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眠れる王  作者: 慧瑠
敵と味方とダンジョンと

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33/236

お初にお目にかかります

次は常峰君視点に変わる予定です。

リピアさんが捕まってから更に五日…今日は城が騒がしかった。いや、俺達は出たことが無いから分からないが、いつもよりも城下町もうるさいだろう。

それもそのはずだ。


「一時間後に皆様にも移動して頂きます」


「わかりました。場所は、いつもの謁見の場になるんですか?」


「いえ、ギナビア国の方々に加え、リュシオン国の方も含めれば、護衛の方々も多く…少々屋内の準備が間に合わないと言うことで、今回は屋外にて行われる予定です」


「向こうは良く納得しましたね」


「本来は屋内の準備も急げば間に合ったのですが、リュシオン国からの提案として屋外で行うことになりました」


「リュシオン国からすれば、そっちの方が安全なのかもしれないですね」


新道とモクナさんの会話を耳にしながら、久々に袖を通した制服の襟を整える。


俺達は今、日頃訓練をする訓練場に一度集まっていた。そして今回は、国外の客人もいる為に、正装…俺達は制服で、東郷先生は懐かしく感じるスーツを着ていた。


本来であれば、パーティードレスやらビシッとしたデザインスーツみたいなのがあるらしいんだが、何ぶん三十人分を五日で用意するのは難しいと言われ、結局俺達が着てきた服に落ち着いた。


《常峰、後一時間なんだが…》


《え、マジか…ちょっとまだ行けないわ。会議始まったらまた教えてくれ》


朝から常峰との連絡は取れている。

この五日は、念話を全くしなかったから久々の念話だ。


《念話は大丈夫なのか?だったら、並木から聞いた東郷先生のスキルについての話をしたいんだが》


《あぁそうだな。そっちも確認しておいた方が確実か…頼む》


《んじゃ並木に変わるわ》


訓練場内で並木を探すと、古河や橋倉と話している。

俺は、その女子グループに近付き、並木にイヤリングを差し出した。


「んー?王様?」


「今は時間があるらしい」


「あいあい」


受け取ったイヤリングを指先で弄りながら、多分並木は念話を始めた。


「そういえば、王様は今日は来るのかなー?」


「予定では来るらしいが、すぐには来れないっぽいぞ」


「アハハ、忙しそうだねー」


話し相手が一人居なくなった古河は俺へと絡む対象を変えた。

橋倉も小さく頷いている所をみると、一応会話は聞いているようだ。


「あ、安藤君…さく、らちゃんは…その、何の…」


聞き取りづれぇ…。


徐々に小さくなっていく橋倉の声は、本当に俺には聞き取りづらい。

うるせぇのが好きって訳じゃないんだけどな…流石に、橋倉の場合は聞こえないレベルまで小さくて俺は苦手なんだよな。


「お?スリーピングキングからのご連絡かね安藤君や」


「何か東郷先生のスキルが気になったらしくてな。並木が調べた事を報告中だ。

それで…橋倉はなんだっけ」


声をかけられ振り返ると、岸達三人がこっちへ向かってきていた。

とりあえず岸の質問には答え、橋倉に改めて視線を向けると、首を横に振っている。


多分だが、橋倉も並木が何をしているか気になっていたのかも知れない。


「そういや佐藤と長野も最近は訓練で見なかったな。何してたんだ?」


どうせまだ時間あるし、少し気になっていたことを岸と一緒に来ていた佐藤と長野に聞いてみる事にした。


謁見が終わってからの五日間、普通に訓練もあったんだが、長野と佐藤は参加していなかった。それまでは、たまに不参加なだけで連日は無かったんだが…。


「俺等か?いや、王様から準備しとけって連絡あったんだろ?

この前の謁見での新道の言葉を聞く限りでも、そろそろ自由行動が近いだろうってことでな」


「情報収集だな。食用の魔物とか、危険地帯とかを調べたりしてる。

ダンジョンの存在も確定はしたしな!キングの所だけとは考えにくい…つまりだ!他にもダンジョンはある。最悪の場合は、食料も現地調達の可能性が高い!

