ユニークスキルは伊達じゃない
戦闘描写の難しさ…。
ひっさびさに徹夜をした。十年ぶりぐらいか?
見上げれば、空は明るくお昼時。
俺の周りには三本の剣が俺を囲む様に突き立てられ、手には槍が握られている。周囲には、臨時で観客席が用意されて、そこに座るのはセバリアス達ダンジョン勢にクラスメイト。更にはハルベリア王やログストア国の大臣、レゴリア王にコニュア皇女と護衛達。
そして目の前には、堂々と腕を組み、その瞳で俺を捉え離さないメニアルの姿。
手元に視線を落とせば、久々に見た自分のスキル内容に変化があった。
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眠王
|説明|
その者、眠れる王。眠りを愛し、眠る事に至福を感じる王。
|スキル効果|
・'眠王の法'を習得する。
眠王の法 Lv:--
一定空間に法を用いて、その場を支配する。使用後、寝不足になる。
・自身に対して、許可のない干渉、状態異常を無効化する。
・睡眠時に外部からの攻撃的行動へ対する防御、抵抗が上がる。
・睡魔時、急速回復。上限魔力上昇。
・起床から三時間以降、次の睡眠までの間、毎分戦闘能力向上。
・起床から三時間以降、寝不足状態。
・寝不足時、防御低下。
|限定解除|
限定解除時、以下の効果を追加。
・'眠王の目覚め'を発動可能。
眠王の目覚め LV:--
解放段階に応じて眠王の効果が上昇。発動時、'王の圧'、'眠王の殺意'を自動発動。
発動時、対象の所持する耐性スキルを無視。
第一起床、完全起床、条件未達成。
スキル開示を制限。
|ログ|
一定以上の起床を確認。限定解除条件達成中
第二起床 可能
第一起床 不可
完全起床 不可
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実際の所、見なくても自分のスキルに少し変化があったのは感覚で分かっていた。どうすればいいかも頭の中には自然と浮かんでいた。
「夜継よ、言っては悪いが、今のお主では我には勝てぬぞ」
「だろうな。法を使わずに一人でメニアルに勝つのは無理だと俺も思うさ。
ただ…腕の一本ぐらいは持っていきたいもんだ」
「ほぉ…以前とは見違える程に良い闘気だ。だがやはり、三割程度で問題はないかもしれぬな」
そりゃ見違えるだろうよ。どんだけ俺が寝てないと思っているんだ。
こっちは寝不足も寝不足だ。ゼス騎士団長と戦った時の倍は軽く起きている。テンションも一周して落ち着き、思考も戦いを意識すると鮮明に、何より自分でも不思議に思う程に頭が回る。
体内の血流から、残り魔力量まで…更には肌に触れる風の流れまでもが見えるように感覚が研ぎ澄まされている。
悪くない感覚だ。
眠い眠いと叫ぶ気持ちと共に、身体は戦闘用に最適化を繰り返す。静かに、睡魔を誘う様にただ静かに…きっと寝れれば気持ちがいい静寂。
このまま寝たいのに寝るわけにはいかない。はて、何故こうなったかな。
俺は思い返す…。寝るために部屋へ向かっていた俺は、皆傘親衛隊に拉致された。
その先では皆傘が、あらあらうふふと待っていて…あぁ、そうだ。ダンジョンに作って欲しい豪邸の設計図を渡されたんだったな。
家が欲しいと言う皆傘のボヤキを本気にした親衛隊作の設計図を元に、皆傘から注文を直接聞いて書き足していると、夜が明けたんだった。
瞬きの過程で目が開けられず寝ようとすると、親衛隊共が死ぬほど揺さぶってくるから寝ることが許されない…あれは一種の拷問だと俺は思う。
やっと皆傘が満足した意思を示すと、本当にやっと俺は解放されて部屋へと戻ろうとした。流石に皆傘の部屋で寝るわけにはいかないからと…身体を引きずりながら部屋を目指した。
そして途中で岸達に絡まれ、そのまま時間だからと食堂へと拉致される。
食いながら寝かけるも、岸達がダンジョンの事をと寝かせてくれない。あの時、俺は拷問はまだ終わっていないと悟ったね。
安藤も、やれやれと顔では見せていたが、ダンジョンの事を聞きたかったのか岸達を止める事はしなかった。
終われば寝れる。解放されれば、この凄まじい眠気に身を任せられると諦めて話していると…時間は訓練のお時間を迎え、当然の様に俺は拉致された。
