魔王メニアル・グラディアロード
「…何故だろうか、快眠なのになーんか引っかかってる」
目が覚めて、なんとなく取り付けていた窓から外を見ると…適当に石壁に貼っつけた快晴の絵が見える。
とうぜん山に埋まっている俺の寝床からお空様が見れるわけがない。
ダンジョンの力を使って、他の階層の様に擬似的な空を用意してもいいんだが…今度でいいや。
それよりもだ。
起きた俺は、素晴らしく快眠直後の気分ではあるのだが、何かこう…忘れていると言うか頭の隅にモヤッとしたものがある。
はて…寝る前は何があったかな。
寝起きの頭を回転させていくと…
「おはようございます。我が王よ」
「あ…」
俺が起きたことに気付いて部屋に来たセバリアスを見て、思い出しました。えぇ、思い出しましたよ。
「セバリアス…俺は、どれぐらい寝ていた」
「三日でございます」
ぐっすりですね。
そうかー。俺は三日も寝ていたか―。
スキルのおかげで、魔力は満たされている。寝すぎたからと言って、身体に違和感も…無いな。うん快眠快眠。
さてと…現実を見ていこうか俺。
「魔王はどうした?」
「お待ちですよ」
「よし、食事にしよう」
やれやれ、スキルで身体に問題は無いとはいえ、意識すれば腹が減るものだ。
「かしこまりました。お食事はどちらで?」
「たまには食堂に行くさ」
「では、先に下の者に伝えてまいります。
お食事のご希望はございますか?」
「まかせる」
「お任せください」
久々のセバリアスの渋いボイスを耳に、俺は軽く身体を伸ばす。そんな俺を見て、笑みを浮かべたセバリアスは一礼をして部屋を出ていった。
さてどうしたものか…。
例えば、「少し待ってて―」と言われ、三日待たされたらどう思う?
そうだな、殺意が湧くな。それかもはや諦めるか何かで忘れるわ。
で、俺の状況だが…。魔王相手にそれをやらかした訳だ。
「最悪死んだな俺」
何故起こしてくれなかったのか…。とも考えるが、俺が起きなかったのが悪い。
なんか、ラフィは知っている様子だったし…最悪の場合でもお情けで安藤達にぐらいは連絡をさせてもらおう。そうしよう。
空きっ腹の腹を括り、最後の晩餐になるかも知れない食事を食いに、部屋の扉を食堂へと繋ぐ。
こんな事なら、パラパラの絶品チャーハンと、おっきいハンバーグでも頼めばよかった。
ふと浮かんだ好きな食べ物を浮かべつつ、俺は食堂へと足を進めた。
扉を抜けた先では、いい香りが俺の鼻腔と食欲を刺激する。…同時に、青筋と巨大なお怒りマークが頭に張り付いてんじゃないか?ってぐらいの顔で笑みを浮かべる魔王がこちらを見ていた。
目が笑っていないって顔は、きっとああいう顔の事を言うんだろうな。
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「正直、悪かった」
「まさか、三日も待たされると思わなんだ」
「俺もまさか三日も寝てしまうとは思わなかった…。本当に悪いとは思っているから、無理矢理抵抗してくるのやめてくれませんかね」
空いていた席に座ると、すぐに俺の前にはスープとトーストが置かれた。とりあえず手を合わせ、魔王を無視して食べていると…近くの椅子やテーブルが形を変えて魔王を拘束しはじめた。
それに比例して、せっかく回復した俺の魔力もゴリゴリ減り始めてしまう。
