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眠れる王  作者: 慧瑠
敵と味方とダンジョンと

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38/236

一方その頃:王の居ないダンジョン シーキー編

やっぱり書きたかったので書きました。

シーキー視点のお話です。 ついでに、少しだけダンジョンの過去について書きました。

前触れも無く目が開く。

上半身を起こし、与えられた部屋の壁に下がる時計に目を向ければ、静かに五時である事を告げている。


時間を確認した私は、王がご用意してくれた寝具から立ち上がり、ナイトハットと言う寝る時に被る帽子を揺らしながら寝ていた寝具を整えていく。

それが終われば寝間着から私の普段着へ着替え、服装、髪型共に乱れがない事を確認して自室を出た。


王のご厚意により、私達には自室兼寝室が用意され、三階層に分かれる居住区には、各階層に私達専用のダンジョン内移動用の扉までもご用意して頂いている。

その扉を利用して、私は朝食の用意をする為に食堂へ移動した。


「おはようございます。副メイド長」


扉を抜けると、夜のダンジョン警備を担当している部下が、私が食堂に入ってきた事に気付く。


シルキーである私は本来、身を置ける家さえあれば睡眠の必要はない。だけど王は、私達の様な従者全員にも休むようにと望まれた。

だったら私達はそれを叶える。今回の優しき王の願いを。


「おはよう。何か変わったことは?」


「目立った変化はありません。王のおっしゃった通り、夜間中にも魔族や魔物がダンジョン周辺に集まってきているぐらいです」


「そう。魔物は問題が無ければ放置。魔王の愛玩の可能性もあるから、今の所は備蓄を優先して使う。

魔族に関しては王のご指示に従い、拡張したダンジョンの地表を自由に使わせておく。向こうから要望があればできるだけ叶える様に」


「そして暴徒が出た場合は、殺さず拘束ですよね?心得ております」


「ならいいです」


王の願いを叶えたい。それは私達の望みでもあるけど、だからと言ってダンジョンの事をしないとは違う。

ここは王がお戻りになられ、お休みになり、お住みになる場所。

我等が王のお住まいを放棄や放置などは…大問題。死活問題。私が死ぬ。


しかし休みを取らないと、王のご意思に反してしまう…。そこで、初代の王がご利用していた交代制を採用させていただいた。


厳密な時間を指定せずに、夜行型の者達が夜を担当し、残りの者は日中を担当するという簡単な決めごと。

これで私は、仮眠を挟むのも可。朝でも昼でも夕でも夜でも王にお仕えできる。


この事を我が王にお伝えしたら、『ワーカー・ホリックの真髄を垣間見た気がする』と苦笑いをお見せになり、必ず仮眠ではなく睡眠を取る事を条件として認めていただけだ。


「ほいよ。シーキーの分の朝飯だ」


「ありがとうルアール」


今日の夜間を取り締まっていたルアールは、厨房から湯だつ朝食を持って私の前に座る。

そして持っていた料理をテーブルに置き、自分の分の朝食を食べながら、引き継ぎの報告を始めた。


「魔族の数が随分と増えてきた。

俺の見立てでは、予定していた二週間より早く集まるかもしれない」


「さっき聞いた。そんなに早い?」


「魔王も移住指揮を部下に任せてるのかは知らないけど、随分と張り切ってるのが見て分かる。

元々がそうなのか知らないが、荷物が少なくて移動も早いのも拍車を掛けてるかもなぁ」


「問題がでてきそう?」


「いや、王は見越して簡易な居住区は地表に用意しているし、ある程度の森は開拓も済ませているから…王が戻ってくるぐらいまでは大した問題はないはずだ。

出てくるとすれば、野良の魔物が魔族達の移動に煽られて、一緒に領地内に流れ込んでるぐらいだ」


だったら問題はない。それは敵ではなく食料。

移住民の食料をこっちで全く用意していない訳じゃないけど…数が数。一から十まで提供していたら、二日持つかすら分からない。

我等が王が環境提供をする約束はしているけど、作物の成長には当然時間がかかるし、王のお考えではダンジョン内だけで自給自足を確立するつもりなはず。


それなら外部からの魔物が増えるのは、けして悪いことじゃない。ダンジョン領地内に入ったのであれば、王もお気づきのはずだし。

ただ……そうなれば、追々に小さな問題も出てくる。餌を求める大物が、遅かれ早かれ。


「夜間巡回の組からの報告では、お前の考えている大物も釣れてるらしい」


遅かれ。は余計な発言だったみたい。


「ルアールが対処する予定ですか?」


「俺の時間だったら俺が、シーキーの時間だったらシーキーがすればいいだろ。

そこらの魔物と違うだけで…俺等からすりゃただの食料だ。


まぁ…あの魔族共からすりゃ分からないけどな」


「そんなに弱いのですか」


「というより、戦線復帰は無理な奴等ばかりだ。

部位欠損が目立つのもしばしば…。遠目で見た感じ、傷も欠損も古すぎて、復元しようにも同じ形には無理だろうな。動きや行動を見ていると、本人が欠損の生活に慣れすぎている。

おそらく、意識共有をしても当人の本来の部位復元は無理だろう…普通なら」


「我等が王と同じ異界者か、仮に異界者にできるものが居なくても、ルアールの弟ならできるのは分かっていますよ。

ただ、そこまでの義理はありません。王のご指示なら喜んで行動と意思をお見せしても、私個人の現在意思では不必要極まりない行為です。


それで?