心配そうな表情をするラフィ達に大丈夫と声を掛けつつ、セバリアスとゼス騎士団長が筆頭となってクラスメイト達に訓練をつけている様子を見ていると…一段落した安藤が、訓練場の隅でグッタリしていた俺の元へと歩いてきた。
寝ないのか?と言う問いに、訓練とは言え戦闘が目の前で起きていると、スキルの効果のせいか中々眠らせてくれない。と答えたのも覚えている。
安藤は俺のスキルを詳しく知っているし、納得した様に頷いた後に言った。
―常峰って、今どんぐらい強いんだ?寝なきゃ強くなるんだろ?―
何気ない疑問だったんだと思う。俺もそれほど気にせずに、そうだな。と答えたのも問題だと思う。
何故か訓練場は静まり、視線が俺に集まっていた時に嫌な予感はしたさ。だが、予感がするだけで行動する気が起きない俺をよそに、話は強さがどうのと流れ、あれよあれよという間に闘技場が手配されメニアルと戦うはめになった。
そして今だ。
「準備は良いか」
メニアルの言葉を耳に、記憶の掘り返しを中断して視線をメニアルへと戻す。
そう殺気を飛ばされると寝ようにも寝れない。
他にスキルを確認してみたが、特に変化は無かった。
それも仕方ない。別に俺は魔法を覚えた記憶も無いし、訓練をしていた訳でもない。変化が無くて当然なんだ。
だが、俺のユニークスキルは変化していた。
試す場としては丁度いいか。あぁ、そうだな…もう一つ、ついでに皆に言っておくか。
いらぬお節介だと分かっていても言う事にした俺は、メニアルに背を向けてクラスメイト達の方を向いた。
「諸君、いちいち俺が言うことでも無いだろうと思う。いちいち言われたく無いだろうとも考える。
だが聞いてくれ。元の世界に帰りたい者、帰ろうかなと揺らいでいる者に言っておきたい。できるだけ、出来る限りでいい…人は殺すなよ。
今、学んでいる分でも過剰な護身だ。この世界では当たり前かもしれんが、元の世界では過剰だ。
この世界で学んだ事は、元の世界で役立つものもあるだろう。だが、役立たせてはいけない知識と技術を有していくと言うことは頭に入れてから行動して欲しい。
絶対に殺すな。とは…悲しいかな立場的に無理だと思っている。戦うべき時は来るだろうし、殺さねばならぬ時も来るだろう。
だけど。だけどだ…人を殺すという嫌悪感を忘れないでくれ。慣れそうになっても、自分で自分の意識を強く思ってくれ。
いざと言う時は、残ると決めた奴に擦り付けりゃ良い。自分の手をこれ以上汚してしまうと、帰れなくなると感じたのなら任せればいい。
その擦り付けられる相手として…まずは俺がその一人だという事を言っておく。その業、背負いたく無いのであれば、俺が代わりに背負ってやる。
その為に俺は皆の帰る場所を作り、そのために、皆の王を名乗ったのだから。
見ていてくれ。大言壮語を吐くカッコつけなお前達の王様の姿を」
俺はメニアルへと向き直り、スキルを意識する。
やはりスキルブックを見ずとも俺は分かっていたらしい。自分のユニークスキルが、何時でも良いと囁きかけてくる様な感覚。
「言うではないか。
しかし、実力無くしてその言葉…信用には値せんだろう」
「心配するなメニアル。
俺は使えるモノは卑怯と言われようと使う主義なんだ…。
見ておけ。ユニークスキルは伊達じゃない」
――我が王也。
口には出さずに頭で言葉を紡ぎ、心がそれを受け、苦でも無かった枷を一つ外す。
ただでさえ研ぎ澄まされていた感覚が、一層深く鋭く研がれ、より静かな静寂が俺を満たしていく。
十分静かだと思っていたのに…この感覚を知ってしまうと、さっきも不必要な騒音が聞こえていたのだと理解する。
「夜継、訂正しよう。
五割…では足りぬな、六割は力を出させてもらおう。我が保証する。お主は十分に……異常な化物じゃ」
「化物か。不思議と、嫌な気分がしないのが悲しいな」
握っていた槍をメニアルに向け投げ、メニアルがそれを対処する前にメニアルの背後から、その首を狙い剣を振った。
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我の言葉に返した夜継の雰囲気が変わり、漏れる空気すら別物へと変貌した。
空気を押し潰す様な圧。
自身の死を過ぎらせる程の殺意。