だったら事前に情報を集めるのは………冒険者の鉄則さ」


「へぇ…頼もしいな」


「げんじぃ、永禮…安藤の反応がなんか冷たい」


いや、純粋に頼もしいなと思っただけなんだが…。

温かい反応を俺は知らないぞ?


「それでは皆様、少し早いですがご案内いたします」


反応について考えていると、モクナさんの声が響く。

それに合わせたように並木からイヤリングを返された。


「もういいのか?」


「とりあえずは大丈夫だってさ。それに時間も来たみたいだしね」


まぁ、常峰は常峰で予想はしていたみたいだしな。今は移動をするか…モクナさんも俺達が来るのを待っているようだし。


--


今回、俺達のお披露目の場として用意された屋外へ移動すると、既に見慣れない甲冑の兵士達が並んでいた。


「俺達、鎧とか付けてないよな」


「一応用意はされているらしいけどな。まずは重りを付けたりしてから重さには慣らして、自分の鎧は採寸してから作ったほうがいいって事で、今は戦闘慣れからしてるってゼス騎士団長が話してただろ」


「聞いてなかった」


「回避や受け流しから覚えないと、鎧がある戦い方に慣れてしまうんだとよ」


「なるほど、いつも防具ガチガチで戦うわけじゃないしな」


隣に居る岸の疑問に答えつつ、俺達以外の人が揃うのを待つ。


パッと見では兵士達が並んでいるだけで、ハルベリア王やそれっぽい人物の姿は見えない。重要人物としては俺達が一番に揃ったみたいだ。


「そういや、さっきの話を聞いて思ったけどよ。東郷先生、あんま最近しゃべんないよな」


「ん?そうなのか?俺はあんまり東郷先生と喋らないからな」


岸に言われて東郷先生を見るが、確かに今は喋っていない。

俺達の先頭に市羽と新道と立っているだけで、会話をしている様子はないな。ただ、周囲を気にしたりして気を配ってはいるようだけど…いつもあんなものじゃないか?


「たまに話しかけると、なんか焦ったようにするんだよなぁ」


「フューナ・イカツァを警戒してとかじゃないのか?」


「さぁ?一応俺も気をつけたりはしたんだぜ?」


「東郷先生しか分からねぇ事でもあったんだろう」


実際に何かあったら言ってくるだろう。それに、普通に俺達には言い辛い事もあるだろうし。


その後も岸と軽く話していると、次々に人が集まり始めた。

先に来ていた兵士とは違い、少し豪華な鎧を纏う騎士みたいな人物達から始まり、少ししてからやっと見知った顔が見え始める。


模擬戦でお世話になったログストアの騎士団の人達にジグリ・バニアンツとマーニャ・バニアンツ、そしてゼス騎士団長。

他にも知らない顔も居るが…次に入ってきた男を見た瞬間、そんな考えが無理矢理止められるように身体が硬直した。


「ほぉ…これが勇者共か。まだ未熟だが、確かに磨けば光りそうなのがゴロゴロしてるな」


「あまり威嚇をしてくれるな。我が国の客人だぞ」


その男の後ろを、ハルベリア王が歩き、一番最後に身体のラインを強調するような白いローブの上からまたローブか?

とにかく、何枚か重ね着をした上にフードで顔が見えない…おそらく体型から察するに女が一言も喋らずに歩いてきた。


最後に入ってきた三人が席に着くと…ざわついていた訳でもないんだが、場が静かになった様な気がする。


「待たせてしまって申し訳ないな。

さて…一先ずは自己紹介といかぬか?レゴリア王やコニュア皇女の事を彼等は知らぬ」


「確かにそうだなハルベリア。

お初にお目にかかる。ギナビア国の王、'レゴリア・ギナビア'だ!強さを求めるのであれば、ギナビアへ来るといい」


「勧誘は後でしてくれ」


「止めないのか」


「止める必要性を感じぬだけだ」


「どういう意味だ?」


じきに分かる」


ハルベリア王とレゴリア王の会話を耳に、レゴリア・ギナビアという男を観察する。

歳はかなりいっていると思う。顔にある古傷で一層厳つさが増している。


この男が入ってきた瞬間に、身体が硬直した。ハルベリア王から感じる威圧ではなく、もっとうこう…殺伐とした別の重圧だ。

あれが殺気か…?


