寝かせてもらえない
今回、少し説明が多く…長めになってしまいました。
場所は変わり、俺からすれば久々に訪れたログストア城の食堂。
クラスメイトとダンジョンのメイドと執事、メニアルにリピアさんと…大人数のせいか、最後に来た時より食堂が狭く感じる。
「様になってるな。その服」
「こっちには来てないけど、ダンジョンに居るメイド作だ。
制服は城に置きっぱだったし…ダンジョンでの服装は、ほぼパジャマスタイルで正装っぽい正装が無くてな。わざわざ作ってくれたんだよ」
「へぇ…すげぇな」
「裁縫とか家庭科の授業ぐらいでしかやんねぇから、服の作り方とかは知らんけど…まぁ、この服、存外動きやすくてな。
フィット感も悪くないし、オリジナルの一着って感じでちょっと感動したね」
「その手袋もか?」
「あぁ。この服とセットで作ったんだってよ」
食堂では既に食事が準備されており、クラスメイト達はダンジョンから連れてきたメイドや執事と交流を深めている。
俺は俺で、部屋の隅で安藤と何気ない話を続けていた。
「今度、安藤の服も頼んでみるか?」
「お!いいのか?バシッとキマってんのがいい」
「アバウト過ぎて相手に説明しづれぇ…。
バシッっとキマってどうすんだ?普段着か?」
「デ、デート…かなぁ…」
「あぁ…なるほど」
そういや、この前モクナさんがどうとか言ってたな。
整った顔だとは覚えているが、そう文字で記憶しているだけで顔が思い出せない。見れば、これがモクナさんだとは分かるんだろうけどなぁ…。
なんて考えながら部屋を見渡しモクナさんを探していると、一人で食事をしているメニアルが先に目に入った。
《何してんだ?》
《夜継か…流石にな、馴染めんのじゃ》
気になって念話を送ってみると、どうやら魔王様は馴染めずボッチに勤しんでいたらしい。
少し様子を見ていると、何人かはチラチラと気になっている様な視線を送っている。ただ、魔王という肩書と、最初に討伐依頼という形で敵の認識があるせいか話しかけづらいんだろうな。
まぁ…きっかけさえ何かあればすぐに馴染めるだろう。
手っ取り早そうなのは…いや、普通に紹介すればいいか。
今後は色々と関わる事もあるだろうと、きっかけを何か適当に作ろうかと思ったが、クラスメイト達に説明したい事もあったのを思い出した。
その流れでメニアルの事も話すし、話しかけるきっかけ作りにはそれで十分…なはずだ。
そうと決まれば実行をする為に、軽く手を鳴らして注目を集めた。
「話の途中で悪い。
皆に少し説明をしておくのを忘れてたから、少し時間をくれ」
俺の言葉に反対の声もなさそうなので、俺はそのまま言葉を続ける。
「まず、さっきも見て聞いて、そしてノってくれてなんとなく理解していると思うが、この度俺は本当に王様になりました。
まぁ、形式上そうなっただけで、俺自身もあんまり実感はしてない。んで、王様と言えば安直に城と考えがある俺なんだが…。皆も多分ハルベリア王から知らされている通り、城を建てた。
場所は俺のダンジョン上空。ここからかなり遠い。
遠いが…その城は俺の城であり、皆の城だ。
これから皆は色々としていくだろう。俺ももちろん何かしらやらかしていく。魔王や魔神の討伐、俺達は帰還方法を探すのを目標としているが、生きている内に個人個人でやりたいことも出てくるだろう。
それは好きにしていい事だと思うし、俺がとやかく言える事でもない。ただ、頼れる相手が限られているこんな世界なんだ…俺はできれば協力したいと思っている。もちろん、俺にも協力して欲しいと思っている。
そんな俺が最初にできたことが、皆の帰る場所を作る事だった。
ただただ運が良くダンジョンマスターになれたからこそできた事なんだけどな。それでも、それを利用して作れた事は嬉しく思っている。
