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眠れる王  作者: 慧瑠
敵と味方とダンジョンと

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42/236

無条件の信頼と授業料

テンポを考えて進めようとしたら、展開が変に早くなってしまった気がします。

そして、ちょっと長くなってしまいました。

「馬子にも衣装だな」


「シーキーに感謝だわ。そういう安藤も、中々に様になってんじゃん」


「三大国合同で作った衣装らしい。

並木が視た感じでは、認識阻害の魔法陣が組み込まれていて、簡単には鑑定も出来ないじゃない?ってよ。

素材はギナビア、デザインと制作はログストア、洗礼の祈りとやらで汚れにくく破れにくくの加護をリュシオンが。

俺達用の特別品で、金額換算したら全員分で一等地に屋敷が買って余裕でお釣りがくるぐらいって言われたわ」


「金銭感覚が分からないが、えぐい数字が並びそうだ」


しかしなるほど。だからフード被ってると顔も見えないのか。刺繍されている俺達の校章は……あぁ、制服の胸ポケにあったな。

つまり、この白いローブが三大国が認めた証であり、俺達が異界の者である証明か。


贈呈式を終えた俺達は、安藤達が歩いた道を辿る様にゆっくりと、見せつける様にログストア城へと戻っていた。

そして俺達は、初めて案内されるVIPルームの様な部屋で揃って待機している。


「そういや、常峰の考えではそろそろか」


「そうだな。予定では、そろそろ自由行動だ」


安藤に言葉を返しながら皆の様子を見ていると、皆もその気なのか、決めた組である程度集まっているのが分かる。

流石に、ここから延期をしようとは俺も考えてはいない。だが、少し組分けに別の組ができた事を伝えなきゃな。


俺にとっても予想外のダンジョンという居所。

用意と都合がつくまでは、ログストア国を仮住まいとしておくつもりだった。しかし、その必要が無くなった。


「ゴホン。えー、これで予定としていた訓練期間は終わったわけだが、皆にはもう一度聞いておきたい事がある」


わざとらしい咳払いに、クラスメイト達の視線は俺に集まった。

次はなんだ?と面倒くさそうな視線を向けてくるのも居るが、まぁそんなに長くはならんから聞いてくれ。

たぶん、長くはならないと…思う。


「まず、全体の目標としては変わらず'帰還方法の有無、そして確立'だ。

ちょこちょこと情報さえ集めてくれれば、基本的には俺が優先して調べようと思っているから、皆は好きにしてくれて構わない。

この訓練期間で、色々と自分のスキルが分かったり、やりたいことができたり。自分の考えがある者も少なくは無いだろうからダメとも言わないし重点的にと強制もしない。


そして、仮に帰りたくなった者もそれで構わない。帰る気が無くなった者も、それでいいと思う。

んで、今後は帰る帰らないの意見は聞かない。確立して帰れる時に、どうするか決めればいい。ま、つまりは好きにしていいって事だ。


だから生きろ。


耳にタコができてるかもしれんが、聞いてくれ。

迷ったなら相談すればいい。辛かったら帰ってこい。休みがてらでも、居心地がいいからでも構わない。いつでも帰れる場所は俺が用意してある。


変わりに、俺がこき使うから」


生きろ。と言った瞬間、少し重くなった空気を散らす様に言う。

へらっとした俺の態度に呆れた様な空気が流れたのを確認してから、言葉を続ける。


「それで俺から自由行動になる前に一つ提案だ」


緩んだ空気をもう一度締め直す。

重くなる必要はない。だけど、緩いままで考えずに、短時間で熟考してくれ。


「組分けの事なんだが、一つ別の組を用意したい。


それが、ダンジョン組だ。

攻略ではなく、俺のダンジョンを拠点として動く組。世界巡りと違う点は、基本的にダンジョンの事を任せたい。


知っての通り俺はダンジョンマスターにもなっているんだが……何かと広くてなぁ。正直一人で管理がし辛い。

俺も多少やりたい事や、今後動かなきゃならんこともあるはず。セバリアス達にまかせている分もあるから、できない事はないんだ。

それでも幾分か手の回らない状況もある。


そこで、ダンジョン組を用意したい。もちろん誰も来たくないなら、まぁうん。それでもいいんだけどね?