無理じゃない魔族もいるんでしょ?」


食べ終えたお皿を重ね、食後の紅茶を淹れる。

ルアールは…まだ食べているから、後で適当に自分で淹れさせればいい。


「セバ爺が言うには、今回の異界者は粒揃いらしい。その粒の一人は、あの暗闇から俺達を救い、我等が王となった。

初代の様に優しき王。初代の王の憎悪を身に受けても、顔色一つ変えずに正常で俺達の事を考えてくれる初代の求めし王。俺達が仕えるべき王で、仕えたいと望んだ王。


魔族共がどうのこうのは必要ない。

あの魔族共が負傷者の集まりで、ただの雑兵だとしても関係ない。降りかかる火の粉を払うも、火の粉を振るうも俺達がすればいい。

そして、我等が王の為に灯った火に、薪を焚べ燃えあげさせるのも…俺達だ」


食べ終わって腹の立つ顔で語るルアールの空き皿を取り上げて、厨房へと足を向ける。


ルアールの言葉は、言われなくても分かっている事。

ドラゴニクス親子とルアール兄弟、そして私は初代の王からお仕えしている古参。逆に言えば、その七人しか残っていない。


私にも姉妹はいたけど…とうの昔に戦死をした。


我等が王は四代目。

ダンジョンを創り上げた初代は、優しく、聡明であると同時に身体が弱く、そしてその精神も酷く脆く…王を慕い集った皆に良く言っていた。

―僕が憎悪に飲まれたならば、君達の手で僕を殺して欲しい―

その言葉に従い、憎悪に飲まれ暴走した王を…私達は殺した。


最後に笑みを浮かべた初代の王は、本人達の意思に任せ、ダンジョンを一つの契約母体として私達に選択肢を与えた。


この地を去り生きるか。

ダンジョンと契約して、来るかも分からない主を待ち、長く生きるか。


多くの者が去り、多くの者がこの地に残った。


その意思に応える様に、初代の王は契約の際、コアに一つの細工を施す事で私達の幸せを願った。

自身が飲まれた憎悪と苦痛を試練とし、耐え抜き応えた者だけが王としての資格を持つ様に。


そして次の王は、千の時を越え現れる。

二代目は王らしき王だった。

我が身を守れと。それに応えるのが我だと。だけど時代が悪かった…としか言い様がない。


乱世とは良く言ったものだ。戦うのが日常であり、死を踏み越える事でしか明日を拝めない様な…短命である事が世の理である時代。

多くの友と同士を失い、新たな友と同士の入れ替わりが最も多かった。故に、二代目も短命であったのは…仕方のない事なのかもしれない。


その膝を地に着けること無く、仁王に不動で立ち続け世を去った王。広大に見えたその背を最後に、私達は次代の王を待つ闇の底へと戻った。


ここで、初代の王の計算違いが生まれたのでしょう。

その試練が私達にまで漏れるとは、思わなかったのでしょう。


二代目が、その内に抱えていた荷は…初代の荷と重なり、試練の域を漏れて私達にも流れ始めた。

戦場の叫び、死を乞う声、開放された喜び、王の苦悩、王の望みが、契約分を越えて私達にも流れた。


溢れた分だけでも、私達には苦痛だった。……だけど、二代目の死から時は更に千を重ね、地獄という言葉は三代目が持ち込んだ。


一言で表すならば愚王。

私達がそう思うだけで、世界では違ったのかもしれないけど…愚王だったと思う。

愚かにも、平和な世界に乱世を呼んだ。三代目が抱えていた野心は、初代と二代目の試練が重なり…世界は三代目の王を『覇王』と称した。


力に集った者達は、力によって死に。過去の王を慕い愛した者達は、命令に抗えず…心を蝕まれながら身を地に、その魂と願いを天に逝った。


