトランチをお願いします」


「はーいホワイトランチですねー」


ウエイトレスが料理を運んできた事で、注文をしていないのが俺だけだと気付く。佐藤に至っては、岸の話を聞きながら食べ終え、おかわり分を注文している。

俺も慌ててメニューの中から適当にウエイトレスに注文をする。


「すいません、コレを」


「おっと!かしこまりました!

レインボーカレーですね!」


「え、あのバカと同じ物を…」「チャレンジャーだな」「すごいですね~」


キャロ達の三者三様に反応に、俺は自分が指しているメニューを見ると、確かにソコにはレインボーカレーと書かれている。

本当は、その上にあるカツカレーにするつもりだったんだが、どうやら慌てていたせいで指がズレたらしい。


キャロ達の同情というか、ありえないモノを目にするような視線が気になり注文を変えようとしたが、既にウエイトレスの姿は無く、これは…腹を括るしか無さそうだな。






「なんだ、意外とイケるな」


「嘘でしょ……」


数分後、ウエイトレスが持ってきたレインボーカレーを食う俺に、キャロ達は変人を見るような目で俺を見ている。


持ってこられた瞬間は、確かに鈍い七色のカレーには驚いたが、いざ口にすると意外とイケた。まぁ、カレーかと言われれば違うが、別に食べれない味ではない。

強いて言うならあれだ、プロテインの味だ。こっちに来てからは摂取できなかったから、懐かしいな。


「マッスルナイト、一口」


「いいぞ」


興味本位なんだろう。岸が俺のカレーを一口掬って食べた途端、ピタリと一瞬止まり、慌てて水で流し込んだ。


「か、カレー?」


「プロテインに近い味だよな」


「……わりぃ、摂取したことねぇから分からねぇ」


なんだ知らないのか。


引き攣った顔の岸をよそに、俺はレインボーカレーを食べていく。うん、やっぱり普通に食えるな。美味いか?と言われたら、微妙ではあるが問題ない。


程なくしてレインボーカレーを食べ終えると、後ろから知っている声が聞こえた。


「元気出せよ。それが全てじゃねぇって」


「うす……」


振り返れば、意気消沈している長野と、そんな長野を慰める様に背中を叩いているゴレアの姿が見えた。

その様子を見た岸と佐藤は、やっぱりなと言葉を吐いて長野の近くへ歩いていく。当然、俺や並木達、キャロ達も何も分からずに困惑している。


耳をすませば、世界が違えばワンチャンあると思った……。などと長野の言葉が聞こえるが、それでも意味が分からん。


「ゴレア、何があったんだ?」


近くまで来たゴレアにファイルアンが聞くが、ゴレアは後でな…とだけしか答えずに、結局何がなんだか。


その後も、長野の食事が終わるまで気を使うゴレアの姿に、俺達よりキャロ達が驚きの顔を見せ続け、何故か話の流れで武器を見に行くことになった。

武器を見に行く流れになるまでに、いつの間にか並木達はフルムとキャロと仲良くなっているし、岸達は岸達でゴレアと仲良くなっているし……。


「安藤は前衛か」


「そうっすね。重量系の武器を振り回す事が多いっす」


「見た目通りだな」


まぁ、俺は俺で蚊帳の外感に苛まれていたファイルアンと仲が良くなった。


----


場所は冒険者ギルドの酒場から、ゴレア達の案内で、大通りより裏路地に入った少し奥、若干寂れた武器屋の前に来ていた。


「ここが俺達の御用達だ」


「安くて早くて質もいい。問題があるとすれば店主一人で、その店主が頑固って所ね」


「ちゃらんぽらんが接客しているより俺は好きだけどな」


そう言いながら、慣れた感じにゴレア達は武器屋の扉を開けて入っていく。岸達や並木達も、続けて入っていくのを後ろから俺は眺めている。


やっぱり、武器屋ってフレーズは心が踊るな。


いつまでも立ち止まっていても仕方がないので、浮足立ったまま武器屋に入ろうとすると……何故かキャロ達は入ってすぐの所で止まっていた。


「嘘……頑固爺、ついに犯罪に手を染めた?」


キャロの言葉は聞こえるが、足は止まっているせいで店内はよく見えない。


「いらっしゃいませ~って、桜?それに安藤君達も」


ファイルアンの背中越しに店内を覗くと、聞き覚えのある声と共に、見覚えもある姿があった。


「あれ?恵美じゃん」


俺と同じ様に、キャロの背中越しに店内を覗いた並木に、店内に居た武宮は気付き、俺達の存在を見て目をパチパチとさせている。

俺達もまさかの人物に驚いている。


そんな中、奥から出てきた人物に更に驚いた。


俺の腰ほどの身長の爺さん。その爺さんが持っているのは、見ているだけで重量感が伝わる程にデカいハンマーを肩に担いでいる。

思わず使ったスキルで見てみると、筋肉の密度が凄い。外見の老いからは想像できない程に鍛え上げられている事が分かる。


「なんだ。てめぇ等か」


その爺さんは、俺達を一瞥すると、カウンター奥に並べてあった剣を一本取って、出てきた扉から奥に戻っていく。


「ボル(じい)!武器を見に来たんだが!ってか、この娘誰だ!」


「ああ?見て分からねぇか!ワシは忙しいんだ!

武器選びなら、ソイツにやらせろ!腕は未熟だが、センスは確かだ!


小娘!ソイツ等に合った武器を選んでみろ!これも修行だ!」


「はい!」


ボル爺と呼ばれた爺さんは、ハンマーの先で武宮を指しただけで足を止める事無く奥へと消えていった。

武宮は元気よく返事を返すが、ゴレアは納得してない様子だ。だが、俺達は武宮がココに居る理由が何となく分かったよ。

ゴレアは特別な訓練をしています。飲酒直後の入浴は、危ないので気をつけましょう。

そういえば、最近のプロテインは、昔に比べて飲みやすいらしいですね。



ブクマありがとうございます!

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