発動したスキルに抵抗されると、抑え込む為に魔力を使ったりするみたいだな。
「この拘束魔法を解除したら考えてやろう。そして、無礼の詫として一発で勘弁してやろう」
「俺の半身が軽く吹き飛びそうなので、一発貰うのは遠慮します」
あっさりスープを口にしつつ、頭の中で自分が敷いた法を意識すると、現在発動中の法がリストアップされたように浮かんでくる。
俺はその中から、三日前に敷いた法を浮かべて一言。
「'廃止'」
俺の言葉に反応したように、魔王を拘束していた椅子やテーブルは形を戻し、魔王も解放された事で満足そうに拳を握りしめて食事中の俺の元へと近付いてきた。
「食事です」
「お…おぉ。いただこう」
恐れた様子もなく俺の対面に食事を置くシーキーに、魔王は困惑した様子で返事をして、食事が置かれた対面の席に座った。
今、ここには厨房にシーキーとラフィ、メイドと執事が数人。俺の後ろには、セバリアスとルアールが待機している。
残りはダンジョン内を掃除していたり、見回りしていたりと…まぁ、比較的俺は法を廃止したとしても今は安全なのだ。
「はぁ…お主を相手にしようとすると、気疲れが酷い」
「そう気を張るな。楽にしてくれて構わんぞ」
「やはり一発」
「遠慮する」
まったく、物騒な魔王だ。
好戦的な笑みを浮かべる魔王を無視して俺は食べ続ける。
いや…あっさりスープとトーストだと言うのに、美味いんだ。何の食材を使っているかは分からんが、本当に美味い。
俺も昔と変わらず、べちょりチャーハンぐらいなら作れるんだがな…正直、あぁうんチャーハン。ぐらいで美味しいかと言われると…うんチャーハン。
「おい」
「ん?」
自分の料理の腕前を考えていると、俺の対面で同じ様に食事を堪能している魔王に呼ばれた。
「お主を殴りたいのは山々なのだが、我とて帰らねばならん。
話があって、我を待たせたのだろう?」
魔王の言葉を聞いて俺は思っていた。
案外話が通じるものだな…と。
俺の魔王の印象は、見せられた映像のせいもあってか問答無用に一撃ブッパなイメージだった。その中でも、まぁ話が通じそうだったのが、見ている者達に語りかける様にしていたこの魔王と、次に見た男の魔王。
それでも話をするのは立場上難しいと思っていたが…しょっぱでやらかしているとは言え、これは色々とチャンスだよな。
最後の一切れとなったトーストを口に放り込み、用意されていた紅茶で流し込む。
少し落ち着いた所で、魔王を見据えて直球で用件を伝えてみる事にした。
「待たせておいてあれなんだが、そう難しい話じゃない。
俺にはアンタと敵対する意思はない。それ以上に考えている事は…魔王、俺と手を組まないか?」
魔王のスープを掬い上げようとしていた手が止まる。そして、視線を俺に向け…探るように上から下へと移動させてい。
後ろから、ルアールの驚いた様な声が聞こえたが…まぁ、皆には話して無かったからな。
完全に俺の独断だ。
相談ぐらいはしておくべきだとは思う内容だが、このタイミングを逃したくはない。次は本当に殺し合いになるかもしれないんだ。
さて…魔王はどう答える。
「ドラゴニクスの事は知っている。そこのは異質、食事を運んできたのは…実物を見るのは二回目だがシルキーか。
この三日で、他の種も見た…実に多様。
そして今代のダンジョンの主の貴様は、人間だな?