頼る相手が俺じゃ頼りないかもしれんが、皆は好きにやってくれ。
あの城は俺の城でもあるが、同時に皆の城だ。皆の寝床であり、俺の寝床だ。息抜きで帰ってきてもいいし、何かから逃げるような事態になって帰ってきてくれてもいい。作業場として使いたいなら、場所も俺が用意しよう。
話を聞いて、何を言っているんだ?と馬鹿にしてくれても構わん。
だが忘れないでくれ。あの城には何時でも帰ってきていい、自分達の城だということを。戻れる場所があると言うことを。
とまぁ、カッコをつけて言ったんだけど…悲しい事に俺には建築センスなんかが皆無で…。
皆の部屋を用意しようにも、パッと思いつかないから一度来て俺に指示するか、来たときに部屋が既にあった方が良いならメモかイラストかで俺に伝えてくれ。
ダンジョンの皆と試行錯誤して頑張るから。
そして非常に大事な事をもう一つ。
皆が見たかは知らないが、建築センスが皆無な俺が何故ハイセンスな城を建てられたか…。
簡単だ…メニアルに手伝ってもらった。
皆の城がただの重ねた豆腐にならなかったのも、全てはメニアルのおかげだと言える。
魔王という肩書と、パッと見ただの痴女かと思う服装のせいで取っつきにくいかもしれんが、メニアルは割と頼りになる。
この世界で魔王やってただけあって、この世界に適した知識を持っている。そして案外面倒見がいい。
だからよろしくしてやってくれ。メニアルも自己紹介ぐらいしとけ」
「不服な紹介をされたメニアル・グラディアロードだ。
魔王などと呼ばれているが、先の場でも言ったように夜継の傘下におる。あまり肩書は気にせず、なんだ…よろしく頼む」
「はい。まぁ、そういう訳だ。
他の魔王がどうかは知らないが、メニアルは割と話せる相手だし、今後も世話になる事もあるだろう。
簡単に言ってしまえば、ラスボスの一人が仲間になったから基盤はバッチリだ。今日、明日、明後日の三日は滞在する予定だから訓練も手伝ってくれるぞ。
もちろん、セバリアス達とも仲良くしてくれると嬉しい。
んじゃ、話は終わりだ。長々と話して悪かったな」
我ながら良く喋ったと感心しつつ締めくくると、メニアルの近くに居たクラスメイトが緊張しながらも話しかけているのが目に入った。
メニアルはメニアルで、どう返事したものかと言葉を詰まらせていたが、少し話せば慣れた様で…。
ダンジョンに攻めてきた時の堂々とした態度は何処へやら。今ああしてクラスメイト達に質問攻めを食らって困っているメニアルも中々面白いから良いんだけどな。
「なんか、スッキリした顔してるな」
「なんだかんだで城の事は気に入っててな。言いたいこと言えてスッキリしたから眠いわ」
「まだ昼前だぞ」
「明日の昼ぐらいまで目を開けたくない気分だ」
そういう気分なんだが、少し俺にも用事があるんだよ。睡魔の誘惑を振り払いながら起きておかないと、寝たら間違いなく俺は起きない自信がある。
明日でも良いとは思えなくもないんだが…二度寝したい欲求を叶えるならば、今日中に済ませておきたい用事だ。
「ってことでまだ寝ない」
「どういう事だよ。まぁ、いいけどよ…。
そういや気になってたんだが、ダンジョンの支配下とか言ってたけど本当なのか?」
「ログストア城はダンジョン内だ。あの扉、本当にダンジョン内じゃないと使えないからなぁ。
ダンジョンの領地拡張って、距離が遠くなればなるほどバカみたいに魔力持ってかれるんだよ。同じ広さでも目の前か一キロ先かじゃ使う魔力が段違いなんだ。
俺に関しては寝れば魔力量の上限が増えるから、使う魔力が増え続けても時間さえあれば一応際限無く行けるとは思う。それこそ、数年掛けりゃ世界をダンジョンの支配下にできるかもしれん。世界の広さが分からんから妄想だけどな。