ダンジョンで何をするんだ。とお考えの皆さんにもご説明をすると、基本的にはリピアさんやラフィ達と一緒に仕事をしてくれても構わないし、自分のスキル磨きに精を出してくれても構わない。

ただ、もちろん頼みたい事もある。


俺のダンジョンは今、かなりの数の移住民を受け入れている。数にして約二百万だ。


だが俺は、放置する気もないし、無法地帯にする気はない。種族別に生活基準があるのは構わないし、食い違いがあるのも構いはしない。

それでも無法地帯にはさせない。


ダンジョン組に入るに当たって必ずして欲しいのが、その移住してきた者達の橋渡し役になってほしい。

要望を聞いてまとめる。仲裁が必要なら、それを行う。自分では無理だと判断した場合は、もちろん俺やセバリアス達に指示を仰いでくれればいい。

簡単に言えば、来た者には地域を割り当てるから、そこを管理してくれ。


人手が欲しいなら用意してくれても構わないし、俺が用意する事も多分できる。


こう言ってはいるが、難しく考えないでくれ。正直、俺一人じゃ時間が取れなくなりそうだから、手伝ってほしいだけだ」


実際問題、俺一人で管理は厳しい。切実に手伝いが欲しい。

セバリアス達はセバリアス達で、既に俺の為に動いてくれているが、それは俺のダンジョンという理由であって国としてではない。


セバリアス達は割り切りができている。いや、割り切ってしまっている。

俺が言えば、相応に、期待以上にしてくれるだろうが、俺の邪魔と判断すれば排除しかねない。利口で優秀で、培ってきた実績と経験があるからこそ、俺が気づく前に事後報告されかねない。


