抗えぬ眠気
綺羅びやかな部屋には、中々の重圧感を醸し出しているいかにも王な男を中心に、俺達と同い年ぐらいの女が隣に並んで、騎士と他おっさん達が俺達を囲んでいた。
「おぉ…成功したか」
「えぇ、まずは一段落ですわね…お父様」
恐らく失敗もあったのだろう。いかにもな男と同い年ぐらいの女の会話を聞いて、周囲の人は安心した表情をしている。
しかし一段落か…。召喚後に関して何かノルマでも存在してんのか?
俺達は事前にアレから情報を得ていたとは言え、情報収集も兼ねて周囲を見渡したり、近場のクラスメイトと相談をしたりしていると…いかにもな男が俺達へ向けて口を開く。
「突然の事で困惑をしているだろう…。
私はハルベリア=ログストア。この国の王をしている。
まずは、謝罪からさせて頂きたい。
今回は我々の問題に巻き込んでしまったこと、そして君達を帰す方法は分からない。本当にすまない。だが、どうか力を貸してはくれないだろうか」
「…謝罪は受け取ります。
そちらは私達が別の環境から呼ばれている事を理解しているようですが…私達には貸せる力があると思いませんし、何より何に力を貸して欲しいのかも理解していないのですが」
俺達を代表して東郷先生が返答し、ハルベリア王に答えた。
スキルなんぞの存在がある事からも、何かしらの戦う相手がいるのだろう。もちろん武力で。
何に力を貸して欲しいかも気になるけど、それ以上に他にも俺達のような喚ばれた人間が存在しているのかが気になる。
「話が長くなるが…」
あ、それはいかん。
それは俺は寝ちまうぞ?つか、この部屋に入ってから異常に眠くて限界が近い。
確かに睡眠一歩手前だったが、さっきのアレが居た空間では目が覚めていたはず…にも関わらずくっそ眠い。
チラッと視線を移動させると安藤が察した様な顔をした。
あぁ、うんまぁ…後は頼むわ。
にしてもここまで眠気が来るなんて今までは…どうしちまったもんかな……。
声には出せなかったが、安藤が一度頷いたのを確認して俺の意識は急速に沈んでいく。
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俺が頷いたと同時に、常峰の身体が傾き始め……。
ドサッと倒れる音がして、その音がした方へと全員の視線が集まった。
「この状況でも寝れるとか大物すぎるだろ」
クラスメイトは、俺の呟きと音の原因を見て苦笑いを浮かべる。東郷先生は、唖然とした表情で見た後に すみません! と一度頭を下げると音のした方へと駆け足で寄っていく。
「まぁいいや。で、その類の本で一番最悪な状況は?」
「あ、あぁ…大体が魔王の存在を倒す流れになるか、他国との戦争用の道具として俺達を喚んだかだな。
んで面倒なのが、慣れていないこの状況で洗脳ができる様な魔法を使われるか、召喚した時に命令権を握られてるかだ。
安藤も体に異変か違和感があったら教えて欲しい。今のところは探しても見つからないけど…」
「命令権?」
「要は奴隷だ。魔法で奴隷紋を刻まれていて、命令されたら意思とは関係なく逆らえない様になってたりする」
東郷先生がなんかしている間に、隣でさっきから説明をしてくれている'岸 永禮'に続きを聞いた。
そういうのを読んだことはない俺からしてみれば、岸とその友達の話は重要な情報だ。
ここまでは、何通りかあるパターンの一つを辿っているらしく、東郷先生の聞いた'手を貸して欲しい事'の内容も大方予想はできていると言う。
そして今言った奴隷の話…。
俺達を囲んでいる兵士と王に怪しまれない様に、体に変な模様がないか探しては見たが…それらしいのはない。
「召喚後に奴隷にされる可能性は?」
「うーん…道具とか、なんかのキーワードとかでされたりもある」
「長引かせないのが安全かもしれないな」
正直俺も混乱はしている。だが、事前に伝えられていたからかクラスメイトの暴動も無く大人しい今だ。
ただ、今がそうなだけで一旦向こうの流れを断ち切っていた方が色々と考えられるだろうな。
岸が率先して皆に声をかけても、逆になんかの反発を生むかもしれない。岸も理解をして何かと脱する方法を模索しているようだし…だったら先導するなら東郷先生か、クラスの中心に居る新道か市羽辺りに頼むのが一番か。
そうとなれば、東郷先生は今忙しそうだ…。新道と市羽は近くに居るな。
アイツが寝て東郷先生が起こすと言う見慣れた光景で、クラスの空気が緩くなっている内に俺は新道と市羽へと近寄っていった。
「そろそろ限界よ」
「だろうね。話が長引くとそれだけ処理が追いつかなくなる。
正直俺も、平常心でいるのはギリギリだよ」
「優等生が珍しい」
「君も似たようなもんだと思うけど?」