他にも、別のダンジョンに被ると上塗り分でゴッソリ持ってかれたりするっぽいし…ただ広げる分だけに魔力使うわけじゃないから難しいだろうけど。
まぁ、そんなこんなで城がある場所からココまで領地は伸ばせたんだが…流石に普通に広げてちゃ魔力が足りんかったから、こう…人一人分通れるぐらいのトンネル状に細く長く伸ばして、ログストア城の下に着いたらソコだけ広げて半球状にダンジョンの支配下にした」
「ゴチャゴチャしてそうでよく分からんが…大変なんだな」
「俺と安藤がゴムパッチンしてる姿がダンジョン支配下だと考えてくれて構わんよ」
「いや、そこじゃなくて魔力の消費条件とかなんだが…その例えも地味に分かりにくい」
「うにょーんした餅がダンジョン支配下だ」
「あぁ…思ったより想像しやすいなソレ」
実際、セバリアスがログストア国とダンジョンの往復を一週間程度でしたのが驚きなぐらいには遠かった。
セバリアスが地図を用意して、ダンジョンとログストア国に印を付けてくれたのを見て二度目。ダンジョンの領地を拡張しながら三度そう思った。
ダンジョンの領地拡張に使った魔力に思いを馳せて、空になったグラスに果実ジュースっぽいのをおかわりしていると、リピアさんが近付いて来ている事に気付く。
「常峰様、今日はありがとうございました」
「いえいえ、礼はいらないですよ。事前報告も無く、絶対安全な方法を取ってなかったので…むしろ、すみませんでした。
苦しくなかったですか?」
「隷属魔法の解除は半信半疑でしたので、あの場で死んでもそれはそれでと思っていました。ですが、本当にこうして私は生きています。
あの時も今も、他の事より驚きが勝っています」
ふふっ。っと口元に手を当て笑うリピアさん。
俺は俺で、そういやリピアさんが笑ってるの初めて見たかもなぁ…とか思っていると、もう一つのリピアさんとの約束を思い出して食堂内を見渡す。
《岸、今時間あるか?》
《おぉ!これはこれはスリーピングキング様、私めに如何な御用で》
探していた人物を見つけて念話を飛ばしたのはいいが…なんか岸のテンションが高い。完全に脳内に響く声がニヤついてやがる。
《ふむ。貴殿のスキル下からリピア嬢を解放して欲しいのだが》
俺も岸のテンションにノッちゃう。
眠いせいか、今の俺ならこのテンションも軽く乗りこなせる。
《ははぁー、お任せくださいませ》
《うむ。良きに計らえ》
そう伝えてきた岸は、皿に盛った料理を貪りながらこっちに来たと思えば、ポンッとリピアさんの肩に触れ、親指をビシッと立てて佐藤と長野が待つ元の場所へ戻っていった。
「え?」
当然リピアさんは困惑している。
「岸のスキルを解除して貰いました。
ハルベリア王達に言った手前、帰る時に一緒にダンジョンの方へ一度来てもらいますが、そこからは自由です。
色々と…本当、助かりました」
「は、はい。
まさか本当に解放を…」
「約束はできる限り守りますよ。皆もリピアさんが気に入っているみたいですしね」
少し遠くで彩がリピアさんの名前を呼んでいるのが聞こえる。他の女子も、彩と一緒になって待ってるみたいだし、これ以上リピアさんと話していたら…後で彩に何か言われそうだ。
「行ってやってください」
「…はい。
常峰様、本当にありがとうございます」
「俺の方こそ、ありがとうございました」
頭を軽く下げてリピアさんは彩達の元へと向かって歩いていく。その姿を見送り、適当に近くにあった肉を口に放り込んで果実ジュースで流し込む。
軽く腹も満たせたし、俺も用事を一つずつ済ませていきますか。
「ん?どっか行くのか?」
「約束は守らんとね。来たら顔出すって言っちまったからな」
安藤の質問に答え、俺は食堂から出ていく。
それに気付いたセバリアス達が付いてこようとしたが、軽く手を上げるだけで察した様で、ついてくることは無い。
さて、とりあえずメイドさん探してチーアの所まで案内してもらおう。
