今日は二度頭を打った
サブタイトルにあんまり意味はないです。
今回も、少し短めかもしれません。
常峰と連絡が取れなくなって五日。
最後に常峰は、ラスボスが来たと言っていた。それって、やっぱりあれだよな?魔王だよな。
「常峰からの連絡は、まだ来そうにないか?」
「わかんねぇ。この念話、常峰が拒否したらこっちから繋げられないっぽいんだ」
今日のペアである新道も柔軟体操中に小声で心配の言葉を漏らす。
常峰がどうあるかは俺も分からないから言い様がなく、ラスボスうんぬんは伝えていないけど連絡が取れなくなった事は市羽と新道には伝えた。
東郷先生にも伝えておきたいとは思ったんだけどな…東郷先生の専属であるフューナ・イカツァが中々離れない。
一見すれば、献身的な振る舞いを見せ続けている分、こっちからも何かを言い辛いんだ。
「もう半月だ。皆も空いた時間で自分のスキルや、個人的な目標を決めてきているっぽい。
戦闘基礎訓練も、ゼスさんに許可さえ貰えれば休める状態だ。俺でも分かるぐらいには、皆慣れ始めてるぞ」
「教え方が上手くて、分かりやすいのもあるが…やっぱりゼス騎士団長的にも伸ばしたい奴とか目につくんだろうな」
新道の言う通り、クラスメイト達は慣れ始めている。それに伴って、思い思いの行動をするようにもなってきた。加えて基礎訓練の中で、得意不得意が顕著に現れはじめて…戦闘能力の差が良く分かるようにも。
異世界に来た時の焦りは、俺も無くなっているのがよーく分かる。きっと常峰の目論見通りなんだろう。
しかし、常峰の言っていた判断力が養われてるとは思えない。ここからどうするつもりなのか。
《安藤、今時間あるか?》
「噂をすればだな」
「常峰か?」
「あぁ」
突然響いてくる声には驚いたが、すぐに誰かは理解できた。
近くに居た新道も俺の反応に気付いて、期待したような顔をしている。
《連絡が遅れて悪い》
《本当にな。あんな切れ方して焦ったわ。
んで、ラスボスだかは大丈夫なのか?》
《その報告だ。
聞いて驚くなよ安藤…》
声だけで察せる程に、イタズラ顔の常峰が頭に浮かぶ。
《普通に考えて驚きはするだろ?ラスボスと何かあったとか言われりゃ。いや待てよ……おいおい、まさかラスボス倒したのか?》
常峰と話すのは気が休まるな。
なんて思いながら、常峰が何を言おうとするか予想してみる。
相手が魔王だったとして…意外と元気そうな常峰の声に、俺が驚きそうなこと。そう考えれば、案外魔王を倒したと言われても納得できてしまう。
《魔王と手を組んだ》
「んはっぁ?」
「?」
「あ、いや何でもない。すまん」
思わず声が出てしまった。
訓練場に響く俺の声に反応して、ゼス騎士団長やリピアさんの視線まで集めてしまう。
俺は慌てて、何事も無かったかの様に振る舞うが…市羽やリピアさんは気付いてしまっているようだ…。
これは、常峰が悪いと思う。
突然'魔王と手を組んだ'とかニヤニヤした声で言われれば、驚きもする。
《安藤…今、驚いて声が出ただろ》
《勝ち誇ってる所悪いが、当たり前だ。
魔王は敵じゃないのか?それなのに手を組むって》
《まぁそう思うだろうが、最初から気になってたんだがなぁ。
何故、魔王を討伐する必要があるのかと》
何故って…その為に俺達は喚ばれたんだろう?