そんなんじゃ俺は、いつか王として居る事が居心地の悪いモノになる。

楽はしたいし、ゆっくりも寝たいが……寝覚めが悪いのはごめんだ。


俺より優秀でいい。俺よりも利口でいい。だけど俺に成長の余地をくれ。

今後、俺が望む楽と寝心地を確保するためには、俺も無能のままでいられないんだ。


……やれやれ、優秀な人材が多いと嬉しい半面、鍍金が剥がれる怖さと言うか、背伸びすんのも大変だな。

時間が無い分、焦りも出てくる。


なんて思う割には心に余裕ができている分、ゆっくりと皆の様子を見る事ができる。

答えが決まっているクラスメイトも居るがようだが、悩んでいるクラスメイトも居るようだな。


そう考えていると、部屋の扉がノックされた。


「はい」


「ご休憩の所、申し訳ございません。

常峰様、ハルベリア王がお呼びです。ご案内をしてもよろしいですか?」


ノックされた扉に視線が集まるが、誰かが答える様子が無いので俺が返事をすると、扉を開けて一礼したモクナさんが言った。


丁度いい。

考える時間は、もう少し欲しいだろうし。俺も、ハルベリア王に用事があった。


「大丈夫ですよ。


んじゃ、ちょっと行ってくるから考えてみてくれ。

失敗とかは気にせず気楽にな。どう転んでも、俺よりは安心できる」


その言葉だけを残して俺は部屋を出た。


言葉に嘘は無い。実際、学校に居た時から俺にとっては、皆は俺の望む結果を持ってきてくれている。

不十分な理由かもしれない。そこまで親しい間柄じゃないかもしれない。だからこそ、任せていい。

俺の予想通りじゃない、俺の知らない可能性がきっと俺の為にもなると、信頼が置ける。


-----------------------


常峰が居なくなった部屋は静かだった。


常峰が考えていたように、既に答えを決めている者も居れば、そうでない者も居る。だが、その誰もが感じている事がある。

言葉にしろと言われると、どう表現していいか分からない重荷が、彼等の背には確かにのしかかっていた。


そんな中、その重荷を苦にした様子も無く、いつものように変わらない様子で言葉を口にする。


「無条件の信頼って、向けられていると自覚すると、言葉を殺すのだから酷いものよね」


市羽の言葉は、的を射た一言だった。

常峰が残していった重荷に名前を付けるなら、『無条件の信頼』と言う言葉がしっくりとくる。その言葉に皆が同意をする様に、その表情を緩め、苦笑いが浮かぶ。


「まぁでも、常峰は好きにしろと言ったんだから好きにすればいいだろ。

それに応えるのが常峰で、かわりに応えてもらうのが常峰のやり方なんだし。


らしくなく、饒舌に喋って前に出てきてんだ。アイツも俺達と同じで、王様って立場に悩んで迷ってんだろ」


もう一人、安藤も気にした様子もなく、用意されていたクッキーを食べながら言う。


常峰と一番仲が良く、おそらくこの中で常峰の一番の理解者。

これがクラスの認識であり、当人達も否定はしない。だからこそ安藤の言葉に納得できた。


気がつけば一人で色々と用意して、各国の王と対等な立場を築き、魔王とまで渡り合う程になっていた。

遠く感じた。とても遠く、誰よりも早く異世界での自分の在り方を見つけている。素直に凄いと思い、言ってしまえば嫉妬もしていたのだと理解する。


だから安藤の言葉を聞いて安心して、納得して、常峰も自分達と変わらない。ただ少し早く、その才覚が発揮するタイミングが訪れて、自分達の王として君臨する。


凄いとは思う。自分ではそうはいかなかっただろうとも思う。あれは常峰が持つカリスマ性であり、常峰だからこそ、今こうして守られバランスが取れているのだろう。だが、それでも自分達と変わらないのだ。

人間で、高校生で、異常な力を持ってしまって、悩みもすれば不安なんだと。


「安藤はどうするんだ?」


「俺か?俺は、今回はパスだな。

だって俺にゃできねーし、やりたくねぇし。新道はどうするんだ」


「俺も組は移動しないかな。

常峰も分かってて言ってたと思うよ」


「だろうな」


新道と安藤の会話を聞いて、悩んでいた者達も次々と決めていく。

やりたいことをやって、やりたい事をする。その為にやらねばならない事もやる。別に元の世界でも変わらない。


そう考えていると気分も楽になり、よく考えれば、やりたい事ができる環境を常峰が用意してくれていると、素直に尊敬ができた。


-----------------------


「お話し中でしたのに、申し訳ございませんでした。

それよりも――」


ハルベリア王が待つ部屋へ案内されている最中、突然振り返ったモクナさんと目が合った瞬間、ピリッとした感覚が走った。


「何か?」


「いえ、本当に状態異常が効かないのですね」


「試しましたね」


「そこまでお分かりでしたか。

大変申し訳ありませんでした。駆様が常峰様の事をよくお話になるので、少々興味が湧いてしまいまして鑑定スキルを……」


駆様?……あぁ、安藤か。

へぇ、安藤がねぇ。そういや、なんか一目惚れしたとか言ってたな。

しかし、まさかもう下の名前で呼ばれる様な関係になっていたとは……。


「あんま気にしてないですよ。

ログストア国にとっては、異界の者達というのを抜きにすれば、どこの馬の骨かも分かりませんから。


それと、安藤がどんな風に話しているかは知りませんが、多分安藤の事ですから過大評価ですよ。」


「駆様からお聞きしたとおり、お優しい方だと言うのは分かりました」


ふふっ。といたずらっぽく笑うモクナさんを見て、何となく安藤が惚れた理由が分かった気がした。

アイツの事だ。ギャップ萌えでもしたんだろうな。


確かにモクナさんは綺麗だな。

俺が比べるのもおかしい話だが、リピアさんより大人びた色気と言うか、妖艶さがある。


日頃の無表情からは想像もできない表情ではあるな。

専属の安藤からすりゃ、俺以上にギャップを感じたんだろう。ちょっと、単純すぎるとも思うが、日頃から彼女欲しいって飢えてたし祝ってやるべきだよな。


「安藤は面倒を掛けたりしてませんか?」


「いえ、駆様もお優しい方です。その、日頃からお優しく、ですね」


そこで言葉を止めないでくださいませんかねぇ。

おかしいな。祝ってやりたい気持ちなんだが、こうも目の前で頬を染めるモクナさんを見ていると、不思議な事に別の感情が……。


「とても紳士的な方ですし」


紳士的?誰がだ?安藤がか?

あの筋トレ大好きに、紳士的って言葉が合う行動ができたのか。


俺の知らない一面だな。俺の予想では、キョドって運動部みたいな返事しかできない安藤が居たんだが……すまん安藤、俺はお前を侮っていた。


「情熱的でした…」


何がですかね。


より頬が赤らむモクナさんを見て、俺はハッと察する。


まさか!アイツ、既に一歩を踏み出したというのか!

