全てが上手くいく事はない
更新ギリギリ……。
名前をまだ決めてはいませんが、そろそろ生徒全員を人物紹介がてら一気に出そうと考えてはいます。
「我が王よ、ご準備はよろしいですか?」
「さ、流石に派手すぎじゃないか?」
「いえ、流石はシーキー。我等が王を良く立たせる服を作りましたと褒めたい程。
大変お似合いでございます」
「おん…」
ラフィの言葉には、半分は同意できる。流石はシーキーだ。
鏡に映る俺が着ている服は、綺麗な黒に深い青が縁取りをして、装飾品も程々に落ち着いた感じで纏まってはいる。
ボタン一つとっても拘りのある模様が刻まれているし、外は黒で内側はなんかキラキラしてるマントも高そう。マントを留めている金色のこれも、高級感を醸し出している。
手袋も手触りが驚くほどにいい。同じ生地に包まれたら、即寝できる自信があるほどにいい。
溢れる高級感、綺羅びやかな装飾品とマント裏、それを着ているのは俺。
服自体は凄いと思う。これを一人で作ったと言うんだから、シーキーも凄い。
だが、やっぱりどうも俺が着るには派手に見えるな。
ファッションセンスが無い俺からすれば、何を着てもそう思ってしまうのかもしれないが。
「しかし、動きやすい」
「シーキーの腕は確かですから」
これだけ付属品が付いていたりするのに、動きを阻害される事はない。これもシーキーの腕が成せる技なんだろうか…。
「それでシーキーは?」
「寝ております」
「そりゃ何より」
実はこの服、シーキーの力作も力作。
三日寝ない事を許して欲しい。と言うのがシーキーからの頼みであり、その三日を掛けて作り上げたのがこれ。
本当は、自分だけ寝ずに奉仕する事を…と約束した頼み事で言われたのだが、流石に俺が心配になるから妥協して貰った結果だ。
よくまぁ寝ないで活動しようと思えるもんだ。
「さてと、ハルベリア王から連絡はまだ来ないし……少し、書類と向き合うか」
そしてなんで俺が、シーキーの力作に袖を通しているかと言うと、今日が例の贈呈式当日だから。
実践訓練でダンジョンを攻略してきた。と安藤から連絡があった翌日、安藤伝いでハルベリア王から連絡があった。
一度、自国に戻ったレゴリア王が都合で到着が遅れるそうで、連絡があった日から三日後の今日、贈呈式を行うとの事。
「お飲み物をご用意して参ります」
「悪い。頼むわ」
部屋を出ていくラフィを見送り、俺は寝室の机に山積みにされている書類を見てため息が漏れる。
現在、ログストア国は異界の者達、つまり俺達が一体目の魔王を倒したと言う事でお祭り騒ぎらしく、演出の一環として、俺にはダンジョンの扉を使って来て欲しいと頼まれた。
あの会議の時に登場した様に、盛大にやってほしいんだと。場所の指定までしっかり。
タイミングは、ハルベリア王から指示がある。だからそれまで俺は待機。
空いた時間で寝てもいいんだが、起きなかった場合が怖いっていうのと…この書類の山を少しでも減らしておかないと日に日に増えていく恐怖で、目が覚めた時に机を見るのが最近怖い。
机の書類の山から一枚取って内容に目を通していく。
シーキーがまとめてくれていた'移住民名簿'の一枚で、名前と希望移住環境が分かりやすくもビッシリと書かれている。
山積み書類の八割がこの内容。土地の広さは、それほど問題はない。ダンジョンの力で空間拡張みたいな事をすればいいだけで。
問題は、環境に関しての要望だ。
これが多すぎるんだよ。言ってしまった手前、できるだけ用意はしてやりたい気持ちはあるんだが、いかんせん細かい。
次々と移住してくる元魔王領の人達から要望を聞くのに皆は動いてくれているから、相談しようにも申し訳無さがあるが…セバリアスとメニアルに手伝ってもらったほうがいいな。
とりあえず、似たような要望同士で大雑把に組分けをして……土の中に蜂の巣?これは、どうなんだ?自分達で作るんだろうか。
この辺は保留。メニアルに聞けば分かるだろう。
湿地帯と乾燥地帯は、少し離したほうがいいよな。ダンジョンの階層で分けるのが早いが、屋外希望もチラホラ。
予算とかの上限が無い分、妥協点も作りにくい。
「ノリと勢いの怖さよな。
ダンジョンだから、まだやりやすい方なのかもしれないが…」
「紅茶をお持ちいたしました」
「ありがとう」
ノックの後、台車に茶菓子まで乗せてきたラフィから紅茶を受け取り、一枚ずつ紙を確認して別の紙に大雑把にまとめていく。