人間、我は魔王、そして種は魔族だ。意味は理解して言っておる…そう考えていいな?」
魔王の雰囲気が変わる。
映像越しで感じた威圧と重圧。今度はそれがダイレクトに俺を襲う。
脳を過るは死。
なるほどね。敵意とかは、元の世界でもなんとなく分かっていた。
好き嫌いが露骨に態度に現れれば、嫌でも感じることだ。だが…これが殺意か。
吐き気がしそうなほどに身が締まる。
温室育ちにはキツい。今なら、道端のインチキ占い師に死相が出てますよ!って言われても信じれそうだ。
「生温く平和などを謳っているのであれば諦めろ。
人間の総意は我等と敵対だ。いつ裏切るかも分からぬ貴様等人間と手を組むなど…。
これだけ多種多様を従えておれば、確かに誤解もしよう。だが、この場の者共は個で貴様に従っている。
我と手を組むと言う事は、少なからず我に従えている魔物や魔族とも手を組むと言うこと。
貴様等人間が、敵視する存在だ。
いや…人間だけではなく、我等を敵視する者達は他種族に亘り居る。
待たされたとはいえ、三日は世話になった身だ。待遇も悪いものではなく、食事も美味なものだった。
我からのお節介だ人間。その行為は、貴様の敵を増やすぞ。我と手を組んでも魔族が全て貴様には付かぬ、もちろん人間も敵に回る。
平和とはほど遠い道だ。やめておけ。どの様な生活を送り、その思想を持っておるのか知らぬが…敵は殺し根絶やしにする方が早いものだ」
優しい魔王だ。
止めていた手を動かし、スープを飲む魔王を見て思う。
押し付けられた殺意とは裏腹に、告げられた言葉は実に優しい。俺の方ばかりを気にした言葉、節々に入る言葉は、俺の心配をしているようにも感じる。
そんなつもりが無いとしても…きっと根は優しい魔王なのだろう。だが俺は考え直さない。
「もし手を組めば、アンタとて同じだろう?
こっちは分かって言っているんだ。
郷に入れば郷に従え。そんな言葉がある。
確かに俺は温室育ちで、戦場に立ったことも無いし、戦争の[せ]の字も知らない。でもここが違うのぐらいは理解している。
命のやり取りが容易に行われているのは分かっている。
まだ軽く考えているのかもしれんが…平和を謳うのはどの世界でも難しいもんだ。俺にはその勇気も根性もない。
ただ俺が願うのは、一日二十時間ぐらい脳死で寝れる。そんな環境が欲しい。
それだけの為に、俺は身の回りを固めるし、こうして手を組む相手を選んでいる。
魔王、もう一度聞く。俺と手を組まないか?」
最後の一口を食べ終えた魔王は呆れた顔で、皿を下げに来たシーキーの頭を撫でて俺を見た。
「貴様を慕う者達を危機に晒して尚…その考え、改めぬか」
「こいつらが危機に晒された時は、俺も危機に晒された時だ。
慕ってくれた相手が、危機に晒されているにも関わらず、自分だけが安全地帯でぬくぬくとしているのは…寝覚めが悪いからな」
同じ様に俺の皿を下げに来たラフィの頭を撫でながら俺は答えた。
シーキーが何故かむくれている。ラフィはとろけだらしない顔を晒している。
勢いでやってしまった自分の行為が、無性に恥ずかしくなり、直ぐ様撫でている手を下げ、羞耻心を表に出さない様に振る舞う。
「では、我が貴様と手を組んだ場合の得はなんだ。
我とて敵を増やしたいわけではない…それを覆すほどの得はなにか」
予想していた問い。
当然だ。メリット・デメリットの理解は大事だ。そう思えば、この問いは予想できて当たり前。
当たり前なんだが…魔王を納得させきる回答を俺は考えついていない。
魔王にどうあれば得かと聞くのも手だが、それでは相手に主導権を握られる。かと言って、初手で納得できるような返答が思いつかん。
「そうだな…その前に聞いておきたいのだが、アンタが協力してくれたとして、どれぐらいの数がついてくる?