いや…でも、確かになんで魔王を討伐する必要があるんだ?帰る為に討伐する必要があるなら、確かに俺達は討伐しないといけない。だけどだ、帰還方法は分かっていない。それでも俺達は魔王の討伐を目的としている。されている。
討伐は、俺達の目的ではなく…ログストア国から言われた目的だ。
常峰がクラスメイトに魔王の討伐まで目的として入れたから、一切その考えはしなかったな。
《でも、お前が魔王討伐を目的って》
《俺の目的は最初から帰還方法だぞ。過程で魔王戦があるかも知れないからと情報は欲しかっただけだ》
言われてみれば、確かに魔王討伐に積極的な言動は無かったようにも感じるな。
《それでお前は魔王と組んでどうするんだ…》
あんまり深く考えずに、俺は話を戻した。
正直、常峰が何を考えているか全てが分かるわけじゃない。常峰なりに何か考えての行動で、その結果が魔王を手を組んだ。俺にとっては魔王を討伐するどうのより気になる事だ。
《話ができる様な魔王が居た場合、元々考えていたことだ。
安藤、ログストアの大臣共が俺達に望んでいる事が分かるか?》
常峰の問いに、今日使う模擬戦用の武器を選びながら考える。
真っ先に浮かぶのは魔王と魔神の討伐だけど…この聞き方だと別だろう。ハルベリア王からじゃなくて、大臣共が俺達に望んでいる事ねぇ…。
ふと周りを見渡すと、岸の相手をしているリピアさんの姿が。そこで俺は思い出す。
《隣国とのいざこざか》
《それだ》
どうやら、答えを言い当てたらしい。
満足そうな常峰の言葉を脳内に続けて考えてみるが……分からん。隣国とのいざこざが答えとして、それがどうすれば魔王と手を組む流れになるのか。
《いざこざをどうにかして欲しい。と言うのが望みなら、そうしてやろうと思ってな》
《だから、なんでそれで魔王と》
《ハハハ!急かすなよ安藤。
久々にお前と話せて俺も楽しいんだ。
まぁ、長話をまだ続けたい所だが、色々とそっちでも確かめて欲しい事があるからな》
剣を選び終え、新道と向かい合う。
新道は、俺と常峰が念話で話している事を理解しているからか、手を抜いてくれるようだ。
《結果から言うと、多分だが大国を敵に回す》
「ふげっ」
「あ、安藤?大丈夫か?」
二、三の打ち合い。その次の踏み込みに合わせて脳内に響いた言葉に足がおぼついて、俺は躓き顔面からコケた。
何を言ってるんだコイツは…。
「わりぃ」
「常峰はなんて?」
「…ちょっと、よく分からん事言ってる」
新道の手を借りて立ち上がり、ふと刺さるような視線に釣られて周囲を確認すると、ゼス騎士団長とペアの市羽、端の方で橋倉とペアになっている漆が俺を見ていた。
俺は恥ずかしさを紛らわせる為に、服に付いたホコリを叩き落として新道を再度向かい合う。
《お前…頭が逝ったか?》
もちろん常峰への小言も忘れない。
《'かも'の話だ。俺の予想が正しければ、少なからずリュシオン国とはモメる》
《ん?リュシオン国って、神聖国家だよな?ギナビアじゃないのか?》
《ギナビア国の方針が分からないが、おそらく使える戦力だと分かればそれほどモメない。
むしろ、ギナビアと一悶着する時は、それはログストア国との揉め事に巻き込まれた場合だ》
あぁ…そういう事か。これは俺と常峰の認識違いだな。
常峰は既に、ログストア国を一つの他国として見ているんだ。
俺のようにログストア国の問題は自分達の問題ではなく、ログストア国の問題はログストア国の問題。
だったら俺もそう考えるさ。別に俺もログストア国の人間じゃないからな。
《常峰の予想では、どうしてリュシオン国とモメるんだ?》
《魔王という存在がリュシオン国では絶対的な悪の場合、俺はリュシオン国からは悪認定されるだろう?
そうなれば、間違いなく俺とリュシオン国はぶつかる。そして、それまでにギナビア国と友好が深められずにギナビア国が俺よりリュシオン国に価値があると判断した場合…ギナビアともぶつかる。
…加えて言えば、ログストア国が丸め込まれた時はログストア国も敵だな》
まったく困ったものだ。と言葉が聞こえてきそうなため息まで脳内に響く。
ため息をつきたいのはこっちだ。
なんで、そんな事になったんだよ。
《今回、魔王メニアル・グラディアロードと組んだ事で、メニアルが言うには他の魔王共からも俺は敵視される事になるだろうと》
《八方塞がりじゃねぇーか》
《魔王共からは、どっちにしろ俺は敵だから問題ねぇさ。
大国の武力じゃなくて、俺個人で見られるだけの違いだ。これに関しては、結果として似たようなもの。
まぁ、確かに敵を増やして八方塞がりに見えるかもしれんなぁ…。だから、俺は下に根を張り巡らさせて、上に少し伸ばしていこうかと》
《ただの夢見がちな屁理屈にしか聞こえねぇ》
《最後まで立ってりゃ、理屈になるし勝手に道理だとすら思われるよ。