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「眠王ねぇ…まったく、とんでもない者を喚んできたもんだな。ハルベリア」
「私も諸刃の剣を握っている気分だ」
「夜継様は思慮深き方かと」
「掌で踊らされていて良く言う。しかし驚いた…まさか一月経たねぇ内にココまで周到に整えてくるとは、大したもんだ」
常峰達が居なくなった場に残されたハルベリア達は、護衛達も最低限だけを残り下げ三人だけで話していた。
「若い故の行動力か…怖いもの知らず故か、驚かされておる。
頭がキレるのも確かだろう」
「ありゃ計算尽くだろ。こっちが出せる手を限定させてから対処してきている。
退きどころも弁えて、深追いもしない。利口で狡猾なタイプだ。
それに…俺のEXスキル'恐怖の胎動'を受けても眉一つ怯えが見て取れなかった。相当肝が据わってるか、相応の耐性スキルを持っているか…。
どっちにしろ、スキルに加えてあの戦力。魔王だけでも呆れる所を、リュシオン国御用達の神聖魔法を喰らったアレはなんだ」
「分かりません。神の御業を喰らった魔獣が魔法なのかすらも」
話していた三人も、話を聞いていた残された護衛達も、皆が先程の会談を思い返し…同時に思う。
―アレは危険だ―
けして無謀をしている訳ではない。計算されたように、それが当然であるかの様に話は進み、用意された言葉が望んだ展開を引きずり出していた。
そしてアレは戦力も持ち合わせ、今回で三大国に向けて立場を確立させた。
異界の者達は利用性はある。スキルだけでもお釣りが来る。だが同時に利用される可能性を盲目的なまでに見過ごしていた。
召喚し、願い、代わりに手を差し伸べれば手篭めにできるとすら思っていた者も居る。
お伽噺、神話で語られる異界の者は、そうだった様に語られていた。かつて裏切りを働いた異界の者も居たが、それは仲間の手で討たれる。もしくは改心して人の為に戦う。それが当然かのように。
「語られ、記されている中で此度の召喚で現れた異界の者達の数は、前代未聞の事態でもあった。
だがそれよりも…それらの者達をまとめているのが、同じく異界の者であるということは実際の所…問題であろうな。
召喚というものを軽視していたのも確か。しかし、単純に常峰君の素質が為せる業であるのも確かであろう。
現に、彼等は暴走する事無く協力的であるからな」
「これなら暴走してくれた方が楽だったがな。
いかに優秀なスキルであろうと、使用者次第では宝の持ち腐れだ。隷属魔法で縛るのも容易だっただろ。
それが、手回しも上々、しっかり固めてから脅してきやがる。今回で俺達は眠王を王と認め、建国を許し認めたようなもんだ。大国のお墨付きでな」
「ですが夜継様が望んだのは、互いの協力関係。牽制の意味も兼ねて居るでしょうが、互いに首輪を着け合う事を優先とした様にも感じました。
その意思を尊重しておけば、大事にはならないと思いますけど」
「大国が揃いも揃って小僧一人に牽制されたんだ。傘下に居る中小国に知られりゃ十分に一大事だろ」
レゴリアの言葉に、ハルベリアもコニュアも口を閉じる。
その言葉は正しく、三大国の全てが常峰を認めた意味は…どこの国も常峰達に干渉しづらく、仮に彼等が力を付けていく事を重視した動きをしても、それを表向きは認めている様なもの。
大国が認めたとなれば、自分達の傘下から常峰達につく可能性すらある。
それを危惧し、規制をするならば、大国がその名において自らも規制をしなければ納得はしないだろう。
だが、それはどの国もしたくはない。
魔王、魔神という明確な敵の存在然り、自国以外の国と言う…いつ敵になるかも分からない存在に、つけ入る隙を与えるわけにはいかない。