それ次第では、提示できる内容も調整しよう」
なんて言ってみるが、単なる時間稼ぎだ。
もう少し考える時間が欲しい。だが、メリットが無いとも考えてはもらいたくない。
だから敢えて、考慮する余地がある事を仄めかしておく。
「我が手を組むと言う事は、我が治める領地の者達は大半が我に付いてくるだろう」
「大雑把でいい。数は?」
魔王と言うぐらいだ、かなりの数は予想している。
一国分か…二国分か…。そこまで来れば、一人二人大差ない数なのだが…もう少し明確に数を提示してくれ。
よく思い出して、時間を俺にくれ。
「ふむ…少し待て」
魔王は顎に指を当て考える素振りを見せる。
その間に、俺も提示する内容を考える。
魔王が食いつくようなメリットを…ついでに、人数も聞いたんだからそれを利用できたらしていきたい。
俺のメリットとしては、魔王とのパイプができる。
それは魔王という戦力が増え、何より魔族側が持つ情報を手に入れられるのが大きい。
次に後顧の憂いを断つ一つの要因になる。
どういう手段かは分からないが、ダンジョンが機能しはじめてから早いタイミングでココに来たと言うことは…おそらくこの魔王の根城が近いのだろう。
いつ襲われるか分からないよりは、少しでも動きが分かっていたほうが断然良いはずだ。
…情報が多くなると処理が追い付かないが、それでも足りないよりはな。
「軍が三十、民が二百。端数は省き、合わせれば二百と三十二万程だ。
貴様と手を組む事に反対する者がこの数から減ると考え、最終的には二百程度だろう」
普通に考えれば多く感じる数だな。
国とかで考えた場合…ちょっと想像がつかない数だ。
「三十万も反対するのか」
「むしろ三十程度しか反対せん。
魔族と人間共との溝は深いが…我が抱える民は戦闘が苦手な者が多く、争いを好まぬ者ばかりだ」
程度なのか…。多数を得られると考えれば、そういうもんなのかもしれないな。
しかしそうか。争いを好まないのか。少し、用意に時間が掛かるかもしれんが…これは釣れるかもしれないな。
「二百か。その人数なら問題ない。
俺からはアンタ等に'安全'を提供しよう」
「ほぉ…敵が増えかねないと言うのに、貴様と手を組んだほうが安全…だと」
「そうだ。俺にはログストア国とのパイプがある。
ゆくゆくは、ログストアとも手を組むつもりだ。そうなれば、アンタもログストアと組む事になる」
ハッタリだ。あるのは安藤達と僅かな一部の人間のみ。
王とのパイプはあるが、あの国にそれがどれだけの意味があるかは分からない。
それでも国という単位は意味を持つはずだ。
「確かに、もし本当ならば敵対する数は現状と似たり寄ったりになるかも知れぬな…。だが、かもしれぬと言うだけで貴様の言う安全とはほど遠い」
天秤はまだ傾かない。
もちろん俺も、これだけで納得してくれるとは思っていない。だからこそ、次は俺の力を交渉材料として持ち出す。
「安全な場所は俺が用意する」
「貴様が…?」
「あぁ。ダンジョンの一部をアンタに…魔王メニアル・グラディアロードに提供しよう」
「なに?」
「この周囲一帯を俺のダンジョンの領地とする。
領地内であれば、好きな環境を再現しよう。空でも地下でも地表でも…暑かろうが寒かろうが、俺が再現してやる。
食料などは、自給自足をしてもらわないといけないが…畑が必要ならそれも用意しよう。家畜が必要なら、繁殖はできないが、繁殖させる場は用意しよう。
ダンジョンの一部を魔王が統治する場として渡そう。防衛面は俺のダンジョンだ…アンタが手こずったセバリアス達もする。
絶対的な安全を今は保証できないが、俺の全力を持ってして安全は確保しよう。
そのかわり、協力関係、農業技術の提供、場合によっては魔王であるアンタの力を借りたい。
手を組むんだ…当然、持ちつ持たれつの関係でいきたいと俺は考えている」
こちらが提供する細かなモノと、対等である事…どうだ?まだ足りないか?
魔王は、腕を組み目を閉じて反応を見せない。
他に俺が出せる手は…俺が持つ力とセバリアス達に協力してもらって、納得する程の防衛力なり戦闘力なりを見せるしかないよな。
交渉材料となる手札が少なすぎる…。焦ったな俺。
「確かに貴様の管理下であれば、皆の状況は確認が容易になるかも知れぬな。
だが、まだ納得はできぬ。本当にそれだけの地を用意できるのか。
それに、食事を見る限り、食料に困っているとも思えん。防衛も広ければそれだけ面倒になる。現在でもここの者達で事足りておろう。
貴様がそこまでする理由が見当たらんな。何を考えている」
おっと?これはいい手応えなのでは?
