与えられた十分な時間
次ぐらいには、常峰君が皆と一度合流する予定です。
この先の展開で少し悩んでいるのですが…まぁ、グループで別れて行動するんですけど、視点変更のタイミングとペースを悩み中です。
あまり常峰君不在の展開を続けていいものか…と言う理由が大きいですが、念話とかでなんとかしようかなと思ってます!
魔法って、便利ですね!
今回は少し短めです。
王の謁見から五日後、その日の昼過ぎに、俺達はまた謁見の場に呼ばれていた。事前報告があったわけではなく、突然の事で不安そうな顔をしているクラスメイト達も少なくはない。
前回の謁見の時と違う所を上げるとすれば…他の大臣達も居る事だ。
それだけで俺と岸は、何となく呼ばれた事を察する事ができた。
「安藤、時間稼ぎの方法は思いついているか?」
「一応常峰と相談はした。結果としては、俺達も否定する事が一番じゃないかってよ。
おそらく証拠は不十分で、すぐに実刑判決はできないはず。だから俺達が駄々をこねて、明確な証拠が出るまでは認めない事を言っておけって」
「明確な証拠が何か分かってんのか」
「いや…俺も常峰も分かってない。だから、もし明確な証拠が出された場合は実刑までの期間を伸ばせって言われた」
「どういうことだ?」
「もしその場合は市羽が何かするらしい」
俺と岸が小声で話していると、少し遅れたハルベリア王が席に座り、続いてゼス騎士団長と共に手錠を嵌められたリピアさんが入ってくる。
岸と目が合い、お互いに頷き合う。
確定だ。
リピアさんを使った尻尾切りで、俺達の信用を確保しようとしてきた。
「突然の呼び出し済まないな。
常峰 夜継の身代わりの石に小細工をした者の目処が付いた」
ハルベリア王の言葉に、知らなかったクラスメイト達がざわつく。そして視線は、当然リピアさんへと向けられた。
手錠まで付けて、ご丁寧に服装も布一枚。あれじゃ罪人ですと言っているようなもんだ。
「この者、リピア・モニョアルは常峰 夜継の専属メイドとして接する機会も多く、模擬戦の際は内容変更の為にゼスと共に身代わり石の用意を手伝ったようだ。
又、スキル偽装を行っており、再度確認の結果では転移魔法を扱える事も確認されている。
リピア、ゼス、違いないな?」
「違いありません」
「違いありませんが、私はお手伝いをしただけで、常峰様の事件に関与はしていません」
ゼス騎士団長は肯定だけするが、リピアさんは関与の否定を加えて言う。
しかし偽装までしているのがバレてしまっているんじゃ、その発言だけじゃ厳しいんじゃねぇか…?
「でも、リピアさんは私達に協力的だった。スキルの事も教えてくれたし、覚える為に手伝ってもくれたし。
もしリピアさんがやったとして、わざわざ夜継に転移魔法を仕掛けてまで、何がしたかったの?」
どうにか時間を稼ぐ方法と考えていると、漆の声が聞こえた。
予想していない人物が質問した事で驚いたが…当然、漆はリピアさんが犯人だった事は知らない。知らないからこそ、その質問がすぐに出たのかも知れない。
そうだ。協力的だったのも確かだし…その事を全面に押していけば…。
駄々をこねろ。と言われても、俺には難しいがやるしかない。
自分の発言に落ち度が生まれない様に気をつけ、漆の言葉に乗ろうとするが…先に、漆の言葉に返した人物がいた。
大臣勢の一人である…確か、以前漆に何かされたオーマオとか言うおっさん。
「どうせ貴様等と友好関係を築こうとしたのだろう。
聞けば、貴様等もそこのメイドに懐いていたらしいではないか。困っている所に手を貸せば、貴様等は簡単に心を開く。
目的など分かっている。我がログストア国が召喚した者達を取り込もうとした他国の密偵だろう。
まんまと貴様等は引っかかったのだよ」
「恥ずかしげも無く密偵の可能性を言うのねぇ…随分と自国が間抜けな事を晒すのが上手なことで」
「き…さまっ!ログストア国を愚弄するかっ!」
似たような展開。
おっさんの顔が赤くなり、ふと漆を見ると、その目は紅く染まりはじめている。
流石に二度目は話しも進まないし不味いと思い、止めようとしたが…俺が何かする必要はなさそうだ。
漆の近くに立っていた市羽が、漆の眼前で指を軽く鳴らした。それだけで漆の目は普通の色へと戻っていく。
「市羽?」
集中力を乱された事に少し不機嫌そうな漆。対する市羽は、そんな漆の様子を気にせずにオーマオの方へと顔を向ける。
「少し聞きたいのだけど、どうしてリピアさんが密偵と思ったのかしら」
「当然だろう。スキルを隠蔽し、我が国の客人に手を出したのだ」
「それだけ?」
「十分な証拠だ」
「私達からすれば、不十分ね。まだリピアさんが常峰君を転移させたとは断言できないし、密偵である証拠と言われても微妙だわ。
それに…スキルを隠蔽するのは、そんなに悪いことなのかしら」
市羽とおっさんのやり取りを聞いて俺は一つ疑問に思っていた。
どうして隷属魔法の事を言わないのか。
リピアさんには隷属魔法が掛かっている。その事を言えば、密偵である事は一発で証明できると思うんだ。
だけど、あのおっさんはそれを言わない。いや、もしかしたら言えないのか…知らねぇのか?