ギナビアの王の小僧が放った攻撃的なものではない。我の様な本能を刺激する様なものでもない。
優しく、冷たく、逆立つ本能すら撫で抑え、風に溶け肌を撫でる空気。
目を閉じれば、そのまま安らかな眠りを誘う様な…静かな殺意がもたらす静寂の殺気。
ソレに当てられた我が、身構えて無かったとは言え…己が死をソレに任せ受け入れかけようとは。
「夜継、訂正しよう。
五割…では足りぬな、六割は力を出させてもらおう。我が保証する。お主は十分に……異常な化物じゃ」
模擬戦闘である事と、見ている者を考慮すれば大規模な範囲魔法は使えぬ。被害を考え、殺さぬ事を意識すれば、六割程度が今の我の限界だろう。
「化物か。不思議と、嫌な気分がしないのが悲しいな」
言葉に合わせ投げられた槍を弾こうと手を上げかけた瞬間、本能がそれを拒否し身を屈め、自身の目の前の空間を背後に向け繋ぎ、横の空間を裂いて取り出した剣を振るった。
「母親譲りの空間魔法。ラフィが言うには、先天性で随分と珍しいスキルらしいな」
「そうじゃな…それに反応する者も、中々に珍しいと我は思うが」
剣が何かを断った感覚、それどこか触れた感覚も無く、目の先には槍と剣を握り立つ夜継の姿が映る。
やはり強化魔法無しでは動きが捉えきれぬな。
詠唱と魔法名を無視し、魔力を循環させ肉体強化を己に施していく。
「何かの魔法か。そろそろ俺も魔法を覚えなきゃな」
我の様子を見ながら呟く夜継に、我は視線を外さず気配を逃さぬよう集中を高めていく。
城を建てた際、夜継の休憩時間に本人から色々と話は聞いておる。元の世界の事も程々に、夜継が知識だけで所持スキルは片手で足りる程だと。
戦闘訓練の暇も無く、その経験は未熟であると。
だが…ユニークスキルか。
父から存在は聞いておったが、所有者を見るのは初めてじゃな。父も実物は知らぬと言っておった。
しかしこれは、確かに父の言う通り……異常じゃな。
後手では詰められる事を理解し、先に夜継を狙い剣を振る。
高速展開した魔法で空間を繋ぎ、伸びる間も無く射程を広げ、繋いだ先で伸びる剣は更に範囲を広げていく。
目視もし辛く、認識と感覚をズラす広範囲で高速な物理攻撃。鍛えた技術と経験から、満足のいく一撃だと自負できるもの。そのはずなのだがな。
「もっと断続的に繋げるのも良いかもな」
「ぐっ…」
いつの間にか投げられた二本の剣を、軌道上に展開した空間魔法で後ろへ流し、反射的に剣を握っていない方の腕に力を入れ防御の姿勢を取る。
その行動は無駄では無いと、防御の上から密着した剣を握る拳が物語り、同時に凄まじい衝撃が身体を抜け、吹き飛ばされた。
腕に走る鈍い痛み。久々に聞く己の骨が軋む音。口の中に広がる味は…いつ最後に感じたものか。
「滾るのぉ」
吹き飛ぶ我に追いついた夜継は、握る剣で横に一閃。
それに対し、我は回避をするため当然の様に左右の空間を繋げた瞬間、夜継は空間魔法の展開を認識したと同時に剣と槍を一瞬だけ手放し、槍を逆手に握ると――空間魔法の内側から斜めに槍を突き入れた。
我は驚きながらも繋いだ空間を無理矢理解除し、突き入れた反対側から出てきた切断された槍を、新たに魔法を発動し固定した空間に手を掛け、身体を持ち上げる事で回避する。
―追撃。
視界の端から伸びてくる銀色の一閃。我の身体を両断するであろうソレを、空いている手を振るい、剣ごと空間を削り落とす事で防いだ。
「やっぱり、繋いだ空間は使ってない面も繋がってんだな」
「勘が良い」
よく頭が回る。まさか、我の魔法を利用して攻撃してくるとは。
固定や削るより、繋ぐ方が魔力消費が格段に抑えられるからと防御にも使っておったが…夜継相手には控えた方が良さそうじゃな。
「空間魔法を利用すれば、中距離も遠距離も可能。いや違うな…メニアル、お前は白兵戦よりも得意なのがそっちか」
「どうじゃろうなぁ」
久々に滾ってきおる。
言葉を交わすのも勿体無く感じる。
無意味な戦闘は好まぬが…磨き、鍛えた技術を振るうと言うのは、何時になろうとも踊るものじゃのぉ。
「どうした…来ぬのか?」
「急かすなよ。長期戦が俺の土俵だ」
切断され、穂先を無くした槍の成れの果てを捨て。削られ、柄だけとなった剣も捨てた夜継。
手に武器は無し。ふっ…それは愚かな考えじゃ。