ダンジョンに戻ってきてからしている作業だが、一向に終わる気配がない。むしろ増えていく一方だ。
「お手伝いをしてもよろしいですか?」
「頼む…」
笑顔のラフィの言葉に甘え、椅子を一つ用意する。
俺の寝室は、それほど広かったわけじゃないが、今回の書類の山が増えていくせいで広くした。それに合わせて机も用意したし、椅子だって用意した。見栄えなんて考慮はしてないけど、いい感じに配置されている。ダンジョン君様様である。
あぁ~……起床から約二時間半。紙と睨めっこは俺の眠気を誘う。
ネオプラントやスケアクロウ、クレイデーモンやらシルバーウルフなどなど。魔族の他に魔物に該当する奴等も多いな。
「なぁ、ラフィ」
「いかがなさいましたか?」
「魔族と魔物の違いってなんだ」
「そうですね。魔物から進化を遂げたのが魔族と言われておりますので、本質的には近いものですが、一言で表現するならば、外見に差はあれど知性ある者というのが私の基準です。
知性無く本能のみであれば、獣か、魔物かという括りで認識しております。稀に魔物でも知性があるモノもいますが、種としては魔物の認識なので言い換えることはしません。
魔族は種族、魔物はそういう類。いえ、生存本能のみで理知的に振る舞う魔物も居ますし……申し訳ございません。明確な違いをと言われてしまいますと、我が王の望む様なお答えは出せそうにありません」
ラフィの言葉を聞きならが紅茶で喉を潤し、新しい紙を一枚手に取り内容に目を通していく。
先に手元にあった紙と見比べると、新しく手に取った方は魔族、先に見ていた方は魔物と説明が書かれている。
ふむ。ラフィの意見だけで判断するのも問題だろうが、少し気になるな。
今の言い方に少し引っかかった俺は、書類をまとめながら質問を続ける。
「ラフィ、質問に素直に答えてくれ。俺に気を使う必要もない」
「はい。何なりと」
「魔王というのはなんだ」
「魔族の王、時には魔物をも統べし王と認識しております」
「例えとして出すが、ログストア国の王。ハルベリア王はなんだ」
「人族の王…ですかね?」
大雑把な言い方なのに、ラフィは俺の考えを汲み取って、俺の望む答えをしっかり言ってくれる。
だからこそ、次だ。
「人族とはなんだ」
「そういう種族かと…」
「じゃあ、魔族と人族の違いは」
「種族の違いでは…?
申し訳ございません、あまり深く考えたことはございませんでした」
「謝る必要はない。十分な答えだった」
「お役に立てたのであれば、何よりも嬉しく思います」
ラフィのおかげで、俺が誤解している可能性が見えてきた。
これは、もしかしたらハルベリア王に嵌められたか。今のうちに確かめておこう……。
「もう一つ質問だ。魔神を知っているか?」
「魔神ですか?
かつて世界を破壊しようとした者。初代の勇者が討伐したと聞いております」
「俺が読んだお伽噺では、勇者は魔王を倒したと書かれていたんだが。ラフィはどう考える」
「初代のということでしたら……勇者の伝説ですね。
魔族は、その出生を辿れば魔物という事で、昔は今以上に虐げられていました。
魔神はその魔族達に力を与え、彼等の憎悪を手に取り味方にしていたそうです。それを期に、初代の勇者は魔を統べる王という呼称を略し'魔王'と呼んでいたと、長寿の友人に聞いたことがあります」
あー、繋がってきた繋がってきた。
『五体の魔王と魔神の討伐』
両方が世界の危機に触れると考えていたが、まず最初から考え方が違う。
誰も'世界を救ってくれ'なんて言っていない。勝手に俺達がそう勘違いしていただけだ。魔王が明確な敵であり、世界をどうこうするのであれば、そもそもメニアルとは手を組めていない。
組むとしても裏でコソコソと根回しをする。こんな大々的にはしないだろう。
どおりでリュシオン国がメニアルに突っかかっただけで済むわけだ。いくら東郷先生や勇者がこっちにいるとは言え、世界の敵であると考えるなら、すんなりと行き過ぎた。
討伐という観点で最大の敵と考えるならば、魔王ではなく……まだ見ぬ魔神。むしろ、魔王は味方にできる可能性すらある。
では、ハルベリア王が魔王と俺達を戦わせようとした理由。と考えると…簡単に思いついくのは魔王が所持する領地か。その点を踏まえると、俺は既にログストア国の望みに叶った行動をした。