俺は考える素振りを見せ、少し時間を稼ぐ。
俺のメリットの提示。新しい俺の手札だ。
さっき伝えた分で納得はしなかった。だが、それ以上に魔王は俺の本当に望むメリットに興味を持っている。
どこまで話すかが重要だ。
全てを話せば、こっちの弱みも晒すことになる。無知であるという弱みを。
言い方を間違えれば、ログストア国へのパイプが細い事もバレてしまう。それは不利になる要因。
プラスとマイナスを考え…俺は脅しに近い方法を思いついた。
「それを話せば俺は退けなくなる。これで交渉が破談しようものなら…俺はアンタ等と早々に事を構えないといけない。
それこそログストア国に発破をかけてでもだ…手を組むと言うのであれば、話せるんだがな」
心臓がうるさいな。
ポーカーフェイスを気取るのも、結構限界かもしれん。
落ち着け…流れは掴みかけている。後は手繰り寄せるだけ。
「それだけの内容か…。それが今の貴様の弱点でもあるのだな」
そうだ。つけいる隙はここだぞ。
与えた情報で考えろ。そして、釣られろ。
「人間…貴様は一つ認識を間違えている。
我はどうしても知りたいわけではない。確かにドラゴニクスや貴様の部下は脅威かもしれぬが、貴様はそうでもない。
ダンジョンの主と言う脅威だけで、貴様自身の脅威ではない。
加えて、貴様が裏切る可能性もある。悪いが手を組む話は無しだ。
信用にも値しないな」
その判断は遅かったな魔王…逃がさんよ。
「それは困るな魔王」
「…」
「今ここで帰して、後で態勢を整えて攻めて来られちゃ溜まったもんじゃない。
ましてや後で交渉する場が設けられたとしても、それはそれで話が変わってくる。
もう一度考えろよ魔王。
信用、信頼に値する証拠が欲しいなら見せてやる。
セバリアス、全員を呼べ。皆の前で宣言してやろう」
「かしこまりました」
後ろに控えていたセバリアスが、一礼をして部屋を出ていく。
その様子を魔王は黙って見ていた。
釣れた。
待ったな?優しい魔王だ…本当に、話を良く聞いてくれる優しい魔王だ。
俺の言葉を無視して帰るべきだった。敵対すると決めて、帰るべきだったな魔王。
場を整える時間を俺に渡したのは、俺の弱さを利用しきれなかったのは…決定的ミスだ。
「シーキー、悪いが茶か何か用意してもらっていいか?」
「紅茶でよろしいですか?」
「あぁ、魔王の分も頼む」
「かしこまりました。すぐに持ってまいります」
シーキーに紅茶を用意してもらいつつ、待つこと数分。
食堂の扉が開き、執事とメイド達が次々と入ってくる。
全員が揃い、厨房で作業をしていた者達も集まり、皆が整列をして場が整った。
「皆、悪いな。作業中だったりしたろうに。
少しだけ時間を貰う。このダンジョンの今度に関する事でもあるから、皆にも聞いてほしかった」
「王がお呼びとあらば、何時何時でも」
セバリアスの言葉と共に皆が頭を下げる。
そう堅苦しくする必要は無いと伝えたんだが、どうもこの辺りは変わらないらしい。
「ありがとう。
セバリアス、誓いが嘘でない事を証明したい。何か手はあるか?」
すると、セバリアスは手を少し前に出し、ポンッと軽い音と共に手元に何か現れた。
「これは、'盟約の書'でございます。
王の魔力を込めていただき、誓いを立て、その後に魔王が魔力を込めれば盟約したとして互いを縛るものでございます。
もし魔王の方でも盟約を立てると言うのであれば、魔王が魔力を込める前に誓いを立てて頂く必要がありますが…」
「いや、構わない。
使ってもいいか?」
「許可など必要ありません。どうぞ、お使いください」
セバリアスは、その少し黒い紙を俺に手渡し、元の立ち位置へと戻る。
何かそういうのがあればと思ったが…こんなのもあるんだな。
便利なもんだ。
手に持っている紙を裏表と眺めてみるが、特に黒いだけで何も書いていない。
まぁ、そんな事を気にしてもしょうがないので、訝しげな表情をしている魔王に向け宣言をしようとした。
「ふむ…そういう事ならば、我がそれを用意しよう」
そう言うと、魔王も同じ様に黒い紙を手元に呼び出した。
これはそう簡単にポンポンと出せるものなのか?