あれ、おかしいな。なんか涙が出てきそう。きっとこれは嬉しい涙だ。安藤を祝う涙で、けっして呪いの感情から漏れる涙ではない。


「となれば良いなと、陰ながら思っております」


「あ、はい」


スッと真顔に戻るモクナさんの様子に、俺の心もスッと落ち着いた。

どうやら俺は(もてあそ)ばれたらしい。


「ですが、お優しい方だとは本当に思っております」


「不器用なヤツですけど、素直でいいヤツですから」


「はい」


モクナさんは、柔らかく笑みを見せる。


一瞬、ABCを達成してしまったのか!?と勘違いしてしまったが、モクナさんも満更ではなさそうだ。

まぁ、今は呪わずに済んだけど、遅かれ早かれ時は来そうだな。そん時は、素直に祝える様に心構えはしておこう。


「こちらでハルベリア王がお待ちです。

私ばかりがお話をしてしまって、失礼いたしました」


「いえ、俺も気になってたんで。

安藤の事、よろしくおねがいします」


「……。いえ、私では不相応です。

ですが、一時の夢を見せて頂けているのは確かですね。


お引き止めしてしまいました。

どうぞ、お入りください。ハルベリア王がお待ちですので」


意味ありげな台詞だな。

ログストア城のメイドは、恋愛禁止とかなんだろうか。それともモクナさんの問題か?

まぁ、俺が考えても仕方ない。安藤が本気ならなんかするだろうし、手伝えるなら手伝ってやるぐらいの気持ちでいよう。


「この世界だか国だかの事はよく知りませんが、不相応かどうか決めるのは、安藤とモクナさんの問題かと。

案内ありがとうございました」


俺はモクナさんに軽く頭を下げてから、重厚感溢れる扉をノックして、返事を待った後に開けて中に入った。

その間、モクナさんは俺を見ようともしない。


なんか地雷でも踏み抜いたのかもな。悪い安藤、本当にいらんお節介だったっぽいわ。


-


「呼び立ててすまないな。……ん?何かあったのかね?」


部屋に入った俺は、どうやら気付かない内に考え込んでいたみたいで、反応のない俺をハルベリア王は不思議そうに見ていた。


「あ、いえ。

呼び出しに関しては、むしろ俺も聞きたい事があったので都合が良かったです」


「ふむ。では、話をしようか」


「その前に一ついいですか?」


「構わんが、何かな」


やっぱり少し気になってしまう。

我慢すれば、寝る頃には忘れているだろうが、俺がやらかして安藤に迷惑を掛けてしまっては申し訳ねぇ。


「モクナさんは、その…なんか大きな問題でもあるんですかね?」


聞き方が分からねぇ。


「モクナか?

ふむ……。あまり個人の事で話す気にはならんが、後に知れて私達の関係に亀裂が入るのも問題だ。


他言無用である事を前提をして教えるが良いかね?」


「構いません」


他言無用と言うことは、それなりに隠しておきたい問題があるんだろうな。

安藤に話すわけにはいかなそうだが、助言ぐらいはできそうだ。


「モクナは、十五年前に魔族に襲われた村の生き残りなのだよ。

両親の機転により、家の地下に隠れていたそうだ」


おぉぅ。なるほど、そういうパターン。

これは本当に俺がどうこうはできないな。


「ちなみに、ご家族は」


「モクナの両親どころか、村の者はモクナ以外は皆殺しにされておる。

ゼスが担当し調査をしたのだが、その時にモクナを見つけ連れ帰ったと言うわけだ。


モクナの血縁は、あの村に皆居たらしく、往く宛のないモクナを我が城で引き取り、現在では非常に優秀な使用人だ」


天涯孤独ってやつか。

大切な人ができて、それを失った事を考えると……みたいなやつかもしれんな。

軽い言葉にしかならんが、簡単に死ぬ事のあるこんな世界で、その考えは結構辛いものだろう。圧倒的に平均寿命が低いであろうこの世界でなら、俺が考えるよりもトラウマが酷いだろうな。


「しかし、何故モクナの事を」


「リピアさんの次には話す機会が多かったので。それと、ハルベリア王の近辺も担当しているとお聞きしているので、今後ハルベリア王に用事があった場合に、モクナさんはどこまで信用していいものかと思いまして」


