次回予告?
「んじゃお前ら、気をつけて帰れよ」
教壇で教師がLHRの終わりを告げると、教室は騒がしくなり部活だ!帰宅だ!と次々に出ていく。
そんな中、カバンから少し絡まりかけているイヤホンを取り出し、スマホにぶっ刺してミュージックプレイヤーを起動しながら帰路につく。
この時間は混むから生徒用のエレベーターを避け、階段で一階まで降りて自動ドアを越えると、部活の音が流れている曲と混ざって聞こえてきた。
「晴久ー!」
名前を呼ばれて振り返れば、腐れ縁も腐れ縁、生まれた時から家族ぐるみの付き合いがある幼馴染が、大声で俺の名前を連呼しながら走ってきている。
「うるせぇよ雅人、聞こえてるから連呼すんな。恥ずかしい」
「イヤホン付けてっから聞こえてないかと思ってな! 何聞いてたんだ?」
「FS」
「本当、FS好きだな。いっつも聞いてんじゃん。FSもう解散して五年かぁ……」
「解散じゃなくて前線を退いただけだ」
「でも新曲とか出して無いし、実質解散じゃね?」
「作曲とか裏で活動はしてるわ!! それに、去年うちの高校の文化祭にゲストとしてだな!」
「あー、はいはい。晴久がエスカレーターでそんまま高校上がった理由の一番はソレだもんな。ワンチャン今年もとか、もう何度聞いたか」
聞き飽きましたーと両耳を塞いで先を行く雅人の背中が憎たらしい。
親父とお袋が好き好んで聞いていたから、自然と俺も好きになっちまった。親父達もアルバム・シングル共にサイン入りで全部持ってたし、きっと血筋。
つまり何が言いたいかと言うと、FSが好きなんだ。
そして雅人の言う通り、去年の学園祭でサプライズゲストとして来ていたと親父伝いで聞いた時、雅人の誘いを受けて行けば良かったと死ぬほど後悔した。動画を見ただけで満足できるわけでもなく、学園祭に行っていた雅人を恨み倒した記憶は忘れない。
「大体、FS来たなら連絡ぐらいしてくれれば良かっただろ」
「俺は何時まで責められるんだ……本当にサプライズだったから直前まで分からなかったんだよ。俺みたいに一般で来てた人はもちろん、在学生達ですら驚いてたんだぞ。晴久は咄嗟の機転で動画を取った俺を褒めるべきだ」
「それは感謝してる。多分、俺は生涯お前に感謝をし続けるだろう」
「それは重い。もうお礼としてカラオケもボーリングも奢って貰ってっから、逆にこれ以上されるとドン引きに変わるぞ」
「安心しろ親友! 向こう来世ぐらいまでだ」
「だから重いッ!! どうせ俺以外も撮ってたんだから動画でも漁れよ!!」
ケラケラと笑いながら少し歩けば、下校する者達で溢れる駅に着く。
パネルに生徒手帳を翳してゲートを越え、モノレールを待っている間は雅人も携帯を弄り始め、俺も少しだけ流している曲の音量を上げる。
Fantasy Sleeper――中野 理沙さん、九嶋 紗耶香さん、安賀多 縁さんの女性三人のユニットで、三人が二十二歳の時にデビューして、五年前に九嶋さんの結婚を機に表舞台には立たなくなった。
ジャンルも幅広くて老若男女問わずに人気があっただけに、日本中が悲しんだ……と思う。無論俺は十歳ながらに悲しんだ。
しかし去年、高等部の学園祭でまさかのサプライズ登場! 噂によれば、理事長がFSの三人と同級生らしく、何気なしに声を掛けてみたらOKしてくれたとかなんとか。
あああああ、今年か来年、再来年の三年間ぐらいの間で、もう一度声を掛けてくれ理事長!!
「何してんだ?」
「理事長に祈りを捧げてる」
「ハハッ」
全てを察した様な目と呆れた声で笑う雅人は、祈りポーズの俺の肩を軽くポンと叩いてから携帯に視線を戻す。俺は俺で、今一度祈りをと目を瞑った所でふと思った。
にしても、うちの学校の理事長は何者なんだろう。
今や世界に名を轟かせる人であり、幾多に渡る分野で子会社を持っているとかなんとか。
加えて小中学校は場所こそ違うが、今通っている高等部と同じ系列で小中高一貫の学校の理事長。んで、通っている高等部は人工島に建設されたビルの一部。そのビルは会社であり、理事長が社長だか会長だかでもある。
それだけに留まらず、人工島には幾つかの分野の専門施設もあって、高等部からそのままココの専門学生、または高等部卒業後に理事長が経営する会社で雇用される事もあるとかなんとか。
そもそも人工島の所有者が理事長だという噂や、もはや黙認されている財閥なんて言われ方も。
まぁ、新道理事長の事なんてテレビで聞く程度で、中学も同じだったし、高校も親父が行った高校にする予定だったんだが、FSが来たという話しを聞いて速攻でエスカレーターそのままで試験を受けたんだけどな。
「なぁ雅人、俺達の学校の理事長ってどんな人なんだろうな」
「新道 清次郎理事長なぁ。今も色んなモンに手を広げて、去年の世界時価総額のランキング十位内に入ったらしいじゃん。新道グループ」
「よく知ってるな」
「まぁ~なぁ……就職はそのまま面接受けよとか思ってるから、情報はそれなりに。俺の親父が勤めてる研究所のスポンサーってか、大本が新道グループだし」
「正樹さんとこってそうなんだ。帰ってきてんの?」
「たまーに。今は、海外の地質調査とかでいねぇけど、お袋は店が終わった後によく電話してるわ」
ポチポチと携帯を弄ったかと思うと、アプリのグループ通話履歴を見せてきた。