「この事は、遅かれ早かれ漏れるのは確実ではあるがな」
「兵共に箝口令を敷いた所で時間の問題だろうな」
今回のやり取りは、多くの兵や騎士達が見て聞いていた。
必ず何処からか漏れ、今回の事は他の中小国を治める者達の耳にも入るだろうとハルベリア達は考えている。
「リュシオン国は聖女様から手を差し伸べて頂けた事を隠すことはしません」
コニュアの言葉にハルベリアもギナビアも苦い顔をする。
その言葉は、常峰の行動を認めるもので、最悪の場合はリュシオン国という大国がその傘下に入る様にも捉えられかねない。
「なれば、いっその事…常峰君が動く前に我々が大々的に国として、王として常峰君を認めた事を公布してはどうだろうか」
「隠さず晒すと言うことか?ハルベリア」
「うむ。異界の者達は、未熟ながらも早々に魔王の一体であるメニアル・グラディアロードを屈服させた。ひいてはその功績を称え、異界の者達の希望で領地を渡し治める事を我等三大国が褒美として授ける。
更に異界の者達の希望を受け入れ、その代表として、常峰 夜継をその領地の王に据える事を了承する。
これならば問題は無かろう。
実績があり、それに見合った褒美であるとは思うが」
ハルベリアの提案にコニュアは黙って耳を傾け、レゴリアも何度か頷き聞いていた。
少しの沈黙の後、レゴリアはハルベリアに問う。
「その領地は何処から切り取る。
場所によっては、その国の戦力。贔屓であると取られるぞ」
「場所は決めておる。
元は魔王メニアル・グラディアロードの領地。我がログストア国内でも無く、リュシオン国内、ギナビア国内でも無い。加え、その地は結果として他の魔族領に最も近く、最前線である事は察するに容易い。
どこの国にも属さず、我々人類の最前線に立つ者達。謂わば中立。文句は出にくかろう」
「なるほどな。それならば多少融通はきくか…」
「実際、常峰君が国を持った所でダンジョンと言えど、資源はまだしも、交易など様々な問題は出てこよう。
その問題解決を一国で請け負わず、三大国で援助する形を取り、各国には異界の者達に恩を売っている様に見せれば良いと考えるが…いかがかな」
「大国としての体裁も保つためのお考えですね。
私は異論はありません。どうであれ、聖女様をお慕いできる環境であるのならば」
「俺も異論は無い。その辺りが落とし所だろう」
二人が納得した事でハルベリアは大きく息を吐いて、残っていた紅茶を一気に飲み干した。
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日は沈み、既に月は高くにその顔を見せている。
そんな時間に俺は、また寝てしまって離れないチーアを抱きかかえながら、ハルベリア王から話を聞いていた。
俺達が居なくなった後の話を…。
「という具合だ。満足かな」
「概ね満足です。ただ、できれば表に立つのは自分だけで、クラスメイト達の姿は伏せておきたいんですが」
「それぐらいであれば可能だ。
準備が整い次第、大々的な場にて褒美を渡す手筈で話は進めておる。その際に、代表として常峰君が出るだけで構わぬよ。
他の者達は、必要であればあまり目立たぬ位置に客席を用意しよう」
「助かります。我儘を聞いていただいてありがとうございます」
本当にハルベリア王には面倒を掛けたと思う。
今回の流れをした後で、どうせ俺達の事をどうするかの話し合いが出るだろうと予想した俺は、以前した念話でハルベリア王には頼み事をしておいた。
大々的な発表をして、俺を王に据えて欲しいと。そして、その方法として、魔王メニアル・グラディアロードが傘下に入った事も伏せずに発表をしてほしいとも。
そういう流れにならなくても、この話をして欲しいと前置きをして…。
ちゃんと理由も話してある。
まず、俺が懸念したのは中小国の事。