実は安藤が~とは言わない。変に勘ぐられて、ハルベリア王までお節介を焼いてしまった場合、きっと面倒な事になる。

既に焼いてしまった俺が言える立場でも無いんだが、これ以上かき乱す必要もないだろう。


「用心深いな」


丁度いいな。この辺で話の軌道を変えよう。


「まぁ、今は俺とハルベリア王だけなので、ハッキリ言わせてもらいます。


建国なんて大層な事は今回が初めてで、ましてや自分の半分も生きていないガキに言われるのは癪かもしれませんが。正直に言って、この国は不安定すぎるかと。少し調べたりはしましたが、他の国に比べて歴史が浅い。

いえ、百年以上の歴史がある国に対して、この表現は適切では無かったですね。


長い時間があったにも関わらず、この国の地盤は弛すぎる気がした。と言うのが正しいかもしれません。

なんというか……無理をして大国と名乗るための急ごしらえした状況を、そのままズルズルと引きずっている感じを覚えました。


ギナビア国やリュシオン国からの介入を、不本意で渋々受け入れなければ国を成せない様な状況。そう考えていて、今回の贈呈式の件で一層そう感じました」


「聡明であるが、やはり若い。

他国の力無くして国を維持できぬ。そういう場合もあるのだ。


自国のみで維持するには、必要以上の負担を民にも掛けよう。加え、その様な国であれば、すぐに魔族の手に落ちよう。

ギナビアやリュシオンに比べ、我がログストア国は、常峰君の言うように歴史も浅く発言力も劣る。だが、ログストア国に集う者達はギナビアやリュシオンの方針に異議がある者が多い。


その者達が集まり、一つとなったのがログストア国や傘下にある中小国家だ。しかし、集まるだけではすぐに吸収されるであろう。故に大国として名を上げ、維持する。

相応の妥協や、黙認せねばならぬ事柄があれどだ」


良く分かった。

ギナビアやリュシオンからすれば烏合が集まっただけで、本気で事を構えれば、ログストア国は落ちるんだろう。

それができない理由は、ログストア国が所有している牽制手段と、一番の理由としては魔族。


今、ログストア国と全面戦争なんてモノをすれば、間違いなく魔族にとっては好機だろう。どっちに付いても片方の国は落ちる。

旨味だけを考えるなら、漁夫の利でも狙える。


だから内側から崩す。それをログストア国はギリギリの所で阻止している。それが今の状況か。


そして、内側が完全に崩される前に、ハルベリア王は今回手を打った。


「大国として、ギナビア国とリュシオン国に並んでログストア国の名を連ね、俺達の建国を認めた。

そして三カ国の合作として、異界の者達である証明のローブを授け、自分達の立ち位置をより堅固なモノにする。


魔族が敵に居る間は、俺達の存在がログストア国の見えない後ろ盾になり、ギナビア国にもリュシオン国にも俺達の手が入っている事で、両国は下手にログストア国へちょっかいは出せない。

書面上には存在しない事実上の休戦状態。


その事を他の中小国や、行動派な大臣達に知らしめる為に、国民にも、少なからず大国は手を組んでいる事を教えるために。今回の俺が提案した大々的な贈呈式を利用したんですね?


俺だけが表舞台に上がる。と言う俺との約束を破って」


そう。本来であれば、あの場には俺だけが立つ予定だった。にも関わらず、いざ呼ばれて行ってみれば全員が居た。

ダンジョンの機能で場所を確認した時、なんかおかしいとは思ったんだが……案の定、贈呈式には全員出席。

市羽、新道、東郷先生に至っては、その顔を晒していた。


ハルベリア王達が知っている、間違いなく各国に足を運ぶ三人が。


「すまないとは思っておるよ。

最大限常峰君に譲歩した結果で、各国の重役を黙らせるにはこの手が早かったのだ。


常峰君の言った事は違いないが、今回の事は我が国だけの意思ではない」


「レゴリア王とコニュア皇女も賛同したからできた事ではあるんだろうが……」


「大国と言えど一枚岩では無い。ということだ」


つまり、自国の大臣共を黙らせたかったのは、レゴリア王もコニュア皇女も同じだったと。

だから土壇場での準備ができた。


さてはあのローブ、ある程度作り上げて置いて、どうにかして大雑把な採寸で微調整だけしたのか。


そういや、ダンジョンに行った時に、初めて防具を支給されたとか安藤が言ってたな。サイズがーとか、重さがーとか愚痴ってた事しか覚えてないが、なるほど……選んだ防具でサイズの目処を。物が物だから、多少大きくても問題はない。