「次、よろしいですか?」


「おぉ!悪かったなリュシオンの姫」


レゴリア王の言葉に軽く頭を下げたフードの女は、席を立って俺達に身体を向けてフードを取った。


病的なまでに白い肌。元の世界で人形だと言われれば、そのリアルさを疑いつつも人形だろうと納得できる程に整った造形。淡く光っている様に見える薄い金色の瞳。

逆に綺麗すぎて現実味がないな。


「異世界の皆様、はじめまして。わたくし、リュシオン国の代表をさせていただいております'コニュア・L(リュシオン)・エンピア'と申します。以後お見知りおきを」


ちゃんと聞こえた声も鈴を鳴らしたようで、スッと耳に入ってくる。

なんというか、ここまでくると理想を固めたような、そうだな…不気味さを感じるな。


コニュア皇女は一人一人値踏みをするように眺めた後、一言も喋らずに席に座り直した。


「さて、私の事は知っていると思うが、ログストア国の王'ハルベリア・ログストア'だ。

此度は各国のトップが揃う場となった。私としては非常に嬉しい事である。

皮肉なことではあるが…魔王という共通の敵が居なければ、この様な場が来る事も無かったやもしれぬ。


本来であればギナビア国だけであったはずだが、勇者新道の頼みとは言えリュシオン国のコニュア皇女も遠路はるばる感謝する」


ハルベリア王の言葉にコニュア皇女が軽く頭を下げている様子を見ていると、一瞬だけハルベリア王と目が合った。


「改めてこの場で全員に感謝の言葉を述べたい」


あぁ、察した。


《常峰まだか》


《ちょっと、もうす、あ、いや、来たわ。行ける》


《今、何処に居るんだ?》


《え?ダンジョンだけど?

それより安藤、事前情報が欲しい。ギナビアとリュシオンからは誰が来た》


ダンジョンってお前、あの城がある場所じゃないのか?という言葉を呑み込み、常峰の質問に答えることにする。

早くしないと、ハルベリア王の時間稼ぎにも限界はあるだろう。


《ギナビアからレゴリア・ギナビアという王が来ていて、リュシオンからはコニュア・L(リュシオン)・エンピアという皇女が来ている》


《助かる。後、十秒で行く》


《は?》


常峰の言葉が理解できずに困惑していると、ハルベリア王の話に飽きた様子のレゴリア王が話に割って入った。


「ハルベリア、下らん話はよせ。

それより、異界の者達は名乗りすらせんのか。代表がいるのなら、その者ぐらいは名乗るべきだと思うのだがな…ん?」


レゴリア王は俺達に向けていた視線を外し、別の所を凝視しはじめた。それはレゴリア王だけではなく、ハルベリア王やコニュア皇女、並ぶ護衛の騎士達も皆が警戒の色を見せる。

