ダンジョンの王
ちょっと短めかも知れません。
次回は、安藤達へ視点を移そうかと考えています。
魔王はセバリアス産の黒い紙を、俺は魔王産の黒い紙を保管すると言うことで話は終わり、ダンジョンを出ていった。
魔王も魔王で、独断で決めてしまった今回の決定を部下や民に話してこなければいけない。と疲れた顔をしていた。
メニアルは魔王である以前に苦労人の匂いがしてくるな。
「王よ、今後なのですが…」
「ちょっと整理するから待ってくれ」
少し冷えた紅茶を口に、メニアルが言い残した言葉を思い返す。
おそらく民に伝わり、早急に準備したとして二週間は準備期間がいるとの事。国民大移動となれば、それにも時間が掛かるから、早期に同意して準備を終えた者から順に移住をさせていきたいと言うのがメニアルの考えだった。
もちろん俺もそれには同意して、早めにダンジョンの領地拡張を終え、こっちの準備が整い次第連絡をする為に、メニアルに遠距離念話用のブレスレットを渡した。
希望する環境があるのであれば、その為にも連絡手段は確保しておきたかったしな。
次に言われた事…これが問題だ。
移住を始める前には、間違いなく他の魔王に俺の存在と、メニアルと俺の関係は知られる。
魔王同士は基本的に友好関係は無いらしい。むしろ、敵同士。
領地争いもあれば、同盟関係などもそこそこに、人間には干渉せずに魔族同士での争いが多かった。
だが、ここ二百年程は太古の因縁まで引きずり出して殲滅しようとする人間と魔族が目立ち、今では魔族対人間、それぞれの勢力に付く多種族の様な構図が出来上がっていると教えてもらった。
それでも魔王同士の牽制は行われている。
メニアルの勢力内部にも、他の魔王からの回し者が紛れ込んでいる。メニアルも気付いた上で、表だって接触してくる間者達を受け入れている現状。
そんな状況で動けば、間違いなく俺の存在は知れ、俺達が手を組んだ事も知れ渡るだろう。
どういう認識をされるか分からないが、少なくとも人間側に漏れれば俺は人類の敵になってもおかしくはない。
メニアルは他の魔王に敵視されるだろう。
付け焼き刃で奸計を巡らしたところで…たかが知れているかもしれないな。
魔王と手を組む事は、魔王討伐の話を聞いた時に考えてはいた。こんな早々にとは考えていなかったが、それでもチャンスはチャンスで逃す気は無かったさ。
メニアルと手は組めた。失敗だったとも思わない。
……だがやはり、急ぎすぎたのか俺。
「王、お考え中に無礼を承知で言わせていただきます」
「ルアール!」
「いいよラフィ。ルアールの言いたいことは予想しているつもりだ」
俺の隣に移動したルアールをラフィが今一度制するが、俺はそのままルアールの言葉を聞く。
口にしたように、言いたいことは分かっている。メニアルだけじゃない…今回の件は俺の独断でもあるのだから。
「今回の件、俺は納得しかねます。
少々危険がすぎるかと…ダンジョン権限の他に、王ご自身のお命まで懸ける様な行為…見逃しかねます」
まぁ、そうだろうな。
口には出さないが、ルアールに同意する様な顔をしている者達も少なくはない。
「セバリアス、お前も言いたいことがあるんじゃないか?」
その一人にセバリアスも居る。
「王がお決めになったこと。王はお好きに動き、我々をお使いになればよろしいのです。
それが我々にとって「セバリアス、俺は好きで聞いている。どう思った?俺の行動を」……」
第一に俺の行動を尊重するセバリアスは、自分の意見を言わない。
ルアールが俺の心配をするタイプなら、セバリアスは俺の心配を黙して拭い去ろうとするタイプ。
どちらも俺には過ぎた配慮をしてくれるタイプだ。
彼等の才能を俺は持て余している。多分、これからも持て余す。
対等である事を望まない彼等は、俺の下に居ることを望む。だったら、俺は俺が望んで同じ立場まで頻繁に降りようと思う。
「僭越ながら…あまりにも危険で目に余る行為ではありました。
私や、他の者が居るとは言え、相手は小娘でも魔王。自爆覚悟で行動された場合、我等が身を挺しても王がお怪我をなさる可能性がございます」
「そうか。例えばだが、俺の身より自分を優先しろと言ったら聞くか?」
「いかに王の命とあれど、それは聞けません。ご了承ください」
他の者を見ても、セバリアスと同じ意見のようだ。
まだ知り合って間もないと言うのに…よくまぁ、そこまで覚悟できているもんだ。