いや、ログストアだけではなくギナビア、ひいてはリュシオンの望みでもあるか。
「やけに素直だとは思ったが…やられたな」
「いかがなさいましたか我が王よ。ご気分が優れませんか?」
「気分は何時も通り御眠だよ。ただ、ちょっと浮かれていたのが分かってな。
俺も利用はしているし、向こうも俺を利用しているから問題は無いんだが……はたして、俺の目的と考えた場合、敵は一体なんだろうかとね」
「私が言うのは、差し出がましいと思いますが。
深く考えなくてよろしいのではないでしょうか」
「え?」
「我が王のお考えを全て察する事は、私にはできません。ですが、我が王に敵対する様な者が現れた場合は、私は全身全霊を持ってして敵も障害も払いましょう。私のみならず、私達は我等が王の為に動きましょう。
ですから、あまり深く考えなくてもよろしいのではないでしょうか。王は王の思うがまま、望むがままにお進みください。
その姿を私達は見たく思います」
どういう表情をしていいか分からない。分からないが、不思議と気持ちは落ち着いた。
都合のいいように進み、不相応とも思う立場と肩書、積まれていく問題。新しい環境での焦り、困惑も不安も何処かで感じてはいたんだろう。
らしくないと言えばそうかもしれん。安藤に相談したら、きっとアイツは笑ってそう言ってくれる。
切り替えていこう。あくまで俺の勝手な考えではある。仮に事実だとしても、やりようは幾らでもある。
不安やら焦りやらが無くなったとは思わないし言えない。まぁ、それでも、ラフィの言葉は余裕を持てるぐらいには俺を楽にしてくれた。
「面倒も迷惑もかけるなぁ」
「我等が王。そのお言葉は私達には不要です。
問われた際、それも含め私達はこの場に残っております」
「そうか。
なら、そうだな……。ありがとうな」
「ンンッ…勿体無きお言葉!より、王のご期待に添う為、励まさしていただきます」
謝罪より礼。それが必要な時もある。
作業ペースが目を見張る程に上がったラフィを見れば、より理解して実感する。
他の皆にも、感謝の言葉を言おう。この余裕は、皆がくれたものでもある。
考えないのは愚の骨頂。だが、考えすぎても問題だ。
その塩梅は難しい。
しかしまぁ、話せる相手がいる俺は、恵まれているのだろうな。
そう考えると、余裕ができた思考の隙間に眠気が…。ハルベリア王、早くしないと俺は眠気に――
《待たせた。頼めるかね》
《すぐに向かいます》
負ける前に、安藤に渡していた媒介を使ってハルベリア王から念話が来た。
俺は、最近の相棒となっているシーキー作の'おやすみまでもこもこスリッパ'から、服に合わせて作ってくれた靴に履き替え、今回の演出の為だけにログストア城を中心に拡張したダンジョン領地内から人が溜まっている場所……そこから安藤達の存在を探す。
「お時間ですか?」
「あぁ。連絡があった。
ちゃちゃっと済ませてくるわ」
「お気をつけて」
手を止め、立ち上がり頭を下げるラフィから視線を外し、移動用の扉を喚び出して行く先を繋げ、ゆっくりと開く扉の奥へと足を進めた。
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ログストア国王都は、何時も以上の賑わいを見せていた。
行き交う人々も倍以上。歩く者達が足を止める露天の数も所狭しと並び、宿は連日満員状態。
日頃見ぬ他国の者達も多く、人が多ければいざこざも生まれ、ログストア王都の警備兵達は忙しなく巡回と仲裁と、後日報告する書類をまとめる仕事に追われている。
何故こんなにも賑わいを見せているか。それは自然と耳に入った。
-異界の者達が魔王をくだした-
瞬く間に広がった情報であり真っ先に入る情報。そして、皆が浮足立ち騒ぐ理由。
立ち並ぶ露天や壁には、その事を書いた紙が必ず張られている。
今や'魔王'と言う名は、それだけで'敵'である。
その魔王が敗れたとなれば、この賑わいも皆は納得し、共に賑わう。
まさに祭だ。
「おい!始まるらしいぞ!」
飛び交う言葉の中で、誰が言ったかその一言。
その一言はすぐに広まり、賑わいの騒々しさを静寂へと変えた。そして静寂の中に、規則正しい足音と蹄の音が響き始める。
遠くから響く音が耳に入ると、賑わいを見せていた人々は道の端へ寄り、その者達が来るのを今か今かと待ち続けた。