「これだから…いいか?仕える国の者、ましてやハルベリア王へ嘘を吐いていたのだぞ?
それだけでも重罪だ」
「分からないわね。
自分の評価を下げる事が悪い理由が。聞けば、転移魔法自体が高等な技術らしいじゃない。知られれば面倒に巻き込まれるのも見えているわ。
警戒してスキルを隠す。普通の事じゃないかしら。それとも、手の内は全てさらけ出すのがこの世界の常識なの?だとしたら、先に謝っておくわ…私達はスキルを隠しているわよ」
「なんだと…?」
「それともリピアさんには隷属魔法でもかかっていたのかしら?だったら私達も納得はできるわよ」
呆れる様に言うおっさんに市羽が畳み掛ける様に言葉を発していく。
終いにゃ隷属魔法の事にまで触れた。
「隷属魔法の痕跡は、メイド達を使って調べたがリピアには無かった」
市羽の最後の質問に応えたのは、おっさんでは無くハルベリア王だ。
今まで喋らず、オーマオの発言を許していたはずなのに、オーマオの発言を遮っての発言。リピアさんを見ても、焦っている様子はない…と思う。
俺は人の変化に過敏な方じゃない…それでも、この流れは目的を知っているからこそ不自然に思えて仕方ない。
市羽が隷属魔法を持ち出したのは、明らかに不自然だ。こっちが不利になりかねない。
「メイド達で分かる事なのかしら」
「隷属魔法と言うのは、隷属対象の身体の何処かに刻印が浮かび上がるものだ。
全身を調べたが、刻印は無かったと報告を受けている」
「そう…実は、こっちでも確認ができるのだけれどリピアさんを調べてもいいかしら?」
「構わぬが…脱がすか?」
「そのままでいいわ。私達は見ただけで確認できるのよ…鑑定と違ってね」
市羽の言葉に、ハルベリア王達がざわつく。
俺達側からすれば、並木のスキルを知っているし別に驚く事じゃないが…市羽は'鑑定'と'鑑眼'の違いを知っているのか?
「鑑定では知れるのはスキル名までなのでしょう?相手の状態までは知れないと聞いているわ」
「その通りだが…」
「私達は、スキルの詳細も相手の状態も確認できるのよ。常峰君がハルベリア王と協力関係の今、これぐらいなら教えても構わないでしょう。
そうね…なんなら、この城に居る人達を全て見て回りましょうか?隷属魔法を使われているのなら、見つけ出すのも簡単よ」
あぁ…なるほど、そういう事か。
常峰が何を言ったか知らねぇが、市羽はリピアさん以外の密偵に対して牽制をしたかったのか。
ハルベリア王も方法は知らされてないが、市羽がそう動く事を聞いていたと考えれば…違和感も納得できる。
「それは我が国の問題だ。そこまでは君達に任せるわけにはいかぬよ。
だが、もしもの時は報酬を用意して依頼するかもしれぬ。頼めるか?」
「そうね。その時は、また考えることにするわ。
それでリピアさんの処分についてなのだけど、私達が視た限りでは、まだリピアさんがやったと断定したくないのよ。
本当にリピアさんが犯人なら、それは仕方のないこと…だけど、お世話になった相手が冤罪でした。は私も、きっと他の皆も当然、なにより常峰君が良しとしたくないと思うの」
「ならばどうする」
《安藤、今起きた》
うぉ、びっくりした。常峰からの念話か…。
おせぇよと文句を言いたい所だが、とりあえず現状報告からだな。
《リピアさんが捕まった》
《思っていたより遅かったな。チーアも良く約束を守ってくれた。
それで、どんな状況だ》
《市羽が王様とのやり取りで、確認されてない密偵を脅してる》
《理解した。リピアさんはどういう扱いになった》
《今からそれを決めるところだ》
《なるほどな…新道が近くにいるか?》
新道なら目の前で市羽の言葉に頷いているが…。
《ちょっと変わってくれ。今後の動きを考えると、ログストアに残るのは新道がリーダーだ。ログストアとやり取りするなら、新道がいい。
突っ走る可能性もあるが…まぁ、新道ならもう焦る事も無くなんとかなるだろ》
そういう事なら。
俺は、目の前でいまだに感心する様に頷いている新道の背中を叩く。
「どうした?」
「常峰だ」
新道は俺からイヤリングを受け取り、頷き始めた。多分、常峰から何か話されているのだろう。
ふと声が聞こえなくなり市羽の方に目をやると、市羽は俺と新道の動きに気付いたらしく、少し悩むような素振りを見せてハルベリア王に言った。