ダンジョンとの契約がそうさせているのか、過去に何かあるのか…。その辺りを詳しくは知らんが、少なくとも今は、彼等は俺の為に命を懸けようとしている。
「俺は、お前達と会って日が浅い。
どうしてそこまで…と理解ができない。
それでもだ。それでも、この数日見てきて俺は楽しそうにしているお前達を見て、ほっこりした。
まだ全員の本来の姿も見ていないし、どういうモノが好きで嫌いで、不満があるかどうかも分からない。
ダンジョンが機能を停止していた際がどういう感覚で、どういう場所だったのかも分からない。ただあそこに戻りたくない一心だったとしても…俺を慕ってくれている。
今回の件、聞いていて分かったと思うが、俺が死んでもダンジョンの機能はそのままだ。
仮に、メニアルがダンジョンを封印する様な事があっても、俺がそれを許しはしない。小細工ぐらいはしておくつもりだ。
だから…安心して自分の為に生きろ。
ダンジョンに縛られていると言うのなら、望んだ者は俺が解放しよう。
ここまで言ってまだ残ると言うのなら…断言しておく。俺はこれからもっと面倒な事に巻き込む。
俺の我儘に付き合わせる事になる。見ている者がヒヤヒヤするような状況だってあるだろう。
だが…残ってくれると言うのなら、そのかわりに俺は老衰、病死以外で死なない事を約束する。残りたいと思ったこの環境を、俺の最後まで俺が守ってやる。
ダンジョンの主として、ここの王として俺はここに居る。
これだけと前に言ったが…撤回だ。命令する。
自分の意思を示せ」
俺は答えを聞く前に自室へ戻ることにした。
俺が居れば、俺の機嫌を窺おうとする。考える時間も必要だろうし、俺が居ないほうがゆっくり考えられるだろうと思ってだ。
少し前には決意した事。まさかこんな形で皆に伝えるハメになるとは思ってなかったが、これもまた丁度いい機会だろう。
メニアルからの話と忠告を聞いて、考えている事はある。
それをすれば、これからもっと面倒が多くなるのは目に見えているんだ。それに付き合わすのに…渋々じゃ申し訳ないだろう。
せめて、自分で選べる時間や選択肢は提示しておきたい。
《メニアル》
《夜継か…。
まだ帰り着いてはおらんぞ》
《ちゃんと繋がるかの確認だ。
ついでに、少し案が欲しくてな》
《案とな》
自室に戻った俺は、すぐにメニアルへ念話を繋いだ。
考えている事を実行するには…ちょっと俺にはセンスが足りない。そこで、魔王たるメニアルに案を求める。
《そうだ。
今回の件で、俺の事はそっちに知れ渡る。だったら、いっその事こっちから知らしめて見ようかと思ってな。世界に…》
《牽制か》
《魔王という武力を保持する身としては、コソコソしてもしゃーないかなって。
だったら、魔族側にも人間側にも…まだ見ぬ多種族にも俺という存在を表に出して、認識させる》
《どうするつもりだ》
《それなんだが…。
やっぱり、力があるぞって見せつけるには、相応のモノがあるのが手っ取り早いと思うんだ》
《近場の小国でも潰すか?》
俺の返答に対して、これは名案と言わんばかりに弾んだ声が脳に響く。
それは悪印象が素晴らしく広まる行為だ。別に、俺はそんな印象を植え付けたいわけじゃない。
初めは安藤達の帰還場所としてダンジョンを所有するつもりだったが、こうなってしまえば話は変わる。
帰還場所は変わらず、最終的にはコソコソとせずに堂々と安藤達に利用してもらいたい。そうすることで、ダンジョンという印象よりは、勇者達の根城としての印象が残るはず。
今欲しいのは、人間側が手出ししづらい建前だ。
《魔王は物騒だな。そんな事はしない》
《ならばどうする》
《ダンジョン上空に巨大な城を作る》
そう…ダンジョンの上空に城を作る。巨大で目立つ城を。
ただ俺には建築センスが皆無なので、メニアルに案を求めることにした。
《国を名乗る気か?》
《そんな大層なもんじゃない。ただの俺の寝床だ。
よく寝たと感じたい為にも、起床した時に、陽の光を浴びたい日もあるんだよ》
《果たして他の者はどう捉えるかな》
《さぁな。結果的に国と見るかもしれないなぁ》
《白々しい》
響く声から察するに、メニアルも乗り気なようだ。
目立ちたくないのは山々だが…目立つ事で逆に触れられない事だってあるさ。
《我が最高の城を考えてやろう》
《期待してるよ魔王様》
《期待しておれ、ダンジョンの王よ》
こうして俺は、ダンジョンの領地拡張と城の建設に着手し始める。
その日はメニアルと城のデザインの相談と、拡張に魔力を使い続け…気がつけば寝てしまっていた。