いくら大国が了承したとは言え、何もなしにポッと国ができるのは問題だ。いらん面倒を生みかねない。
正直、魔王一人を傘下にしたからと言って、そんな褒美が貰えるのもおかしな話だが…魔王と言う存在と、与えられる領地の場所が場所なだけに'最前線'なんて言葉である程度は納得を得られると考えた。
そして、もう一つがダンジョンである事がバレた場合だ。
聞く話では、基本的にダンジョンは自然の産物ではあるが、商業利用が不可能であれば処理するのが摂理。
知られれば、面倒になるのが目に見えている。だから、魔王討伐の流れを利用して、最前線でダンジョンを戦力として利用する大義名分が欲しかった。
最後に、この世界の交易が分からない。
飯を見る限り、野生の動物や魔物を狩って調理するのはおかしくない。調味料も遜色ない程にはあるっぽい。
見たことも無い野菜などもあるが、元の世界と酷似したモノもある。そういう事は分かるんだが、街に出て買い物などをまったくしなかったせいで、通貨がまだハッキリとしていない。もちろん価値観も曖昧だ。
もっとハッキリ言えば、金が無い。
魔族側のそういう事に関しては、メニアルから聞いて理解はしている。
物々交換で済ます事も多く、決まった通貨が存在していなかった。一度、そういう事を統一しようとしたらしいが、何ぶん荒事も多くてまとまらなかった故の放棄。
だが、以前図書館で調べた限りでは、国では金融が存在している。三大国で使用通貨が違う事も分かっている。ただやはり金がなく、換金率も分からない。
だから俺は大国にそれぞれ金銭を要求したかった。初めは投資という形でも構わないから、価値の把握は必要だと思う。
…自国の通貨とかも一瞬は考えたんだ。だけど、通貨を作ったとしても回し方とか分からんからな。
それに価値を持たせる方法も思いつかん。結果として、俺は三大国の金を一定量手に入れる事にした。
ダンジョン内であれば使わないんだが、ダンジョンの外は使うだろうし…商人から話も聞いたりしたいからな。
あって困らず、持って利用できる明確なモノだと思う。それに、三大国の金をそれぞれ持っていたら、どれかの価値が下がっても保険は利くだろう。多分。
大まかな理由はこの三つから、俺が国を持つ事を公にして欲しかった。
ハルベリア王は、俺の懸念を理解してお願いを聞いてくれた。だが、もちろんタダではない。金は無いが、俺ができる事でハルベリア王は俺に頼み事をしてきた。
「して常峰君、私の願いは叶いそうかね?」
「隷属魔法の強制解除を行う魔道具の開発でしたね」
これがハルベリア王から頼まれた事。
リピアさんの件を話した時に、ハルベリア王は驚いていた。
なんでも、隷属魔法の拘束力と言うのは絶大らしく、強制解除に関しては今では不可能だと考えられていた。
というのも魔法も改良を重ねていく。当然、隷属魔法もだ。もちろん同じ様に解除魔法も改良を重ねたのだが…隷属魔法との違いがあるとすれば、それは失敗すれば即死。
強制解除を望む者と、それを行いたい者は基本的に対象を死なせたくはない。だが改良をすれば効果があるのか実証実験をしなければならない。
普通に考えて、嫌だわな。
その実証実験の差は改良の速度にまで差を生み、今では隷属魔法だけが先に進みすぎてしまったらしい。
結果として現在で隷属魔法を解除する方法は、権限を所有する者が解除するのみ。
他者が解除を希望する場合は、その奴隷を買い取り、所有権の譲渡から始まるらしい。更に厄介なのが、契約内容に権限所有者が死亡した場合、隷属魔法を受けた当人達も道連れの様に死ぬ様にされているのが違法奴隷としてはお決まりなのだと。
罰則や訳ありな者を考え奴隷制度を廃止する気は無いが、法に触れるような不当な扱いや違法奴隷を見過ごしたくはないハルベリア王は、俺に強制解除方法があるならと頼んだ。