多くの仲間を失い、多くの仲間が地を去る光景に、ドラゴニクス親子が外部の繋がりと共に覇王を討つ事で私達は…溢れ出した憎悪と苦痛が渦巻き、眠ることも許されない地獄へと身を沈めた。

五十という少なくも心を寄せた、新たなる王を求める同士と共に。


「シーキー、無視は酷くないか?

結構ビシッと決まったと思ったんだけどよ」


食後の紅茶を飲み終えたルアールが、そんな言葉と一緒に食器を洗っている私の元へ来てから、洗い物を追加していく。


「なになに?珍しく物思いに耽る顔を見せてどうした」


「過去の王の事を思い出していました」


「過去…ね。それで?」


「私達を思い、未来を約束してくれた王は…初代以来だなと。

願わくば…あの安らかな眠りを、時の最後までお側で見届けていたいなと…」


「そうだな。

あの闇はうんざりだ。だが…それ以上に、俺も我が王を気に入っている。


シーキー。

俺は我等が王の問いに答え、おはようと言われた時、今回が最後と決めた。お前は?」


三百年。

けして短い時間じゃない。だけど、長き時を刻んだ私達からすれば長い時間でもない。


「私も同じですよ。

我が王を気に入っているのは当然、そして我等が王が死した時…私は長きお暇を頂きましょう」


それでも、味わいたいモノではない。

……何より、優しき王の元で果てたいと願うのは、私の我儘。


「これで古参は軒並みおさらばだな」


「珍しい。ドラゴニクス親子もですか」


「寧ろ俺達の中で一番惚れ込んでるのは、あの二人だぞ。

まぁ、きっとあの王の事だ。後追いは許してくれそうに無いけどな」


「そうですね。だからこそ、よりお側にいる為に。

ルアール、外は任せていいですか?」


「シーキーはどうするんだ?」


「もちろん私も外を気にします。他には洗濯や、皆の食事の用意もありますし…そうですね、食料管理や、軽くですが移住してきた魔族の名簿の製作に取り掛かる予定です。


最も優先したいのは、王のお住いをお掃除しなければ」


やっと洗い、拭き終わった食器を片付け手を拭き、次の仕事の準備をしながらルアールに言葉を返す。

そんな私をルアールは、呆れた顔で間抜けな息を吐いた。


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それから二日後、今日は我等が王がお帰りになる日。

いつもより二時間早く起きた私は、食堂へと行く前に、王がお造りになった空中城へと足を運んでいた。


庭を抜け、正面の大扉から中に入ると大きな広間があり、奥には玉座。そして高い天井を見上げると、広間の端にある階段から行ける円形の廊下と三十一の扉。


王のお言葉では、ここは見掛けだけで、本当はただの寝室が並んでいるだけらしい。

三十一という数は、王を含めた異界者の数であり、ここはその者達の家なのだと。


「ならばココも、我等が王のお休みになられる所」


だったら私が掃除をしない理由はない。

起床時、部下に食事の準備は任せてある。住民の確認は昨日の内に済ませた。


今日の私の仕事の予定は、震え耐えながら我慢したココの掃除と…お帰りになる我が王のお食事の準備のみ。

物足りないなんて事はない。一日掛けてココを掃除するために、私は仕事を終わらせたのだから。


ココの掃除を隅々まで終えたら、食事はどうしましょうか。

やはり、昨日の夜にダンジョン領地内に入って来た大物の魔物。ルアールが狩ってきた火竜をふんだんに使うのが良いですよね。

それがいい。そうしましょう。


そうと決まれば、何時お戻りになるか分からない王の為に、お時間を合わせなきゃなりません。早くお掃除を始めましょう!