どうやら'江口家'って書かれてるから家族グループっぽいけど、通話時間が三時間前後の履歴が数件と、正樹さんが送ってきた写真。それに対して、雅人の母親――恵美さんが返事代わりに送ったであろう写真。
「うちの所も結構仲いい方だとは思うけど、雅人ん所はすんげぇ仲いいよな」
「息子の俺でも苦笑いしかできないレベルでな。この写真も、電話しながら送ってるやつだから」
「グループ通話でか」
「俺は通知ミュートにして途中で寝たけどな」
雅人は苦笑いを浮かべているけど、別に嫌そうではない。
何やかんやで雅人は両親の仲のいい所を見るのが好きなんだろう。その証拠に、履歴を遡ってはふんっと笑っている。
それを横目に見ながら俺も携帯を弄っていると、ふっと向かいのホームに視線が引っ張られ、目が合った。
同じ様にモノレール待ちをしている人の中に立っているスーツ姿に明るめの蒼い髪の男。
明らかにイケメンで、その髪の色にも可笑しさは無く、芸能人だと言われても納得する。
でも誰も、誰一人としてその男を見ていない。気にする様子すら無い。あんなに良い意味で目立ちそうにも関わらず、誰にもだ。
「なぁ雅人、青色の髪ってどう思う」
「んー? 晴久には似合わねぇな」
「じゃあ似合ってるヤツ見たらどう思う」
「はぁ? コスプレでもしてぇの?」
弄っていた携帯から目を離し、俺が見ている方向を一瞥した雅人は、ニヤニヤとその視線を俺に向けた。
なるほど、雅人には見えていないのか。
色々と自分の中で納得した俺は、んなわけねぇだろと雅人に返しつつ、少しだけ'見る'という事を意識する。
あんな男を見たのは初めてだけど、別に俺だけに見えているというのは珍しくない。なんと言えばいいか、一般的に言えば'霊感'みたいなのが俺にはあるらしい。
お袋もそういう体質らしくて、初めて変なのが見えると話した時は、遺伝しちまったか……と両親が困った顔をしていた。
「やっぱか」
「ん?」
「んにゃ、なんでもない」
漏れてしまった言葉に反応した雅人を誤魔化しながらも、俺はさっきとは少しだけ違う風景で男を確認している。
日頃は意識しなければ見えず、見ようと意識すれば見えてくる黒い線。
お袋から、見える事は絶対に内緒にして、見えてもそれは絶対に弄っていいものではなく、もし触れても触れずに見えたままにしておけと言われている線。
昔、飼っていたハムスターの黒い線を千切ろうとして、とんでもなく叱られて以来、俺は見えていたとしても触れないというお袋との約束を守っている。だってマジで怖かったんだ……お袋があんなに怒ったのは、前にも後にもアレだけしか記憶がない。
まぁ、それは置いといて……あの蒼い髪の男には、その黒い線が無い。
これが意味するのは、あの男は幽霊の類という事だ。
お袋にお守りとミサンガを渡されたついでに、この視界の調整できる様に教えてくれた時、お袋は黒い線が見えないのはオバケとかだと言っていた。
初めこそ怖かったが、もう流石に慣れてしまっている。このホームで幽霊とかを見たのは初めてだけど、なんか事故でもあったのかね。成仏してください、南無南無。
「まだ祈ってんの?」
「今度はお経」
「んだそれ」
隣で笑っている雅人に釣られ、一緒になって笑いながら確認すると……ほらやっぱり居ねぇ。大体いつもこんなもんだ。
自分のお経力にほくそ笑みつつ、消えた男の事など記憶のどっかにやって到着したモノレールに雅人と乗る。
「そういや今日はどうするんだ?」
人工島と本島を繋ぐ専用モノレール。その窓の外で流れる風景を見ていると、雅人が何か取り出して俺に見せながら聞いてきた。
その手には、ボーリングのワンゲーム無料券。
「仕方ねぇなぁ。コテンパンにしてやんよ」
「一度でも俺に勝ってからその台詞いってくれ」
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;出会い編
「あの、それって地毛っすか?」
「地毛ですよ」
:ブラックブーツ編
「ぱ、パンツ見えるぞ!」
「履いてないものが見えるわけないじゃない」
「え?」
:思い切り編
「なんか気付かない?」
「は? あー、えー……シャンプー変えた?」
「キモッ」
;同窓会編
「人探し?」
「そうです。とりあえず寝てるか眠そうな人を探してください」
「どこで?」
「どっかで」
:地下ダンジョン編
「お家にオムツ忘れたんで返っていいですか?」
「くだらない事を言ってないでいきますよー」
「無理無理無理! 死ぬ死ぬ死ぬ!」
:山姥編
「助けてくださぁぁぁい!! "んぁぁぁぁあああ!! 幼女だいすきなのぉぉぉぉ!!"」
「……あぁ、うん。そうか」
:グールグル編
「あ、あはは、スプリットタンって初めて見ました」
「天然モノですよ。体験してみる?」
「遠慮しときます」
:雪合戦編
《本部、こちら三のA、定時を確認。既に幾つかの課を確認した。対応求む》
《こちら本部です。情報ありがとうございます。《全部隊へ通達、定時により互いの増援及び混戦が予想されるため、少数精鋭以外は本部護衛と合流。情報共有を行ってください》
ちょっとした冒頭と、こんな感じで浮かんだ分を書き散らしてみました。
2021/11/10追記
続編「傍らに異世界は転がっている」はじめました。