釣られるように俺等も視線を追って自分達の後ろを見ると…そこには黒く巨大な両扉が空間から浮かび上がるように現れた。


その扉はゆっくりと開き、黒く塗りつぶされた扉の奥からメイドと執事が次々と出てきて、扉を中心に両端に並ぶ。


「ハルベリアこれは」


「私が知るわけなかろう」


一瞬ハルベリア王が用意した何かの演出かと思ったが違う様だ。

そこで、俺の頭の中にさっきの会話が蘇ってくる。


―後、十秒で行く―

いやまさか…。


ざっと三十人程の執事とメイドが並び、最後に現れたのは見覚えのある執事。確か名前は…セバリアスだったか。


「皆様、大変お待たせいたしました」


俺達に向け一度頭を下げたセバリアスに合わせる様に、メイドや執事達も頭を上げて姿勢を正した。


少し遅れてカツカツカツと地面を鳴らす音。

同時に空気が冷めていく様な感覚。

身体に纏わりつく冷気が意思を持つように首を締め付けてくる。

その空気に対抗するかの様に、後ろからも死を彷彿とさせる圧。


息苦しい…。


なんとか視界を動かして周りを見ると、驚きの表情のハルベリア王やレゴリア王、岸達は顔が引き攣っているし、女子も顔を下に向けて一様に立ってるのも辛そうだ。

市羽は涼しい顔で、顔色一つ、表情一つ変えずに立っているが…。すげぇメンタルしてるな。


「…魔王」


誰が言ったかも確認する気が起きない。

以前に映像で見た姿のまま地面を鳴らしながら腕を組み、優雅に歩いて出てくる姿に惹きつけられ見が離せなくなる。


聞こえるのは心音と、誰かが喉を鳴らし固唾を呑む音。


「' 望みを口に 願いを胸に

   聞き届けしは神の耳 

染まることなき純白の光は神の意志 '」


「条件反射の様に攻撃をするでない」


後ろから聞こえて来た鈴を鳴らした様な透き通る声に、魔王は呆れた様に言葉を返すが、尚も後ろからは言葉が紡がれる。


「'汝に救いを 罪に裁きを


   ―神の審判―   '」



一瞬だけ息が軽くなった様に感じた途端、俺達の頭上に水が集まり渦が現れ、巨大な…なんだあれ。

鮫とも言い難いな。魚類の様な顔に蛇の様な目と、全てを呑み込む様な奥の見えない巨大な顎。


その恐怖を駆り立てる生物は、頭上の大渦の中から顔を出し、ヒレを渦の縁へ引っ掛けると身体を引きずり出し…空から降ってきていた、これまた巨大な剣を一口に噛み砕き呑み込んだ。


「神の御業を喰らう魔獣…」


「驚くのも分かるぞリュシオンの娘。しかし気落ちをする必要はない、あれはその様な中途半端な魔法では越えられぬよ。

しかし、我が先で正解であったな。やはり攻撃をしてきた」


剣が消えると、息苦しさが戻ってきた。

コニュア皇女の呟きも、それに対する魔王の言葉も聞こえてはいるが…そんな事より目の前で起こった出来事が衝撃的過ぎて脳の処理は追いつかないし、目先の息苦しさのせいで息をするので精一杯だ。


「なんでメニアルが得意げに言うんだよ。大体、話し合いの場にそんな殺気振りまく必要があるか。


穏便にって言ったはずなんだがな。

まったく…レーヴィ、守ってくれてありがとうな」


「勿体無きお言葉」


最近普通に聞いていなかった聞き慣れた声がした。

その声に、少し小さめのメイドが頭を下げて答え、残りのメイドと執事、セバリアスも例外なく頭を下げて声の主が現れるのを待つ。


「いやーすみません。メニアルが遅刻したもので、少し遅れてしまいました。

ご無沙汰しておりますハルベリア王。

そして、お初にお目にかかりますレゴリア王、コニュア皇女。


最近は皆から王様なんて呼ばれている…常峰 夜継です。どうぞ、お見知りおきを」


黒い服に邪魔にならないように装飾が施された服を着る常峰…随分とカッコいいじゃねぇか。その寝癖が無ければ尚更な。


「皆も久しぶりだな。とりあえず、少し話が長くなる予定だから座れば?」


常峰が軽く手を動かすと、長椅子がいつの間にか現れた。

気がつけば不思議ともう息苦しさはなく、むしろ常峰が現れた事で安心感すらある。


俺が座ると、隣に居た岸も座り、それを皮切りに次々とクラスメイト達も座っていく。見計らっていたのか、メイドや執事達が座った俺達に紅茶まで用意してくれる始末。


もう…なんだかな。


「常峰…お前、少し見ない間にご立派になったもんだ」


「皆が頑張ってるからな。それに応えるぐらいはするさ…期待してろ」


俺達の間を抜けて歩いていく常峰に声をかけると、なんとも楽しそうな笑みを見せて常峰は一番前、ハルベリア王達が囲んでいるテーブルまで歩き、俺達のと同じ様に椅子を二つ呼び出して魔王と共に座った。


「さぁ、話を始めましょう。

せっかく…ギナビア国の王と、リュシオン国の皇女が来ているんですから」


本来なら俺達のお披露目と、リピアさんの今後を決めるだけだったはずなんだけどな。

常峰は、わざわざこの場を用意して何をする気なのか……楽しみだ。

やっと、常峰君を一回合流させられました。

そろそろ一回大きく物語をポンと進めたいですねぇ…。


お読み頂きありがとうございます!

ブクマなども感謝です!これからも頑張りますよー。

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