レゴリア王の都合で贈呈式の日程がズレたのは、その調整の為と考えれば……予定通りだったって事か。


「そういえば、ローブありがとうございます。

あんな良いもの、時間掛かったでしょう」


「三大国が協力すれば、半月掛からぬよ。

最後の調整には少し時間が掛かったがな」


嫌味と分かっていても、余裕で返してくるな。

まぁ、win-winである分には問題ないか。こっちの要求も大方通っているんだし。


「やはり常峰君は頭が回るな。

それほどであれば、これにも納得はしてくれよう」


そう言って、対面に座るハルベリア王が取り出したのは三枚の紙。パッと見た感じでは同じ内容で、署名している名前が違う。

ハルベリア王、レゴリア王、コニュア皇女のサインが、それぞれの紙に別々でしてある。


詳しく内容を読むと、金銭や物資の援助をする替わりに、友好的な関係の維持、問題が起きた場合の対処協力。

そんな事を書きまとめた同盟契約書だった。


念のために三枚とも確認するが、書かれているサイン以外は全く同じ。


「別々の理由は、自国の意思で俺達と同盟を組む。書面上では大国同士が手を組んだと残したくないと。

まぁ、そうでなければ、事実上の休戦状態なんて回りくどい事はしませんよね。

同盟を望まない国への配慮ですか…」


「均衡状態であるから大人しい国もある。という事だ」


「大国が認めた独立国であり、何より中立。

中小国が暴走して問題を起こさない様に、表での牽制手段としての俺達の国との同盟。


そして俺達は大国からの援助と、俺達にちょっかいを出せば大国が動くぞ。と言う後ろ盾を書面上で証明できると」


「見事。足す言葉もない」


よく言う。これだけ状況と情報を用意されりゃ、大体は予想できる。むしろ、足す言葉も無いのが怪しいな。

他に、俺の考えが及ばない所に目的もあるんだろう。


内容に不利になりそうな事はない。全ての意図を汲み取れているとは思わないが、俺にとっても喜ばしい提案である事に違いない。

今回の件は、いい経験になった。仮に何かあったのなら、その場合に対処をすればいい。社会勉強の授業料だと思って、得たものを考えれば安いか。


「これは、写しとかは」


「この魔道具に魔力を込めながら記入欄に名を書き、最後に紙に触れ常峰君の魔力を流してもらえるかな」


ハルベリア王が懐から取り出した万年筆の様な魔道具に魔力を込めると、先端が淡く光った。それで三枚の紙に名前を書いた後に、言われたとおり紙にも魔力を流すと、魔道具と同じ様に淡く光り始める。


それを見ていると、ハルベリア王は新しく何も書いていない紙を取り出して、名前を書いた三枚の紙に重ねた。


数秒後、淡く光っていた紙の光は消え、重ねた紙にはコピーした様に文字とサインまで書かれている。


「元は常峰君が持っていてくれて構わない。

転写した方は、私達が保管する用だ。これで問題ないかね?」


「この方法は主流なんですか?」


「重要書類などでは、主にこの方法を使う。

どちらかが書き足しなどを行った場合は、もう片側の方で分かるようになっておるよ」


なるほど。

セバリアスやメニアルが使っていた魔法の様な拘束力は無いが、違反行為は分かる代物(しろもの)か。

便利だな。


「ありがとうございました。

それじゃあ、この三枚はこっちで保管しておきますね」


「うむ。では話は一通り終わりだ。

常峰君は何かあるかね?」


「そうですね…少しおねが「常峰様!!」いっ!?」


この際だから、お願いをしようかとした瞬間、いきなり部屋の扉が大きな音を開かれ、俺の名前が呼ばれる。


突然の事で、俺はビクッとしてしまい。反射的に振り向くと……なんか、知らん人が土下座をしていた。

長すぎですかね。

もう少し分けて書いたほうがいいのかな?とも思います。どうしたものでしょう。



ブクマ、ありがとうございます!

本当嬉しい…。これからも、どうかよろしくおねがいします。

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