それに安藤…ファンタジーな世界だぞ?元々夢みたいな世界じゃねぇの。そんな世界なんだ…夢見がちな屁理屈も現実まで引きずり下ろせるさ》
なんか…少しだけ常峰が遠くへ居る感じがした。ここから居なくなってから何があったかは知らないが、常峰は何か覚悟を決めたんだな。
打ち合う手を止めて俺は考える。
この世界に来て、帰る術も無く永住する可能性があると知った時に、俺は何を考えたか。
漠然と…いや、何も考えてはいなかった。そこにある流れに任せて居たのは確かだ。なら考えてみろ俺。
何をしたい。どうしたい。
《安藤…嫌なら断ってくれて構わん》
脳に聞き慣れた声が響く。
そうだな…まだ漠然とはしている。元の世界に未練が無いわけじゃない。それでも、元の世界でも思う。俺は…コイツとバカやって楽しく生きたいわ。
《お前の命を俺にくれ》
《いいぞ。お前のバカに最後まで付き合ってやるよ》
《…。即答かよ。
その判断、既にバカやってるって気付け》
《誘っといてそれは無いだろ?それに、お前に比べりゃ大したバカやってねぇよ》
《違いない》
突然手を止めた俺を不思議に見ている新道に、俺は剣を構え直す。
困惑気味の新道だが、同じ様に構え直して打ち合いを再開する。
「なんか良いことでもあったか?」
「そう、見えるか?」
「さっきよりは楽しそうだ」
「そうだな。楽しくなってきたのは確かだ」
いつもよりも剣が軽く感じる。もしかしたら、俺も結構ストレスが溜まっていたのかもしれないな。
新道と剣を合わせつつ、常峰の念話に意識を向ける。
《んで、俺は何をしたら良いよ》
《そうだな…まず安藤に聞きたいことがある。その後、少し頼み事をしたい》
《おうおう。任せな》
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訓練を終え、食事を済ませた俺は風呂に浸かっていた。訓練での汗を流し、常峰との会話を思い返す。
常峰が最初に聞いてきたのは、クラスメイトの訓練状況だった。
訓練の参加状況は至って普通。ただ、最近は訓練に顔を見せない者達もいる事を話すと、その参加していない者達の名前とスキルを聞いてきた。
次に、魔王の事をハルベリア王から教えられたかを聞かれた。
よくよく考えてみれば、確かに俺は魔王の事を知らない。一応常峰の話で、常峰が魔王の映像を見た事があるのは知っている。
そして最後に、フューナ・イカツァの事を聞かれた。
これの関しては、俺も伝えられる事が少ない。フューナ・イカツァは常に東郷先生と一緒に居ると言っていい。
だが、逆に言えばそれ以外の行動が分からない。市羽も気をつける様にしているらしいんだが、市羽が見ている限りでも目立った行動は無い。
常峰の質問に答えると数分考え、頼み事をされた。
「常峰君は元気そうだね」
「その王様から、江口にも頼み事があったぞ」
「僕にもかい?」
ぼーっと風呂に浸かって考えていると、浴場の扉が開いた。
今日は珍しく江口と風呂が被ったようだ。
「あぁ…実践訓練が始まるまでに、江口にはできるだけ俺達が居るログストア国の王都をスキルで掌握してほしいらしい」
「かなり厳しい事をいってくれるね…」
「スキルのレベル上げにも良いだろうってよ」
「それでも王都と言われるとね。かなりの広さがあるのは分かって言っているのだろうね」
「できる限りで構わないとは言ってた」
常峰からの頼み事は、俺だけではなく他に数名頼んでいて欲しいと言われている。その一人が江口。
江口の持つ'地形掌握'でログストア国の王都を掌握しておけば何かと役に立つと言っていた。
他にも、もちろん頼まれている。
一つはハルベリア王と接触して、その時に念話をして欲しいらしい。
次に、リピアさんに頼んでフューナ・イカツァの動向を探って欲しいんだと。ギナビア国もだが、リュシオン国の情報が無さ過ぎるのを常峰は警戒しての事だ。
「常峰君からの連絡は、皆に話す予定なのかい?」
「いや…常峰曰く、数日の内には近状報告ができるだろう。とかなんとか」
「念話で?」
「言い方的に違う方法じゃねぇーかなぁ」
「また、あの執事さんが来るのかもしれないね」
正直俺にも分からんが…常峰の事だ、何かしらの手順で伝えては来るんだろう。
その連絡が来るまでは、俺は俺で頼まれた事をしていこう…。
「なぁ江口」
「ん?なにかな」
「何となくなんだが…江口って彼女いるのか?」
「ハハハ!いきなりだね。彼女ならいるよ?」
「!?」
驚きのあまり、浴槽の縁で頭を打った。
これは常峰に報告するべき重要案件だ。
俺は確信をして、江口に一言告げ…颯爽と風呂を出た。
そろそろ一度、常峰をクラスメイト達と合流させたいと考えてます。
ブクマ、本当ありがとうございます!
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