「私としても幾つか考えはあるのだけれどね…そうね、ここは新道君に任せることにするわ」
「ふむ…では勇者新道、この者の処分はどうする」
ハルベリア王の言葉で部屋の視線が新道へと集まる。
その新道はというと、顎に手を当て、まるで悩んでいるようだ。実際は常峰と念話中なだけなんだろうけどな。
「そうだね。それがいいかもしれないな」
話し合いは終わったらしい。
集中しすぎて声が出てしまっているが…まぁ、知らなきゃ考えがまとまったようにしか聞こえない。
新道は、最後に大きく頷いた後にイヤリングを俺に返してきた。
《もういいのか?》
《後は新道に任せるさ。悪いが、そろそろ俺も寝る。タイムリミットも迫ってるみたいだしな》
《さっき起きたばかりだろ?体調でも悪いのか?》
《魔力の使いすぎだ。寝たほうが俺のスキル上、効率がいいんだ》
《城に使ってるのか》
《あの城は外装ができた翌日には内装も終わってる。今は別のことにな…あの城は、皆の部屋も作る予定だから途中と言えば途中だけどな。
まぁ…それは後日だ。そろそろ俺もそっちにいけるとは思う。バタバタしてわりぃけど…おやすみ》
《おう、ゆっくり寝ろ》
俺の言葉に返事はない。多分、もう寝たんだろうな。
しかし、常峰が何をやっているかが分からねぇな。最近、念話をすれば起きて、すぐに寝ると言って寝てしまうが…。
まぁいいか。会った時にでも聞けばいい。
正直に言えば、あの城とかについて詳しく聞きたいんだけどな…焦ることでもないよな。
「リピアさんの処遇についてなんですけど」
今は、こっちの問題がある。
新道はどうする気か…ちょっと楽しみだな。
「延期っていうのはどうですかね?」
「延期か…どれ程の期間を望む」
「俺も少し情報を持っているんですけどね。その中に、ギナビア国の人が近々来るとかなんとか」
そうなのか?
仮にそうだとして、ギナビア国が来たとしてだ。リピアさんの立場は一層悪くなるだけな気がするが…。
「…よく知っておるな。その時まででいいのかね?」
「はい。そしてお願いなんですが、できればリュシオン国の方も呼んで欲しいんですよ」
「何…?」
ハルベリア王の纏う空気が俺でも分かる程に重くなる。
おいおい、大丈夫か?王と大臣共の顔を見る限り…交渉失敗の空気なんだが。
「俺達のお披露目となれば、やっぱりリュシオン国にも顔を覚えておいて貰いたいんですよね。
まだ言って無かったと思いますけど、ログストア国に残るのは俺と数人のクラスメイト達だけですし、残りは世界を周る予定なんで。
それに、ログストア国としても悪い話じゃないと思うんですよ。俺達はログストア国の協力者として、その場で発言をしてもいいつもりですよ」
本当に爽やかな笑みをして、問題発言をするなコイツは…。
ハルベリア王も眉間にシワが増えている。
しかし新道も顔色一つ変えずに良くやるな。俺なら、こんな中じゃ発言が止まる。
視線を集め、ハルベリア王からの威圧感も凄い。その堂々とした態度は、すげぇと思うわ。
「良かろう。ならば四日後、ギナビアの者と共にリュシオンの者も来るよう連絡をしておこう」
「ハルベリア王!それは」
「オーマオ…良いのだ。そろそろ私も、見て見ぬふりに限界を感じていたところだ」
今までとは比にならない程の身体に襲いかかる圧。たった一言の言葉に、俺達も大臣共も声が出せない。
これが王たる者の威圧なんだと本能に刻み込まれる様だ。
それからの決定は早かった。
ハルベリア王の発言は、そのまま決定するモノとなった。
リピアさんの処遇は保留となり、予定としては早ければ四日後…リュシオン国は前もっての連絡が無いため日程がズレる場合があるのは考慮しておいて欲しいとのこと。
この事を翌日に常峰との念話で伝えると、それだけあれば間に合う。とだけ残して、今後の念話は一旦止めて寝る事に専念するらしい。
並木が東郷先生のスキルをやっと見れる時間ができて確認した。と言われたんだが…それを伝えるのは会った時になりそうだ。
読んで頂きありがとうございます。
ブクマ…感謝です!減れば落ち込みますが、増えれば素直に嬉しい!
せっかく読んでいただいているので、今後もお楽しみ頂けるように頑張りたいと思います。
では引き続き、眠王と共に私もよろしくおねがいします