「元々これは我が母が面白半分で作った魔法だ。
それも分かっていてドラゴニクスもこれを選択したのだろうが…何か仕込まれていても問題がある」
セバリアスに視線を向けるが、特に反応は見せない。
まぁ…どっちでもいいか。
「ならこっちを使う」
セバリアスから預かった紙はテーブルに置いて、魔王から紙を受け取り魔力を込めた。
黒い紙は、魔力に反応したのか…少し淡く光り始める。
「宣言しよう。
'互いが協力関係である間は、魔王メニアル・グラディアロード及びその配下の者達には手を出さない。
尚且つ、協力者に危機が迫った場合は、我々は協力を惜しまない。
常峰 夜継はメニアル・グラディアロードと対等の関係を望み、常峰 夜継が宣言を破り裏切った場合、又死亡した場合はダンジョンの全権限をメニアル・グラディアロードに譲渡する事を誓う'」
「王よ!それは」
「言葉を慎みなさいルアール。王のご判断です」
俺の宣言に声を上げたルアールを、隣に立っていたラフィが制す。
他の者達も何人か動揺を隠しきれていないが、それでも声は出さずに見守っている。
「ふむ…。確かに悪くない宣言だ。…盟約を結んだ後に、貴様を殺してしまえばダンジョンは我のものか」
魔王の言葉を聞いた瞬間、戦闘向けの者達が構えるが、俺が手を挙げれば構えから姿勢を戻す。が、魔王を睨みつけるのは止めない。
あまり煽ってくれるな魔王。確かに俺が死ねばダンジョンの権限は魔王のものだが…俺が死ぬまでは俺の方に権限がある事は分かっているだろう。
それに…それじゃあ命令以外でこいつらは言うことを聞いてくれないぞ。
口に出さずとも伝わっているのだろう。笑みを浮かべた魔王は、俺から黒い紙を受け取り、ついでと言わんばかりにテーブルに置いたセバリアスが用意した紙も手に言った。
「我も誓ってやろう。
'常峰 夜継の宣言同じく、ダンジョンの者には手を出さず、我は協力を惜しまぬ。我が盟約を破る、又死し朽ち果てた時、我…メニアル・グラディアロードの持ちうる全てを常峰 夜継にくれてやろう'」
俺が宣言に使った紙は真っ黒に染まり、宣言した内容が白い文字で刻まれていく。
その様子を眺めていると、魔王は俺に淡く光るセバリアス産の紙を差し出した。
「感謝するよメニアル・グラディアロード。
これからよろしく頼む」
同じ宣言をして、セバリアス産の紙に魔力を込めると、同じ様に真っ黒に染まり白い文字が刻まれていく。
「あぁ…こちらこそ頼むぞ。常峰 夜継」
こうして俺は魔王と手を組んだ。
本当は、もう少しやり取りを考えていたのですが…ちょっと長くなりそうだったのでこれぐらいで。
ちょっと無理矢理すぎたかもしれませんね。
ブクマありがとうございます!
誤字脱字誤変換目立つかもしれませんが…できる限り無いようがんばります。
どうぞ、これからもよろしくお願いします。