数分後、遠くから静寂を裂く様な拍手と慕い称賛の声。
声を耳にした者達は、更に胸を踊らせ待つ。
全ての音が次第に大きくなり、その姿が視界に映ると、同じ様に拍手と声を上げた。
大通りの中央を歩く五列の兵士。中の三列は各大国騎士が自国の国旗を掲げ、一糸乱れぬ動きで足を鳴らし先導している。
騎士達の後ろに続き進むのは、各大国の象徴である王家の家紋、もしくは国旗と同じ模様が描かれた馬車。天井は無く、内部が外から見える様になっている馬車であり、各馬車にハルベリア王、レゴリア王、コニュア皇女が数名の護衛と共に乗って皆の声に応える様に手を振り返す。
この様に大国のトップが会談以外で揃い、皆にこうも姿を見せ応えるのは何時ぶりか。それだけでも驚き騒ぎにもなるが、今回の目玉は別にある。
その目玉が来たのを知らせるかの様に、称賛の声も歓声も、拍手の音すら王達の後を追うように消えていった。
歓迎していないのではない。その功績を認めていないのではない。
ただ、声を上げる事すら忘れす程に、神聖な空気を纏う彼等が現れたのだ。
今回の為だけに用意された巨大な馬車。それを牽くのは煌めき揺らぐ炎を纏う大きな獅子。王達と同じ様に天井の無い馬車の上に立つ三十人の者達。
整った顔立ちに柔らかい笑みを見せ手を振る男。
同じく整った顔立ちではあるが、表情一つ変えずに無表情のまま手を振る女。
童顔で、二人よりは身長も小さく、少し慌てた様子で手を振る女性。
この先頭に立つ三人以外の顔は見えない。馬車にも刻まれている見慣れぬ模様の刺繍が入った純白のフード付きローブを纏う者達は、手を振り返してくれるものの声も聞こえる事はない。
それでも、見ているだけで息を呑んでしまう。
日に照らされ輝くローブの後押しもあってか、巨大な馬車の上は神聖で、別世界の様に感じ、触れることすら烏滸がましいとさえ見ている者達は思った。
それでも彼等が過ぎた後には、一層歓声と喝采が響き渡り、彼等に追いつくように音が過ぎていく。
「あれが…」
「あぁ、異界の者達だと思う…」
「ってことは」
「顔が見えているのが告知に書いてあった、勇者新道、同じく勇者市羽、聖女東郷だろう」
過ぎた馬車を見送りながら、一人は手元にある紙へと目を落とした。
露天や王都の壁に貼ってある紙と同じモノであり、配られていた紙。異界の者達が魔王をくだした事以外にも、記載していた事がある。
三十一人の異界の者達という事と内二人の勇者と聖女の名。それと、少し間を空けて彼等の王の名が書かれていた。
事前の報告が噂となって、常峰 夜継が遅れるという話は聞いていた。
ならば……と、顔を見せてくれている三人は、常峰 夜継以外で間違いはないのだろう。と皆が考えている。
そうこうしている間にも、騎士達に先導されて王都の大通りを進み、王達は今回の凱旋と贈呈式の為に特設した王都の外へと向かっていく。
贈呈式とはいえ、このように大々的にやる事はログストア国では初めてのこと。ましてや、国民や外部の者まで見学する事を許可される事など本来であれば無い。
特設会場には既に各国の大臣達が座り、王の到着を待ち、大通りで見ていた皆は王達の後を着くいていく様に移動している。
ゆっくりと、長い時間を掛け特設会場まで進んだ王達は馬車を降り、一歩一歩と整え敷かれたカーペットの上を歩き玉座へと向かう。
王の到着に合わせ立ち上がり頭を下げる大臣達の間を抜け、各国の王達は席についた。
後を着く様に整列して歩いていた異界の者達は、玉座がある段差の手前で止まり、片足を引きいて膝を付き頭を下げる。
「此度、この様な場を用意するのは、我がログストア国では初の事。
様々な不備があったことは詫びよう。
崩して良い」
魔法により遠くまで響くハルベリア王の言葉を聞いた大臣達は、頭を上げてゆっくりと席に腰を下ろした。
その事を確認したハルベリア王は言葉を続けた。
「では、これより贈呈の儀を執り行う」
ハルベリア王の声を掻き消す程の歓声と拍手が響く。数秒響いた音は、ハルベリア王が軽く手を上げただけで静まり返った。
「勇者新道 清次郎
勇者市羽 燈花
聖女東郷 百菜
そして異界の者達よ。面を上げよ。」
ハルベリア王の言葉に従い、新道達は顔を上げ、そのまま立ち上がる。その様子を見て満足そうに頷いたハルベリア王は並ぶ新道達から目を逸らさずに問う。