己で己を正し、目の前の空間を削る。同時に響き聞こえる金属音。
夜継の手には、切断された槍の穂先側が握られ、眼前に突き立てられていた。
防がれようとも夜継の表情は、眠そうで、優しき瞳で…静寂な殺気をぶつけてきおる。
そんな夜継に、我は思わず笑みが漏れている事を理解しながら腕を振り上げ、振り下ろした。
腕の軌道に合わせ削れる空間が夜継を呑み込まんと襲う。
どう対処する。退くか押すか…それとも…。
「やっぱ、魔法って俺からすりゃ憧れるわ。まだ、こんな事しか俺はできないからなぁ」
「こんな事で片付く事では無いと理解すべきじゃ」
我が削っていた空間は、ただ放出された魔力によって止められた。
そこから先、夜継が放出した魔力が無理矢理に我の魔法の邪魔をする。それごと削るのであれば、ソレを超える魔力を必要としなければならん。
日に日に増すと言う魔力量。この世界の者であれば、誰もが憧れるわ。
だが…いつまでもそうはできんだろう。
今の夜継では、調整も甘く、魔力は枯れるのも時間の問題。ならば、押していこうではないか。
上からは削る事を続け、追撃として下から地面ごと掬い上げるように空間を削る。
「これは俺が愚行だったな」
我の下からの攻撃も魔力の放出のみで無理矢理防いだ夜継は、一旦我から距離を取った。
遮るモノが無くなり、一気に眼前を削った空間を新たに空間魔法の対象として指定し、退いた夜継の背後に繋げ剣を突き刺す。
しかし手応えはなく、ソコにあったはずの夜継の姿が消えた。だからこそ繋いだ空間から突き出た剣先を更に別の空間魔法で繋ぎ、自身の背後に位置する離れた闘技場の壁から剣先が伸び、背後に移動していた夜継を襲う。
当たるとは考えておらぬ。
首を少し傾ければ、我の顔の横を先程投げた二本の内の一本の剣が通過し、その通過した剣を眼前に現れた夜継が握り振り下ろす。
その剣を、背後から伸びる我の剣が軌道をズラし、そのまま夜継を貫こうと突き進む。
「まだだ」
身体を逸らし、我の剣を避けた夜継は、もう片方に握っていた剣を下から滑り込ませる様に振るった。
良い攻撃だ。だが当たらぬよ。
下から迫る剣の軌道上の空間を削り固め、その攻撃を防ぐ。
同時に、夜継が避けた剣先を更に別の空間で繋ぎ、夜継の眼前にその刃が顔を出す。
「終いじゃ」
尚も身体を捻り避けた夜継に言葉を掛ける。
その無理な体勢は愚か。勝利を焦ったな夜継。
避けた夜継の横を抜ける剣先を、再度別の空間魔法で夜継の背後に繋いだ。夜継の技量からして、魔力が放出しきるよりも先にその身に刃が届くと我は確信した。
「そう急くなよ」
油断であったと自身でも思う。
その刃が届くと確信し、そこから追撃をする用意もできていた。そう戦い続け、それで問題は無かった。
だからこそなのかも知れぬ…ついさっき我が自身の空間を利用された事を意識できなかったのは。
下から振るっていた剣とは別、軌道をズラした方の剣を我の伸びる剣先に合わせ、後方に繋げた空間へと投げ込まれた事に反応が遅れた。
対する夜継は、空間を縫うように伸びる我の剣を無理矢理掴み、その身には我の剣先だけを受けた夜継の身体は反動で傾く。いや、自分から大きく傾けた。
「驚かされるのぉ」
傾いた夜継の後ろからは、夜継が投げ込んだ剣が我を狙い空間から顔を出し迫る。削り防ぐには、我の剣が邪魔だ。
故に我は空間を小さく固め防ぐ方法を選ぶ。
「もっと驚いてくれて構わんよ」
夜継の言葉通り、我は驚いた。
迫る剣は確かに壁となった空間にぶつかり、その勢いを完全に殺された。だが、次に耳に届いた音は金属音。
同時に手に感じていた感覚が無くなり、勢いが完全に死んだ剣の柄頭を蹴る夜継の足先が目に入り…その威力に耐えきれなかった蹴られた剣と共に、固定した空間が砕けた。
咄嗟に範囲系の魔法を発動しようとして思考が止まる。
一瞬だけ、我等を見る視線に気が惹かれ、同時に濁流の様に流れ込んでくる静寂の殺気が我を呑み込み…意識が戻った時、首元には血塗れの手で握られた我の折られた剣先と、下から迫っていた剣が首を挟む様に添えられ止まっていた。
「優しいねぇ…魔王メニアル」
「ふっ…そうで無くとも、我は負けていた」
「さぁ?手加減ありき、これだけ攻撃できない対象が居れば攻撃方法も限られたんだろ?