その話を聞いた時、改めてラフィに解除できるのかを聞いたさ。発展を遂げている隷属魔法をラフィは知らないはずだからな。
だがラフィは隷属魔法を解除して見せた。俺が初めてダンジョンの力で召喚した魔物のゴブリンに、セバリアスが一回近くの街に赴いて確認してきた隷属魔法を使用して解除を試す事で実証した。
この時、討伐対象としているなら魔物を実験に使えば?とも考えたが、まず隷属魔法を行うには結構時間を使うらしく、戦闘中には隙だらけで難しい。
仮にできたとしても、基本的に魔物は無理矢理反発して暴れられ勝手に死んでしまうのが先で、そういう用途では使えないとセバリアスが説明してくれた。
まぁ、たまに死を理解して隷属化する魔物もいるらしいが、それでも隷属魔法の発展が早かっただろうとの事。
それに魔物を捕まえるのは、基本的にテイマーのスキル持ちが行って、そういうスキル持ちでも捕まえるのは大変だから実験になんかは使わないんだと。
言われてみれば、魔物と言えど愛着が湧くのは分かる。
俺は俺で召喚したゴブリン君が実験で死ぬのは嫌なので、セバリアスに失敗しそうだったら解除するようにと何度も言ってしまったぐらいだ。
「やはり難しいか…」
ハルベリア王の質問に答えるのを忘れて、記憶を呼び起こしていると、ハルベリア王が勘違いしてしまった。
「いえ、強制解除は可能なのは今日見た通りです。リピアさんの隷属魔法を解除したので」
「なんと!リピアに隷属魔法が」
あぁ、そういえばハルベリア王は知らなかったな。
「リピアさんの隷属魔法の刻印は、口の中にありました。
結構注意深く見るか、発動しないと分からない場所に」
「口内…そんな場所に」
「はい。それで、今日リピアさんの隷属魔法は強制解除したので、解除自体は可能です。
魔道具に関しては、少し時間を貰えますか?こちらで実証実験をして安全性を確保してからお渡ししたいので」
「構わぬ。ありがとう常峰君…感謝する」
「それ以上にしてもらっているので」
さて、これで一先ず話は終わったのだが…チーアが離れないな。
「しかし常峰君、君が代表で良かったのかね?あまり注目を集めるのは好まない様に思えるが」
チーアをどうするか悩んでいると、セバリアス王はさっきまでとは違い、柔らかい雰囲気で聞いてきた。
「注目は集めたく無いんですけどね。多分、今後の動きでは目立つ事も出てきそうなので…結果は同じかなと」
「ハハハ!目立つ予定があるのかね」
「俺がそのつもりは無くても、皆が帰る場所をと考えると…必然的に目立つでしょう。
少なからず、勇者や聖女はスキルも有名みたいですし」
「確かに。皆が君を持ち上げている故、目立つのは必然かもしれぬな」
笑うハルベリア王を横目に、チーアを一度引き剥がしてみようとするが…やっぱりガッシリ服を掴んでいて離れない。
本当に困った。そろそろ俺も寝たいんだが…。
「懐かれておるな」
「なんででしょうね」
「リーファがチーアに聞いた話では、君の周りは何故か安心するらしいぞ」
「…なんででしょうね」
それからチーアが解放してくれたのは、月も結構傾いた頃だった。
チーアが解放してくれるまで、ハルベリア王とは他愛も無い会話をして、少しだけ仲良くなったのは良かったと思うんだが…眠い。
一刻も早く、用意してくれた部屋に戻って寝ようとした。だが…部屋に戻る前に、俺は皆傘親衛隊の四人に拉致られ…寝ること叶わず夜を明かすことになった。
次回ぐらいに、チラッとだけ常峰君を覚醒させたいな。とか思っています。
盛り上がらせたい…頑張れ常峰君。
ブクマ、評価ありがとうございます!嬉しさで、ふふぉ。と変な声が漏れました。
今後もよろしくおねがいします!
体調はまだ優れませんが、嬉しさで卵粥は沢山食べられました。