しっかり五時間。

ホコリ一つも許さず、外からの光に照らされる城内に満足した私は、お帰りになる王の為にお食事の下ごしらえをした…のですが。


「………」


「まぁ、なんだ。セバ爺やラフィ達も一緒なんだし、心配はいらねぇんじゃないか?」


「そうですね」


「ほら、とりあえず飯食ったらどうだ?腹減ってんだろ」


「そうですね」


「…あれだな。一日しっかり味を染み込ませた火竜の肉も美味いもんな。我等が王もお喜びになるだろうよ」


「ですね」


「見回りいってきまー」


「ですね」


食堂でお待ちして数時間。日付が変わっても我が王は帰ってこなかった。

待てど暮らせど…。日が昇っても…王はお帰りにならない。


王の為のお食事は、何時でも仕上げられる様に準備を終えている。終えているのに、王はお帰りにならない。


「お前…もう昼前だぞ」


「そうですか」


「お、バリエーション増えたな」


「か」


「それは…返事なのか?」


ルアールが何か言っているけど、それよりも王がお帰りにならない。もしかしたら何かあったのでは?と心配な気持ちが私を埋めていく。


何度目かの時間確認をした時、やっとそのお声を聞けた。


《し、シーキー。悪い…その、連絡遅れて》


《そうですね》


《一応、今日の夕方ぐらいには帰ろうと思ってる》


《かしこまりました。その時間に合わせてお食事をご用意して、待っております》


そのつもりは無いのに、思わず語尾が強くなってしまった。あまりにも愚かな行動に謝罪をしようとすると、先に王からのお言葉を頂けた。


《昨日戻るはずだったのに悪かったな。

詫びと言ってはなんだが、何か一つ頼み事を聞くから…許してはくれないだろうか》


謝る必要など。ただ待っていたのは、私の勝手なのですから。と返すべきなのに、一つ我儘を聞いてもらえるという条件に欲が…。


落ち着くべきです。いいですかシーキー、我が王は優しく、その行為に甘え尽くすなどあってはなりません。

落ち着いて考えましょう。いいですかシーキー、優しき王は、この分ぐらい甘えても何一つ問題はありません。むしろ、それで王の気を晴らすことこそ王の為では?


頭の中で、グルグルと思考が回って正確な判断をすぐにくだせなくなってしまい…。


《……。わか、りました。

お気をつけて…》


愚かな私は欲に負けた。


《本当にすまなかった。なるべく早く戻る》


そう言って、王との念話が切られる。


「ん?我等が王から連絡があったのか?」


「分かるんですか?」


「いや、まぁ…スキルで分からなくても、それだけガッツポーズしてたらな」


ルアールに言われ、少し自分の手元を見ると、小さく…小さくではあるけどガッツポーズをしている。

私はそっと腕をおろし、何事も無かったかのように食事を済ませて席を立ち、空き皿を厨房へと持っていく。


ニヤついているルアールの顔は、それはそれは腹立たしいことですが、それ以上に嬉しい事があるので問題はない。

ご褒美である。王から直接いただけるご褒美…何が良いだろう。


「それで我等が王はなんと?」


「今日の夕刻頃にお帰りになるそうです。

お食事のご用意も、その頃に合わせます」


「おぉ!だったら俺も起きとくかな。シーキーはどうするんだ?」


「愚問ですね。当然起きてお待ちします」


そしてその間に、我が王から頂けるご褒美を考えなければなりません。

決めて良いと言われたからといって、返答をお待たせするわけにはいきませんからね。

お戻りになられ問われたら、即座にお答え出来るように、熟考の末に決めたご褒美をお願いしなければ!


何が良いでしょう。あぁ、悩みます。

やはり、私だけ例外として睡眠無くお仕えする許しをお頼みするべきでしょうか…。

とりあえず 一方その頃 は、閑話という形で。次からは、クラスメイトに戻ろうかと思います。

視点がコロコロと変わってしまいすみません。


後、私事で今更な事で、お気づきかと思いますが…実は私、容姿などの描写も苦手です。ふわっと脳内イメージはあったりするんですが…どうも言語化するに至るまではイメージをしないものでして…。

いつかはビシッと、その辺りの描写も書けるようになりたいですね。なれるように頑張りやす。



ブクマ、評価、そして感想まで!ありがとうございます!

どうぞ、今後ともよろしくおねがいします。


嬉しくて、本日のご飯は、勢いでピザを作りました。

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