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翌朝、何時も通りベッドの上で目が覚める。
メニアルとの念話は…切れているな。
途中からメニアルとの相談に熱が入り、コアに拡張を任せていたが…確認をすると中々の広さがダンジョン領地になっていた。
周辺の森は当然、同じ様に地下と空もしっかりと。地表範囲でパッと見れば…大阪の半分ぐらいか?ちょっと膨大な土地過ぎて分からん。
まぁ、それぐらいの広さを上から下まで立方体の様にごっそり支配下に置いているようだ。
当然のように範囲内にいる魔物の情報が入ってくるが…他の情報がない。いや、植物とかの情報は意識すれば分かるんだ。だけど、他の種族の情報が一切入ってこない。
しまったな…。ここがどの辺なのかメニアルに聞き忘れていた。
念話の途中で、軽くメニアルが近くの小国とか言うもんだから、そう遠くない場所にあるもんだとばかり思っていた。
「セバリアスなら分かるか?」
ふと頭に過るのは、有能ドラゴン執事だが…昨日の今日で何となく聞きづらい。
「お呼びですか?我が王よ」
だが、そんな俺の気持ちを無視した様に、近くから声が聞こえた。
不思議と心地よさまで感じる低音の渋い声。
「珍しいな。ノックも無しとは」
「いたしましたよ?しかし、私の名が聞こえたので…お返事の前に失礼をいたしました」
どうやらノックの音も聞こえないぐらいには、考え込んでいたらしい。
しかしこうも普通にされると…ちょっと気まずさがあるな。別れを言った後に、信号待ちですぐ会っちゃった様な気まずさが。
「セバリアスは決めたのか?」
「私のみならず、皆既に決まっております。その為にお呼びしにまいりました」
早いもんだ。
コアを通じてダンジョンの機能を使えば、ここからでも皆の答えは聞ける。だがここは…そうだな、聞きに行こう。
「待たせているなら行こうか」
「玉座の間にて、お待ちしております」
セバリアスの言葉に頷き、俺は部屋の扉を玉座の間へと繋ぐ。
正直に言えば、怖いもんだ。セバリアスは俺の事を王と呼んでくれた。それが答えなのだろうと思う。だが他の皆は分からん。
関わりも大したものはないし、話した回数も片手で事足りる。
まぁ…セバリアスの答えが背を押してくれているんだ。決まっているなら聞こう。
扉を開ければ、目の前には最初に見たようにメイドと執事が並び、一番奥に玉座がある。
「答えは決まったらしいな…聞こう」
俺が見えると、頭を下げる姿に声を掛ける。
そして同時に返事も返ってくる。
「「「「「我等が望みは王の望み。この身尽きるその日まで、お側に」」」」」
嘘は聞きたくない。卑怯だとは思うが、ダンジョンの機能を使って皆の思考も読んだ。だが、笑える程に一字一句違いなく言った言葉を同じ事を考えている。
初めてセバリアスと会話をした時に、迷惑をかけるだろうと言った。
そして今回、俺は独断で行動して皆にも心配をかけた。
だからこそ思うだけではなく、好きにする選択肢を俺から出した…にも関わらず、皆は変わらない。
これから変わるのかもしれないが、今は変わる事はない。
「頭を上げろ」
一歩一歩を敷かれているカーペットの上を歩き、玉座へと進む。
深く礼をしていた皆の顔を一人一人としっかり見ながら玉座へと…。
緊張しているのか、顔が強張っている様な気がする者もいるが…気にせずに進む。
そして、玉座に座り正面を見れば、皆がこっちを見ている。
「まったく…その忠誠心は理解しかねる。
会った時から困惑してるよ。だから、これからよく知っていく様に努力する。
これから皆の事を教えてくれ。
その、あれだ…おはよう皆、これからよろしくな」
「「「「「「おはようございます。我等が王」」」」」」
やっぱりまだ恥ずかしいな。
頬を掻きながら、照れて戸惑う顔を無理矢理笑みに変えると、皆は優しく笑みを返してくれた。
ダンジョンの主としては、腹をくくった。
だがこの日この時に俺は、王としても腹をくくった。
ここは俺の帰る場所として、そして皆が帰ってこれる場所として…守ってかなきゃな。
翌日、拡張を終えた俺は魔力をフルに使ってメニアルから念話で伝えられた城を建て終えた。
決意表明二度目ですね。
今回で、常峰君は中々のチート集団を味方にしました。今後は、セバリアスを含めて皆にも頑張って貰うつもりです。
ブクマありがとうございます!