条件が無ければ俺が負けていたかも知れんさ」
「それでも'かも'と言うか」
「そっちの条件が違えば、俺も戦い方を変える。俺も別に、負ける気は無いからな」
「そうであるか…。ともあれ此度、この勝負…」
「我の負けだ」「俺の勝ちだ」
互いが宣言した瞬間、静寂から喧騒が沸き立つ。
この称賛を耳に誇ると良い、夜継。お主は、この魔王メニアル・グラディアロードを違いなく負かした存在である。
胸の中で我も夜継に称賛の言葉を送るが、何故か金属音が喧騒を掻き分け耳に届いた。
気になり、閉じていた目を開け音を辿ると、視線の先には血塗れの折られた剣先と剣が落ちておる。
そこから視線を上げ、それらを握っていたはずの人物を見れば…。
「この中で寝るか貴様は…」
思わず言葉が漏れた。
直立状態から完全に脱力し、前後に揺れながらも器用に寝息をたてる夜継を目にすれば…誰とて思うであろう。
しかし、慣れぬ戦闘で疲れたのだろうなと気を使い、傷付いたであろう手と傷口を治療してやろうと、不得意な治療魔法で応急処置を施す為に傷口を見れば…既に塞がっている。
夜継が以前、話の流れで『今の俺は寝れば何とかなる』と言っておったが…戯言では無かったのか。
何となく善意を無下にされた様な気分になり、無駄に魔力を込めて空間ごと小突いてやろうとすると、放出で防がれた時とは違い、完全に我の魔法を防ぎ無効化された。
完全に、完璧に…。それが当然であるかの様に…。
「夜継、お主…戦わずに寝れば殺せぬのではないか?」
我の言葉に返ってくる言葉はなく、返事として寝息だけが返ってくる。
まさか満足できた戦闘後に、この言い知れぬ不完全燃焼感、もどかしさが沸き立つとは…。
「メニアル、我が王の睡眠時にその行為…お怪我でもなされたら!」
「手元が狂っただけじゃ。早う持っていくがよい」
「メニアル!」
「以後は気を付ける。それで良いだろう」
夜継が寝たことに気付いたラフィが観客席から夜継の隣へと移動し文句を言っているが、軽く流し手で払う様に合図を出して我も観客席へと移動をする。
歩みながら思う。
ラフィよ…おそらく、寝ている夜継には我が全力を尽くしても傷一つ付ける事は叶わぬよ。
す、少しは盛り上げられましたかね?
流石に、話を跨いでの戦闘は、まだ先で行いたいと思ってこんな感じになりました。
個人的な意見ではあるんですが、やっぱりこう…限定解除とか限定条件とか、ちょっとカッコイイなって。
メリットとデメリットが両立してる脆い強さって、惹かれるんですよね。
常峰君のは、まだ目立つデメリットでは無いと思います。でも限定解除すればするほど…みたいな感じで考えています。考えているだけで、実際そうするかは別として。
もちろん、絶対的な強さも嫌いではなく、むしろ好きなんですけどね。それは、クラスメイト達の誰かがしてくれるでしょう。
ブクマ・評価、本当にありがとうございます!!!
どう気持ちを伝えれば良いか分からず、月並みな表現、ありきたりな言葉にはなってしまってますが、感謝と感激です。
どうぞ、これからもよろしくしてくれると、嬉しく思います!