「まぁ、少し考える時間が欲しいのは確かね」
近寄ればそんな会話が聞こえた。
気は引けたが、その二人の会話に入ることにする。
「ちょっといいか?」
「どうかしたのか?安藤」
新道が反応して…市羽も会話を止めて俺を見ているから、聞く姿勢ではあるのだろう。
「実はな―――」
とりあえず、岸が話してくれた事を軽くまとめて二人に伝えた。
すると二人はそれぞれが考え始め、東郷先生が一応生きている事を確認して起こすことを諦めた辺りで新道が周囲を見渡した後に言った。
「この世界の情報も欲しいし、数人だけ残って話を聞いて、他は休める様に頼むのが一番かな?」
「そうなれば、残るのは東郷先生と新道が適任かしからね」
「君は…」
「私も疲れているのよ。
正直、そういう手の本も少し読んだ事があるから大まかな流れは後から聞いても分かるわ」
有無を言わさない市羽の気迫に、新道もちょっと引きながら頷き返すしかできなかった。
市羽はいざと言う時は協力してくれるんだが…いざという時にならないと協力してくれないのがなぁ…。
他人事の様に愛想笑いをしていた俺に市羽の視線が刺さった。
あ、嫌な予感がする。
「ほら、安藤君も残るのに余裕の笑みなんだから、新道君も頑張りなさいな」
「!?」
「あぁ…安藤も残ってくれるのか。悪いな…」
「ちょ、ちょっと待て、なんで俺が」
「え?常峰君の為に話を聞くのでしょう?私も、彼の意見は聞いておきたいからよろしく頼むわね」
「お?」
「東郷先生も諦めてこっちに来てるし、常峰は完全に寝てるって事だしな。
安藤頼むよ」
ダメだ。もう完全に俺の言葉は通じないと悟った。
市羽は当然の様に頷いているし、新道も道連れを見つけたように優しい笑みで俺を見ている。
そしてこっちに来ていた東郷先生も同情の目を浮かべたまま王と会話を再開してしまった。
「あの者は大丈夫か?治療するならば、優秀な者を呼ぶが」
「いえ大丈夫です。ですが…すみません、お話を伺う前に生徒達を休ませては貰えませんか?
いきなりの事で精神的にまいってしまっている子達も数名居るので…お話は私と、代表の生徒でお聞きするので」
目配りをして代表の生徒達を見つつ王に要件を伝える東郷先生。
先生、俺は代表になるとは一言も…
「これは気付かず、すまなかった。
部屋の用意を。後、手が空いている者を一時的に使えさせよ」
「ハッ!」
王の言葉に一人の兵士が敬礼をして部屋を出て行く。
逃げるのは諦めよう…。
「部屋の用意をしている。暫しまたれよ。
その間に、一つ確認をしておきたいのだがいいかね?」
「…?どうぞ」
重圧と言うか、威圧感のある王は一層眉間にシワを寄せて口を開いた。
「各自、"スキルフォルダ"と唱えてもらえるか?」
東郷先生も一緒にクラスメイトは王の言った"スキルフォルダ"と唱えると、手元に半透明の紙が現れる。
隣に居た新道の手元には何も見えないが、新道の視線を辿るに同じように半透明の紙がでていると思っていいかもしれない。
紙の内容はあの光のヤツが言ったようにスキルが書かれていた。
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安藤 駆
性別 男
所持スキル
ユニーク:筋肉騎士
EX:リヴァイブアーマー
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意味が分からん。どういうスキルだこりゃ。
王は俺達にこれを出させてどうするつもりなのか…。
全員が手元を確認している所を観察していた王は、何やら王女から耳打ちをしあい王は頷き告げた。
「この中に'勇者'のスキルを持つものがいるか?」
勇者とはまた…。俺は筋肉騎士だから違うな。
だが、俺の近くで手が上がった。それも二箇所から。
「おおお!二人も居るか!」
王だけではなく俺達以外の部屋の人間は嬉しそうに手を取り合ったりと…完全に俺達は置いてけぼりだ。
もちろん、俺の近くで手を上げた新道と市羽も驚いて…市羽に関しては迷惑そうに顔をしかめていた。
「では、話は勇者の二人と君達の代表と貴女が立会でよいか?」
「ん…?まってください私は「はい」…安藤君?」
王の言葉を否定しようとした市羽を遮って返事をした俺を、市羽が睨んでくるが…知らん。頑張ってくれ勇者よ。
それからクラスメイトは用意された部屋に誘導され、俺達は王とその隣に居た女の子'リーファ=ログストア'と数人の役人とで王達の要件を聞くことになった。
……話が始まって数時間。想像以上に面倒事になりそうな予感がする。
一応話の為とメモを取りながら、今頃爆睡しているであろう俺の友人'常峰 夜継'にどう説明したものかと考えていた。