「始めに、世代を跨ぎ因縁となっていた魔王の内の一体、メニアル・グラディアロードをくだした件、見事であった。
この功績を称え、我がログストア国、加えギナビア国とリュシオン国から褒美を渡したい。
して、事前に報告を受けているが確認をさせてもらおう。
皆に褒美を取らすのではなく、代表を一人、常峰 夜継を立てると言うことで良いか?」
「問題ありません。
それが、俺達全員の総意です」
一歩踏み出た新道が、全員の代表としてハルベリア王の問いに答えた。
それだけで、見ていた者達は声を漏らしざわつく。再度ハルベリア王は軽く手を上げ、皆を静めると視線を少し上に向ける。
「では、代表者常峰 夜継。
魔王をくだし、従えた実績に対し褒美を与える。前に出よ」
目の前ではなく、空に向け声を張ったハルベリア王。釣られる様に異界の者達以外の視線が上へと向いた。
「扉?」
誰が呟いたか。
その言葉通り、視線を上げた先。空には黒い大きな扉が、いつの間にか佇んでいる。
声と視線に反応したかの様に黒い扉は、左右にゆっくりと開き始め、そこから一人の男が出てきた。
一歩。また一歩と足を動かすだけで、見ている者達に緊張感と驚きが走る。
風が吹き荒れるでもなく、飛ぶでもなく。その男は、確実に空中を踏みしめ歩き、足を進めているのだ。
魔法感知が出来る者が居ない訳ではない。観衆の中にも、各国の大臣達の中にも魔法感知のスキル持ちは少数ではあるが居る。護衛の騎士の中には、魔法感知スキルを鍛えた優秀な者も居る。にもかかわらず、誰一人としてソレが魔法だと認識できない。
隠蔽や隠密のスキルにより感知できないかと感じた騎士は、近場の者に鑑定スキルの使用を頼む。
「ッ…」
頼まれた騎士は'鑑定'を使った。けして未熟ではない鑑定スキルを。
だが、見ることは叶わない。他の異界の者達の様に阻害系の装飾品を持っている情報は貰っていない。それでも鑑定は阻害され、更には目が合った。
数多くの者達が居る中で、鑑定をした瞬間に的確に自分の目を見てきた事に、鑑定をした騎士は息が詰まった感覚がする。
眠そうな表情に目つきとは裏腹に、僅かに苛立ちを感じたのだ。
この騎士は、常峰と魔王の戦いの場に居た。だからこそ、その僅かな苛立ちを垣間見ただけで息が詰まる。
あの時に感じた、静寂から優しく首を絞め殺される静かな殺気が記憶から掘り起こされてしまった。
そうで無くとも、何も知らない者達は男から目が離せない。
コツ……コツ……と歩く男の動きに合わせ、陽の光に当てられた装飾品が光り、靡く外套の裏には夜空を閉じ込めた様な錯覚を植え付けられる。
空中の見えぬ階段を降りる男が、新道達の前に立つとより目立つ。
白と黒。
神聖な者達を率いる黒き王。
「遠い地より、良くぞ参った」
「この度は、この様な場をありがとうございます。
なにぶん予定外な事もありましたが、遅れた事の詫びと共に到着をご報告いたします」
「詫びは後程。
今は、貴殿等の功績を称えたい」
不自然な会話ではあるが、空気に飲まれている者達が声を上げることはない。
誰もがハルベリア王の次の言葉を待つ。
「代表者常峰 夜継。
魔王メニアル・グラディアロードをくだした功績を称え、我等三大国は褒美を用意した。
一つ。常峰 夜継を代表とし、魔王メニアル・グラディアロードが所有していた地を譲渡する。
一つ。その地を独立した中立国としての建国をログストア国、ギナビア国、リュシオン国が認めよう。
一つ。三大国は、中立国への援助を約束しよう。
以上三つを褒美とする。
何か他に要望はあるかね?」
「ありません。
ありがたく頂戴いたします」
「よろしい。では、これからも励むよう。
皆!ここにハルベリア・ログストア「レゴリア・ギナビア」「コニュア・L・エンピア」三名の名をもって新たな国の誕生を宣言する!
盛大な拍手を!」
瞬間、地鳴りにも似た歓声と空気が割れる様な拍手が響き渡った。
場の雰囲気で、知り合いが実は凄い人物なんじゃないか?って誤認しそうになる事もありますよね。
もうすぐ個別行動が始まる…。
どこから書こうか悩み中。
もしかしたら、私の個人的な事情により、少しだけ更新が遅れてしまうかもしれませんが、どうかご理解の程を……。
ブクマありがとうございます!
励みになります。もう、それは励みに。
これからも頑張らせてもらいます!(`;ω;´)




